
肝臓がんの熱凝固療法とは
こんにちは。がん治療専門アドバイザー、本村ユウジです。
肝臓がんの治療として、開腹手術に比べて体への負担が少ない治療法として注目されているのが、ラジオ波焼灼療法とマイクロ波凝固療法です。
これらは「熱凝固療法」や「焼灼療法」とも呼ばれ、皮膚の上から針を刺してがんを熱で焼き切る治療法です。
ラジオ波焼灼療法は1999年に日本で臨床使用が始まり、2004年に保険適用となりました。現在では肝細胞がんに対する標準的な治療として位置づけられています。
一方、マイクロ波凝固療法は以前から存在していましたが、2017年7月に焼灼範囲が改善された次世代マイクロ波凝固術が保険収載され、再び注目を集めています。
どちらの治療法も、超音波で観察しながら直径1.5ミリ程度の細い針(電極針)を腫瘍に刺し、熱を発生させて腫瘍を凝固・壊死させます。開腹手術と異なり、皮膚に数ミリの穴を開けるだけで済むため、体への負担が少なく、高齢の患者さんや肝機能が低下している患者さんでも治療が可能です。
治療の適応条件
熱凝固療法は全ての肝臓がん患者さんに適用できるわけではありません。日本の診療ガイドラインでは、以下の条件を推奨しています。
| 項目 | 推奨される条件 |
|---|---|
| 肝機能 | Child-Pugh分類でAまたはB |
| 腫瘍の大きさ | 3cm以内(施設によっては3cm以上でも対応) |
| 腫瘍の個数 | 3個以内(施設によっては3個以上でも対応) |
| 腹水 | ない、または薬で取り除ける程度 |
| 血小板数 | 5万/㎣以上 |
| PT活性 | 50%以上 |
| その他 | 門脈腫瘍栓がない、肝外転移がない |
実際には、患者さんの年齢や持病、治療施設の経験などを総合的に判断して治療の可否が決定されます。近年では、人工腹水法などの工夫により、以前は治療困難だった場所にある腫瘍にも対応できるようになってきています。
主な副作用と合併症の一覧
熱凝固療法は比較的安全な治療法ですが、副作用や合併症が全くないわけではありません。主な副作用とその発生頻度を以下の表にまとめました。
| 副作用・合併症 | 発生頻度 | 重症度 |
|---|---|---|
| 痛み | ほぼ全例 | 軽度〜中等度(鎮痛薬で対応可能) |
| 発熱 | 約50% | 軽度(2〜3日で自然に治まる) |
| 肝機能の一時的低下 | 多くの患者さん | 軽度(1週間以内に回復) |
| 胸水・腹水 | 5〜10% | 軽度(多くは自然に治る) |
| 出血 | 1〜3% | 中等度〜重度(処置が必要な場合あり) |
| 肝膿瘍 | まれ | 重度(抗生物質治療や穿刺が必要) |
| 腫瘍播種 | 0.2〜1% | 重度(がんの転移) |
| 消化管穿孔 | きわめてまれ | 重度(緊急手術が必要) |
大規模な調査によると、東京大学で実施された6,838例の治療のうち、重篤な合併症が発生したのは2.7%(185例)でした。また、治療後30日以内の死亡例は0.07%(5例)と報告されています。
各副作用の詳細説明
痛み
治療中、電極周囲の温度が上昇すると、腹部や胸部、時には右肩に痛みや熱さを感じることがあります。これは腫瘍を焼灼する際の正常な反応です。胸部や腹部に圧迫感を感じる患者さんもいます。
ラジオ波焼灼療法では1回の焼灼時間が8〜12分程度かかるため、治療時間が長くなると痛みに耐えられなくなることがあります。このような場合は、鎮痛薬を追加投与します。現在では多くの施設で静脈麻酔を使用し、患者さんが眠った状態で治療を行うため、痛みを感じずに治療を受けることができます。
肝臓表面の腫瘍を経皮的に治療する際、周辺の臓器や横隔膜に熱が伝わって熱傷を負い、強い痛みを感じる場合があります。こうした例を除けば、治療後に痛みが長引くことは少なく、痛む場合も鎮痛薬によって軽減できます。
