日本における乳がんの治療について、切除可能なステージの場合は「手術」が中心です。ますは手術ができるのかどうか、という点が治療法を決めるうえでのポイントになるということです。
手術をする場合は乳房温存手術あるいは胸筋温存乳房切除術(乳房全摘出術)のいずれかの治療法が標準的です。
標準的な手術の方法について
手術の方法は十数年前から乳房温存手術あるいは胸筋温存乳房切除術(全摘)です。胸筋温存乳房切除術には、大胸筋・小胸筋の両方とも残す術式と、大胸筋のみ残す術式の2通りありますが、前者が一般的です。
日本の乳がん手術の方法は乳房温存手術と胸筋温存乳房切除術(全摘)がおおよそ半々となっていますが、乳房温存手術の割合が増加傾向にあります。通常は乳房温存手術をまず検討します。
しかし、複数のがんのしこりが同じ側の乳房内のまったく離れた部位に認められる場合や、がんの広がりが大きい場合などは、乳房温存手術は適さず、胸筋温存乳房切除術(全摘)を選択することが多くなります。
どちらの術式を選択するかの決定の際には、病状(ステージ、しこりの大きさや位置など)を把握すること、選択できる治療法を把握すること、それぞれの治療法の利点と欠点を理解すること、そして己自身の希望を医師に伝えることが大切です。
乳房の皮膚を残して組織のみを切除する方法について
乳房温存手術と胸筋温存乳房切除術との中間に位置するものとして、乳房の皮膚だけを残して組織を切除する方法があり、この術式と同時に乳房再建を行うことにより、美容性を保つことができます。
ただし、対象はがんの広がりが大きい非浸潤性乳管がんや、複数のがんのしこりが同じ側の乳房内の離れた部位に認められるなどの理由で、乳房温存手術が適応にならない場合に限られます。また、乳頭・乳輪は切除するのが原則です。乳頭を残す方法もありますが、安全性についての統一した見解はありません。
この術式は、標準的な術式(乳房温存手術や胸筋温存乳房切除術)と比べて、生存率や再発率に差がないことを示す大規模な臨床試験の結果がなく、まだ標準的な術式とはいえません。なので、この術式を希望する場合はその施設での成績を参考にしながら、担当医とよく相談しましょう。
乳がんの内視鏡手術
内視鏡手術は、皮膚を数力所小さく(数センチ程度)切開し、そこから先端にレンズやはさみのついた管を入れて手術するもので、皮膚を大きく切開して行う手術に比べて、患者さんのからだへの負担が少ない手術として取り入れられています。
がん治療では主に腹部や胸部の手術に用いられています。乳がんの手術においても取り入れている施設があり、保険診療として行うことができます。しかし乳房はからだの表面にある臓器で、乳房温存手術の場合には手術におけるからだへの負担もそれほど大きくないこと、内視鏡手術が通常の手術に比べ時間が長くかかることなどから、普及には至っていません。
また、リンパ節郭清の確実性や、長期的な再発の危険性に関するデータはまだ不足しており、統一した手術の方法もいまだ確立していないのが現状です。
■からだへの負担がより少ない治療について
患部にメスを加えずに、乳がんの治療をしようとする試みも進められつつあります。その1つがFUS(MRガイド下集束超音波手術)です。MRI検査でがんの部位をねらって、虫メガネの原理でがんに超音波のエネルギーを集中させ、がんを焼灼するものです。
もう1つの方法としてラジオ波熱凝固療法があます。これはがんに針を刺し、その先端からラジオ波を出してがんを熱で死滅させる方法です。
こうした治療は「低侵襲治療」と呼ばれ、一部の施設で導入され、臨床試験として患者さんの同意を得て行われています。しかし現時点では、このような治療の効果、安全性に関してのデータはなく、いまだ標準治療とはいえません。
標準治療でないということは保険診療の対象ともなりませんので、このような治療を希望する場合には、標準治療を受けないことの不利益なども十分に考慮しなければなりません。
以上、乳がんの手術についての解説でした。