がん治療における画像検査の重要性
がんの診断や治療において、画像検査は欠かせない役割を果たしています。CT検査、MRI検査、PET検査は、それぞれ異なる原理と特徴を持ち、がんの発見や治療方針の決定、経過観察などに用いられます。これらの検査は目的に応じて使い分けられており、どの検査が適しているかは、調べたい部位やがんの種類によって変わります。
ここでは、各検査の仕組みや違い、メリットとデメリット、被ばくや造影剤の問題について、一般の方にも分かりやすく解説します。
CT検査とは何か
CT検査は、X線を使って体の断面を撮影する検査です。Computed Tomography(コンピュータ断層撮影)の略称で、体の周りを回転しながらX線を照射し、その吸収率の違いをコンピューターで処理することで、体内の様子を立体的に把握できます。
CT検査の大きな特徴は、短時間で広い範囲を撮影できることです。検査時間は通常10分から15分程度で、がんの形や広がり、位置を詳しく調べることができます。特に、骨や肺などの空気を含む臓器の観察に優れており、微細な骨折や肺がんの発見にも有効です。
検査の目的によっては、造影剤を使用する場合があります。造影剤を静脈から注射することで、血管や臓器がより鮮明に映し出され、がんの血流状態や腫瘍の詳細な情報を得ることができます。ただし、造影剤を使用する際は、検査前の数時間は食事を控える必要があります。
MRI検査とは何か
MRI検査は、強力な磁石と電波を使って体内を撮影する検査です。Magnetic Resonance Imaging(磁気共鳴画像)の略称で、X線ではなく磁場を利用するため、被ばくの心配がありません。
MRI検査の特徴は、軟部組織のコントラストに優れていることです。脳や脊髄、肝臓、子宮、卵巣、前立腺など、CT検査では正常な組織との区別がつきにくい臓器に生じるがんの診断に有効です。また、さまざまな方向の断面を撮影できるため、がんの広がりを詳しく調べることができます。
検査時間は15分から45分とCT検査に比べて長くかかります。撮影中は装置から大きな機械音がするため、ヘッドホンや耳栓を装着することがあります。体を動かすと画質が落ちてしまうので、できる限り同じ姿勢を保つ必要があります。
MRI検査でも、検査の目的によっては造影剤を使用する場合があります。ただし、MRI用の造影剤はCT用とは異なる種類のもので、ガドリニウムという成分が用いられます。
PET検査とは何か
PET検査は、ごくわずかな放射線を放出する検査薬を体内に投与し、その分布を撮影する検査です。Positron Emission Tomography(陽電子放出断層撮影)の略称で、がんの活動状態を調べることができる特徴的な検査です。
PET検査で広く使われている検査薬は、ブドウ糖に放射性物質を付加した「18F-FDG」です。がん細胞は正常な細胞に比べて3倍から8倍のブドウ糖を取り込む性質があるため、がん細胞のある部分に検査薬が多く集まります。この集積を画像化することで、がんの有無や位置を調べることができます。
PET検査の大きな利点は、一度にほぼ全身を撮影できることです。また、CT検査やMRI検査と異なり、がんの活動状態(がん細胞が活発に活動しているかなど)も調べることができます。近年では、PET検査とCT検査を組み合わせた「PET-CT検査」が主流となっており、がんの位置や範囲をより正確に把握できるようになっています。
検査前は5時間から6時間の絶食が必要で、検査薬を注射した後、1時間から2時間程度安静にしてから撮影を行います。検査全体にかかる時間は2時間程度です。
CT検査、MRI検査、PET検査の違いを比較
3つの検査の主な違いを表にまとめました。
項目 | CT検査 | MRI検査 | PET検査 |
---|---|---|---|
検査の原理 | X線による撮影 | 磁場と電波による撮影 | 放射性薬剤の分布を撮影 |
被ばく | あり(5~30mSv程度) | なし | あり(10mSv未満) |
検査時間 | 10~15分程度 | 15~45分程度 | 2時間程度(安静時間含む) |
得意な部位 | 骨、肺、全身の形態 | 脳、脊髄、肝臓、骨盤内臓器 | 全身のがん細胞の活動状態 |
