骨転移を来しやすいがん種として肺がん、乳がんが挙げられ、そのほか前立腺がん、腎がんなども比較的骨転移を来しやすいとされます。
骨転移の発生部位としては脊椎、骨盤、肋骨に多くみられ、四肢では大腿骨、上腕骨など体幹部に近い部位に多く生じます。
骨髄が血行に富む組織であること、骨の構造上骨に入りやすいこと、脊椎では特異的な静脈系があるため、骨髄が豊富な骨盤や脊椎に転移しやすいとされています。
ほとんどの場合は多発骨転移の一部であると考えられ、単一の病変であることは少ないとされています。
脊椎や骨盤、大腿骨の近位部では体重がもっともかかるところでもあり、骨折や脊髄麻療を来しやすい場所でもあります。とくにこのような場所に骨転移を生じた場合には、細心の注意が必要になります。
がんが骨に転移するしくみと理由
骨は全身の構造を支え、さらに体の各部を折り曲げたり前後左右に動かすために欠かせない枠組みです。
このはたらきを果たすために骨は硬く、圧迫されても簡単にへこんだりつぶれたりすることはありません。
しかし、がんが進行すると骨にも転移してその組織を破壊することがあります。
がんが硬い骨にどうやって転移するのかというと、血流に乗って骨に転移するとみられています。これを「血行性転移」と呼びます。
硬い骨の内部にも、骨に栄養を与えるための動脈や、不要なものを運び出す静脈が多数走っています。
そのため、がん細胞が原発巣から血管に入り込むと、そのまま血流に乗って骨の内部の血管に達し、そこに定着することがあります。
がんの種類によって異なるものの、がんの転移は、脊椎や肋骨、骨盤、大腿骨など体の中心部の骨によくみられます。
がんの骨転移の検査と腫瘍のタイプ
骨転移の診断に当たってはX線検査、骨シンチ検査、腫瘍マーカー、MRIなどによって行うことが多いですが、近年原発巣の確認や転移病巣の広がりを知るうえでPETが有用であることが報告されています。
経過中に腫瘍マーカーが徐々に増大してくるようなケースでは、骨転移の発生を考え検査をすすめる必要があります。
骨転移の病巣は、骨が溶けてくる溶骨性タイプ、転移した部分で骨が作られてくる造骨性タイプ、溶骨性変化と造骨性変化が入り混じった混合タイプの3つに分けられます。
肺がん、腎がん、大腸がん、甲状腺がんなどでは溶骨性タイプ、前立腺がんでは造骨性タイプが多いとされています。また、乳がんでは混合タイプがよく見られます。
溶骨性タイプを示すがんや混合タイプでも溶骨性変化が強いケースでは、骨折を来しやすいために早急に治療を行う必要があります。
がんの骨転移の分類と種類
・溶骨型:骨の吸収(溶解)が過剰に進む。
・造骨型:骨の形成が活発化し、新しい骨が正常な骨をおおう。
・混合型:溶骨と造骨の両方が見られる。
・骨梁間型:スポンジ状の海綿質(骨梁)に囲まれた髄腔にがんが広がる。
骨転移と骨折
がんが骨に転移しても、骨自体は硬いので、がんがその組織を破壊しながら増殖することは難しいように思われます。
しかし、がん細胞は体のしくみをうまく利用することにより、骨の内部で増殖するようになります。
健康な骨の中では、古い骨は破骨細胞と呼ばれる特殊な細胞によって吸収され、いっぽうで、これとは別の骨芽細胞が新しい骨をつくり出しています。
骨が吸収される量と新たにつくられる量はバランスがとれているため骨は骨量がほぼ一定の丈夫な状態に保たれます。
ところが骨に転移したがん細胞は、周囲の細胞を刺激して破骨細胞のはたらきを活発化します。その結果、骨が溶け、その空間にがんが入り込んでいきます。
こうして破骨細胞の過剰なはたらきによって骨が弱くなると、軽くぶつけたり転倒するだけで骨折することもあります(病的骨折)。
いっぽうで、ときには新しい骨がもとの骨をおおいながら成長することもあります。
