日本では、肝臓がん(肝細胞がん)の患者さんの90パーセント以上は、がんを発症する以前から、B型またはC型肝炎ウイルスを保有しています。このような人の多くは、まずウイルス肝炎を発症し、それが肝硬変へと進み、最終的に肝臓がんの発症に至るという過程をたどっています。
そのため、肝臓のどの細胞(肝細胞)が、いつがん化しても不思議ではない状態にあるといえます。そのため、最初に生じたがんを取り除いたとしても、取り除いたがんとは関係なく、別の場所にがんが発生することが多いのです。(局所再発が起こりやすい)
肝動脈塞栓療法(TAE)
手術を受けた場合、治療後3年以内の再発率は60パーセント前後に達します。そのため一部の専門家は、肝炎から発展したがんの切除は手術のリスクと治療効果を比べたときに、あまり利点がないと考えています。
しかし、手術には他の治療にはない特徴があります。それは「そこにあると確認した」がん細胞を消滅させる力が、他の治療法より強いことです。
手術以外の方法でがんを治療した場合、わずかでも生き残ったがん細胞があれば、がんはそこからふたたび成長します。とくに悪性度の高いがんほど局所再発を起こしやすく、がんの成長や周囲への浸潤、あるいは転移が速く進行します。そのため予後、つまり治療の成績はよくありません。
最近では、手術以外の治療法でも以前より効果的な治療ができるようになってきました。しかし、他の治療法は、がんを切除して取り除くわけではないので、治療効果が部分的に不完全になる可能性があります。そしてこれが、局所再発を招くことにつながります。
これに対して手術では、確実にがん腫瘍を除去できるため、局所再発が他と比べて起こりにくいのは確かです。また、肝臓の機能が比較的良い場合には、エタノール注入療法や熱凝固療法が適さない大型のがんであっても、手術なら対応できる可能性があります。
治療の対象となる条件と手術ができない理由
肝臓がんは一般に、自覚症状がほとんど現れません。そのため、肝炎や肝硬変であることがわかった人や、B型・C型肝炎ウイルスを保有している人は、定期的に検査を受け続けないとがんの発生を見逃しやすく、がんが見つかったときにはすでに手術が困難になっていることが少なくありません。
では、どの段階までにがんが見つかれば、手術の対象(適応)とされるのでしょうか。基本的には、次のような条件がそろったときです。
[1]画像診断あるいは肉眼で確認できるがん病巣とその周囲の組織を完全に切除できる状態にある。
[2]肝臓を部分的に切除しても、残った部分で必要な肝機能(肝臓のはたらき)を維持できる。
このうち、[2]の条件を肝機能の障害度の基準でいうと、AまたはBの段階にとどまっていることが条件となります。ちなみに、肝機能の障害度とは、肝機能がどこまで低下しているかを表すものです。これにはAからCまで3段階があります。
肝機能の障害度を評価するときに用いられる要素は、腹水の有無(量)、血中のビリルビン濃度、血清アルブミンの濃度(たんぱく質合成能)、ICG排泄検査(解毒機能)、それにプロトロンビン時間(血液凝固機能)の5項目です。
とくに、ビリルビン値が2ミリグラム以上(100ミリリットルあたり)、アルブミン値が3グラム(同)以下の場合には、肝機能が低下しすぎているので手術は危険とみなされます。
おおまかに言うと、肝機能の障害について、患者に自覚症状がない場合がA、ときどき自覚症状がある場合がB、つねにある場合がCに相当します。以上のような肝機能の条件は、切除を行うための最低条件です。
がんを完全に切除するためには、肝臓の組織もある程度まで一緒に切除しなくてはなりません。その範囲は、がんの広がり具合によって決まります。肝臓の機能にそれだけの余裕がない場合には、切除手術を行うことはできないことになります。
これらの条件から、肝臓がんと診断された人のうち、手術の適応となるのは、最大でも30パーセント、基準を厳しくすると10パーセント程度とされています。
以上、肝臓がんの手術についての解説でした。