食道がんのステージⅡ期、Ⅲ期は、手術の前に抗がん剤による治療を行ってから手術を行う「術前化学療法」が、日本での標準治療となっています。
ところが、欧米でのⅡ、Ⅲ期の治療は日本とはかなり異なります。進行食道がんのがん部分が切除しようと思えば取りきれるケースであっても、手術の前に抗がん剤による治療と放射線療法を行い、それから手術を行います。つまり「術前化学放射線療法」を行ってから「手術」を行うのです。
この方法が欧米で標準治療として行われているのは、データでは抗がん剤単独で治療を行った後に手術を行うよりも、再発率の成績が良いとされているからです。
いっぽう、日本では手術の前に放射線療法を組み入れないのは理由があります。第1に、欧米の手術成績と日本の手術成績では日本の成績がかなり上だということがあります。
なぜ成績がよいかというと、日本の患者にやせている人が多く手術がやりやすい、ということのほかに、日本の外科医はリンパ節を切除しますが欧米の外科医はリンパ節の切除を日本の外科医ほど徹底的に行いません。これは手術のリスクが高くなるからです。
また、日本の外科医は放射線療法も手術も同じ局所治療と考えています。何より放射線療法を行った後に手術をすると、組織がガチガチに固くなっていて、今行っているような手術が行えない可能性も危惧されます。ですので、現在は術前化学療法プラス手術がベストと考えられています。
日本の食道がんのⅡ期、Ⅲ期の治療は術前化学療法プラス手術、というわけですが、比較臨床試験結果では、ステージⅡではそれで良いという結果がでていますが、ステージⅢでは術前化学療法プラス手術にあまり効果のないことが分かってきました。
その結果、局所で進行した食道がんで、気管や大動脈に接していて切除の難しいがんには放射線の力も必要なのでは・・・という声が大きくなっています。
その声を受けて、2012年11月から比較試験がスタートしました。以下の3種類の治療法を比較するためn試験です。
①術前2剤化学療法+手術(現在の標準治療)
抗がん剤のフルオロウラシルとシスプラチンの2種類を点滴で投与する治療を行い、そして手術を行います。
②術前3剤化学療法+手術
抗がん剤を3種類に増やして行う治療です。使われる抗がん剤はフルオロウラシル、シスプラチン、ドキタキセル。抗がん剤を多剤で使うためかなり患者には辛い治療となります。化学療法を専門とする腫瘍内科医も参加します。
③術前化学療法+放射線療法+手術
術前に使う抗がん剤はフルオロウラシル、シスプラチンの2種類。同時に放射線を照射。そのあとに手術を行う方法です。抗がん剤と放射線を行う「術前化学放射線療法」だけで約42%の人のがんがいったん消えます。それでも、一時的にがんが消えたように見えた人の中から再発してくる人もいるため、手術が必要とされます。
比較試験の結果が出るには時間がかかりますが、いずれにせよ、今後は手術、化学療法、放射線療法などを集めて行う「集学的治療」が主流になってきています。
以上、食道がんの手術についての解説でした。