
こんにちは。がん治療専門アドバイザー、本村ユウジです。
がん治療では、放射線治療と化学療法が併用されることに注目が集まりがちですが、実は放射線治療と手術を組み合わせる治療法も、多くのがん種で効果的に実施されています。
手術と放射線治療の併用は、それぞれの治療法の長所を活かしながら、短所を補い合う「集学的治療」の代表的な方法です。単独での治療と比較して、局所制御率の向上や再発リスクの低減が期待できることから、がん治療の現場で広く採用されています。
この記事では、手術と放射線治療を併用する際の具体的な方法、それぞれの目的や効果、メリット・デメリットについて、最新の医療情報をもとに詳しく解説していきます。
手術と放射線治療を併用する3つの方法
手術と放射線治療の併用には、実施するタイミングによって大きく3つの方法があります。手術の前に行う「術前照射」、手術の最中に行う「術中照射」、そして手術の後に行う「術後照射」です。
それぞれの方法には異なる目的があり、がんの種類や進行度、患者さんの状態に応じて最適な方法が選択されます。ここでは、各方法の特徴と実施方法について見ていきましょう。
術前照射の目的と実施方法
術前照射は、手術を行う前に放射線を照射する治療法です。主な目的は、がん病巣を縮小させて手術での切除を容易にすることにあります。
また、がん細胞の活性を低下させることで、手術中にがん細胞が散らばって転移するリスクを減らす効果も期待されています。
一般的な実施方法としては、根治線量の50~60パーセント程度にあたる30~40グレイをがん病巣に照射し、照射終了後1~2週間経ってから手術を行います。
術前照射が適用される主ながん種には、食道がん、下咽頭がん、直腸がん、膀胱がんなど、周囲臓器に浸潤した局所進行がんがあります。特に、そのままでは手術が困難な進行がんに対して、がんを小さくして手術可能な状態にする目的で実施されることが多くなっています。
術中照射の特徴と実施対象
術中照射は、手術中にがん病巣を直接露出させて、その場で放射線を照射する治療法です。この方法の最大の特徴は、周囲にある腸管などの正常臓器を照射野の範囲外に移動させることができる点にあります。
これにより、正常組織への放射線照射を防ぎながら、がん病巣に限定して大線量の照射が可能になります。
術中照射では電子線という種類の放射線が用いられ、1回の照射で20~30グレイの大線量が照射されます。治療は原則として1回限りです。
実施の際には、手術後に照射野内に正常組織が含まれていないことを確認し、患者さんの呼吸や血圧などをモニターで監視しながら慎重に照射を行います。
術中照射の主な対象となるがん種は、膀胱がん、膵臓がん、胃がん、胆道がん、骨肉腫などです。これらのがん病巣の周囲には放射線に弱い重要臓器があり、通常の体外からの照射では十分な線量を投与できないことが、術中照射を選択する理由となっています。
京都大学医学部附属病院の報告によると、特に難治性の膵臓がんや骨肉腫に対して術中照射を行い、効果を上げているとのことです。骨肉腫では、この治療法により手足を切断せずに済むケースも増えています。
術後照射による再発予防
術後照射は、手術後に放射線治療を行う方法です。主な目的は2つあります。1つは、手術で完全に切除できなかった残存がん細胞を死滅させて局所制御を目指すこと、もう1つは、微視的ながん細胞の残存が予想される場合に再発を予防することです。
実施方法は、がんの状態によって照射線量が異なります。肉眼的に残存がん細胞があると思われる場合は、根治線量として60グレイを6週間かけて照射します。
一方、微視的な残存細胞のみが疑われる場合には、50グレイを5週間かけて照射することが標準的です。照射対象は、手術後のがん病巣および所属リンパ節の部分になります。
術後照射が適用される主ながん種には、肺がん、脳腫瘍、軟部組織腫瘍があります。また、根治的手術ができた場合でも、局所再発の傾向が強いがんや所属リンパ節転移の傾向が強いがんに対して実施されます。
具体的には、乳がんの乳房温存手術後や、手術が不完全だった場合の神経芽細胞腫など、放射線感受性の高いがん病巣も術後照射の対象となっています。
手術と放射線治療併用の目的と効果
手術と放射線治療を併用する最大の目的は、治療効果を高めることにあります。手術だけ、あるいは放射線治療だけでは十分な効果が得られない場合でも、両者を組み合わせることで、より高い治療成績が期待できます。
治療効果向上のメカニズム
放射線は、細胞内のDNAを切断してがん細胞にダメージを与えます。がん細胞は正常細胞と比べて遺伝子の修復能力が弱いため、同じ量の放射線を照射しても、がん細胞により大きなダメージを与えることができます。
手術との併用では、この放射線の特性を活かして、手術で取り切れない可能性のある微小ながん細胞を死滅させることができます。