「造骨型の転移」と呼ばれるこのような症例では、病的骨折は起こりにくいとされています。
がんが骨に転移するとなぜ痛みが起きるのか
がんが骨に転移すると、骨折しやすくなるだけでなく、痛みも非常に強くなります。
また脊椎に転移すると、脊髄を圧迫して体の麻痺を引き起こすこともあります。
骨に転移すると激しい痛みが生じるのは、骨をおおう膜(骨膜)や骨髄の入っている空間(髄腔)に、痛みを感じる痛点が多数あるためとされています。
がんによって骨膜に炎症が生じたり、それによって"痛み物質"が周囲にまき散らされると、痛みが生じます。
またがんが大きくなると骨膜や骨髄(髄腔)を刺激し、それが痛みを引き起こすこともあります。
破骨細胞が生産する酸が痛みを強くするという見方もあります。
骨のがん再発は一般に治療後2~3年以内が多いものの、乳がんなどでは治療後10年以上たってから、骨(胸椎、胸骨、肋骨など)に再発することがあります。
骨転移の診断は、X線や骨シンチグラフィ、MRIなどで行います。
骨シンチグラフィとは、骨の代謝が活発なところ(=がんが存在する部位)に集中しやすい放射性物質を体内に投与し、この物質が出す放射線をとらえて転移を見つける方法です。いずれの診断法にも長所や短所があるので、ふつうはいくつかの診断法を組み合わせて検査を行います。
がんの骨転移に対する治療方法と効果
骨転移に対する治療としては、とくに脊椎への転移では放射線治療が主体となります。
あるがんセンターにおいて放射線治療を行った脊椎転移について調査したところ、疼痛(痛み)の改善が60%、神経症状の改善が47%、脊髄症状の改善が40%に見られました。
放射線治療によってそれまで溶骨性であった病変が骨硬化(骨が硬くなる)をきたし、骨折を予防することができます。
また、ピスフォスフォネート製剤が骨転移病巣に対して効果を示すことがわかってきました(現在、一番よく使われ、強力な作用を持つとされているのが「ゾメタ」という薬です)。
このような治療によっても効果を示さないケースや、すでに骨折を起こしたり麻揮を起こしそうな症例では、手術を行うこともあります。
治療の中心は痛みの緩和
がんが骨に転移しても、生命にすぐに危険が生じることはまれです。
しかし通常、骨に転移したときの痛みは非常に強く、もっとも強力な鎮痛薬であるモルヒネでも痛みをやわらげることは困難とされています。
また脊椎(背骨)などに転移すると、その内部を通っている脊髄の神経が圧迫されるなどにより、体が麻痺することもあります。
骨折もしやすくなり、骨盤や大腿骨が折れて寝たきりになることもあります。
このように、骨への転移は患者の生活の質(QOL)をしばしば大きく低下させます。
そのため、がんが骨に転移したときには、痛みの緩和を優先したさまざまな治療が行われます。
放射線治療
骨の痛みをやわらげる有効な手段のひとつです。
患者の70~80パーセントに疼痛を抑える効果があり、そのうち半数は完全に痛みがなくなると報告されています。
またがんが脊椎に転移している場合でも、放射線を照射すると、脊髄(中枢神経)ががんのかたまりに圧迫されて起こる麻痺を防ぐことができます。
骨折しやすい患者の半数以上では、照射後、骨が少しずつかたくなるため、病的な骨折を予防できる効果もあるとされています。
放射線治療は、病状が重く、患者に体力がないときでも受けることができます。
しかし、すでに放射線治療を受けた経験がある患者が同じ場所に大量の放射線を照射すると、臓器の壊死などの後遺症が出るおそれがあるため、治療が制限されることもあります。
体外から放射線を放射する方法以外に、放射性物質を体内に投与する方法もあります。
2007年、放射性物質ストロンチウム(商品名メタストロン)が厚生労働省の承認を得て、骨転移に対して使用できるようになりました(=保険適用)。がんが転移した骨では、しばしばカルシウムが活発に吸収・放出されています。