ただし、強い痛みが治まらない場合は、胆嚢炎や胆管炎など他の合併症を起こしている可能性があるため、速やかに医師に伝える必要があります。
発熱
治療を受けた患者さんの約半数は、治療当日または翌日に発熱します。多くは37度台ですが、38度以上まで上がることもあります。
この発熱は、腫瘍が凝固・壊死したことに対する体の自然な反応であり、通常は2〜3日で治まります。肝臓が「やけど」を負ったことによる生理的な反応と考えられています。
しかし、熱が高い場合や数日以上続く場合には、肝膿瘍などの深刻な合併症が生じている可能性があります。38度以上の発熱が3日以上続く場合は、必ず医療スタッフに報告してください。
肝機能の低下
多くの患者さんは、治療後3日目くらいまで肝臓の機能が一時的に低下します。これは腫瘍だけでなく、その周囲の正常な肝組織も熱の影響を受けるためです。
血液検査では肝機能を示す数値(AST、ALTなど)が上昇しますが、通常は1週間以内にほぼ元通りに回復します。肝機能がもともと低下している患者さんの場合、回復に時間がかかることがありますが、多くの場合は問題なく回復します。
出血
出血は主に経皮的治療の際に問題となる副作用です。皮膚の外側から太い針で肝臓を刺すため、針を抜いた後に出血が止まったかどうか直接確認できないからです。
発生頻度は1〜3%程度とされていますが、医師が適切な予防措置を講じることで、大量出血のリスクを最小限に抑えることができます。予防措置としては、以下のような対応が行われます。
- 針を抜く際に、刺したルートを凝固させる
- マイクロ波凝固療法では、治療中に電極針を回転させて組織との癒着を防ぐ
- 針を抜く前に解離電流を流し、組織と電極針が離れやすくする
- 治療後6時間程度の安静を保つ
出血がひどい場合には、血管塞栓術を行ったり、電極針を再度刺して出血部分を凝固するなどの処置が必要になります。輸血を要するような出血の発生率は0.5%程度と報告されています。
胸水・腹水
10人に1人程度の割合で胸水や腹水が見られます。ほとんどの場合は軽度で、間もなく自然に治ります。
これは主に、横隔膜や胸膜、腹膜が熱を受けて傷み、そこから水分がにじみ出てくるためと考えられています。特に肝臓表面に近い腫瘍を治療した場合に起こりやすい傾向があります。
また、肝機能が低下している患者さんでは、治療後にさらに肝機能が一時的に落ちることで腹水が生じる場合があります。経過を観察して治るのを待つことが多いですが、症状がある場合には利尿剤を投与することもあります。
吐き気・嘔吐
経皮的治療では腹部の上から針を刺すため、腹膜が刺激を受けて吐き気をもよおしたり、嘔吐することがあります。治療中または治療直後に起こることが多く、吐き気止めの薬で改善できます。
熱傷(やけど)
治療中、針を刺した部分の皮膚を適切に冷却していないと、その部分が熱傷を負うことがあります。また、電極針の絶縁部分が剥がれて漏電を起こした場合や、大腿部に貼る対極板の部分で皮膚のやけどが起こることがあります。
まれに原因不明のやけどを負った例も報告されていますが、最近の機器の改良により、こうした合併症は減少傾向にあります。
肝膿瘍
治療後、まれに肝臓に膿瘍ができることがあります。治療直後だけでなく、数週間から数カ月後に発生する例もあるため注意が必要です。
肝膿瘍の原因の一つは、肝臓内の胆管を誤って刺すことです。そこから胆汁がもれ出すと、肝臓に膿がたまることがあります。もう一つの原因は、壊死した腫瘍に細菌が感染することです。
腫瘍が大きい場合や、患者さんが糖尿病で細菌に感染しやすい状態の場合には、特に注意が必要です。施設によっては、肝膿瘍の予防として治療後に抗生物質を投与します。
肝膿瘍が確認された場合は、速やかに針で膿を吸い取ります。また、原因となっている細菌を特定し、その細菌に有効な抗生物質を投与します。
胆汁のもれと関連する合併症
