ロルラチニブ(ローブレナ)とはどのような薬か
こんにちは。がん専門のアドバイザー、本村ユウジです。
ロルラチニブ(商品名:ローブレナ)は、ALK融合遺伝子陽性の非小細胞肺がんに対して使用される分子標的薬です。飲み薬として1日1回服用するタイプの治療薬で、第3世代のALK阻害薬に分類されます。
この薬は2018年11月に日本で承認され、がん細胞の増殖を抑える働きを持っています。従来のALK阻害薬が効かなくなった患者さんに対しても効果が期待できる薬として開発されましたが、現在では1次治療(初めての治療)から使用できるようになっています。
ロルラチニブの特徴
ロルラチニブには以下のような特徴があります。
脳への移行性が高いという点が大きな特徴です。肺がんは脳に転移しやすいがんですが、ロルラチニブは脳内に到達しやすい構造になっており、脳転移に対しても効果を示すことが確認されています。
第1世代や第2世代のALK阻害薬に対して耐性を獲得したがん細胞にも効果を示します。これは、ロルラチニブが複数の耐性変異型ALKに対しても結合して阻害する力を持っているためです。
経口薬であるため、入院せずに自宅で服用できます。ただし、副作用の管理や定期的な検査が必要になりますので、医療機関との連携は欠かせません。
対象となるがん
ロルラチニブの適応は「ALK融合遺伝子陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺がん」です。
ALK融合遺伝子とは
ALKは未分化リンパ腫キナーゼ(anaplastic lymphoma kinase)の略称で、細胞の増殖に関わるタンパク質です。正常な状態では必要に応じて細胞分裂を促しますが、ALK遺伝子が他の遺伝子(主にEML4遺伝子)と融合してしまうと、ALK融合遺伝子という異常な遺伝子になります。
この融合遺伝子から作られるALK融合タンパクは、常に活性化した状態になっており、細胞の異常な増殖を引き起こしてがんが発生します。
ALK陽性肺がんの特徴
ALK融合遺伝子陽性の非小細胞肺がんは、肺がん全体の約3~5%を占めています。特に腺がんに多く見られ、以下のような特徴があります。
患者さんの平均年齢は50歳代半ばと、その他の肺がんに比べて約10歳若い傾向があります。喫煙者より非喫煙者に多く見られますが、喫煙歴のある患者さんにも認められます。男女差は明らかではありません。
ALK融合遺伝子の検査は、FISH法(蛍光in situハイブリダイゼーション法)や免疫組織化学検査によって行われます。検査には十分な経験を持つ病理医または検査施設が必要で、承認された体外診断用医薬品を使用します。
ロルラチニブの効果と奏効率
ロルラチニブの効果は複数の臨床試験で確認されています。
国際共同第Ⅰ/Ⅱ相試験の結果
前治療が1レジメン以上のALK阻害薬を受けた患者さんを対象とした試験(B7461001試験のEXP2~5パート)では、以下の結果が得られました。
| 評価項目 | 結果 |
|---|---|
| 客観的奏効率(CR+PR) | 47.2% |
| 頭蓋内病変の奏効率 | 53% |
| 無増悪生存期間(中央値) | 7.4カ月(95%信頼区間:5.6~11.0カ月) |
特に注目すべきは、頭蓋内病変(脳転移)に対して53%の奏効率を示したことです。脳転移のある患者さんにとって、これは治療選択肢として重要な意味を持ちます。
CROWN試験の結果
未治療のALK陽性非小細胞肺がん患者さんを対象に、ロルラチニブと第1世代ALK阻害薬のクリゾチニブを比較した第Ⅲ相試験(CROWN試験)では、ロルラチニブの優位性が示されました。
2024年に報告された5年追跡データでは、ロルラチニブ単剤で5年以上の無増悪生存が報告されています。この結果を受けて、日本肺癌学会の肺癌診療ガイドライン2024年版では、ロルラチニブが1次治療として「強く推奨(1B)」に変更されました(2023年版では「提案(2B)」でした)。
副作用とその対策
ロルラチニブには特徴的な副作用があり、適切な管理が必要です。
主な副作用の発現頻度
国際共同第Ⅰ/Ⅱ相試験(B7461001試験)で報告された副作用は以下のとおりです。
| 副作用 | 全グレード | グレード3以上 |
|---|---|---|
| 高コレステロール血症 | 81.5% | 41.4% |
| 高トリグリセリド血症 | 60.4% | 15.7% |
| 浮腫 | 43.3% | 2.2% |
| 末梢性ニューロパチー | 29.8% | 1.8% |
| 体重増加 | 18.2% | 1.8% |
| 認知機能障害 | 17.8% | 1.1% |
| 気分障害 | 14.9% | 0.7% |
| 疲労 | 13.1% | 0.4% |
| AST上昇 | 10.2% | 0.4% |
| 関節痛 | 10.2% | 0.0% |
| 言語障害 | 7.3% | 0.4% |
| 間質性肺疾患 | 0.4% | 0.4% |
脂質代謝異常への対策
高コレステロール血症と高トリグリセリド血症は、ロルラチニブ治療でほぼ必発する副作用です。投与開始後1~2週という早い時期から発現することが多いため、以下の対策が取られます。