造影剤 | ヨード系造影剤を使用することがある | ガドリニウム系造影剤を使用することがある | 18F-FDG(放射性ブドウ糖類似物質)を使用 |
検査前の絶食 | 造影剤使用時は3~4時間 | 基本的に不要(腹部検査では必要な場合あり) | 5~6時間必要 |
費用(自費の場合) | 3~5万円程度 | 2~3万円程度 | 10~15万円程度 |
各検査で分かることの違い
CT検査で分かること
CT検査は、がんの形や大きさ、位置、広がりを詳しく調べることができます。特に肺がん、大腸がん、肝臓がんなどの診断に有効です。また、リンパ節への転移や、骨への転移の確認にも用いられます。造影剤を使用することで、がんの血流状態や栄養血管の走行を把握することが可能です。
MRI検査で分かること
MRI検査は、がんと正常な組織の違いを区別しやすく、脳腫瘍、肝臓がん、子宮がん、卵巣がん、前立腺がん、骨軟部腫瘍などの診断に優れています。CT検査では見つけにくい小さながんや、軟部組織内のがんを発見することができます。また、拡散強調画像という技術を用いることで、造影剤を使わずにがんの描出精度を高めることも可能です。
PET検査で分かること
PET検査は、がんの有無だけでなく、がん細胞の活動状態も調べることができます。甲状腺がん、頭頸部がん、肺がん、乳がん、膵臓がん、大腸がん、卵巣がん、悪性リンパ腫などの発見に有効です。一度の検査で全身を調べられるため、予期しない場所への転移や、複数のがんが存在する場合の発見にも役立ちます。
ただし、PET検査にも苦手な部位があります。胃がん(特に早期胃がん)、肝臓がん、腎臓がん、膀胱がん、前立腺がんなどは、ブドウ糖の集まり方の特性から見つけにくい場合があります。また、炎症を起こしている組織にもブドウ糖が集まるため、がんと区別しにくいことがあります。
被ばくについて理解する
CT検査とPET検査では放射線を使用するため、被ばくが避けられません。しかし、これらの検査で受ける被ばく量は健康に影響を与えるレベルではないことが分かっています。
CT検査での被ばく量は、撮影部位や方法によって異なりますが、1回あたり5mSvから30mSv程度です。PET-CT検査の場合は、検査薬とCTによる被ばくを合わせても10mSv未満です。一方、健康被害をもたらすとされる放射線量は100mSv以上とされており、通常の検査での被ばく量ははるかに少ないレベルです。
また、検査で受けた放射線による細胞の傷害は、通常数日のうちに修復されます。極端に短い期間内に繰り返し検査を受けない限り、細胞の傷害が残って発がんする可能性も極めて低いと考えられています。
MRI検査は磁場と電波を使用するため、被ばくの心配がありません。放射線を避けたい場合や、妊娠の可能性がある方、若年者などには、MRI検査が選ばれることがあります。
医療機関では、検査の必要性(正当化)と、必要最小限の放射線量で質の高い画像を得ること(最適化)を常に考えて検査が実施されています。検査を行うのは、被ばくの影響よりも、がんを発見したり治療効果を確認したりするメリットの方が大きい場合に限られます。
造影剤について知っておくべきこと
造影剤は、画像をより詳しく鮮明に写し出すために使用される薬剤です。CT検査とMRI検査では、検査の目的によって造影剤を使用する場合があります。
CT検査の造影剤
CT検査では、ヨード系の造影剤を静脈から注射します。造影剤を注射する時には体が熱くなることがありますが、これは血管に対する正常な反応であり、心配いりません。
副作用として、軽いものでは吐き気、動悸、かゆみ、発疹などが100人に5人以下の割合で起こります。重い副作用として、呼吸困難、意識障害、血圧低下などのショック症状が1000人に1人未満の割合で起こることがあります。
造影剤による副作用のリスクが高い方として、過去に造影剤でアレルギーが出たことがある方、気管支喘息やアレルギー体質の方、腎機能が悪い方、糖尿病の薬(特にメトホルミンなどのビグアナイド系)を服用している方などが挙げられます。これらに該当する方は、必ず医師に伝えてください。
MRI検査の造影剤
MRI検査では、ガドリニウム系の造影剤を使用します。CT用の造影剤とは成分が異なるため、CT造影剤でアレルギーが出た方でも使用できる場合があります。
