自家組織による乳房再建は、お腹や背中の皮膚など(血流のある皮層・皮下組織)を移植して、乳房を作る方法です。
ひとことでいえば、「皮膚と脂肪、筋肉を血管をつけたまま採取し胸に移植する方法」で、お腹の組織を移植する腹直筋皮弁(ふくちょくきんひべん)と背中の組織を移植する広背筋皮弁(こうはいきんひべん)という2つの方法があります。
広背筋皮弁による乳房再建
広背筋皮弁は、背中(実際にはわき腹の上あたり)の組織をとり、血管がつながったままの状態で皮膚の下をくぐらせ、胸までもってくる方法です。
血管をつなぎ直す必要がないため、手術が2~3時間で終わり、合併症も比較的少ないのが特徴です。
広背筋皮弁は筋肉が多く脂肪が少ないため、術後、時間が経つにつれ、再建した乳房が筋の萎縮により小さくなってしまう傾向が見られます。このため、わき腹の皮下脂肪を広背筋上に含めて移植する方法も開発されています。
これはわき腹のいわゆる”ぜい肉“を移植する方法で、長期的に見てもやわらかく美しい乳房を作ることが可能だとされています。
腹直筋皮弁による乳房再建
腹直筋皮弁の場合、広背筋皮弁と同じようにして腹部の組織を胸までもってくる「有茎皮弁」のほか、組織を完全に切り離し、血管をつなぎ直して移植する「遊離皮弁」という手法が用いられることもあります。
さらに、最近注目されている「穿通枝(せんつうし)皮弁」は、筋肉の中から細い血管を抜き出すようにして組織を採取し、移植する方法です。
有茎皮弁より遊離皮弁のほうが採取する筋肉が少なく済み、穿通枝皮弁では筋肉をほとんどとらずに皮層と脂肪を移植することが可能です。
このように、自家組織を使った再建術には、いくつかの方法があるので、自分の体型や特徴をふまえて方法を選ぶことがポイントになります。
それぞれの特徴とは
まず、乳房を作るだけの皮下脂肪をとるには、お腹と背中のどちらが良いのかを見極める必要があります。日本人女性は背中にあまり脂肪がないので、腹直筋皮弁になることが多いですが、広背筋皮弁のほうが体への負担は軽く、患者によっては広背筋皮弁のほうが良いこともあります。
腹直筋皮弁では、筋肉をとると後遺症として腹筋や腹壁が弱くなることがまれにあり、筋肉をなるべくとらないようにするため遊離皮弁や穿通枝皮弁による手術が行われていますが、実際には筋肉を多少切除しても、腹筋や腹壁の強度に影響しないことがわかっています。
遊離皮弁や穿通枝皮弁は切除する筋肉が少ない半面、血管をつなぎ直す「マイクロサージャリー」という高度な技術が必要で、それに伴うリスクもあります。
マイクロサージャリーの手術は10時間以上に及ぶことがある上、術後に血栓や血管の痙箪を起こすリスクがあり、特に術後24時間は厳重な監視が必要です。しかも日本人女性は血管が細く、つなぐのが難しいとされています。
必ずしも遊離皮弁や穿通枝皮弁が良いわけではなく、それぞれにリスクがありますので、医師とよく相談して、手術法を選ぶことが大切です。
自家組織による再建は、基本的にはどんな人でも適応となる方法ですが、やせていて乳房が大きい人の場合、移植する皮下脂肪が足りないことがまれにあり、その場合は人工乳房での再建が勧められます。自家組織は人工乳房に比べ、より自然な感触で温かい乳房ができるのが最大の長所だといえます。
再建術を手がける形成外科医は、得意な方法や経験豊富な方法が決まっていることもあるため、医師を選ぶ際には、人工乳房か自家組織か、自家組織なら特にどの方法が得意なのか、年間の症例数や、手がけた再建の写真を見せてもらって確認することも大切です。
また、日本乳房オンコプラスティックサージャリー学会では再建のできる医療機関の認定制度を2013年にスタートし、サイト上で順次公開しています。
以上、乳がんの再建手術についての解説でした。