ストロンチウムはカルシウムに性質が似ているため、がん患者に投与すると、骨の転移がんの周辺に集中します。ストロンチウムはそこで放射線を放出してがん細胞を攻撃します。
ストロンチウムによる治療は、いったん痛みが強くなった後、1週間ほどで痛みがやわらぐとされています。
甲状腺がんの骨転移では、放射性のヨウ素を体内に投与することもあります。甲状腺がんの細胞はヨウ素を吸収しやすいという性質を利用し、前記のストロンチウムと同じしくみでがん細胞を殺します。
薬の投与
骨転移の痛みをやわらげるには、モルヒネでは効果が十分ではなく、従来は非ステロイド系消炎鎮痛薬(NSAIDs)が使用されてきました。
しかしこのタイプの薬を長期間使用すると、消化器や肝臓、腎臓などに重い副作用が現れます。これに代わっていま、骨転移の治療の中心となったのは、ビスホスホネート剤です。
これはカルシウムに吸着しやすい性質をもち、もともと水道管の水あか取りや歯石防止剤として使われていた薬剤です。
がんが骨に転移すると、がん細胞は「破骨細胞」と呼ばれる骨を吸収する細胞を活性化させます。
破骨細胞の異常なはたらきで骨の内部にすきまが生じ、がん細胞が増殖しやすくなります。そこで、ビスホスホネート剤が骨に吸着する作用を利用します。
破骨細胞が骨を吸収すると、骨に吸着した薬も同時に破骨細胞内に入り、破骨細胞のはたらきを妨害します。
この薬には痛みの緩和以外にも、高カルシウム血症を予防する効果があります。
破骨細胞が活発化して骨の溶解が進むと、カルシウムが溶け出し、血液中のカルシウム濃度が高くなります。(高カルシウム血症)
その結果、意識障害を起こしたり、吐き気や食欲不振などの消化器症状が現れたりします。
ビスホスホネート剤を使用すると骨の溶解が抑えられ、血液中のカルシウム濃度も上がりにくいとされています。
ビスホスホネート剤にはさまざまな種類がありますが、日本ではがんの骨転移の治療用として、パミドロン酸(商品名アレディア。乳がん用)とゾレドロン酸(商品名ゾメタ)が厚生労働省の承認を得ています(いずれも注射剤)。同様に骨の溶解を抑える薬として、抗体製剤のデノスマブ(ランマーク)も使われるようになりました。
骨粗しょう症の治療に使用されるカルシトニン製剤も効果があるといわれていますが、呼吸困難などの副作用があるほか効果にも限界があり、がんの骨転移に対しては保険適用外です。
前立腺がんや乳がんの骨転移に対しては、ホルモン剤を使用することもあります。また、脊髄など神経が圧迫されて生じる痛みに対してはステロイド薬も用いられます。
骨転移に対する手術
患者の体が手術に耐えられるときには、がんの切除も考慮されます。
たとえば、骨以外には転移がなく、発生場所のがんも増大していないときや、脊椎に転移して急速に体の麻痺が進行しているとき、あるいは弱くなった骨ががんの圧迫で骨折しやすいと診断されたときなどです。
がんを切除した後は一般に、人工骨や人工材料(骨セメント)を用いて骨や関節を再建し、体外に補助器具を装着するなどの方法をとります。
以上の骨転移の治療は、単独で行われることもありますが、通常は患者の病状に合わせて適切と思われる複数の治療法を組み合わせます。
現在は、放射線治療とビスホスホネート剤を組み合わせる手法が一般的です。
がんの骨転移は治るのか?
骨転移に対しては上記のようにいくつかの手段がありますが、どの手段も「それをすれば治る」ということではありません。
骨転移=ステージ4のがん(遠隔転移を起こしている状態)だといえます。
がんが治らず、骨転移だけが治る、ということはありませんので、骨転移が治るとすれば、ステージ4のがんも治るということになります。
しかし現時点でステージ4の転移がんを治せる、といえる医療手段はありません。