人間の体の中で最大の器官である皮膚は、さまざまな種類の悪性腫瘍(皮膚がん)を発症する可能性があります。皮膚がんは、皮膚をつくっている細胞の種類によって、大きく次の3種類に分けられます。
①有棘細胞がん
皮膚の表面にもっとも近い細胞で、うろこのように平べったい扁平上皮細胞(有棘細胞)ががん化したものです。英語名を略して「SCC」ともいいます。放置しておくとリンパ節に転移することがあります。
②基底細胞がん
有棘細胞層の下に広がっている基底細胞ががん化したもので、「基底細胞上皮腫(BCC)」ともいいます。ほとんどが顔面や頭部に発生し、ふつう、体の他の組織や臓器には転移しません。しかし発症率は、皮膚がんの中でもっとも高いとされています。
③メラノーマ(悪性黒色腫)
皮膚がんの中でもっとも注意を要する、悪性度の非常に高いがんです。皮膚細胞の中に散らばるメラニン細胞ががん化したものですが、他に、黒色のほくろ(色素性母斑)をつくっている細胞が、メラノーマに変わることもあります。メラノーマはさらに、次の4種類と、分類不可能のものに分けられます。
・悪性黒子型黒色腫
おもに高齢者の顔面や首などに生じ、ゆっくりと成長します。
・表在拡大型悪性黒色腫
全身のいたるところに生じ、褐色から黒色または赤色に変わります。
・結節型悪性黒色腫
おもに顔や首に発生し、初期の段階からもり上がり、すばやく転移します。
・末端黒子型黒色腫
日本人にもっとも多いメラノーマで、足の裏や爪の下などにできたほくろ状の腫瘍が、しだいにこぶ状になります。
近年、日本では、年間6000人以上が皮膚がんを発症しています。死亡者の40パーセント以上はメラノーマが原因です。過去20年間に皮膚がんを発症する人の数は2倍近く増加しています。
それでも、日本における皮膚がんの発症率は、他のがんに比べるとかなり低いほうです。日本とは対照的に、たとえばアメリカでは年間100万人もの人が皮膚がんを発症しており、これだけで他のすべてのがん患者数に匹敵します。
とくに65歳以上のアメリカ人は、5人に1人が皮膚がんになると推定されています。ちなみに、アメリカの人口の20数パーセントを占めるアフリカ系アメリカ人(黒人)が皮膚がんを発症する確率は低いので、白人だけの発症率はさらに高いと見られています。
とくにメラノーマについては、白人の発症率は黒人の100倍にも達するとするデータがあります。これはいうまでもなく、日焼けやそばかすのできやすい色白の人ほど、太陽光、とりわけ紫外線によって皮膚細胞の遺伝子が傷つき、がん化しやすいためです。
肌色の明るい人は皮膚細胞にメラニン色素が少なく、細胞分裂時に遺伝子の変異が起こりやすいと考えられています。日本では、ほくろが皮膚がんになるという通説があります。実際、メラノーマはほくろのもとになるメラニン細胞ががん化したものです。
しかし、通常のほくろが皮膚がんに移行することは少ないようです。ただし、ほくろが急激に大きくなったり、もともとなかった場所に新たにほくろができる、その輪郭がぼやけ、面積が大きい、あるいはその中に色むらがあるなどという場合は、メラノーマへの進展を疑う必要があります。
以上、皮膚がんについての解説でした。