精巣がんとは|基本的な理解から始める
精巣がんは男性特有のがんの中では比較的まれな疾患ですが、15歳から35歳の若い男性に発症しやすい特徴があります。2025年現在、日本では年間約1000人が精巣がんと診断されており、適切な治療を受ければ治癒率が90%を超える予後の良いがんとして知られています。
精巣がんは大きく「セミノーマ」と「非セミノーマ」の2つのタイプに分類されます。セミノーマは比較的ゆっくりと進行し、放射線治療によく反応します。一方、非セミノーマは進行が早い傾向にありますが、化学療法に対する反応が良好です。
早期発見が治療成功の鍵となるため、症状の理解と適切な検査方法を知ることは極めて重要です。
精巣がんの症状|早期発見のためのチェックポイント
初期症状の特徴
精巣がんの初期症状として最も特徴的なのは、痛みのない精巣のしこりや腫れです。通常、精巣は左右で若干の大きさの違いがありますが、痛みを伴わずに片方の精巣が明らかに大きくなってきた場合は注意が必要です。
大きさの変化だけでなく、精巣の硬さが変わることもあります。正常な精巣はゆで卵の白身のような弾力性がありますが、がんが発生すると石のように硬くなることがあります。
進行した症状
病状が進行すると、30~40%の患者さんに下腹部の鈍痛や重圧感が現れます。これは腫瘍が大きくなることで周囲の組織を圧迫するために生じる症状です。さらに進行すると、精巣そのものに痛みを感じるようになることもあります。
転移による症状
がんが転移した場合、以下のような症状が現れる可能性があります:
- 腹痛(後腹膜リンパ節への転移)
- 首のリンパ節の腫れと痛み(リンパ節転移)
- 乳房の腫れと痛み(ホルモン産生腫瘍による影響)
- 息切れや咳(肺転移)
これらの症状が現れる段階では、治療がより困難になるため、初期症状の段階での受診が重要です。
自己検査の方法
精巣がんの早期発見には自己検査が有効です。国立がん研究センターでは以下の方法を推奨しています:
1. 部屋を暗くして陰嚢の後ろから懐中電灯などで光を当てる
2. 光がどの程度透過するかを確認する
3. 光が通らない場合、腫瘍の可能性が高くなる
入浴時に石鹸をつけた手で精巣を優しく触診することも効果的です。異常を感じた場合は、恥ずかしがらずに早めに泌尿器科を受診することが大切です。
精巣がんの検査方法|診断プロセスの詳細
問診と身体診察
泌尿器科を受診すると、まず医師による詳細な問診が行われます。症状の出現時期、痛みの有無、家族歴などについて確認されます。
次に身体診察として、精巣の触診が実施されます。医師は精巣の大きさ、硬さ、可動性などを慎重に評価します。必要に応じて直腸診も行われることがあります。これは前立腺や精嚢の状態を確認し、他の疾患との鑑別診断のために実施される標準的な検査です。
画像検査
触診で異常が疑われる場合、以下の画像検査が実施されます:
超音波検査(エコー検査)は精巣がんの診断において最も重要な検査です。非侵襲的で痛みがなく、精巣内部の詳細な構造を観察できます。腫瘍の位置、大きさ、血流の状態などが詳しく分かります。
CT検査では、腹部や胸部の転移の有無を確認します。精巣がんは後腹膜リンパ節や肺に転移しやすいため、これらの部位の詳細な評価が必要です。
MRI検査は、CT検査では判別が困難な場合に追加で実施されることがあります。特に軟部組織の詳細な観察が可能です。
血液検査|腫瘍マーカーの重要性
精巣がんの診断において血液検査は極めて重要な役割を果たします。精巣がんの病巣は特殊な物質(腫瘍マーカー)を血液中に放出するため、これらの値を測定することで診断の確度を高めることができます。
主要な腫瘍マーカーには以下があります:
| 腫瘍マーカー | 正常値 | 精巣がんでの上昇 |
