
こんにちは。がん専門のアドバイザー、本村ユウジです。
2020年3月に日本で承認されたテポチニブ(商品名:テプミトコ)は、MET遺伝子エクソン14スキッピング変異を有する非小細胞肺がんの患者さんに対する初めての経口分子標的治療薬として登場しました。
この薬は、特定の遺伝子変異を持つ患者さんに高い効果を示すことが国際共同臨床試験で確認されており、進行・再発の非小細胞肺がん治療における重要な選択肢となっています。
本記事では、テポチニブがどのような薬なのか、どんな患者さんが対象となるのか、期待できる効果や副作用、投与方法、費用負担、そして日常生活でどのような点に注意すべきかについて、2026年時点の最新情報をもとに詳しく解説します。
テポチニブ(テプミトコ)とはどのような薬か
テポチニブは、間葉上皮転換因子(MET)と呼ばれるタンパク質の働きを阻害する分子標的治療薬です。
METは、正常な状態では肝細胞増殖因子(HGF)と結合することで細胞の増殖や運動性を調節するタンパク質ですが、MET遺伝子に特定の変異が起こると、HGFがなくても常に活性化した状態になり、がん細胞の増殖を促進してしまいます。
テポチニブは、このMETタンパク質のATP結合部位に選択的に結合することで、異常な活性化を抑制し、がん細胞の増殖を抑える働きをします。MET阻害薬の中でも、活性化型METタンパクのATP結合部位に高い特異性で結合するタイプIbに分類され、高い選択性を持つことが特徴です。
対象となる患者さん
テポチニブは、すべての非小細胞肺がんの患者さんに使用できるわけではなく、「MET遺伝子エクソン14スキッピング変異陽性」の切除不能な進行・再発の非小細胞肺がんと診断された患者さんが対象となります。
MET遺伝子エクソン14スキッピング変異とは、MET遺伝子の特定の部分(エクソン14)が欠落する変異のことで、非小細胞肺がんの約3%の患者さんに認められます。日本では毎年3,000~4,000人程度の新規患者さんがこの変異を持つと推測されています。
この変異を持つ患者さんは、比較的高齢で、喫煙歴のない方にも多く見られることが報告されています。
テポチニブの使用にあたっては、血液検体または腫瘍組織検体を用いたコンパニオン診断システム(Archer METコンパニオン診断システム)によってMET遺伝子エクソン14スキッピング変異の有無を確認する必要があります。
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がん専門アドバイザー 本村ユウジ
テポチニブの効果
国際共同臨床試験(VISION試験)の結果
テポチニブの有効性は、MET遺伝子エクソン14スキッピング変異陽性の非小細胞肺がん患者さんを対象とした国際共同第II相試験(VISION試験)で確認されました。
この試験では、日本人患者さん17名を含む130名の患者さんにテポチニブ500mgを1日1回投与し、独立評価判定委員会による評価が行われました。
| 評価項目 | 結果 |
|---|---|
| 奏効率(CR+PR) | 42.4%(95%信頼区間:32.5-52.8) |
| 奏効期間(中央値) | 12.4カ月 |
| 無増悪生存期間(中央値) | 9.5カ月 |
| 全生存期間(中央値) | 19.1カ月 |
この結果は、MET遺伝子エクソン14スキッピング変異を持つ患者さんにとって、テポチニブが腫瘍を縮小させる効果を持ち、病状の進行を遅らせることができることを示しています。
また、試験では患者さんの生活の質(QOL)についても評価されており、テポチニブ投与期間中にQOLは維持され、呼吸困難の症状は安定し、咳の症状は改善したことが報告されています。
他のMET阻害薬との比較
現在、日本ではテポチニブのほかに、カプマチニブ(タブレクタ)、グマロンチニブ(ハイイータン)といったMET阻害薬が承認されています。
臨床試験成績を直接比較することは難しいものの、各薬剤の治療成績はほぼ同等と考えられており、日本肺癌学会のガイドラインでも、これらのMET阻害薬はいずれも1次治療として強く推奨されています。
投与方法と投与スケジュール
投与量と投与タイミング
テポチニブの標準的な投与量は、1回500mg(テプミトコ錠250mg×2錠)を1日1回、食後に経口投与します。
食後に服用することが重要で、空腹時に服用すると薬の吸収が変わる可能性があるため、必ず食事のあとに服用するよう指導されます。
