がんの治療については、先進国では「根拠(エビデンス)に基づいた医療」が行われます。これをEBM(エビデンス・ベースド・メディシン)といいます。
これは診断や治療方針を選択するうえで、最新かつ最良な科学的根拠に基づいておこなうことが重要であるという考え方です。とりわけがん治療では、医師個人の経験や技量に左右されることなく、さまざまな実用的な根拠を統合して、効果的で質の高い最良の治療を提供するために、EBMは重要な役割を果たします。
肺がんにおけるEBMとガイドライン
日本肺癌学会)は、「EBMの手法による肺癌診療ガイドライン」を発行しています。
これは欧米の大規模臨床試験の結果を基にして、肺がんの診断や各治療法について「標準治療の指標」を示したものです。ただし、日本では欧米とは治療に用いる指標が異なることがあるため、目の前の患者の安全性や有効性を考慮しながら、慎重な解釈をもって診療をおこなう必要があります。日本における肺がんのエビデンス得るためには、さらなる臨床試験を積み重ねる必要があるといえます。
また、肺がんでは、検診に関する「有効性評価に基づく肺がん検診ガイドライン」も作成されています。
医療のような専門性の高い分野では、通常、医師などの専門家と患者など一般の人たちとのあいだに、どうしても知識の量や質に格差が生じます。しかし治療は、そもそも医師などの医療従事者側と患者やその家族がいっしょにおこうものです。その意味では、自身も自分の病気について、正しい知識を得ることが重要です。
こうした点からEBMにのっとったガイドラインは、現在標準とされている治療法について、正しい知識を得るために非常に役立ちます。
一般向けのリーフレット
とはいえ、専門的なガイドラインは医療の専門知識のない一般人には、やはり理解がむずかしいものです。そこで、たとえば英国などでは診療ガイドライン作成に、医療従事者だけでなく患者側も参加して、患者側の視点を活かしたガイドラインづくりをおこなっています。
また日本でも近年、患者さんや患者会など一般市民の協力を得て、各疾患の一般向けリーフレットが作成されるようになってきました。
大きな病院ではこのようなリーフレットが渡されることも増えてきたので、できるだけ目を通しておくことが大切です。
治療法は医師と患者の同意のもと行われる
ガイドラインやリーフレットなどに目を通し、患者自身が病気や治療法の内容について、十分に理解・納得ができるまで医師に説明を求めることが重要です。そして、治療の選択については、同意した形で進めていきましょう。
特に肺がんについては、医師から説明を受けるとき、
1.肺がんの種類(組織型)
2.肺がんの拡がり(進行度)
3.標準治療とその効果・副作用
4.そのほか可能性のある代替治療
などの項目は必ず確認しておきましょう。
肺がん治療の方針決定は、医師の提案や説明を十分に受けたうえで、患者の自由意志をもっておこなわれることが原則です。診断や治療については、おそらくはじめて聞くことが多いと思われます。自分自身が理解できるまで、説明してもらいましょう。
ただし、診断や治療については、非常に専門的な内容も少なくありません。耳で聞いただけでは、理解することがむずかしいことも、おそらくあるでしょう。そのようなときは、書面にしてもらい、説明を受けるとよいでしょう。家族など、治療においてキーパーソ
ンとなる人と、いっしょに説明を聞くのもよい方法です。
ちなみに、治療法について一度同意した場合でも、いつでも撤回することができます。
以上、肺がんのガイドラインについての解説でした。