肺がんは様々ながんの部位の中でも、新薬の開発や現場での活用が進んでいる分野だといえます。
毒性のある従来の「抗がん剤」ではなく、がん細胞の働きを阻害することを目指した「分子標的薬」が現代肺がん医療の主流になっています。では、肺がん治療の最前線で使われている、イレッサ、タルセバなどいわゆる「EGFR遺伝子陽性」の患者さんに使われる薬はどのような作用があり、どのような効果があるのでしょうか。
分子標的薬は複数のタイプに分類されますが、その1つとして「EGFRチロシンキナーゼ阻害薬」というタイプがあります。イレッサ、タルセバ、はこのタイプに分類されます。
まず、EGFRとは何かというと、少し難しい言葉になりますが、がん細胞を覆う膜にある「上皮成長因子受容体」のことです。これが活性するとがんの増殖に大きく関わります。
具体的には、EGRFを構成する遺伝子の一部である「チロシンキナーゼ」に変異があると、がん細胞がどんどん増殖してしまうのです。この増殖を抑えるために開発されたのが「EGFRチロシンキナーゼ阻害薬(以下 EGFR阻害薬)」というわけです。
日本ではEGFR薬としてイレッサが2002年に承認され、その後2007年にはタルセバが承認されました。また、EGFR陰陽を検査する遺伝子検査も保険適用となっています。
これらの薬は、EGFRがATP(エネルギーを蓄えた物質でEGFRに刺激を与えるもの)と結びつくことを阻害することでがんの増殖を抑える効果があります。ただし、この薬が効果を発揮しやすいのは、EGFR遺伝子変異"陽性”の患者さんです。陽性の患者さんはおよそ肺腺がんの30~40%に達します。陰性の患者さんに用いられることもありますが、効果が薄く、間質性肺炎など重篤な副作用が起きやすいことが分かっています。
イレッサ、タルセバのうち、どちらを使うのかに関しては、EGFR遺伝子変異が起きる部分によります。変異が起きる遺伝子の部位としてエクソン19とエクソン21の2つがありますが、エクソン19に変異がある患者さんに対してはタルセバのほうが効果が高いとされています。エクソン21についてはどちらも同じ程度とされています。
イレッサ、タルセバはどのように使われるのか?
イレッサ、タルセバが使えるからといって、従来の抗がん剤(カルボプラチンやタキソール)を使わない、というわけではありません。
日本肺がん学会が作成している「肺がん診療ガイドライン2013」では、従来の化学療法(抗がん剤治療)と分子標的薬(イレッサ・タルセバ)を使った治療法がともに第一選択肢として記載されています。つまり、先に実施するのはどちらでもよい、ということです。
先に抗がん剤治療を実施しても、分子標的薬による治療を実施しても、生存率には差がありません。体調やがんの進行度合いに応じてどちらを先にするのかを決めます。
分子標的薬にも体重減少や倦怠感などの副作用がありますが、従来の抗がん剤治療に比べると程度は軽く、副作用がでる時期も遅いのが一般的です。ですので、患者さんが若く、体調もさほど悪くなければ、先に抗がん剤を実施して、その後のために分子標的薬を残しておくという選択も考えられるのです。
イレッサ、タルセバの副作用
これらの薬は急激な副作用がなく、効果も持続性が高いため、どうしても治療期間は長くなります。副作用のなかでもっとも懸念されるのは急性の肺障害(間質性肺炎)で、投薬を始めてから2~4週間程度で発生しやすいというデータがあります。この期間は注意深く医師の管理下で経過をみるなどの対処が必要です。また、長期的には皮膚障害や肝機能障害、爪の劣化などが起きます。イレッサよりもタルセバのほうが強い副作用が出る可能性があります。
特に皮膚障害は生活面で大きな苦痛につながります。湿疹がでたり、荒れたりしてきた場合に早めに保湿クリームを使ったり、ステロイドや抗生物質の塗り薬などを使って、悪化しにくいようにケアすることが重要です。
以上、イレッサ、タルセバについての解説でした。
私がサポートしている患者さんでもイレッサ、タルセバを使っている方は多くいます。従来の抗がん剤に比べると効果を発揮しやすく、副作用は少ないですが、それでも「がんを治す薬」ではありません。
「どのようにして肺がんと闘うのか」については総合的な取り組みが必要です。