大腸がんの診断が確定したら、次に問題となるのは治療法です。
しかし、治療方針(どのような治療法が最も適しているかを決めること)を立てるには、まず、がんの進み具合を知っておかなければなりません。
がんの進み具合を知るうえで重要なのが、
・がんが大腸の壁へ食い込んでいる程度(深達度)
・リンパ節への転移の程度(リンパ節転移度)
・他の臓器への転移の程度(遠隔転移)
の3つです。
これらを調べるために、CT(コンピューター断層撮影)やMRI(磁気共鳴画像)、X線検査、超音波検査のような詳しい検査が行われます。
これらの検査は、通常、外来で行われることがほとんどです。
そして、これらの検査結果を総合して、がんの「ステージ(進行度)」を判定します。
「ステージ」は、がんの浸潤の深さや転移の有無によって分類されていて、それに応じて治療法が決められます。
大腸がんの治療方針の決め方
大腸がんの治療には通常の外科手術、化学療法、放射線療法に加え、内視鏡治療があります。
治療を考える上で重要な点は、がんがどの層まで浸潤しているのか(拡がっているか)ということです。
一般にがんが粘膜にとどまっている間は、他へ拡がっている可能性はありません。
つまりがんは粘膜の中にしか存在しないわけで、粘膜を十分切除すればよいということになります。
しかし、二番目の層の粘膜下層にがんが拡がってしまうと、腸管壁外リンパ節に約10%の転移が認められます。
この転移したリンパ節は腸管壁外にあり、外科手術が必要となります。
ただし、最近ではわずかな粘膜下層浸潤(1mm未満)であって、脈管へのがんの浸潤が認められない場合、粘膜から粘膜下層を切除することで十分な治療であるとの意見が多くなってきました。
大腸がんの治療法の第一選択肢は切除手術
がんの治療法にはいろいろありますが、最終的には患者さんと相談し、最善の方法を選ぶことになります。
たとえば大腸がんでは、
・がんができた部位
・がんの深達度
・転移の状態
・全身の状態、を総合的に判断して決めます。
治療法の第一選択(ファースト・チョイス)はがんの切除です。
最初から「切除すること」を念頭に置いて治療法を組み立てるのは、現代医学で大腸がんについて治療する場合、唯一の根治的な方法と考えられているからです。
切除方法は、少し前とは違って、いまではなるべく小さな切除(局所療法) から検討します。以前は、がん病巣を取りきるため、がんの周囲の臓器も一緒に切除するという外科治療が主流でした。
しかし、現在では内視鏡を体の中に入れて切除するという「内視鏡的切除術」がおこなわれています。
また、以前では人工肛門になる確率が高かった直腸がんも、患者さんが治療法を選択できるようになりました。
できるだけ手術後の生活の質(QOL/クオリティ・オブ・ライフ)まで考えて治療を行うべきだと考えられているからです。
さらに、全身状態が悪く、麻酔をかけられない患者さんには、抗がん剤治療や放射線治療など、手術以外の治療法を探っていく必要があります。
大腸がんではあまり放射線治療は行われない
放射線療法は、大腸がんのなかでも直腸がんに対してだけ用いられる補助療法です。
欧米ではリンパ節転移のある直腸がんの手術前か手術後に、放射線療法が行われます。
さらに、手術前後に化学療法を併用するのが一般的です。
欧米で放射線療法が用いられる理由は、直腸がん手術後の局所再発率が高いからで、その局所再発を防ぐために行っています。
最近では、欧米で質の高い手術を行うことにより局所再発を防ぎ、さらに放射線照射をすることで、局所再発率をきわめて低くおさえることができたという注目すべき報告がなされています。
日本では、直腸がんの手術後の局所再発率は欧米ほど高くありませんでした。
そのため、これまでは放射線療法は一部の施設でしか用いられませんでした。
しかし、直腸がん全体の局所再発率が低いといっても、大きな腫瘍やリンパ節転移の多い腫瘍では、やはり局所再発が多くおこります。
日本でもそのような局所再発の危険の高い患者さんに対して、放射線治療を加えることで、さらに治療成績を高めることができる可能性があります。
ステージ0期の大腸がんの基本的な治療法
がんが粘膜にだけあるO期なら、内視鏡でがんを取り除きます。
Ⅰ期でも、粘膜下層に軽度に浸潤したがんで2cm未満のものは内視鏡の適応になりますが、これを超えたり、場所によって内視鏡が困難な場合は手術で治療します。
内視鏡で切り取られたがんは病理に回し、顕微鏡で調べるが、粘膜下層に深く入り込んでいるとリンパ節転移が約10~15%に起こります。
その場合、追加治療としてリンパ節郭清(リンパ節まで取る)をともなう手術を行うかどうか検討されます。
ステージ1期の大腸がんに対する基本的な治療法
大腸のステージ1期のがんは多くの場合、ポリープと同じ形をとります。
その浸潤度により粘膜内がんと粘膜下層まで浸潤したがんに分かれます。
粘膜内がんは病理組織学的(顕微鏡的)にはがんの構造をもっていますが、がんの最大の特徴である転移する性質がなく、病変を完全に切除すればそれで治療は終了します。
日本では粘膜内がんを病理組織学的所見を重視してがんに分類していますが、国際的には転移・再発しないという生物学的特徴から粘膜内がんはがんとされていません。
大腸内視鏡検査と生検の結果から早期がんと診断されたら、そのがんの浸潤度が粘膜内がんなのか粘膜下層まで浸潤しているかを診断して、粘膜内がんと診断すればその腫瘍(ポリープ)を一括して切除します。
ステージ2期・3期の大腸がんに対する基本的な治療法
2期・3期の進行大腸がんを治療するための方法は、外科的切除(手術)が第1選択です。
これは日本だけでなく、世界で共通の認識です。
大腸癌研究会編の「大腸癌治療ガイドライン」では、進行がんを治すために必要なことは、外科的切除でがんが残ること(遺残)なく、きれいに取り除くこととしています。
このような手術ができた場合、根治術(目に見えるがんを取り除いた)ができたとされています。
いっぽう、大腸がんの病巣が切除できなかったり、切除したとしてもがんが元々あった場所(局所)で、残っていたり、あるいは遠隔臓器に転移していてやむを得ず遺残する場合を姑息(手)術と言います。
姑息術は症状を一旦抑えることが目的で、治すことではありません。同じ手術といっても大きく違います。
ステージ4期の大腸がんの基本的な治療法
大腸から遠くに離れた場所への遠隔転移がある場合はステージ4といい、転移巣とともに大腸がんの原発巣の切除も行うのが基本です。
転移巣が取りきれなくても、原発巣のみ切除して残った転移巣には化学療法や放射線療法を行います。
手術で取りきれない場合は、化学療法や放射線療法、原発巣緩和手術などを選びます。