
こんにちは。がん専門のアドバイザー、本村ユウジです。
乳がんの手術で乳房を切除した後、自分の体の一部を使って乳房を再建する方法があります。これを「自家組織による乳房再建」といいます。人工物を使わず、自分の皮膚や脂肪、筋肉を移植して乳房を作り直す手術法です。
2006年4月から自家組織による一期再建・二期再建が健康保険の適用となり、多くの患者さんが選択できるようになりました。現在では乳がんの標準治療の一つとして位置づけられています。
自家組織による乳房再建は、温かみのある自然な感触の乳房を作ることができる点が最大の特徴です。年齢を重ねるとともに、反対側の乳房と同じように変化していくため、長期的に見て左右のバランスが保たれやすい利点があります。
自家組織による乳房再建の基本的な考え方
自家組織再建とは、患者さん自身の体の一部の組織を、血流が維持された状態で胸に移植する方法です。主に腹部や背中の皮膚、皮下脂肪、筋肉を利用します。
移植する組織は血管がつながったままの状態で移動させる「有茎皮弁」と、組織を完全に切り離してから顕微鏡下で血管をつなぎ直す「遊離皮弁」の2つの方法があります。どちらの方法を選ぶかは、患者さんの体型、乳房の大きさ、医師の技術レベルなどによって決まります。
自家組織は免疫反応を起こしにくく、人工物のような拒絶反応の心配がありません。また、組織が生きているため温かみがあり、触った感触も自然です。時間の経過とともに体型の変化に合わせて乳房も変化するため、反対側の乳房との違和感が少なくなります。
広背筋皮弁による乳房再建の特徴
広背筋皮弁は、背中の組織を使う再建方法です。正確には脇腹の上あたりから皮膚、脂肪、広背筋を採取します。血管をつなげたまま皮膚の下をくぐらせて胸まで移動させるため、有茎皮弁の手術になります。
この方法の利点は、血管をつなぎ直す必要がないため手術時間が2〜3時間と比較的短く、合併症のリスクも少ない点です。入院期間は7〜14日程度が一般的です。
ただし、日本人女性の場合、背中にあまり脂肪がついていないことが多いため、採取できる組織量には限界があります。このため、体型に比べて小さめの乳房の方に適した方法といえます。
術後の課題として、広背筋は脂肪よりも筋肉の割合が多いため、時間が経つにつれて筋肉が萎縮し、再建した乳房が小さくなってしまうことがあります。この問題を解決するため、わき腹の皮下脂肪を広背筋の上に含めて移植する方法が開発されています。これにより、長期的にも柔らかく自然な乳房を維持できる可能性が高まりました。
大きめの乳房を再建する場合は、広背筋皮弁だけでは十分なボリュームが得られないため、人工乳房を併用することもあります。また、肩から腕を後ろに引く動作の筋力が低下したり、背部に陥凹した変形が残ったりすることがあります。
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がん専門アドバイザー 本村ユウジ
腹部の組織を使った乳房再建
腹部は脂肪が豊富な部位であるため、どのような大きさの乳房にも対応できます。下腹部の皮膚、脂肪、筋肉を利用する方法で、最も多く行われている再建法です。
腹部を使った再建には、いくつかの方法があります。
有茎腹直筋皮弁は、広背筋皮弁と同じように血管をつなげたまま腹部の組織を胸まで移動させる方法です。血管をつなぎ直す必要がないため、手術の難易度は比較的低くなります。
遊離腹直筋皮弁は、組織を完全に切り離し、顕微鏡下で血管をつなぎ直して移植する方法です。有茎皮弁より採取する筋肉が少なく済み、より太い血管を使えるため、組織の血流が安定しやすい特徴があります。
手術時間は乳がん切除を含めて5〜7時間程度、入院期間は7〜10日程度が標準的です。
腹部の脂肪が減るため、お腹まわりがすっきりする副次的な効果もあります。ただし、腹直筋を採取すると、術後の腹筋力がやや低下したり、腹壁ヘルニアという合併症が生じたりする可能性があります。また、妊娠・出産の可能性がある方には原則として適応されません。
穿通枝皮弁による乳房再建
近年、最も注目されているのが穿通枝皮弁による再建法です。穿通枝とは、筋肉の中から皮膚や脂肪に向かって伸びる細い血管のことです。
深下腹壁動脈穿通枝皮弁(DIEP flap)は、筋肉の中から穿通枝だけを丁寧に分離して採取する方法です。筋肉をほとんど採取せずに皮膚と脂肪だけを移植できるため、腹部への侵襲が最小限に抑えられます。
この方法では、腹直筋の損傷が極めて少ないため、術後の腹筋力低下や腹壁ヘルニアなどの後遺症が生じることは非常にまれです。元々の乳房の素材に近い柔らかい脂肪のみで乳房を作成できることと、比較的自由に形を整えられるため、自然な仕上がりの乳房を作りやすい特徴があります。
手術では、約1〜2mmの微小血管を顕微鏡下で剥離し、胸部の血管と吻合します。この「マイクロサージャリー」という高度な技術が必要で、経験を積んだ形成外科医でなければ施行できません。