投与は、病状が進行(PD:Progressive Disease)するまで連日継続します。患者さんの状態によっては、減量や休薬が必要になることもあります。
減量基準
副作用が発現した場合には、以下の用量調節基準に従って休薬・減量・中止が検討されます。
| 用量レベル | 投与量 |
|---|---|
| 通常投与量 | 500mg、1日1回 |
| 1段階減量 | 250mg、1日1回 |
| 2段階減量 | 投与中止 |
間質性肺疾患が発現した場合は、Grade1以上であっても直ちに投与を中止します。これは命に関わる重大な副作用であるためです。
間質性肺疾患以外の副作用については、Grade3の場合はGrade2以下に回復するまで休薬するか、1段階減量して投与を継続します。ただし、21日を超える休薬が必要な場合は投与を中止します。
副作用とその対策
主な副作用の発現頻度
VISION試験において報告された主な副作用とその発現頻度は以下の通りです。
| 副作用 | All Grade | Grade3以上 |
|---|---|---|
| 末梢性浮腫 | 53.8% | 7.7% |
| 悪心 | 28.3% | 0.8% |
| 下痢 | 20.8% | 0.8% |
| 血中クレアチニン上昇 | 13.8% | 0.0% |
| 低アルブミン血症 | 10.8% | 0.8% |
| アミラーゼ上昇 | 10.0% | 2.3% |
| ALT上昇 | 8.5% | 3.1% |
| AST上昇 | 7.7% | 2.3% |
| 間質性肺疾患 | 3.8% | 1.5% |
特に注意すべき副作用
間質性肺疾患
最も重要な副作用は間質性肺疾患です。治療開始早期に急性肺障害や間質性肺疾患が現れることがあり、死亡に至った症例も報告されています。
息切れ、呼吸困難、咳、発熱などの症状が現れた場合は、直ちに医療機関を受診する必要があります。定期的な胸部画像検査による観察が行われます。
体液貯留(末梢性浮腫)
最も頻度の高い副作用は末梢性浮腫で、半数以上の患者さんに認められます。手足のむくみだけでなく、胸水貯留などの体液貯留も起こることがあります。
急激な体重増加、呼吸困難などの症状が認められた場合は、速やかに医療機関に連絡する必要があります。定期的な体重測定を行い、記録をつけることが推奨されます。
肝機能障害
肝機能検査値の上昇が認められることがあります。本剤投与開始前および投与中は定期的に肝機能検査を行い、異常が認められた場合は適切な対応が取られます。
腎機能障害
血中クレアチニン値の上昇が認められることがあり、特に日本人患者さんで頻度が高いことが報告されています。定期的な腎機能検査による観察が必要です。
副作用への日常的な対策
浮腫の予防と管理には、以下のような日常生活の工夫が有効です。
・むくみが生じやすい手足を、クッションや座布団などで少し高くして休む
・皮膚を清潔に保ち、乾燥を防ぐためにクリームやワセリンで保湿する
・虫刺されや切り傷、ペットによる引っかき傷に注意する
・長袖や長ズボン、靴下を着用して皮膚を保護する
・料理やアイロンでの火傷に注意する
・定期的に体重を測定し、記録をつける
・むくみの徴候(手足の重さ、だるさ、皮膚のつやつや感)に早く気づく
併用薬の注意点
テポチニブはP糖蛋白質(P-gp)の阻害作用を有するため、P-gpの基質となる薬剤(ダビガトランエテキシラート、ジゴキシン、フェキソフェナジンなど)の血中濃度を増加させ、副作用を増強させる可能性があります。
現在服用している薬がある場合は、必ず医師や薬剤師に伝えるようにしましょう。
保険適応と費用
保険適応
テポチニブは、「MET遺伝子エクソン14スキッピング変異陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺がん」に対して健康保険が適用されます。
薬剤費
2026年時点の薬価は以下の通りです。
テプミトコ錠250mg:14,399円/錠
標準的な投与量は1回500mg(2錠)で1日1回ですので、薬剤費は以下のようになります。
・1日あたり:28,798円
・1カ月(30日):863,940円
・3カ月:約259万円
患者さんの自己負担額
健康保険の自己負担割合が3割の場合、1カ月の薬剤費の窓口負担は約25.9万円となります。ただし、これは薬剤費のみの金額で、実際には診察料や検査料なども加わります。
高額療養費制度の活用
このような高額な薬剤を継続的に使用する場合、高額療養費制度を利用することで、自己負担額を大幅に軽減できます。
