脳あるいは脊髄(せきずい)にできたがんは、手術が第1選択です。
しかし、手術ではすべての腫瘍を取り除くことは困難です。また後遺症が残るため、部分切除になる場合が多いのが現状です。
そこで、放射線治療の役割が大きくなります。
悪性神経膠腫に対する放射線治療
脳に発生する星細胞腫、乏突起膠腫、上衣腫、髄芽腫、視神経膠腫、脳幹部神経膠腫などをひとまとめにして、神経膠腫という呼び方をしています。
治療法は手術が優先されますが、がんは浸潤しやすく、手術後もがん細胞の残存を避けることはできません。この残存病巣を制御するために、手術だけでなく、放射線治療や化学療法が併用されます。
放射線治療では、原則としてがん病巣を切除した後に、残存病巣に比較的広い範囲で照射します。エックス線を用いて40~50グレイを照射します。その後に、照射野を切除病巣に絞り込んで20~10グレイを追加して照射します。総線量は60グレイです。
しかし、高悪性神経膠腫では、放射線感受性は悪く、治療効果は良くありません。それだけでなく、高悪性神経膠腫は治療後の局所再発も多く見受けられます。
急性期の有害事象には、脱毛、中耳炎、頭痛、吐き気、嘔吐、めまい、全身倦怠感がみられることがあります。晩期性の有害事象では、脳壊死が起こることもあり、問題です。
治療の段階で、眼球が照射野に含まれることにでもなれば、視力障害、白内障、結膜炎が起こり、中耳が照射野に含まれれば、聴力低下をきたすこともあります。治療後の生存率は良くありません。
転移性脳腫瘍に対する放射線治療
転移性脳腫瘍は、肺がん、乳がん、消化器がん、腎臓がんなどから脳に転移したがんです。がん患者の10~30パーセントに発生します。原発部位としては、肺がんが半分以上を占めています。
頭蓋骨の中に収まっている脳に腫瘍ができた場合、脳浮腫が起こり、圧迫されると頭痛、吐き気、嘔吐、意識障害などが起こります。また、転移した部位により、麻痺、運動機能低下、視野障害、頭痛なども発生します。
脳転移の治療法には、放射線治療、手術、化学療法があります。原発巣の進行度や全身状態などを考えて、患者に適切な治療がおこなわれます。
現在、注目を集めているがんの脳転移の治療法には、放射線による全脳照射法と定位放射線治療があります。
全脳照射法では、エックス線を用いて45グレイを照射します。その後に局所のがん病巣に対して照射野を縮小して追加照射をおこないます。
全脳照射はがん病巣の大きさや個数に関わらずおこなわれます。全脳照射をおこなう理由は、転移病巣が1個あっても脳全体に目に見えない微小のがんが散らばっていることがあると考えられるからです。
最近では、ガンマナイフやサイバーナイフを用いた定位放射線治療がおこなわれるようになりました。ガンマナイフはヘルメット状の照射ヘッドに配置された線源からガンマ線をがん病巣に向けて照射します。
高精度の照射をおこなうために、患者に局所麻酔をして頭蓋骨に固定フレームをピンで固定します。1回で目的の線量を投与します。
ガンマナイフによる定位手術的放射線治療では、転移巣の直径が2センチメートル以下では24~25グレイ、2~3センチメートルの大きさでは16~18グレイ、3~4センチメートルの大きさでは12~15グレイが照射されます。
サイバーナイフは、シェルという簡易フレームで頭部を固定します。数日に分けて分割照射をおこないます。定位放射線治療はがん病巣が小さいうちに照射を開始するのが望ましいのです。ガンマナイフとサイバーナイフを用いた定位放射線治療の治療成績には差はありません。
全脳照射による急性期の有害事象には、吐き気、嘔吐、頭痛などがあります。これらの反応は軽微であり、治療には制吐剤が用いられます。脱毛もありますが、2~3か月後には再度、毛髪は生えてきます。晩期性の有害事象で問題になるのは、白質脳症による認知機能低下です。
転移性脳腫瘍の患者は極めて予後が不良です。平均余命は、何も治療をしなければ1か月、放射線治療をおこなっても4か月と報告されています。
以上、脳腫瘍、脳転移への放射線治療についての解説でした。
がんと診断されたあと、どのような治療を選び、日常生活でどんなケアをしていくのかで、その後の人生は大きく変わります。
納得できる判断をするためには正しい知識が必要です。