投与前および投与期間中は定期的な血液検査を行い、脂質値を監視します。早期から脂質降下薬による治療を開始することが推奨されています。
脂質降下薬の選択にも注意が必要です。ロルラチニブは肝臓の酵素(CYP3A)に影響を与えるため、この酵素の影響を受けにくいロスバスタチン、ピタバスタチン、プラバスタチンなどのスタチン系薬剤が推奨されています。
中枢神経系障害への対策
認知機能障害、気分障害、言語障害などの中枢神経系症状は、治療開始初期(1~2カ月)に現れることが多い副作用です。
患者さん本人が気づきにくい場合もあるため、ご家族にも以下のような症状に注意していただくことが大切です。物忘れが増える、気分の高揚や落ち込みが激しくなる、ろれつが回らなくなる、幻聴が聞こえるなどの症状が現れた場合は、速やかに医療機関に連絡する必要があります。
間質性肺疾患への注意
頻度は低いものの、重篤な副作用として間質性肺疾患があります。治療開始早期に発現することがあるため、息切れ、呼吸困難、咳、発熱などの初期症状が現れた場合は、すぐに医療機関を受診することが重要です。
その他の重要な副作用
末梢性浮腫(手足のむくみ)は高頻度に認められます。定期的に体重を測定して記録することで、むくみの程度を把握できます。
末梢性ニューロパチー(手足のしびれ)も比較的多く見られます。手足のしびれ感、力が入りにくい、歩行しづらいなどの症状がある場合は医師に相談してください。
QT間隔延長(心臓の電気的活動の異常)の可能性があるため、定期的な心電図検査が必要です。特にQT間隔を延長させる他の薬剤を併用している場合は注意が必要です。
投与方法と投与スケジュール
標準的な投与方法
ロルラチニブの標準用量は1日1回100mgを経口投与します。食事の影響を受けないため、食前でも食後でも服用できますが、毎日同じ時間に服用することが推奨されています。
病状が進行(PD)するまで、または忍容できない副作用が発現するまで継続します。つまり、効果が続き、副作用が管理できる限り服用を続けることになります。
用量調整について
副作用が発現した場合は、以下のように段階的に減量します。
| 調整段階 | 投与量 |
|---|---|
| 通常投与量 | 100mg/日 |
| 一次減量 | 75mg/日 |
| 二次減量 | 50mg/日 |
| 中止基準 | 50mg/日で忍容性が得られない場合 |
減量や休薬、中止の判断は、副作用の種類と重症度(グレード)によって細かく定められています。医師は添付文書の基準に従って適切な対応を行います。
併用薬への注意
ロルラチニブは他の薬剤との相互作用に注意が必要です。
リファンピシン(結核治療薬)との併用は、肝機能障害のリスクがあるため禁忌(絶対に併用してはいけない)とされています。
イトラコナゾール(抗真菌薬)、クラリスロマイシン(抗生物質)などのCYP3A阻害薬を併用すると、ロルラチニブの血中濃度が上昇し、副作用が強く現れる可能性があります。
一方、フェニトイン(抗てんかん薬)、デキサメタゾン(ステロイド)などのCYP3A誘導薬を併用すると、ロルラチニブの血中濃度が低下して効果が減弱する可能性があります。
また、ロルラチニブは他の薬剤の血中濃度を低下させる作用もあるため、併用薬がある場合は必ず医師や薬剤師に伝えることが重要です。グレープフルーツジュースも薬物相互作用を起こす可能性があるため、避けるべきです。
日常生活への影響
通院の頻度
ロルラチニブは経口薬のため、点滴治療のように長時間病院にいる必要はありません。ただし、副作用の管理や効果判定のために定期的な通院が必要です。
通院では、血液検査(肝機能、脂質、血糖、膵酵素など)、心電図検査、画像検査(CT、MRIなど)が行われます。検査の頻度は患者さんの状態によって異なりますが、特に治療開始初期は頻回の検査が必要になることがあります。
仕事や日常活動との両立
副作用が適切に管理されていれば、多くの患者さんは仕事や日常活動を続けることができます。ただし、認知機能障害や気分障害などの中枢神経系症状が現れた場合は、一時的に活動を控える必要があることもあります。
浮腫や体重増加が起こることがあるため、体を締め付けない服装を選ぶ、塩分を控えめにするなどの工夫が役立ちます。
脂質異常症の管理のため、バランスの取れた食事を心がけることも大切です。ただし、過度な食事制限は栄養状態を悪化させる可能性があるため、医師や栄養士と相談しながら進めてください。
運転や機械操作への影響
認知機能障害、気分障害、言語障害などの中枢神経系症状が現れる可能性があるため、これらの症状がある場合は自動車の運転や危険を伴う機械の操作は避けるべきです。
保険適用と費用
保険適用について
ロルラチニブは2018年11月に日本で承認され、保険適用となっています。適応は「ALK融合遺伝子陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺がん」です。
治療を受けるためには、ALK融合遺伝子陽性であることが検査で確認されている必要があります。この検査も保険適用となっており、治療開始前に実施されます。
