
こんにちは。がん治療専門アドバイザー、本村ユウジです。
子宮体がんの治療において、化学療法は手術療法と並んで重要な役割を担っています。近年、免疫チェックポイント阻害薬やPARP阻害薬の登場により、治療の選択肢が大きく広がっています。
この記事では、子宮体がんの化学療法について、最新の治療レジメンや使われる薬、投与方法、奏効率などを詳しく解説します。
子宮体がんにおける化学療法の目的と位置づけ
子宮体がんにおいて抗がん剤などの薬を使う化学療法は、治療のタイミングや目的によって大きく3つの種類に分けられます。
まず1つめが、手術前に行う術前化学療法です。これは進行したがんを、手術や放射線療法が行える状態まで小さくするためのものです。進行期III期やIV期で腫瘍が広範囲に広がっている場合、まず化学療法で腫瘍を縮小させてから手術を行うことで、より確実な腫瘍の摘出を目指します。
2つめが、再発予防のために手術後に行う術後補助化学療法です。手術でがんを摘出した後、リンパ節に転移していたり、再発のリスクが高かったりする場合に行います。目に見えない微小ながん細胞を叩き、再発を防ぐことが主な目的です。手術後の病理検査の結果、再発リスクが中リスク群または高リスク群と判断された患者さんが対象となります。
3つめが、再発時に行う化学療法です。残念ながら再発してしまった場合に、再発したがんを小さくすることや、がんの進行を抑えて生活の質を維持することが目的です。
化学療法の投与方法
子宮体がんの化学療法では、抗がん剤の投与方法にいくつかの種類があります。
最も多く行われるのが「静脈内投与」です。静脈内に抗がん剤を点滴し、全身に薬を行きわたらせる方法です。通常は外来化学療法室や入院病棟で、専門の看護師や薬剤師の管理のもと、数時間かけて点滴を受けます。
また特定の部位に高い濃度の薬を投与するために、動脈内に注射する「動脈内投与」という方法もあります。ただし、子宮体がんでは静脈内投与が標準的な方法として広く用いられています。
化学療法では、投薬後、3〜4週間おいてから次の投薬を行うのが一般的です。この休薬期間が必要なのは、抗がん剤で傷ついた正常な細胞が回復するのを待つためです。抗がん剤はがん細胞だけでなく、正常な細胞、特に分裂の盛んな細胞にもダメージを与えるため、この回復期間を設けることで副作用を軽減します。投与回数は病状や化学療法の目的によって異なりますが、通常は3〜6回程度行われます。
多剤併用療法の考え方
子宮体がんの化学療法では、数種類の抗がん剤を組み合わせて使うことがほとんどです。これを「多剤併用療法」と言います。
単剤での治療と比較して、多剤併用療法には以下のような利点があります。まず、作用機序の異なる薬剤を組み合わせることで、より効果的にがん細胞を攻撃できます。また、薬剤耐性の発現を遅らせることができます。さらに、それぞれの薬剤の投与量を減らすことができるため、副作用のバランスをとりやすくなります。
これまでの臨床試験により、効果の高い組み合わせが明らかになっており、エビデンスに基づいた標準的な治療レジメンが確立されています。
主な化学療法レジメンと使われる薬
子宮体がんの化学療法では、複数の薬剤を組み合わせた治療レジメンが用いられます。使われる薬剤の名前または商品名の頭文字を組み合わせた名称で呼ばれています。
TC療法(TJ療法)
TC療法は、パクリタキセル(商品名:タキソール)とカルボプラチン(商品名:パラプラチン)を組み合わせた治療法です。
パクリタキセルは微小管阻害薬と呼ばれるタキサン系の抗がん剤で、がん細胞の細胞分裂を阻害します。通常、175mg/m²を3時間かけて点滴投与します。カルボプラチンは白金製剤で、がん細胞のDNAに作用してがん細胞の増殖を抑えます。投与量はAUC(血中濃度曲線下面積)=6で計算され、1時間かけて点滴投与します。
TC療法の奏効率は50〜60%と報告されており、比較的高い効果が期待できます。3週間を1サイクルとして、通常3〜6サイクル行われます。
