腎臓がんの患者数は年々増加しています。男性に多く、とくに60~70代に多く発症します。腎臓がんは転移がある場合は難治性のがんといわれ、2000年代までは有効な薬はほとんどありませんでしたが、分子標的薬の登場で、治療方針が大きく変わっています。
サイトカイン療法から分子標的薬治療へシフト
腎臓がんは抗がん剤が効きにくいこともあり、これまではインターフェロンやインターロイキン2による「サイトカイン(免疫)療法」が中心でした。まれに非常によく効くことがありますが、奏効率は10~20%と、高くありませんでした。
ところが、海外および国内での臨床試験で、分子標的薬の良好な治療成績が報告され、日本でも2008年に初めてソラフェニブ(ネクサバール)が承認されました。
以降、スニチニブ(スーテント)、エベロリムス(アフィニトール)、テムシロリムス(トーリセル)、アキシチニブ(インライタ)と続々と分子標的薬が登場しています。これにより、以前と比べて生存期間が延長しています。今でもサイトカイン療法は行われていますが、分子標的薬による治療の割合のほうが高くなってきています。
様々な薬でがんの進行を抑える
腎臓がんにおける薬物療法の目的は根治ではなく生存期間の延長です。インターフェロンや分子標的薬を順番に使っていくことで、生存期間を延ばすことが期待できるようになりました。
ソラフェニブとスニチニブ、アキシチニブは、血管新生阻害薬に分類される分子標的薬です。腎臓がんでは、がんの増殖に必要な酸素や栄養を運ぶ血管の新生が盛んなので、血管新生を促進するVEGF(血管内皮増殖因子)およびその受容体は分子標的薬の主要なターゲットになります。
もうひとつはmTOR(哺乳類ラパマイシン標的タンパク)阻害薬と呼ばれるタイプの分子標的薬で、エベロリムスやテムシロリムスなどです。細胞が増殖するためのシグナル(mTOR)を阻害することで、がん細胞の増殖を抑えます。
スニチニブやソラフェニブは、1度、薬が効かなくなる耐性(抵抗性)が生じても、別の分子標的薬による治療を間に挟むことで、再び同じ薬が使えるようになることがあります。
これは、例えばスニチニブに耐性ができても、1度エベロリムスを用いることで、再び、スニチニブを使うことができる、ということです。そういう意味では、腎臓がんでは使える薬の選択肢が大幅に広がっています。
分子標的薬のスニチニブやテムシロリムスから始める
・サイトカイン療法
組織型の1つ、淡明細胞がんで、例えば肺だけに転移しているなど、転移巣が限局している場合は、インターフェロンやインターロイキン2などのサイトカイン療法も第1選択となります。転移巣の完全切除ができれば、根治が期待できる場合もあります。
・分子標的薬治療
それ以外の組織型では、分子標的薬を初回治療で使うことが増えています。腎臓がんのガイドラインでは、手術後の病理検査で低・中リスクに該当する場合はスニチニブを、高リスクの場合はテムシロリムスを初回に使うことを推奨しています。2次治療ではソラフェニブやエベロリムス、アキシチニブを使います。
一般にはスニチニブを初回で使うことが多く、エベロリムスやソラフェニブ、アキシチニブは2次治療として使用しています。
腎臓がんによく使われる薬
<サイトカイン>
インターフェロン(IFN):製品名オーアイエフ、スミフェロンなど
インターロイキン2(IL-2):製品名イムネースなど
<分子標的薬>
スニチニブ:製品名スーテント
ソラフェニブ:製品名ネクサバール
エベロリムス:製品名アフィニトール
テムシロリムス:製品名トーリセル
アキシチニブ:製品名インライタ
以上、腎臓がんの薬物療法についての解説でした。