また、術前照射によってがんを縮小させることで、手術での完全切除の可能性が高まります。特に、周囲臓器への浸潤があるために手術が困難だったがんでも、放射線照射によって切除可能になるケースがあります。
対象となる主ながん種
手術と放射線治療の併用は、多くのがん種で実施されています。以下の表に、主な対象がん種と併用方法をまとめました。
| がん種 | 主な併用方法 | 目的 |
|---|---|---|
| 食道がん | 術前照射 | がんの縮小、切除率の向上 |
| 直腸がん | 術前照射、術中照射 | 局所制御、肛門機能の温存 |
| 膵臓がん | 術中照射 | 周囲臓器の保護、大線量照射 |
| 膀胱がん | 術前照射、術中照射 | 膀胱機能の温存 |
| 乳がん | 術後照射 | 局所再発の予防 |
| 肺がん | 術後照射 | 再発予防 |
| 脳腫瘍 | 術後照射 | 残存腫瘍の制御 |
| 骨肉腫 | 術中照射 | 手足の温存 |
手術と放射線治療併用のメリット
手術と放射線治療を併用することには、いくつかの重要なメリットがあります。単独治療では得られない効果が期待できる点が、この治療法の大きな特徴です。
局所制御率の向上
手術と放射線治療の併用により、局所制御率が向上することが報告されています。手術だけでは取り切れない微小ながん細胞を、放射線で死滅させることができるためです。
特に術後照射では、乳房温存手術後の局所再発率を3分の1に減らすことができるというデータもあります。
臓器機能の温存
術前照射によってがんを縮小させることで、切除範囲を小さくできる可能性があります。これにより、臓器の機能を温存しながら治療を行うことができます。
例えば、直腸がんでは術前照射によって肛門機能を温存できるケースが増えています。また、膀胱がんでも、放射線治療との併用により膀胱を温存できる可能性が高まります。
手術の安全性向上
術前照射によってがん細胞の活性が低下すると、手術中にがん細胞が散らばって転移するリスクが減少します。これは、特に周囲組織への浸潤が見られる進行がんにおいて重要な効果です。
周囲組織への影響軽減
術中照射の大きなメリットは、周囲の正常組織を照射野から外すことができる点です。手術操作によって腸管などの放射線に弱い臓器を照射範囲外に移動させられるため、これらの組織へのダメージを最小限に抑えながら、がん病巣に大線量の照射が可能になります。
これにより、通常の体外からの照射では達成できない高い線量を、安全に照射することができます。
治療期間の短縮
術中照射では、1回で大線量(20~30グレイ)を照射できるため、手術前や手術後に長期間の放射線治療を受ける場合と比べて、治療期間が短縮されます。
手術のみの場合とほぼ同じ入院期間で治療を完了できるため、患者さんや家族の経済的・精神的負担が軽減されます。
手術と放射線治療併用のデメリット
メリットの多い併用療法ですが、デメリットや注意すべき点もあります。治療を検討する際には、これらの点についても十分に理解しておくことが重要です。
急性期の副作用
放射線治療には、治療期間中から治療終了後6か月までに現れる「急性期」の副作用があります。主な症状として、照射部位の皮膚や粘膜に炎症が起こり、赤くなったり痛みが出たりすることがあります。
特に術前照射や術後照射では、照射部位によってさまざまな症状が現れます。以下の表に、主な照射部位と急性期の副作用をまとめました。
| 照射部位 | 主な急性期副作用 | 対処方法 |
|---|---|---|
| 皮膚 | 発赤、色素沈着、脱毛 | 軟膏塗布、刺激の少ない衣類の着用 |
| 口腔・咽頭 | 粘膜炎、痛み、味覚低下 | 鎮痛剤の使用、軟らかい食事 |
| 消化管 | 吐き気、下痢、食欲低下 | 制吐剤、止痢剤の使用 |
| 全身 | 倦怠感、疲労感 | 十分な休息、栄養管理 |
これらの急性期の副作用は、多くの場合、治療終了後数週間から数か月で回復します。ただし、症状の程度は個人差が大きく、照射部位や照射量によっても異なります。
晩期の副作用
治療終了後6か月以降に現れる「晩期」の副作用もあります。晩期の副作用は、いったん起こると治りにくいという特徴があります。
主な晩期副作用には、皮膚や皮下組織の萎縮・線維化、肺の線維化による呼吸障害、骨壊死などがあります。頭頸部がんの治療では、顎の骨や頭蓋骨の一部に放射線が当たることで、骨髄炎や骨壊死が生じる場合があります。
ただし、近年ではCT画像をもとにしたコンピューター治療計画により、腫瘍に集中的に放射線を当てながら、正常組織への線量を減らすことができるようになっています。これにより、晩期副作用の発生リスクも低減しています。
治療期間の長さ
術前照射や術後照射では、ある程度の期間にわたって放射線治療を継続する必要があります。標準的な照射では、週5日の治療を5~7週間程度続けることが一般的です。