治療中に胆嚢や胆管を傷つけると、そこから胆汁がもれ出し、以下のような合併症を起こす可能性があります。
胆汁性嚢胞
肝臓の内外にできた胆汁のたまり場所のことです。一般的にはそのまま経過観察するうちに自然に治りますが、胆汁の量が増えたり細菌に感染した場合には、針で胆汁を吸い取り、抗生物質を投与します。
胆汁性腹膜炎
胆汁が腹腔にもれ出したため、腹腔を覆う腹膜が炎症を起こす状態です。治療では胆汁を針で吸い取ります。傷ついた胆管から胆汁がもれ続けている場合には、胆管内に金属製のステントを入れるなどして胆汁のもれを止めます。胆嚢が傷ついた場合には、胆嚢摘出が必要になることもあります。
胆管の狭窄・閉塞
腫瘍の近くに胆管がある場合、治療時の熱によって胆汁が固まり、胆管が狭くなったりふさがれることがあります。その結果、胆汁の流れがせき止められて黄疸を発症することがあります。
黄疸がすぐに治らない場合は、胆汁を吸い取るなどの処置が必要です。近年では、治療計画の段階で胆管との位置関係を詳しく確認し、このような合併症を避ける工夫がなされています。
血栓
腫瘍の近くに血管(特に門脈)がある場合、治療の際に血液が固まって血栓ができる可能性があります。血栓は通常、自然に治り、肝臓の機能が低下することはほとんどありません。
しかし、治療前から門脈の血流が十分でない場合などには、血栓を取り除く処置が必要になることもあります。門脈に血栓ができて門脈を詰まらせると、肝萎縮に至ることもあるため、注意深い観察が必要です。
がん細胞の播種
まれですが、治療時に針を刺した経路に沿ってがん細胞がばらまかれ(播種)、がんが転移することがあります。発生頻度は0.2〜1%程度とされています。
電極針に付着したがん細胞は熱で凝固して死ぬと考えられていますが、播種が起こる原因は、肝臓を刺す際に電極針をカバーしている誘導針によるものと推測されています。
治療時に医師は誘導針を腫瘍の直前で止め、そこから電極針を出すことになっていますが、誤って誘導針が腫瘍に突き刺さってしまうと播種の危険が生じます。予防策として、以下のような対応が行われています。
- 一度腫瘍に触れた針は、焼灼が終わるまで動かさない
- 焼き残しや焼きむらが出ないよう、確実に焼灼する
- 治療が終わったら、刺したラインを焼きながら針を抜く
- 肝表面の腫瘍については、腹腔鏡下で治療を行う
また、低分化型肝細胞がんという性質の悪いタイプのがんは播種を起こしやすいことが報告されています。治療前の画像検査で低分化型と診断された場合は、治療方針を再検討することが重要です。
他の臓器の損傷
腫瘍が胃、腸、胆嚢、腎臓、肺などの臓器の近くにある場合、経皮的に治療を行うとこれらの臓器を針で傷つけたり、熱で損傷させることがあります。
重篤な例としては以下のようなものが報告されています。
- 消化管穿孔(腸に穴が開く)
- 気胸(肺に穴が開く)
- 胆嚢損傷
- 腎臓損傷
- 心臓損傷(きわめてまれ)
このような危険がある場合には、腹腔鏡下や開腹下で治療を行うべきとされています。また、人工腹水法や人工胸水法を使用することで、他臓器と肝臓の間に距離を作り、安全に治療できるようになってきています。
ラジオ波焼灼療法とマイクロ波凝固療法の違い
同じ熱凝固療法でも、ラジオ波焼灼療法とマイクロ波凝固療法にはいくつかの違いがあります。
| 項目 | ラジオ波焼灼療法(RFA) | マイクロ波凝固療法(MWA) |
|---|---|---|
| 使用する周波数 | 約450〜460キロヘルツ | 約2450メガヘルツ |
| 加熱の原理 | 組織抵抗による発熱(ジュール熱) | マイクロ波による水分子の振動 |
| 温度コントロール | 比較的容易 | やや困難 |
| 焼灼時間 | 8〜12分程度 | より短時間(数分) |
| 穿刺回数 | やや多い | 少なくて済む |
| 焼灼範囲 | 約3cm程度の球状 | より広範囲(次世代MWA) |
