大腸がんの場合、骨や脳だけに転移していることは珍しく、肺などのほかの臓器にも転移がある場合がほとんどです。
脳への転移が疑われる場合は、頭部CT検査、MRI検査などで詳しく調べ、診断します。
脳転移の場合、めまいなど何らかの症状があらわれて再発がわかることもあります。
脳の場合、手術によって深刻な機能低下を起こさないことが重要なので、転移が脳の1か所に限られていても手術が難しいことがあります。
また、他の臓器と違って脳転移では抗がん剤があまり用いられません。脳の血管には血液脳関門という異物侵入を拒むしくみがあり、抗がん剤が届きにくいからです。
したがって、手術ができない場合には、放射線治療が中心となります。
大腸がんから脳転移を起こしたときの症状
大腸がんの脳転移はあまり多くはありませんが、脳も血流が非常に集中する臓器なので、血行性転移が起こることがあります。発見と同時に対処しないと、生命にかかわります。
進行すると意識障害が起こることがあるほか、頭痛やめまい、吐き気や嘔吐、しびれ、運動まひや感覚まひなどがあらわれることがあります。
大腸がんの場合、脳は術後の定期検査で必ず検査が行なわれる臓器ではないため、自覚症状から転移がわかることがほとんどです。症状に気づいたら、緊急にCT検査を受ける必要があります。
大腸がん脳転移時の切除手術
脳の一部だけの転移で完全にがんを切除しきれるという状況では手術が検討されることもあります。
転移が複数の臓器にみられ、完全にがんを切除できるかわからない場合でも、まひやしびれなどがあって日常生活に支障をきたしている場合は、症状軽減のために病巣の摘出手術が行なわれることがあります。
大腸がんが脳転移している場合の放射線治療
脳転移は脳血管の薬物移行が悪いという特殊性から薬物療法の治療効果が乏しいと考えられており、放射線治療が第1選択になります。
脳転移の放射線治療は、定位照射(ピンポイント治療)と全脳照射に大別されます。
一般に3cmまでの脳転移が3個までであれば、病気の部分に放射線を集中して強く当てる定位放射線治療が候補となります。
定位照射はラジオサージェリーともいい、手術に匹敵する治療効果がみられることもあります。ピンポイントで脳の腫瘍を壊死させるための治療で、治療後3か月以内に、70~80%の患者さんで脳転移に起因する症状が和らぎます。
ただ、効果がある一方で、副作用として脱毛や吐き気・嘔吐などがあらわれることがあります。
定位照射の方法
頭部の周囲から放射線を照射することで、がんに放射線を集中させます。脳の正常なところへ当たる放射線を最小限に抑えることができる照射方法です。
がんが少ない場合に効果があります。
放射線の種類や照射方法などによりガンマナイフ、ライナックナイフ(リニアックナイフ)、サイバーナイフなどのいくつかの種類があります。
ガンマナイフは、ヘルメットのような装置を頭につけると、装置内部からがんに向けてガンマ線が照射されます。小さな病巣もピンポイントで治療できます。
ライナックナイフでは、金属リングで頭を固定し、照射装置に頭部を入れてX線の照射を受けます。
サイバーナイフも同じX線を照射するものですが、頭部をメッシュ状の固定具で覆って自動制御式のロボットアームから照射を受けます。
このロボットアームは工業用ロボットの技術を応用したもので、画像診断のデータをもとにがんの位置を正確にとらえ、さまざまな角度から少しずつ放射線を当てて、がんだけに高いエネルギーを集中させることができます。
定位照射は手術や全脳照射に比べ後遺症や副作用が少ないのですが、まれに脳の壊死や浮腫(むくみ、はれ)、出血、視力障害などが起こることがあります。
全脳照射の方法
全脳照射とは、脳全体に放射線を当てる方法です。
広い範囲をカバーしますが、脳全体に放射線が当たる治療のため基本的に実施できるのは一度だけです。
大腸がんの転移巣が4個以上ある場合など、広い範囲に脳転移がある場合は定位照射では対処しきれないため全脳照射が提案されます。
全脳照射を行えば,約7割の患者さんで脳転移による症状が和らぐとされています。
放射線は1回3グレイ×10回の計30グレイを2週間で行うのが最も一般的ですが、体調や転移の状況によりさまざまな方法があります。