移植療法(造血幹細胞移植)
造血幹細胞とは、血液のもとになる細胞です。造血幹細胞は、骨髄、末梢血、臍帯血(へその緒の血液)のいずれかから採取し、この造血幹細胞を移植するのが造血幹細胞移植です。
造血幹細胞移植には、患者本人の細胞を移植するか、他人の細胞を移植するかによって、大きく自家造血幹細胞移植と同種造血幹細胞移植の2つに分けられます。この2つは、名前は似ていますが治療法としては全く異なります。
・自家造血幹細胞移植
自家造血幹細胞移植は、前もって患者さんの末梢血あるいは骨髄から造血幹細胞を、血液成分分離装置を使って採取し保存しておきます。そのうえで、強力な化学療法や放射線療法を行い、徹底的にリンパ腫の細胞を攻撃します。
このとき、骨髄での正常な血液産生も大きく破壊されますが、保存しておいた患者さんの造血幹細胞を体に戻すことで回復を促すものです。つまり、通常よりもさらに強力な化学療法を行うための治療法であると考えることができます。
・同種造血幹細胞移植
いっぽう、同種造血幹細胞移植は、強力な化学療法や放射線療法を行った後に、患者さんの体に白血球の型(HLAといいます)が一致した他人(ドナーと呼びます)の造血幹細胞を入れる方法です。
この場合は、強力な化学療法や放射線療法による効果だけでなく、移植されたドナーの細胞が患者さんの体内に残っているリンパ腫細胞を攻撃するという効果も期待できます。
兄弟など血縁者に白血球の型が合うドナーがいないときは、骨髄バンク提供者を捜すことになります。最近は、臍帯血バンクから提供される臍帯血を使った移植も行われつつあります。
移植療法の合併症
移植療法は、大量の抗がん薬を用いるなど非常に強力な治療法であり、移植に特有な合併症も起こりうる危険性の高い治療法であるといえます。そのため、患者さんが若年(自家造血幹細胞移植は65歳以下、同種造血幹細胞移植は50~55歳以下が目安)であり、重い内臓障害がないことなどが条件となります。
しかし、最近は高齢者に対しても、移植時に行われる化学療法や放射線照射の量を少なくした「ミニ移植」が試みられるようになってきました。
また、自家幹細胞移植、同種幹細胞移植ともに不妊症が問題になるため、男性の場合は希望により前もって精子保存を行います。
どのような場合に移植療法を行うかは難しい問題ですが、悪性リンパ腫のタイプや化学療法などの治療効果によって判断することになります。悪性リンパ腫では、自家幹細胞移植が行われることが多かったのですが、最近は同種幹細胞移植も行われつつあります。
<同種造血幹細胞移植に伴う主な合併症>
・治療関連毒性(RRT):移植日前~移植後1カ月頃
皮膚障害、脱毛、胃腸の障害、口内炎、出血性膀胱炎など
・急性GVHD(移植片対宿主病):移植後2、3週~100日頃
皮膚(紅斑)、肝障害(高ビリルビン血症)、胃腸障害(下痢)
・慢性GVHD:移植後100日頃~
皮膚(乾燥、萎縮、硬化、色素沈着)、肝障害(胆汁うっ滞)、sicca症候群(眼、口腔)、肺疾患、慢性下痢(吸収障害)、自己抗体
・肝中心静脈閉塞症(VOD):移植日~移植後20日頃
急激な腹水貯留、進行性の黄疸
・血栓性微小血管障害(TMA):移植日以降
下血、溶血性貧血、血小板減少、精神神経症状、腎障害
・感染症(細菌・真菌・ウイルス・カリニなど):移植日前後~
肺炎、腸炎、出血性膀胱炎、帯状庖疹
非骨髄破壊性同種造血幹総飽移植(ミニ移植)
同種造血幹細胞移植では、移植の際に行う強力な化学療法や放射線照射が悪性リンパ腫細胞を破壊するとともに、新たに移植されたドナーの細胞が患者さんの体内に残っている悪性リンパ腫細胞を攻撃し、破壊してくれます。これを移植片対リンパ腫(GVL)効果といいます。
ミニ移植は、GVL効果を主な目的とする治療法です。つまり、移植の際に行う化学療法や放射線照射を弱めて治療関連毒性を軽減し、GVL効果に期待して悪性リンパ腫細胞を破壊しようというものです。
一般的に、通常の同種造血幹細胞移植ができない高齢者(おおよそ65歳まで)、合併症のある方、一般状態の悪い患者さんなどに対して行われます。移植後も骨髄中に患者さんの細胞が残存している場合には、ドナーのリンパ球を追加で投与(ドナーリンパ球輸注療法)することもあります。ポイントは、患者さんの骨髄細胞をドナーの細胞にすっかり入れ替えることで、これによりGVL効果を効率的に誘導することができます。
ミニ移植の場合も、GVHDをはじめとする移植特有の合併症の危険性があることに留意する必要があります。ミニ移植は、現時点では悪性リンパ腫に対する治療としてはそれほど一般的ではありませんが、今後は応用が進む可能性があります。最近、濾胞性リンパ腫の再発例に対するミニ移植の優れた治療成績が海外から発表されました。
以上、悪性リンパ腫の移植治療についての解説でした。