高額療養費制度は、1カ月間の医療費の自己負担額が一定の上限額を超えた場合に、超えた金額が払い戻される制度です。自己負担上限額は年齢や所得に応じて設定されています。
例えば、70歳未満で年収約370万~約770万円の方の場合、自己負担上限額は約8万円(多数回該当の場合は約4.4万円)となります。
2026年8月から高額療養費制度の自己負担限度額の見直しが段階的に実施される予定でしたが、2025年5月時点で全面凍結となっています。ただし、今後の制度改正の動向には注意が必要です。
事前申請の手続き
高額療養費制度を利用するには、事前に「限度額適用認定証」の交付を受けておくと便利です。これにより、医療機関の窓口での支払いが自己負担上限額までとなります。
加入している健康保険組合や協会けんぽ、国民健康保険などに申請することで交付を受けられます。
日常生活への影響
服薬管理
テポチニブは1日1回の経口投与であるため、入院の必要はなく、自宅で服薬しながら通常の生活を送ることができます。
ただし、毎日決まった時間に食後に服用する習慣をつけることが重要です。飲み忘れた場合は、次回の服用予定時刻が近い場合を除き、気づいた時点で服用します。重複して服用しないよう注意が必要です。
定期的な通院と検査
テポチニブの治療中は、副作用の早期発見と治療効果の確認のため、定期的な通院と検査が必要です。
・血液検査(肝機能、腎機能、血球数など)
・胸部画像検査(CT、レントゲンなど)
・体重測定
・症状の確認
これらの検査スケジュールは主治医の指示に従い、必ず受診するようにしましょう。
活動制限
副作用が軽度であれば、通常の日常生活や仕事を継続することは可能です。ただし、浮腫や倦怠感が強い場合は、活動を控えめにすることも必要です。
無理をせず、体調に合わせて休息を取りながら生活することが大切です。
家族や周囲のサポート
治療中は、家族や周囲の方のサポートが重要になります。
・服薬の確認
・体調の変化への気づき
・通院の付き添い
・家事の分担
などの支援があると、患者さんの負担が軽減され、治療を継続しやすくなります。
治療継続のポイント
テポチニブは、効果が認められる限り継続して使用する薬です。副作用が現れた場合でも、適切な対処により継続できることが多いため、自己判断で中止せず、必ず医師に相談することが重要です。
また、症状や副作用について気になることがあれば、遠慮せずに医療スタッフに相談しましょう。早期に対応することで、重症化を防ぎ、治療を継続しやすくなります。
まとめとして
テポチニブ(テプミトコ)は、MET遺伝子エクソン14スキッピング変異陽性の非小細胞肺がんに対する有効な治療選択肢です。
国際共同臨床試験では、42.4%の奏効率と19.1カ月の全生存期間中央値が確認されており、この変異を持つ患者さんにとって重要な治療薬となっています。
副作用としては末梢性浮腫が最も頻度が高く、半数以上の患者さんに認められますが、適切な管理により治療を継続することが可能です。間質性肺疾患などの重大な副作用については、早期発見が重要ですので、定期的な検査と症状の観察が欠かせません。
費用面では高額な薬剤ですが、高額療養費制度を活用することで、患者さんの自己負担を軽減することができます。事前に限度額適用認定証を取得しておくことをお勧めします。
1日1回の経口投与という利便性により、入院の必要なく自宅で治療を継続できる点も、患者さんの生活の質を保つ上で重要です。
治療を受けられる際は、医師や薬剤師、看護師などの医療スタッフとよくコミュニケーションを取り、不安や疑問を解消しながら進めていくことが大切です。
参考文献・出典情報
1. 医療用医薬品:テプミトコ 添付文書情報 - KEGG MEDICUS
2. テプミトコ(テポチニブ) - がん情報サイト「オンコロ」
3. テポチニブ、METΔex14変異肺がんに国内承認 - ケアネット
4. MET遺伝子変異陽性の非小細胞肺癌に初の治療薬 - 日経メディカル
5. テプミトコ(テポチニブ)の作用機序【MET陽性肺がん】- 新薬情報オンライン
6. テポチニブがMETエクソン14スキッピング変異を有する非小細胞肺がんに持続的奏効 - がん治療・癌の最新情報リファレンス
7. Tepotinib | テポチニブ(テプミトコ) | レジメン - HOKUTO
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