
がん患者さんの家族が抱える心理的負担とは
こんにちは。がん専門のアドバイザー、本村ユウジです。
がんと向き合うのは、患者さん本人だけではありません。そばで見守り、支えようとする家族も、心に大きな負担を抱えています。
家族は医療現場で「第二の患者」と呼ばれています。
これは、家族もまた患者さんと同じように、あるいはそれ以上の精神的ストレスを感じることがあるためです。実際、がん患者さんの家族の2割から3割に、強い不安や憂鬱などが認められることが、複数の調査で明らかになっています。
「もっと優しくできたのではないか」「あのとき、違う言葉を選べばよかった」そんなふうに、自分を責めてしまうことはありませんか。
この記事では、支える側が感じやすい心の負担に焦点を当て、自分を責めずに心を整えるための考え方と具体的な方法をお伝えします。
がんと診断されたとき、家族に起こる心の変化
がんと診断されると、患者さん本人はもちろん、家族にもさまざまな心の変化が訪れます。
診断を受けた直後は、否定したくなる気持ちや絶望感を覚え、一時的に強く落ち込むことがあります。多くの場合、2週間から3週間ほど経つと、徐々に状況を受け入れ、今後の生活に目を向けていくのが通常の経過です。
ただし、人によっては気持ちの切り替えがなかなかできないこともあります。不安や落ち込みが何週間も続き、日常生活に支障をきたすようなことがあれば、早めに医師や相談窓口に相談することが大切です。
家族特有の心理的ストレス
家族が直面する心理的ストレスには、次のようなものがあります。
| ストレスの種類 | 具体的な内容 |
|---|---|
| 役割の変化による負担 | これまで患者さんが担ってきた家事や育児、仕事などを、家族が代わって引き受けなければならない負担。役割分担がうまくいかないと、家庭内に不満や怒りがたまり、緊張状態が続くことになります。 |
| 不確定な将来への不安 | 「がんが再発・転移しないか」「本当にこのまま治療を続けて治るのか」など、見通しが立ちにくいことからくる不安や恐怖。「いつまで頑張ればよいのだろう」という終わりの見えない状況に、心身ともに疲弊していきます。 |
| 自己犠牲による消耗 | 患者さんを支えるため、寝る間も惜しんで看病に専念したり、趣味や娯楽をすべて断ったりすることで、心身のエネルギーが枯渇する状態。「患者さんが一番つらいのに、自分だけ楽しむことなんてできない」と思い込んでしまいます。 |
| 周囲からのプレッシャー | 「頑張るしかない」「患者さんを支えられるのは、あなただけなのよ」などの正論を述べられ、追い詰められることがあります。そんな自分を「がんになった本人が一番つらいのに、自分はだめな人間だ」と責めてしまいます。 |
「自分の判断は正しいのか?」と不安な方へ
がん治療。
何を信じれば?
不安と恐怖で苦しい。
がん治療を左右するのは
治療法より“たった1つの条件”です。
まず、それを知ってください。
がん専門アドバイザー 本村ユウジ
支える側の感情に逃げ場が必要な理由
がん患者さんの前では、明るく、前向きで、優しい自分でいようとする。その気持ちはとても尊いものです。けれど、自分の気持ちにフタをしたままでは、心がすり減ってしまいます。
燃え尽き症候群(バーンアウト)のリスク
長期間にわたる過度なストレスの中で頑張り続けた結果、心身ともにエネルギーが枯渇し、無気力や意欲の低下を引き起こす状態を「燃え尽き症候群」と呼びます。
2022年にWHOの国際疾病分類(ICD-11)において、「持続的な職場のストレスにうまく対処できないときに生じる症候群」として正式に認定されました。
燃え尽き症候群には、3つの代表的な症状があります。
| 症状 | 説明 |
|---|---|
| 情緒的消耗感 | 仕事や介護を通じて感情を豊かに働かせきって、消耗してしまった状態。身体的な消耗ではなく、感情面に関する消耗であることが特徴です。思いやりや気遣いを持って努力を重ねたものの、努力が報われなかった際などに消耗感が大きくなります。 |
| 脱人格化 | 患者さんや周囲の人に対して、思いやりのない態度をとってしまうこと。本来は優しい人であっても、心が疲弊することで冷淡な対応になってしまう状態です。 |
| 個人的達成感の低下 | 「何をしても意味がない」「自分は役に立っていない」と感じ、自己評価が低下する状態。これまでの努力や貢献を認識できなくなります。 |