| 大きな血管の影響 | 受けやすい(冷却効果) | 受けにくい |
| 保険適用 | 2004年 | 次世代型は2017年7月 |
一般的に、医師が電極針の温度をコントロールできるラジオ波焼灼療法の方が、従来のマイクロ波凝固療法より副作用が小さいとされてきました。しかし、2017年に保険収載された次世代マイクロ波凝固療法は、焼灼範囲が改善され、少ない穿刺回数で短時間に広範囲の治療が可能になりました。
現在、両方の治療法の有効性と安全性を比較する多施設共同ランダム化比較試験が進行中であり、今後どちらの治療法が優れているかについて、より明確なエビデンスが得られることが期待されています。
副作用への対処と予防
熱凝固療法の副作用を最小限に抑えるため、医療機関では以下のような対策を講じています。
治療前の対策
- 詳細な画像検査による治療計画の立案
- 血液検査による肝機能、凝固能の確認
- 必要に応じた輸血の準備
- 抗生物質の予防投与(施設により)
治療中の対策
- 静脈麻酔や鎮静剤の使用による痛みの軽減
- 超音波やCT、造影エコーによる正確な針の誘導
- 人工腹水・人工胸水法による周辺臓器の保護
- 針を抜く際の凝固ルート作成
治療後の対策
- 6時間程度の安静による出血予防
- 定期的なバイタルサインの確認
- 翌日のCTによる治療効果と合併症の確認
- 痛みや発熱への適切な対症療法
治療費用について
熱凝固療法は保険適用の治療法です。治療費は施設や治療内容により異なりますが、一般的な目安は以下の通りです。
| 項目 | 費用の目安(3割負担の場合) |
|---|---|
| ラジオ波焼灼療法(1回) | 15〜20万円程度 |
| マイクロ波凝固療法(1回) | 15〜20万円程度 |
| 入院費用(3〜7日間) | 含まれる |
| 画像検査費用 | 含まれる |
高額療養費制度を利用することで、自己負担額は収入に応じて上限が設定されます。標準的な収入の場合、初年度の自己負担額は約15万円程度、2年目以降は年間6万円程度になることが多いです。
ただし、肝臓がんは再発率が高く、治療を繰り返し行う必要がある場合も多いため、長期的な医療費の計画を立てることが重要です。
治療成績と生存率
熱凝固療法の治療成績は年々向上しています。
東京大学の報告によると、肝がんに対する初回治療として、ラジオ波焼灼術を行った患者さん1170人の5年生存率は約60%でした。また、治療後の局所再発率(治療した部分にがんが残ってしまい再発すること)は術後5年間で3.2%と低率で、高い根治性を持っています。
全国調査では、がんの大きさが2〜3cmの場合の5年生存率は54.5〜70.7%と報告されており、適切な適応基準を守れば、外科的肝切除とほぼ変わらない成績が得られています。
ただし、肝臓がんは再発が多いがんであり、術後5年で約80%の患者さんに再発するといわれています。繰り返し治療が必要となることがありますが、体に負担の少ない熱凝固療法は肝機能が許す限り繰り返し行うことができるというメリットがあります。
まとめにかえて
肝臓がんの熱凝固療法は、開腹手術に比べて体への負担が少なく、高齢者や肝機能が低下している患者さんでも治療が可能な有効な治療法です。
主な副作用としては、痛み、発熱、肝機能の一時的低下などがありますが、多くは軽度で自然に回復します。出血、肝膿瘍、腫瘍播種などの重篤な合併症の発生率は低く、経験豊富な施設で適切な対策を講じることで治療を受けることができます。
ラジオ波焼灼療法と次世代マイクロ波凝固療法のどちらが優れているかについては、現在も研究が進められています。どちらの治療法を選択するかは、腫瘍の大きさや位置、肝機能、施設の経験などを総合的に判断して決定されます。
治療を検討されている患者さんは、担当医とよく相談し、治療の利益とリスクについて十分に理解したうえで最適な治療法を選択するようにしましょう。