薬剤費について
ロルラチニブの薬価(2025年時点)は以下のとおりです。
| 規格 | 薬価(1錠あたり) |
|---|---|
| 25mg錠 | 7,216.40円 |
| 100mg錠 | 25,961.00円 |
標準用量である100mg/日の場合、1日の薬剤費は約26,000円となります。1カ月(30日)では約78万円、3カ月では約234万円になる計算です。
これは薬剤費のみの金額であり、実際には検査費用や診察料なども加わります。ただし、患者さんが実際に負担する金額は、健康保険と高額療養費制度により大幅に軽減されます。
自己負担額と高額療養費制度
日本には高額療養費制度があり、1カ月の医療費が一定額を超えた場合、超えた分が払い戻されます。
2026年8月から高額療養費制度の見直しが予定されており、自己負担限度額が段階的に引き上げられます。同時に、長期治療患者さんへの配慮として年間上限額が新設されます。
2026年8月以降の主な所得区分での自己負担限度額(月額)は以下のようになる見込みです。
| 所得区分(目安) | 月額上限(2026年8月~) | 年間上限 |
|---|---|---|
| 年収約370万~770万円 | 約86,000円 | 約53万円 |
| 年収約770万~1,160万円 | 約167,000円 | 各区分で設定予定 |
| 年収約1,160万円以上 | 約252,000円 | 各区分で設定予定 |
| 住民税非課税 | 35,400円 | 据え置き予定 |
また、多数回該当という制度があり、直近12カ月で3回以上高額療養費の支給を受けた場合、4回目からは自己負担限度額がさらに引き下げられます。この制度は現行水準が維持される予定です。
例えば、年収約500万円の患者さんがロルラチニブによる治療を受ける場合、薬剤費や検査費を含めた医療費の自己負担は、月額約86,000円が上限となります(2026年8月以降)。1年間継続しても、年間上限の約53万円までに抑えられます。
限度額適用認定証の利用
医療機関の窓口での支払いを自己負担限度額までに抑えるため、事前に「限度額適用認定証」を取得することができます。この認定証を保険証と一緒に医療機関に提示すると、窓口での支払いが限度額までになります。
マイナンバーカードを健康保険証として利用している場合(マイナ保険証)は、オンライン資格確認に対応している医療機関であれば、限度額適用認定証がなくても自動的に限度額までの支払いになります。
その他の経済的支援
高額療養費制度以外にも、以下のような制度が利用できる場合があります。
傷病手当金は、健康保険の被保険者が病気やけがで仕事を休み、給料が支払われない場合に支給される制度です。
障害年金は、病気やけがによって生活や仕事が制限されるようになった場合に受け取れる年金です。がん患者さんも条件を満たせば受給できます。
各自治体の医療費助成制度、がん患者さん向けの貸付制度なども存在します。ソーシャルワーカーや医療機関の相談窓口で情報を得ることができます。
治療を受ける際の確認事項
検査の確認
ロルラチニブによる治療を開始する前に、ALK融合遺伝子陽性であることが検査で確認されている必要があります。検査は承認された体外診断用医薬品または医療機器を用いて、十分な経験を持つ病理医または検査施設で行われます。
治療施設の条件
ロルラチニブの投与は、緊急時に十分対応できる医療施設で、がん化学療法に十分な知識と経験を持つ医師のもとで行われます。治療開始前に、医師から有効性と危険性について十分な説明を受け、同意したうえで開始します。
定期的な検査の重要性
治療中は以下のような検査が定期的に行われます。
血液検査では、肝機能(AST、ALT)、膵酵素(アミラーゼ、リパーゼ)、脂質(総コレステロール、トリグリセリド)、血糖値、血球数などを確認します。
心電図検査ではQT間隔の延長がないかを確認します。
画像検査(CTやMRI)では、がんの大きさや転移の状態を評価します。脳転移の有無も定期的にチェックされます。
これらの検査結果に基づいて、治療の継続、用量調整、休薬、中止などが判断されます。
まとめとして
ロルラチニブ(ローブレナ)は、ALK融合遺伝子陽性の非小細胞肺がんに対する治療薬として、高い効果が期待できる薬剤です。特に脳転移に対する効果や、他のALK阻害薬に耐性を示した場合でも効果を発揮する可能性がある点が特徴です。
一方で、脂質異常症や中枢神経系障害などの副作用には注意が必要であり、定期的な検査と適切な管理が不可欠です。経済的な負担については、高額療養費制度などの公的支援制度を活用することで軽減できます。
治療を検討される際は、担当医師とよく相談し、期待できる効果と起こりうる副作用、日常生活への影響などについて十分に理解したうえで決定することが大切です。
参考文献・出典情報
1. 医療用医薬品:ローブレナ(商品詳細情報) - KEGG MEDICUS
4. ローブレナ(ロルラチニブ) - がん情報サイト「オンコロ」
5. ロルラチニブ(ローブレナ)レジメン・適正使用ガイド - HOKUTO