手術時間は6〜8時間程度と長時間に及びます。術後24時間は血栓形成のリスクがあるため、厳重な監視が必要です。ただし、経験豊富な施設では血栓形成率は1〜2%程度、皮弁生着率は98〜99%と良好な成績が報告されています。
日本人女性は血管が細く、つなぐのが難しいとされていますが、技術の進歩により安全性は向上しています。
腹部の脂肪が少ない方や、腹部に以前の手術痕がある方には、大腿深動脈穿通枝皮弁(PAP flap)という選択肢もあります。これは大腿内側の脂肪を使う方法で、比較的小さめの乳房の再建に適しています。
それぞれの手術法の選び方
どの方法を選ぶかは、患者さんの体型、乳房の大きさ、年齢、将来の妊娠予定、生活様式などを総合的に考慮して決定します。
乳房を再建するだけの十分な皮下脂肪があるかどうかが、まず重要なポイントです。日本人女性は背中に脂肪が少ないため、腹部の組織を使うことが多くなります。ただし、広背筋皮弁のほうが体への負担は軽いため、患者さんの状態によっては広背筋皮弁が適している場合もあります。
筋肉をできるだけ温存したい場合は、穿通枝皮弁が第一選択となります。一方、血管をつなぎ直すマイクロサージャリーには特有のリスクがあるため、必ずしも穿通枝皮弁が最良とは限りません。
医師とよく相談し、それぞれのメリット・デメリットを理解したうえで、自分に最も適した方法を選ぶことが大切です。
自家組織再建の適応と制限
自家組織による再建は、基本的にどのような方でも適応となる方法です。ただし、いくつかの条件があります。
痩せていて乳房が大きい方の場合、移植に必要な皮下脂肪が足りないことがあります。この場合は、人工乳房による再建が勧められることがあります。
また、腹部の組織を使う場合、将来的に妊娠・出産を希望している方には原則として適応されません。広背筋皮弁であれば、妊娠の可能性がある方でも施行可能です。
喫煙者の場合、血流障害のリスクが高まるため、術前に禁煙することが強く推奨されます。糖尿病や肥満のある方は、創部の治癒遅延や感染症のリスクが高くなります。
放射線治療を受けた方でも自家組織再建は可能ですが、創部の治りや整容性がやや劣ることがあります。
手術のタイミング
自家組織による乳房再建は、乳がん切除と同時に行う「一次再建」と、乳がん治療が落ち着いてから行う「二次再建」があります。
一次再建は、乳房を失った状態を経験せずに済むため、心理的な負担が軽減されます。また、手術回数を1回減らすことができるため、経済的でもあります。ただし、再建まで気持ちが回らない方や、乳がんの治療に専念したい方もいます。
二次再建は、乳がん治療が終了し、体や気持ちが落ち着いてから十分に考える時間があります。放射線治療などの補助療法の影響を受けにくい利点もあります。
どちらのタイミングで行うかは、患者さん、乳腺外科医、形成外科医の3者でよく話し合って決定することをお勧めします。
手術の実際と入院期間
一次再建の場合、乳がん切除手術に続けて形成外科医が再建手術を行います。麻酔がかかっている状態で患者さんの上半身を起こし、座った姿勢にして乳房の下垂具合などを確認しながら、左右のバランスを調整して仕上げます。
手術時間は、腹部の組織を使う場合で約3〜7時間、広背筋皮弁では約2〜3時間です。手術後は患部にドレーンを入れて、余分な体液を排出します。
術後の入院期間は、手術の方法によって異なりますが、一般的には7〜14日程度です。尿管カテーテルを抜いた手術翌日以降は、活動に制限を設けることはありません。自分で歩いてトイレに行くことも可能です。
退院後は、定期的な外来受診で経過を観察します。腫れが引いて形が安定するまでには、数ヶ月かかります。
術後の合併症とリスク
自家組織再建には、いくつかのリスクがあります。
最も重大な合併症は、移植した組織の血流障害です。血管がつまったり、痙攣を起こしたりすると、組織が壊死してしまう可能性があります。特に術後24時間は厳重な監視が必要です。ただし、経験豊富な施設では、このような重大な合併症の発生率は1〜2%程度です。
その他の合併症として、創部の感染、出血、創離開、皮膚壊死などがあります。喫煙者や糖尿病のある方は、これらの合併症のリスクが高くなります。
腹直筋を採取した場合、腹筋力の低下や腹壁ヘルニアが生じることがありますが、穿通枝皮弁ではこれらの後遺症は極めて少ないことが分かっています。
広背筋を採取した場合、肩から腕を後ろに引く動作の筋力低下が生じることがあります。
組織採取部には長い傷跡が残り、わずかに違和感が残ることがあります。
乳輪・乳頭の再建
乳房の膨らみを再建した後、形や位置が安定してから、乳輪・乳頭の再建を行います。通常、再建後3〜6ヶ月経ってから実施します。
乳頭の再建には、反対側の乳頭の一部を移植する方法や、皮膚を折りたたんで高まりを作る方法があります。乳輪の再建には、医療用のタトゥー(刺青)で色をつける方法や、陰部近傍の色素沈着した皮膚を移植する方法があります。