副作用としては、パクリタキセルによる末梢神経障害(手足のしびれ)、脱毛、骨髄抑制(白血球減少、血小板減少)、カルボプラチンによる骨髄抑制、悪心・嘔吐などが知られています。特に末梢神経障害は高齢者や糖尿病を合併している患者さんで重症化しやすいため、注意が必要です。
AP療法
AP療法は、ドキソルビシン(アドリアマイシン、商品名:アドリアシン)とシスプラチン(商品名:ランダ、ブリプラチン)を組み合わせた治療法です。
ドキソルビシンはアントラサイクリン系の抗がん剤で、DNAに作用してがん細胞の増殖を抑えます。通常、60mg/m²を投与します。シスプラチンは白金製剤で、がん細胞のDNAに結合して細胞増殖を抑制します。通常、50mg/m²を投与します。
AP療法は長年、子宮体がんの標準治療として用いられてきました。奏効率は40〜45%程度と報告されています。3週間を1サイクルとして、通常3〜6サイクル行われます。
副作用としては、悪心・嘔吐が比較的強く出やすく、ドキソルビシンによる心毒性(累積投与量500mg/m²以上で心機能低下のリスク)、脱毛、骨髄抑制、シスプラチンによる腎障害、末梢神経障害、聴覚障害などが知られています。悪心・嘔吐の予防のため、あらかじめ制吐剤を投与します。また、腎障害を予防するため、大量の輸液と利尿剤を使用して十分な尿量を確保します。
DP療法
DP療法は、ドセタキセル(商品名:タキソテール)とシスプラチンを組み合わせた治療法です。
ドセタキセルはパクリタキセルと同じタキサン系の抗がん剤ですが、作用時間が長いという特徴があります。通常、70mg/m²を投与します。シスプラチンは60mg/m²を投与します。
日本で行われた臨床試験(JGOG2043試験)では、AP療法、TC療法、DP療法の3つを比較しました。無増悪生存期間においてDP療法とTC療法はAP療法に対する優越性を証明できませんでしたが、治療完遂割合が最も高かったのはDP療法でした。副作用のバランスを考慮して選択される治療法の一つとなっています。
TAP療法
TAP療法は、パクリタキセル、ドキソルビシン、シスプラチンの3剤を組み合わせた治療法です。
米国で行われた臨床試験(GOG177試験)では、AP療法と比較してTAP療法の方が奏効率が高く、生存期間も有意に延長することが示されました。しかし、副作用も強く、特に神経毒性が問題となるため、現在日本では標準的な治療としてはあまり用いられていません。
2024年に承認された最新の治療法
2024年11月、子宮体がん治療において画期的な進展がありました。進行・再発子宮体がんの一次治療として、免疫チェックポイント阻害薬デュルバルマブ(商品名:イミフィンジ)とPARP阻害薬オラパリブ(商品名:リムパーザ)の併用療法が承認されたのです。
デュルバルマブ+化学療法+オラパリブ療法(DUO-Eレジメン)
この治療法は、まず初回治療として、カルボプラチン+パクリタキセル(TC療法)にデュルバルマブを併用します。デュルバルマブは抗PD-L1抗体という免疫チェックポイント阻害薬で、がん細胞が免疫細胞の攻撃から逃れるメカニズムを阻害することで、免疫細胞ががん細胞を攻撃できるようにします。
3週間を1サイクルとして、TC療法とデュルバルマブの併用を最大6サイクル行った後、維持療法に移ります。維持療法では、ミスマッチ修復機能の状態により2つの選択肢があります。
ミスマッチ修復機能正常(pMMR)の患者さん(子宮体がん患者さんの約70〜80%)には、デュルバルマブ+オラパリブ併用維持療法が行われます。オラパリブはPARP阻害薬と呼ばれる分子標的薬で、がん細胞のDNA修復機能を阻害することでがん細胞の死滅を促します。
一方、ミスマッチ修復機能欠損(dMMR)の患者さん(約20%)には、デュルバルマブ単剤による維持療法が行われます。dMMRの患者さんは免疫チェックポイント阻害薬がよく効くことが知られています。
第III相臨床試験であるDUO-E試験の結果では、TC療法単独と比較して、デュルバルマブ+オラパリブ併用維持療法群では無増悪生存期間の中央値が15.1ヵ月(TC療法単独群9.6ヵ月)に延長し、病勢進行または死亡のリスクを45%低減しました。デュルバルマブ単剤維持療法群でも無増悪生存期間の中央値が10.2ヵ月に延長し、リスクを29%低減しました。