|-------------|--------|------------------|
| AFP(アルファ胎児性たんぱく質) | 10ng/mL未満 | 非セミノーマで上昇 |
| hCGβ(ヒト絨毛性ゴナドトロピン・ベータサブユニット) | 0.1ng/mL未満 | セミノーマ、非セミノーマともに上昇可能 |
| LDH(乳酸脱水素酵素) | 124-222IU/L | 腫瘍量と相関 |
AFPは通常、胎児期に産生されるタンパク質で、成人では極めて低い値を示します。非セミノーマ型の精巣がんでは高値を示しますが、セミノーマでは上昇しないという特徴があります。
hCGβは本来、女性の胎盤から分泌される性腺刺激ホルモンの一種です。男性で検出される場合は、精巣がんの存在を強く示唆します。
LDHは細胞の代謝に関わる酵素で、がん細胞の増殖に伴って上昇します。腫瘍の大きさや進行度との相関があるため、治療効果の判定にも用いられます。
病理組織検査の特殊性
多くのがんでは確定診断のために針生検による組織採取が行われますが、精巣がんでは異なるアプローチが採られます。精巣がんのがん細胞は非常に転移しやすい性質を持っているため、針を刺すことで細胞が散布され、転移を促進する危険性があります。
そのため、精巣がんが強く疑われる場合は、鼠径部切開による精巣摘出術(高位精巣摘出術)を実施し、摘出した精巣の組織検査により確定診断を行います。この手術は同時に治療としての意味も持ちます。
診断における注意点と鑑別診断
精巣がんの診断では、他の良性疾患との鑑別が重要です。精巣上体炎、精巣捻転、精索静脈瘤などは似たような症状を呈することがあります。
精巣上体炎は感染による炎症で、通常は痛みと発熱を伴います。精巣捻転は緊急手術が必要な疾患で、激しい痛みが特徴です。精索静脈瘤は静脈の拡張による疾患で、立位で症状が増強します。
これらの鑑別には、症状の詳細な聞き取り、身体診察、超音波検査が重要な役割を果たします。
最新の診断技術と2025年の動向
2025年現在、精巣がんの診断技術は着実に進歩しています。高解像度の超音波機器により、より小さな腫瘍の検出が可能になっています。また、造影超音波検査により血流評価の精度が向上し、良性腫瘍との鑑別能力が高まっています。
新しい腫瘍マーカーの研究も進んでおり、micro RNA(マイクロRNA)を用いた診断法の開発が期待されています。これにより、従来の腫瘍マーカーでは検出困難なタイプの精巣がんの診断精度向上が見込まれています。
人工知能(AI)を活用した画像診断支援システムの導入も始まっており、診断精度の向上と診断時間の短縮が期待されています。
受診のタイミングと心構え
精巣がんは進行が早い場合もあるため、気になる症状があれば迷わず受診することが重要です。特に以下の症状がある場合は、早急に泌尿器科を受診してください:
- 痛みのない精巣のしこりや腫れ
- 精巣の硬さの変化
- 持続する下腹部の不快感
- 精巣の重量感
多くの方が恥ずかしさから受診を躊躇しがちですが、泌尿器科医にとってこれらの検査は日常的な業務です。早期発見により治癒率が大幅に向上するため、恥ずかしがらずに受診することが大切です。
治療後のフォローアップ検査
精巣がんの治療後は、定期的な検査によるフォローアップが重要です。血液検査による腫瘍マーカーの測定、CT検査による転移の有無の確認が定期的に実施されます。
初回治療後5年間は特に再発リスクが高いため、最初の2年間は1~2か月ごと、その後は3~6か月ごとの検査が推奨されています。
精巣がんは適切な診断と治療により高い治癒率を期待できるがんです。症状に気づいたら早めの受診を心がけ、医師の指示に従って適切な検査を受けることが重要です。