副作用は比較的少ないとされていますが、くしゃみや悪心、蕁麻疹、かゆみなどの軽微なものから、まれにショックなどの重篤なものまで発生する可能性があります。過去に造影剤でアレルギーが出たことがある方、気管支喘息がある方、腎機能に問題がある方は、必ず医師に伝えてください。
PET検査の検査薬
PET検査で使用する18F-FDGは、厳密には造影剤とは異なりますが、体内に投与する薬剤です。副作用はほとんど報告されておらず、身体的負担が少ない検査とされています。
検査後も、検査薬により少量の放射性物質が体内に残りますが、放射線量は2時間後には半分に、4時間後には4分の1まで低下します。検査翌日には検出できないほど少なくなるため、健康への心配はいりません。ただし、検査当日は念のため、乳児や妊婦との接触は控えるようにします。
造影剤を使用した検査の後は、体外に早く排出するために水分を多めに摂取することが推奨されます。医師から飲水制限を受けている方を除き、積極的に水分を取るようにしましょう。
検査の使い分けと組み合わせ
がんの診断や治療において、これらの検査は単独で行われることもあれば、複数の検査を組み合わせて行われることもあります。それぞれの検査には得意な部位と不得意な部位があるため、目的に応じて適切な検査を選択することが重要です。
例えば、PET検査で全身のがんスクリーニングを行い、疑わしい部位が見つかった場合にMRI検査で詳細を調べるという使い方があります。また、CT検査で腫瘍の位置や大きさを確認した後、MRI検査で周囲の組織との関係をより詳しく調べることもあります。
PET検査が苦手とする胃がんや肝臓がんについては、内視鏡検査、超音波検査、造影CT検査、MRI検査などを併用することで、診断精度を高めることができます。
治療後の経過観察においても、これらの検査は重要な役割を果たします。CT検査やMRI検査で形態的な変化を確認し、PET検査でがん細胞の活動性を評価することで、再発の有無や治療効果を総合的に判断することができます。
検査を受ける際の注意点
各検査を受ける際には、いくつかの注意点があります。
CT検査やPET検査で造影剤や検査薬を使用する場合は、検査前の絶食が必要です。CT検査では3時間から4時間、PET検査では5時間から6時間の絶食が求められます。ただし、水やお茶などの糖分が含まれていない飲み物は摂取できます。
MRI検査を受ける方は、体内に金属が入っていないか、心臓ペースメーカーや除細動器などの電子機器を埋め込んでいないかを必ず確認する必要があります。これらがある場合、検査を受けられないことがあります。また、アクセサリー、時計、入れ歯などの金属類は検査前にすべて外す必要があります。
閉所恐怖症の方は、MRI検査やPET-CT検査の際に不安を感じることがあります。検査前に医療スタッフに相談することで、対応方法を考えてもらえることがあります。
妊娠している方、妊娠している可能性がある方は、必ず医師に伝えてください。特に被ばくを伴う検査については、胎児への影響を考慮した判断が必要です。
糖尿病の治療薬を服用している方は、PET検査や造影CT検査の際に注意が必要です。特にメトホルミンなどのビグアナイド系の薬は、造影剤との相性が良くないため、検査前に休薬が必要な場合があります。
検査費用について
これらの検査を受ける際の費用は、健康保険が適用されるかどうかで大きく異なります。
がんの診断や治療の一環として検査を受ける場合は、健康保険が適用されます。3割負担の場合、CT検査で3000円から5000円程度、MRI検査も同程度の自己負担額となります。PET検査も保険適用となる場合があり、その際の自己負担額は約1万円から3万円程度です。
一方、予防や健康診断を目的として検査を受ける場合は、健康保険の適用対象外となり、全額自己負担となります。この場合、CT検査で3万円から5万円程度、MRI検査で2万円から3万円程度、PET検査で10万円から15万円程度の費用がかかります。
人間ドックにこれらの検査が組み込まれている場合は、セット料金として25万円から40万円程度になることもあります。ただし、複数の検査を組み合わせることで、がんの有無をより詳しく調べられる利点があります。
費用は医療機関によって異なるため、検査を受ける前に確認することをおすすめします。