この治療法の承認により、子宮体がん患者さんは、ミスマッチ修復機能の状態に関係なく、初めて免疫療法を一次治療に利用できるようになりました。これは子宮体がん治療における大きなパラダイムシフトと言えます。
再発子宮体がんに対する治療
ペムブロリズマブ+レンバチニブ療法
化学療法後に増悪した切除不能な進行・再発子宮体がんに対しては、免疫チェックポイント阻害薬ペムブロリズマブ(商品名:キイトルーダ)と分子標的薬レンバチニブ(商品名:レンビマ)の併用療法が用いられます。
ペムブロリズマブは抗PD-1抗体で、免疫細胞のPD-1とがん細胞のPD-L1との結合を阻害し、免疫細胞を活性化します。通常、200mg/bodyを3週間ごとに30分かけて点滴投与します。
レンバチニブはマルチキナーゼ阻害薬で、血管新生を阻害する働きとがん細胞の増殖を抑える働きによりがんの進行を抑えます。通常、20mg/日を1日1回経口投与します。
KEYNOTE-775試験の結果では、従来の標準治療(ドキソルビシンまたはパクリタキセルの単剤療法)と比較して、ペムブロリズマブ+レンバチニブ併用療法は無増悪生存期間と全生存期間を有意に延長しました。ミスマッチ修復機能正常(pMMR)の患者さんでも効果が認められたことが重要なポイントです。
副作用としては、疲労、高血圧、下痢、甲状腺機能低下症、手足症候群、口内炎などが報告されています。日本人患者さんでは血小板減少、手足症候群、口内炎、発熱、肝機能障害が特徴的に見られるため、注意深い観察と適切な対処が必要です。
化学療法の効果判定
化学療法の効果は、画像検査や腫瘍マーカーの測定により判定されます。
効果判定には以下の基準が用いられます。完全奏効(CR)は、すべての病変が消失した状態です。部分奏効(PR)は、腫瘍の大きさが30%以上縮小した状態です。安定(SD)は、腫瘍の大きさに大きな変化がない状態です。進行(PD)は、腫瘍が20%以上増大したか、新しい病変が出現した状態です。
奏効率(ORR)は、完全奏効と部分奏効を合わせた割合を指します。無増悪生存期間(PFS)は、治療開始から病気が進行するまでの期間を指します。全生存期間(OS)は、治療開始から死亡までの期間を指します。
これらの指標により、治療の効果を客観的に評価し、治療方針の決定に役立てます。
化学療法の主な副作用とその対策
化学療法では、さまざまな副作用が起こる可能性があります。代表的な副作用とその対策について説明します。
骨髄抑制
抗がん剤は、骨髄で作られる血液細胞(白血球、赤血球、血小板)の産生を抑制します。白血球が減少すると感染症にかかりやすくなり、血小板が減少すると出血しやすくなり、赤血球が減少すると貧血になります。
通常、抗がん剤投与後1〜2週間で血球数が最も低下し、3〜4週間で回復してきます。定期的な血液検査でチェックし、必要に応じて白血球を増やす薬(G-CSF製剤)や輸血などを行います。
白血球が減少している時期は、手洗い・うがいを徹底し、人混みを避けるなど、感染予防に努めることが大切です。38℃以上の発熱がある場合は、速やかに医療機関に連絡してください。
悪心・嘔吐
抗がん剤投与当日に現れる急性のものと、投与後2〜7日後に現れる遅延性のものがあります。現在は効果の高い制吐剤が開発されており、予防的に使用することで、多くの場合コントロールできるようになっています。
投与前に制吐剤の点滴を行い、さらに内服薬を処方されます。指示通りに服用することが大切です。食事は無理せず、食べられるものを少量ずつ摂取するようにしましょう。
脱毛
ドキソルビシンやパクリタキセル、ドセタキセルなどを使用すると、投与開始から2〜3週間後より髪の毛が抜けてきます。これは一時的なもので、治療が終了して2〜3ヵ月で生え始めます。
脱毛が始まる前にウィッグを準備しておくと良いでしょう。医療用ウィッグの購入費用の一部を助成している自治体もあります。
末梢神経障害
パクリタキセル、ドセタキセル、シスプラチンなどを使用すると、手足のしびれや痛みが出ることがあります。症状が強い場合は、薬剤の減量や休薬が検討されます。