これらの手術は、外来での局所麻酔で短時間に行えます。乳房の膨らみを作成する手術と比べると、非常に小さな簡単な手術です。なお、医療用タトゥーは自費診療となります。
保険適用と費用
自家組織による乳房再建は、2006年4月から健康保険の適用対象となっています。乳がんで乳房全摘術を受けた方に対する再建だけでなく、2018年からは葉状腫瘍などの良性腫瘍で乳房切除術を受けた方、2020年からは遺伝性乳癌卵巣癌症候群(HBOC)に対する予防的乳房切除術後の再建も保険適用となりました。
手術費用は病院によって異なりますが、保険適用で3割負担の場合、約30〜60万円程度です。ただし、高額療養費制度を利用すれば、実質的な自己負担額は大幅に軽減されます。
69歳以下で年収約370〜770万円の方の場合、ひと月の自己負担限度額は「80,100円+(医療費−267,000円)×1%」となり、約8〜9万円程度の負担で済みます。
高額療養費制度は、加入している医療保険者(健康保険証を発行している機関)に申請書を提出する必要があります。事前に「限度額適用認定証」を取得しておけば、窓口での支払いが自己負担限度額までで済みます。
また、1年間の医療費が一定額を超えた場合は、確定申告で医療費控除の対象となります。
医療費以外に、術後に身につけるバストバンドや腹帯、専用の下着などの購入費用が別途必要になることがあります。個人で加入しているがん保険や医療保険でカバーできる範囲を、事前に確認しておくとよいでしょう。
医療機関と医師の選び方
自家組織による乳房再建は、高度な技術を必要とする手術です。形成外科医によって、得意な方法や経験豊富な方法が異なります。
医師を選ぶ際には、年間の症例数、特にどの方法が得意なのか、実際に手がけた再建の写真を見せてもらうことが大切です。穿通枝皮弁のようなマイクロサージャリーを伴う手術は、特に経験が重要です。
日本乳房オンコプラスティックサージャリー学会では、乳房再建ができる医療機関の認定制度を2013年にスタートし、ウェブサイト上で公開しています。認定施設では、一定の基準を満たした医師による手術が受けられます。
乳がん手術を行う乳腺外科医と、再建を担当する形成外科医との連携も重要です。早期の段階から両方の医師と相談できる体制が整っている施設を選ぶことをお勧めします。
再建後の経過と生活
再建した乳房は、術後数ヶ月かけて徐々に形が安定していきます。腫れが引くと、最終的な形や大きさが明らかになります。
自家組織で再建した乳房は、自分の生きた組織でできているため、体重の増減や加齢に伴って反対側の乳房と同じように変化します。長期的に見て、左右のバランスが保たれやすい特徴があります。
ただし、元々下垂のある乳房の場合、再建した乳房は下垂しにくいため、時間が経つにつれて左右のバランスが悪くなることがあります。その場合は、反対側の乳房を挙上したり、縮小したりする補助手術が必要になることがあります。
一度完成してしまえば、人工乳房のような定期的なメンテナンスや入れ替えの必要はありません。異物反応の心配もなく、生涯安全な乳房を得ることができます。
再建後も、乳がんの定期検診は継続して受ける必要があります。自家組織再建では、再建した組織の下に局所再発が生じることがあるため、定期的な画像検査が推奨されます。
自家組織再建の長所と短所
| 長所 | 短所 |
|---|---|
| 温かみのある自然な感触 | 組織採取部に長い傷跡が残る |
| 柔らかく自然な形 | 手術時間が長い(2〜8時間) |
| 加齢とともに自然に変化 | 入院期間が長い(7〜14日程度) |
| 異物反応の心配がない | 採取部の筋力低下や違和感 |
| メンテナンス不要 | マイクロサージャリーのリスク |
| 長期的な満足度が高い | 高度な技術が必要 |
| 皮膚の感覚がある | 体への負担が大きい |
人工乳房との比較
乳房再建には、自家組織を使う方法のほかに、シリコンインプラント(人工乳房)を使う方法があります。それぞれに特徴があり、患者さんの状況や希望に応じて選択します。
人工乳房による再建は、手術時間が短く(1〜3時間)、体への負担が軽いという利点があります。胸以外の部分に傷がつかないため、組織採取部の後遺症もありません。
一方、人工物特有の硬さや冷たさがあり、自然な感触とは異なります。また、被膜拘縮や破損などの合併症が生じることがあり、将来的に入れ替え手術が必要になる可能性があります。
自家組織再建は、手術の負担は大きいものの、長期的な満足度が高いことが報告されています。温かく柔らかい自然な乳房を求める方、人工物を避けたい方、一度手術をしたら再手術を受けたくない方には、自家組織再建が適しています。
どちらの方法を選ぶかは、患者さんの価値観、体型、年齢、乳がんの状態、補助療法の予定などを総合的に考慮しましょう。
出典情報・参考文献
乳がんの「乳房再建(自家組織)」治療の進め方は?治療後の経過は? | QLife がん