肝臓の疾患が重くなると、精神の障害が見られるようになります。
これは、肝臓における有害物質の分解機能が低下した結果、血液中にアンモニアをはじめとするさまざまな有害物質が蓄積し、これが中枢神経系を侵すためと考えられています。
これを一般に「肝性脳症(かんせいのうしょう」といいます。しかし、そのくわしいメカニズムはいまのところ明らかではありません。また、肝臓と脳の両方で同時に障害が起こることを「肝脳疾患」と呼び、これも広い意味で肝性脳症に含まれます。
肝性脳症は、症状の進行によって初期から後期まで5段階に分けられます。この段階が進むにつれて、言動に異常が目立つようになり、最終的に昏睡状態に陥ります。
第1段階では、睡眠リズムの乱れ(睡眠と覚醒の周期が逆転する)、多幸感、うっ屈感などが現れます。しかしこれは、よく注意しないと、周囲の人間にはわからない程度のものです。
第2段階で、患者はしばしば、ところかまわず眠り込むようになるものの、呼びかけられれば目を覚まし、会話もできます。しかし、明らかに異常な言動が目につきはじめます。たとえば、物事を他人にうまく説明することができない(指南力障害)などの症状が顕著になります。
この段階で診断の1つの目安となるのが、"羽ばたき振戦"と呼ばれるけいれんです。両腕を前に伸ばす運動を行わせようとすると、筋肉が羽ばたくような独特のけいれんが起こります。
第3段階では、嗜眠傾向が強くなり、大半の時間を眠って過ごすようになります。目覚めている間は興奮状態となり、うわ言を言ったり、暴れたりします。
第4段階では昏睡を起こしますが、まだ外部からの刺激に対して反応を示し、手で払いのけるような行動をとります。
第5段階に至ると完全な深昏睡に入り、もはやどんな刺激にも反応しません。最終的には脳浮腫(脳に水分が異常にたまり、脳容積が増大する。脳のむくみ)を発症し、そのまま死亡することもあります。
肝性脳症を起こした場合は、毒性物質を除去して症状を和らげるとともに、根本原因をとり除くさまざまな治療法を実施します。通常は、昏睡を起こす前に治療します。
肝性脳症を予防するには、高たんぱく食を制限する必要があります。高アンモニア血症の予防薬としては、ラクツロースおよびラクチトール(いずれも大腸内を酸性にしてアンモニアが血液中に吸収されないようにし、排便も促進する)があります。アンモニアを産生する腸内細菌の増殖を抑えるために、抗生物質も使用されます。
肝性脳症が生じた場合には、沿療薬としてアミノレバン(特殊組成アミノ酸輸液製剤)などが投与されます。なお、毒性物質の体内への放出にともなって起こるその他の症状に、心不全、腎障害、呼吸不全などがあります。
以上、肝臓がんの合併症についての解説でした。