腎盂がん、尿管がんは「膀胱がん」と同じ「尿路上皮がん」として分類されます。つまり化学療法(抗がん剤などの薬物をつかった薬物療法)においては「膀胱がん」と同じとして扱われます。
腎盂は腎臓の一部ですが、「腎臓がん」とは大きく性質が異なります。そのため腎臓がんで使う薬は用いられません。
では、具体的には、どんな薬がどの順番で使われるのでしょうか。最新の状況(2019年時点の状況)について確認しておきたいと思います。
腎盂がん、尿管がんで化学療法が行われる状況とは?
厳密にいえば、腎盂がん、尿管がんは膀胱がんより悪性度が高いことが多く、「膀胱がんとは違う性質」がありますが、同じ尿路上皮にできる、ということと、「あまり症例が多くないので標準化できず、膀胱がんと同じ薬を使う」ということになっています。
今後、細胞の分析や遺伝子の解析などが進めば、膀胱がんとは違うやり方が行われる可能性はありますが、今のところは(2019年時点では)同じものを使う、ということです。
化学療法(薬物療法)が使われるケース
腎盂がん・尿管がんでも、他のがんと同じように遠隔転移(他の臓器への転移)が認められない場合は「手術が第一選択肢」です。
・転移があって切除不能
・手術をしたが再発、転移をした
という場合に化学療法が行われます。
腎盂がん・尿管がんで使われる薬はM-VAC療法、GC療法、キイトルーダ
一次治療
一次治療では、M-VAC療法かGC療法のいずれかが行われます。
M-VAC療法:メトトレキサート、ビンブラスチン、ドキソルビシン、シスプラチンの4つの薬を併用する多剤併用療法。
GC療法:ジェムザール、シスプラチンの2剤併用療法。
「いずれか」ということになっていますが、M-VACは多くの抗がん剤を使うため副作用が強く、吐き気や免疫力低下(白血球の減少)が顕著に現れます。そのため、「効果は同じで副作用が少ないGC療法」が今は主流になっています。
もともとはM-VAC療法しかなく、20年間ほどこの療法が長く使われてきましたが、その後GC療法を比較した結果「効果はほぼ同じ」と認められたことでGCがラインナップに加わったのです。
なお、シスプラチンを改良した(副作用が出にくくなった)カルボプラチンを代わりに使うケースが増えています。
そのため、腎盂がん・尿管がんで使われる第一の薬は「ジェムザール+カルボプラチン」という二つの抗がん剤を組み合わせたもの、になります。
二次治療
一次治療であるGC療法の効果がなかったり、実施して一時は効いたものの効果が薄れて増悪した、という場合は二次治療に入ります。
二次治療で使われる薬は、免疫チェックポイント阻害剤のキイトルーダです。
キイトルーダが二次治療薬として承認されたのは2017年12月です。
【キイトルーダ承認の根拠となった臨床試験(KEYNOTE-045試験)】
国際的な臨床試験で「キイトルーダ」と「従来の抗がん剤の組み合わせ=パクリタキセル、ドセタキセル、ビンフルニン」の効果が比較されました。
その結果は以下のとおり。
- 死亡リスク:キイトルーダのほうが死亡リスクが27%低い。
- 全生存期間中央値:キイトルーダ10.3ヶ月、抗がん剤の組み合わせ:7.4ヶ月
- 12ヶ月全生存率:キイトルーダ43.9%、抗がん剤の組み合わせ:30.7%
- 奏効率:キイトルーダ21.1%(完全奏功7.0%、部分奏功14.1%)、抗がん剤の組み合わせ:11.4%(完全奏功3.3%、部分奏功8.1%)
- 奏功期間(奏功した人で6ヶ月以上持続):キイトルーダ78%、抗がん剤:40%
- 奏功期間(奏功した人で12ヶ月以上持続):キイトルーダ68%、抗がん剤:35%
- 副作用:キイトルーダ60.9%、抗がん剤の組み合わせ:90.2%
※キイトルーダの副作用は掻痒症、疲労、悪心など。
まとめ
他の部位のがんでは「一次治療から免疫チェックポイント阻害剤」という部位も登場しているため、今後は腎盂がん・尿管がんもそうなる可能性があります。
現時点(2019年時点)では「一次治療はGC療法(抗がん剤)」「二次治療はキイトルーダ(免疫チェックポイント阻害剤)」となっています。
二次治療でキイトルーダが使えるようになった、というのが最近の大きなトピックスだといえます。
上記の臨床試験の効果をみてみると、奏効率はさほど高くない(20%程度なので効くのは1/5の確率)ですが、一度効果を示すと、持続する期間がとても長いといえます。
簡単にいえば、ハマれば長く効き、副作用も抗がん剤のような厳しいものではないので長く投薬期間を得ることができることが特徴です。
ただし、長期的には予期しない(臨床試験ではわからない)免疫機能の問題が発生する可能性があるので、それに関しては今後の動向を見ていく必要があります。