通院での治療が可能な場合が多いですが、治療施設が遠方の場合や、体調によっては入院が必要になることもあります。
手術のタイミング調整
術前照射では、照射終了から手術までの適切なタイミングを考慮する必要があります。照射直後から数日以内、照射終了後10日前後、照射後4週間から数か月後など、がんの種類や治療目的によって最適な期間が異なります。
このため、治療スケジュールの調整が必要になり、患者さんの予定に影響を与える可能性があります。
実施可能な施設の制限
特に術中照射は、専用の設備と熟練したスタッフが必要なため、実施できる医療機関が限られています。治療を希望する場合、遠方の施設への通院や転院が必要になることもあります。
併用療法における最新の治療技術
手術と放射線治療の併用においても、医療技術の進歩により、より効果的で副作用の少ない治療が可能になっています。
強度変調放射線治療(IMRT)
強度変調放射線治療は、放射線の強度を調整しながら腫瘍に最適な線量を投与する技術です。従来の三次元原体照射と比較して、患者さんの口の渇きや味覚低下などの副作用が少ないことが確認されています。
特に頭頸部がんでは、脳や眼球、視神経への線量を減らすことができ、重篤な副作用のリスクを下げることができます。
定位放射線治療
定位放射線治療は、ミリ単位の精度で病変に焦点を合わせ、周囲への放射線照射を最小限に抑える技術です。1回あたりに強い線量を照射できるため、治療回数を大幅に減らすことができます。
従来30回以上に分けていた照射を、4~5回で終えることが可能になっています。肺がんでは、手術で切除するのと同等の成績が報告されています。
画像診断技術の進歩
CT、MRI、PETなどの画像診断技術の進歩により、がんの正確な位置や広がりを把握できるようになりました。これにより、より精密な治療計画が可能になり、必要な部位に的確に放射線を照射できるようになっています。
治療選択のポイント
手術と放射線治療の併用を検討する際には、いくつかの重要なポイントがあります。
がんの種類と進行度
がんの種類や進行度によって、最適な治療法は異なります。局所進行がんで周囲臓器への浸潤がある場合は、術前照射によってがんを縮小させてから手術を行うことが効果的です。
一方、根治的手術ができた場合でも、局所再発のリスクが高いがん種では、術後照射による再発予防が推奨されます。
患者さんの全身状態
患者さんの年齢、体力、合併症の有無なども治療選択の重要な要素です。放射線治療は手術に比べて体への負担が少ないため、高齢の患者さんや合併症のある患者さんでも実施できる場合があります。
治療施設の選択
特に術中照射を希望する場合は、実施可能な医療機関を選ぶ必要があります。大学病院やがん専門病院など、専門的な設備とスタッフが揃っている施設での治療が推奨されます。
治療後の生活の質
臓器機能の温存や外見の変化、日常生活への影響なども考慮する必要があります。手術と放射線治療の併用により、臓器機能を温存できる可能性が高まる場合、患者さんの生活の質向上につながります。
治療費用について
手術と放射線治療の併用には、それぞれの治療費用がかかります。ただし、日本では健康保険が適用されるため、実際の自己負担額は治療費の3割となります。
さらに、高額療養費制度を利用することで、月ごとの自己負担額の上限が設定され、経済的負担が軽減されます。
放射線治療の費用は、治療方法や回数によって異なりますが、一般的な外部照射では、保険適用前の費用として1回あたり数万円から十数万円程度です。標準的な治療では20~30回程度の照射を行うため、総額では相応の費用がかかりますが、保険適用により実際の負担は抑えられます。
術中照射など特殊な治療法については、実施施設で詳しい費用の説明を受けることをお勧めします。
治療を受けるにあたって
手術と放射線治療の併用を検討する際には、担当医師とよく相談することが重要です。治療の方法、期待される効果、予想される副作用、治療期間、費用などについて、十分な説明を受けましょう。
また、放射線腫瘍医(放射線治療を専門とする医師)の診察を受け、詳しい治療計画について説明を受けることも大切です。
治療中は定期的に診察を受け、副作用の状態を確認しながら進めていきます。副作用が強く現れた場合は、適切な対処法について医療スタッフに相談しましょう。
手術と放射線治療の併用は、がん治療において重要な選択肢の一つです。それぞれの治療法の特徴を理解し、自分の状態に最も適した治療を選択することが、より良い治療結果につながります。
治療について不明な点や不安なことがあれば、遠慮なく医療スタッフに質問し、納得のいく治療を受けましょう。
参考文献・出典情報
この記事は、以下の信頼できる医療機関・学会の情報を参考に作成しています。

