おもな副作用は、痛みと発熱であり、肝臓の機能も一時的に低下します。その他、熱傷や出血、胸水や腹水、胆汁のもれや胆汁性嚢胞(胆汁がたまって袋ができる)、肝膿瘍(膿や浸出液がたまる炎症)などのおそれもあります。
一般に、治療を行う医師が電極針の温度をコントロールできるラジオ波焼灼療法のほうが、マイクロ波凝固療法より副作用が小さいとされます。
痛み
治療中、電極周囲の温度が上昇すると、腹や胸、ときには右肩に強い痛みや熱さを感じます。胸や腹に圧迫感を感じることもあります。とりわけラジオ波焼灼療法では、治療時間が長いため、痛みに耐えられないときには鎮痛薬を追加する必要が生じます。
また、肝臓表面の腫瘍を経皮的に治療しようとすると、周辺の臓器や横隔膜に熱傷を負って、強い痛みを感じる例があります。
こうした例を除けば、治療後にも痛みが長引くことは少なく、痛む場合も鎮痛薬によって軽くなります。しかし、強い痛みが治らない場合は、胆嚢炎や胆管炎など、他の深刻な副作用を起こしている可能性があります。
発熱
治療を受けた人の約半数は、治療の当日か翌日に熱を出します。ほとんどは37度台ですが、38度以上まで上がることもあります。発熱は、腫瘍が凝固・壊死したことに対する体の自然な反応であり、2~3日でおさまります。しかし、熱が高いときや数日以上続くときには、肝膿瘍など他の深刻な副作用が生じているおそれがあります。
肝機能の低下
多くの人は、治療後3日目くらいまでは、肝臓の機能が低下していきます。しかし1週間以内に、ほぼもとどおりに回復します。
熱傷(ヤケド)
治療中、針を刺した部分の皮膚を冷却していないと、その部分が熱傷を負うことがあります。また、まれに電極針の絶縁部分がはがれて漏電を起こしたことが原因で、皮膚がヤケドすることがあります。きわめて少ないものの、原因不明のヤケドを負った例も報告されています。
胸水・腹水
10~20人に1人に胸水や腹水が見られます。ほとんどの場合は軽く、まもなく治ります。これはおもに、横隔膜や胸膜、腹膜が熱を受けて傷み、そこから水がにじみ出てくるためとみられています。
また、肝機能が低下している患者は、治療後にさらに肝機能が落ち、その結果として腹水が生じることがあります。経過を観察して治るのを待つ場合が多いですが、利尿剤などを投与する例もあります。
出血
出血は、おもに経皮的治療の際に問題になる副作用です。というのも、この手法は太い針を使って皮膚の外側から肝臓を刺しますが、針を抜いた後に出血が止まったかどうか確認できないからです。
しかし、医師が出血を予防する措置を講じれば、大量の出血はまず生じません。針を抜くときに針を刺したルートを凝固させる、マイクロ波凝固療法では、治療中に組織と電極針がくっつかないよう電極針を手元で回転させ、さらに針を抜く前には、組織と電極針が離れやすくなるよう解離電流を流す、などです。
出血がひどいときには、血管の塞栓術を行う、電極針を再度刺して出血部分を凝固するなどの処置が必要になります。
吐き気・嘔吐
経皮的治療では、腹の上から針を刺すため、腹膜が刺激を受けて吐き気をもよおしたり、嘔吐することがあります。吐き気止めで改善できます。
肝膿瘍
治療後、まれに肝臓に膿瘍ができることがあります。治療の数週間から数カ月後に発生する例もあります。
肝膿瘍の原因の1つは、肝臓内の胆管を誤って刺すことです。そこから胆汁がもれ出すと、肝臓が膿むことがあります。もう1つの原因は、壊死した腫瘍に細菌が感染することです。
腫瘍が大きいときや、患者が糖尿病で細菌に感染しやすい状態のときには、注意が必要です。施設によっては、肝膿瘍の予防として、治療後に抗生物質を投与します。
肝膿瘍が確認されたときには、ただちに針で膿を吸いとります。また、原因となっている細菌をつきとめ、その細菌に対して有効な抗生物質を投与します。
胆汁のもれ
治療中に胆嚢や胆管を傷つけると、そこから胆汁がもれ出し、前項の肝膿瘍のほか、胆汁性嚢胞、胆汁性腹膜炎などを起こす可能性があります。
胆汁性襄胞とは、肝臓の内外にできた胆汁のたまり場所をいいます。一般的には、そのまま経過観察するうちに治ります。しかし、胆汁の量が増えたり、細菌に感染した場合には、針で胆汁を吸いとり、抗生物質を投与するなどの対策をとります。
胆汁性腹膜炎は、胆汁が腹腔にもれ出したために、腹腔をおおう腹膜が炎症を起こすことです。治療では、胆汁を針で吸いとります。さらに、傷ついた胆管から胆汁がもれ続けているときには、胆管内に金属管を入れるなどして、胆汁のもれを止めます。胆嚢が傷ついたときには、胆嚢を摘出する必要が生じることもあります。
胆管の狭窄・閉塞
腫瘍の近くに胆管があるとき、治療時の熱によって胆汁が固まり、胆管が狭くなったりふさがれたりし、その結果、胆汁の流れがせき止められて、黄疸を発症することがあります。黄疸がすぐに治らないようなら、胆汁を吸いとるなどの処置が必要です。
血栓
腫瘍の近くに血管があると、治療の際に血液が固まって血栓ができる可能性があります。血栓はふつう自然に治り、肝臓の機能が低下することはまずありません。
しかし、治療前から門脈の血流が十分でない場合などには、血栓をとり除く処置が必要になるときもあります。
がん細胞の播種
まれに、治療時に針を刺した経路に沿ってがん細胞がばらまかれ(播種)、がんが転移することがあります。電極針に付着したがん細胞は、熱のために凝固して死ぬと考えられます。したがって、播種が起こるとしたら、原因は、肝臓を刺すときに電極針をカバーしている針(誘導針)によるものと推測されます。
治療時に医師は、誘導針を腫瘍の直前で止め、そこで電極針を出すことになっています。しかし、誤って誘導針が腫瘍に突き刺さってしまうと、播種の危険が生じます。
他の臓器の損傷
腫瘍が他の臓器の近くにあるときに経皮的に熱凝固治療を行うと、その臓器を針で傷つけたり、熱傷を負わせることがあります。このような危険があるときには、腹腔鏡下や開腹下で治療を行うべきとされます。出血があったときには、腹腔鏡で検査して治療を行います。
以上、肝臓がんの熱凝固法に関する副作用についての解説でした。
肝臓がんと診断されたあと、どのような治療を選び、日常生活でどんなケアをしていくのかで、その後の人生は大きく変わります。
納得できる判断をするためには正しい知識が必要です。