この記事では、頭頸部がんのリンパ節転移があった場合、大きな腫瘍に対して治療効果を高める放射線治療の手段がある、という内容をお伝えします。
頭頸部がんはリンパ節転移が起きやすい
頭頸部がん(主に咽頭がん、喉頭がん、舌がん、喉頭がん、耳下腺がん、甲状腺がんなど)は、リンパ節転移が起きやすいタイプのがんです。
頭頸部=顔に近いため、自分を含めて人の目に触れることが多く、服でも隠しにくいため、目に見えるリンパ節転移の腫瘍がとても気になる、というメンタル的にも厳しい状況になることが大きな特徴だといえます。
耳の下にあるリンパ節が腫れ、自分自身も憂鬱、他の人の目に触れるのはもっと憂鬱、という声をよく聞きます。
さて、そのリンパ節転移が起きると、治療手段の中心的な役割は「抗がん剤」などを使う化学療法が中心になりますが、頭頸部がんは「発生頻度が他のがんに比べて多くない」こともあり、使える薬の種類(承認されている薬)が少ないことが特徴です。
肺がんや腎臓がんなどは、がん細胞固有の特徴に作用する「分子標的薬」が多く開発され、主力は分子標的薬に移行していますが、頭頸部がんは「従来から使われている、いわば昔ながらの抗がん剤」が長く使われています。
具体的な薬剤名はシスプラチン、5-FU、タキソテール、ドセタキセルなどです。
脱毛や食欲不振などの副作用が起きやすいうえに、頭頸部がんには高い効果を示しにくいため、リンパ節転移の腫瘍が肥大化すると、抗がん剤だけでは対応しにくくなります。
そのため、頭頸部がんでは「転移のある部分に放射線を当てて、局所的な進行を抑える」という手段を用います。
つまり、化学療法と放射線治療を併用する「化学放射線療法」によって対応していくことが現在の標準的な考え方になります。
頭頸部がんリンパ節転移への放射線治療
放射線治療はあくまで局所向けの治療であり「当てた部分しか効かない」治療法です。転移の範囲が広いと「全部には当てにくい=治療が困難」になります。
そのため全てのリンパ節転移のケースで放射線が用いられるわけではないですが、リンパ節転移の箇所が1~2か所の場合、抗がん剤と併用することで縮小が見込めます。
しかし、強い放射線をピンポイントで当てるため、皮膚障害や炎症などの副作用、後遺症もあります。
技術的には「腫瘍だけをターゲットに、より効果的に放射線を当て、正常細胞に与える影響を最低限にとどめたやり方」を選ぶことが大切です。
近年、放射線治療の技術は進歩を続けており、IMRT、サイバーナイフ、トモセラピーなどピンポイント性を高めた放射線技術があります。
これらは保険適応内なので、まずはこれらの放射線治療を検討する、ということが第一選択肢になります。
放射線治療の課題。腫瘍が大きくなると効果が薄くなる。
放射線は「がん細胞内の酸素の量が多いほど効く」という特徴があります。
効く=がん細胞を殺しやすい、ということです。
ところが、腫瘍が大きくなり、2cmを超えてくるようになると、がん細胞内の酸素の量が減り、抗酸化物質が増え、放射線が効きにくくなります。
2cm大になると、1cm未満の腫瘍よりも「効果が半分ほどになる」とされてます。5cmを超えると効果は1/3程度になります。
そのため、「大きな腫瘍には高い線量の放射線治療を当てなくてはならない」ことになりますが、後遺症のことも考えねばならず、限界があるので、ある程度でストップしなければなりません。
そのため、「放射線を当てたが、根治(がんの消滅)には至らない」という結果になり、、再燃や再発の原因になります。
放射線治療の感受性を高めるKORTUC(コータック)
KORTUC(コータック)とは、簡単にいえば「放射線治療の効果を高める手段」です。
放射線の感受性を高める薬=放射線増感剤を腫瘍に注入し放射線治療の効果を高めます。増感剤には「酸素を増やす。酸素を減らしにくい」作用があります。
つまり、がん細胞・腫瘍が肥大化することで起きる「酸欠状態」を回避し、十分な効果を挙げることがコータックの目的です。
注射にて増感剤を注入するため、体表に近いがんであることが条件です。乳がんや頭頸部がんが主な対象になります。
まだ臨床研究が十分に進んでおらず、保険適応はされていませんが、乳がんの研究では700例近く実施されており、高い効果が出ていると報告されています。
体表に近く、QOLに大きく影響する頭頸部がんのリンパ節転移に対して「できるだけ放射線の効果を高めたい」と希望する人がコータックによる治療を受けています。
実施できる病院は限られ、金額もかかりますが「放射線治療は同じ場所へ二度はできない」という特徴があるため、「一度のチャンスに対して、可能な限り最大の効果を出したい」と望む人がこの治療を受けることが増えています。
特に大きく肥大したリンパ節転移に対しては、感受性を高めてから放射線を当てることで通常のやり方(増感剤なし)よりも高い治療効果を挙げられる可能性があります。