乳がんには、遺伝が関係して起こるものとそうでないものがあります。
欧米では乳がん患者さんの10~20人に1人でその発病に遺伝が関係しているといわれていますが、日本ではそれと同じか、やや少ない程度と考えられています。
遺伝が関係する乳がんと関係しない乳がん
乳がんに限らず、がんという病気はからだの細胞の遺伝子が何らかの原因で変異し、異常に増殖するものです。多くの乳がんは、もともと異常のなかった乳腺細胞の遺伝子に、何らかの原因でダメージが起きたために発病します。そのため、これらの乳がんは子供に遺伝することはありません。
いっぽう、遺伝が関係する乳がんは、親から受け継いだ遺伝子そのものに異常があるため、生まれつき乳がんを発病しやすいリスクをもっていることになります。こうした遺伝子の異常は親から子ヘ約2分の1の確率で遺伝しますから、親や姉妹などの中で乳がんが発病する可能性が高くなります。
最近の研究で、乳がん発病に強く関係する遺伝子が2つみつかっています。BRCA1とBRCA2です。これらの遺伝子は、もともと乳がんの増殖を抑える役割をしていますが、これに異常が起きるため乳がんが発病しやすくなります。
また、この遺伝子は卵巣がんの発病とも関係することがわかっています。BRCA1に異常をもっている人の割合は、欧米の一般女性を対象とした調査では1,000人に1.2人(0.12%)ぐらいとされています。
家族性乳がんと遺伝性乳がん
一般に、家系の中に乳がんの人が複数いる場合を「家族性乳がん」と呼びます。家族は食生活などの生活環境を共有します。そのため遺伝的な原因がなくても、遺伝子に同じようなダメージが及び家系内に同じ病気を発病することがあります。
「家族性乳がん」の中でもともとの遺伝子に異常が認められるものを「遺伝性乳がん」と呼びます。なお、「家族性乳がん」の診断基準は、次の【1】あるいは【2】と定められています。
【1】親、子、兄弟姉妹の中に乳がんが最初にわかった人(「発端者」と呼びます)を含めて3人以上の乳がん患者さんがいる場合
【2】親、子、兄弟姉妹の中に発端者を含めて2人の乳がんの患者さんがいて、その2人のうちのどちらかが、次の①から③のどれかに該当する場合
①40歳未満で乳がんを発病している
②左右両側に乳がんを発病している
③乳がん以外のがんにもかかっている
実際に家系内に乳がん患者さんがいる場合、乳がん発病リスクは高くなります。具体的には親、子、兄弟姉妹に乳がんの患者さんがいる場合には、いない場合と比べて2倍以上リスクが高くなるといわれています。
世界中の多くの研究をまとめた検討では、親、子、兄弟姉妹の中に乳がん患者さんがいる女性は、いない女性に比べて2倍以上乳がんになりやすいことがわかりました。乳がんを発病した親戚の人数が多い場合には、さらにリスクは高くなります。
日本における研究でも同様の結果が得られています。また遺伝性乳がんの場合には、さらにリスクが高くなります。米国の研究では、BRCA1やBRCA2に変異がある人では、70歳までに8割ほどの確率で乳がんを発病することが明らかになっています。また、こうした遺伝子の変異は約2分の1の確率で子供に遺伝します。
いっぽう、家系内に乳がん以外のがん患者さんがいる場合はどうかというと、BRCA1やBRCA2は卵巣がんにも関係していますので、卵巣がんにかかった人が家系内にいる場合は、乳がん発病りスクが高くなる可能性があります。
しかし、それ以外のがんについては、乳がん発病リスクが高くなるとの報告はありません。
以上、乳がんについての解説でした。