日常生活では、やけどやけがに注意し、重いものを持つときは慎重に行いましょう。症状が強くなる前に、早めに医療スタッフに相談することが大切です。
腎障害
シスプラチンは腎臓の働きを低下させることがあります。予防のため、投与前後に大量の輸液と利尿剤を使用して、十分な尿量を確保します。頭痛やむくみなどの症状が続く場合は医療スタッフに連絡してください。
心毒性
ドキソルビシンは、累積投与量が多くなると心機能を低下させるリスクがあります。通常、累積投与量500mg/m²までとされています。必要に応じて心電図や心エコー検査で心機能をチェックします。
化学療法を受ける上での注意点
化学療法を安全に、効果的に受けるために、以下の点に注意しましょう。
まず、副作用や体調の変化について、些細なことでも医療スタッフに相談することが大切です。早期に対処することで、症状の悪化を防げます。
処方された薬は指示通りに服用してください。特に制吐剤や感染予防の薬は、症状がなくても予防的に服用することが重要です。
治療中は免疫力が低下しているため、生ものの摂取は避け、十分に加熱した食事を心がけましょう。また、人混みを避け、外出後は手洗い・うがいを徹底してください。
定期的な血液検査や画像検査を受け、治療の効果と副作用を評価します。予定された検査は必ず受けるようにしましょう。
化学療法と費用について
化学療法には高額な医療費がかかりますが、日本には高額療養費制度があります。これは、1ヵ月の医療費の自己負担額が一定額を超えた場合、超えた分が払い戻される制度です。
自己負担限度額は、年齢や所得に応じて異なります。70歳未満で年収約370万〜770万円の方の場合、月額の自己負担限度額は80,100円+(総医療費-267,000円)×1%です。
事前に「限度額適用認定証」を取得しておくと、医療機関の窓口での支払いが自己負担限度額までとなり、一時的な支払いの負担を軽減できます。加入している健康保険の窓口に申請してください。
また、新しい免疫チェックポイント阻害薬やPARP阻害薬は薬剤費が高額ですが、保険適用されており、高額療養費制度の対象となります。経済的な不安がある場合は、医療ソーシャルワーカーに相談することをお勧めします。
今後の展望
子宮体がんの化学療法は、近年大きく進歩しています。特に免疫チェックポイント阻害薬やPARP阻害薬の登場により、治療成績が向上しています。
今後は、がんの分子遺伝学的特徴に基づいた個別化医療がさらに発展すると予想されます。例えば、ミスマッチ修復機能の状態やマイクロサテライト不安定性(MSI)の有無、腫瘍遺伝子変異負荷(TMB)などのバイオマーカーに基づいて、最適な投薬を選択する時代が来ています。
また、新しい分子標的薬や免疫療法薬の開発も進んでいます。
まとめ
子宮体がんの化学療法は、手術療法と並んで重要な治療法です。従来のTC療法、AP療法、DP療法に加えて、2024年には免疫チェックポイント阻害薬とPARP阻害薬を用いた新しい治療法が承認され、治療選択肢が大きく広がりました。
化学療法にはさまざまな副作用がありますが、適切な対策により多くは管理可能です。担当医や医療スタッフとよく相談しながら、自分に最も適した治療を選択することが大切です。
参考文献・出典情報
- 日本婦人科腫瘍学会 - 子宮体がん
- 日本婦人科腫瘍学会 - 子宮体がん治療ガイドライン2018年版
- 日本婦人科腫瘍学会 - 子宮体癌に対するペムブロリズマブとレンバチニブメシル酸塩による併用療法の解説
- アストラゼネカ - イミフィンジとリムパーザの日本における承認取得
- エーザイ - レンビマとキイトルーダの併用療法承認取得
- 国立がん研究センター中央病院 - 子宮体がん治療方針
- 国立がん研究センター東病院 - 子宮体がんの治療について
- ケアネット - デュルバルマブ+化学療法±オラパリブが進行子宮体がんの生存改善
- 日経メディカル - 子宮体がんの化学療法
- MSD Oncology - 子宮体がんの治療