本当は泣きたいときに泣けない。怒りや恐れを誰にも言えない。「こんなことを思う私は冷たいのか」と自分を責めてしまう。そんなときは、「自分だってつらい」と口にしていいのです。
支える人にも、感情の逃げ場が必要なのです。
「完璧」より「そばにいること」を大切に
支える側は、ときに完璧を目指してしまいます。でも、どんなに頑張っても「もっと何かできたのではないか」と思う瞬間はあるものです。
そんなときこそ、こう自分に言ってみてください。
「今日も精一杯やった」
「相手にとっての安心になれたかもしれない」
「うまくいかなくても、気持ちは届いている」
完璧でなくていい。大切なのは「そばにいること」です。あなたがそばにいること、それだけでかけがえのない力になっています。
固定観念を手放すことの大切さ
がんの治療中は、「食べなければ、元気にならない」「運動をしなければ、体力がつかない」といった固定観念を、いったん捨ててみることも必要です。
特に家族は、患者さんが元気になるようにと「体によいものを食べさせてあげたい」と考えがちです。女性の場合、家庭の「食」を預かっているという自負から、まるで栄養士のように厳格に食を管理し始めてしまうこともあります。
しかし、「食べないのはよくない」という固定観念があると、患者さんの食の細さに不安が強まってしまいます。まずは患者さんが口にしたい、食べたいと思うものを少しずつ。それでいいのです。
弱音を吐ける場所を持つことの重要性
「支える側が弱音を吐くのはダメ」と思っていませんか。でも、ずっと1人で抱えていたら、心が壊れてしまいます。
信頼できる友人、カウンセラー、同じ立場の人。誰でもいいので、感情を言葉にできる場所を持ちましょう。
「つらい」「疲れた」「何もしたくない」。そう言えることが、心の解放につながります。
利用できる相談窓口と支援体制
2025年現在、がん患者さんの家族が利用できる相談窓口や支援体制は充実してきています。
| 相談窓口 | 内容 |
|---|---|
| がん相談支援センター | 全国のがん診療連携拠点病院に設置されています。看護師や医療ソーシャルワーカーなどの専門相談員が、がんの治療や療養生活に関する質問や相談に無料・匿名で対応します。患者さんだけでなく、家族からの相談も受け付けています。 |
| 精神腫瘍科 | がんに関連した心の問題のケアを専門とする診療科です。がん診療連携拠点病院などに設置されており、患者さんだけでなく家族のメンタルヘルスケアも提供します。カウンセリングや、必要に応じて薬による治療も行います。 |
| 緩和ケアチーム | がん診療連携拠点病院に配置されています。心のケアの専門家だけでなく、体のつらい症状などさまざまな問題に対応します。家族の心理的負担についても相談できます。 |
| ピアサポート | 同じような境遇やよく似た体験をもつがん体験者が、患者さんやその家族をサポートする取り組みです。多くの医療機関で、がん体験者による相談業務が行われています。医療者には話しにくい内容でも、体験者なら共感し、気持ちを分かち合うことができます。 |
| がん相談ホットライン(日本対がん協会) | 看護師や社会福祉士などの有資格者が電話相談に対応します。不安な気持ちを誰かに聞いてほしいとき、どうすればよいのかを一緒に考えます。 |
つらい気持ちが続いたり、仕事や家事などで困っていたりする場合は、これらの窓口に話してみてください。漠然とした不安や困りごとであっても、話をしていくうちに問題点がわかり、解決法がみえてくることもあります。
がん医療に従事する医療者は、家族のつらさもよく理解しています。安心して本当の気持ちを吐き出してください。遠慮する必要はありません。
小さな「自分時間」を確保する方法
支える毎日の中でも、自分自身のための時間を持つことはとても大切です。
温かいお茶をゆっくり飲む。好きな音楽を聴く。10分だけ散歩をする。たとえ短くても、「自分を取り戻す」時間が、次の一歩を支えてくれます。
セルフケアの具体的な方法
自分自身を大切にすることは、利己的ではありません。心身のエネルギーを回復させる時間を持つことで、看病やサポートに向き合う力が湧いてきます。
ほんのわずかでも自分自身のために費やす時間を持ちましょう。趣味を楽しんだり、運動で心身をほぐしたり、友人と話したり。ささやかでも心身のエネルギーを回復させる時間が必要です。
一人ですべてを抱え込んだり、感情に蓋をしたりしていると、心身のエネルギーが枯渇してしまいます。まず、心の蓋を外しましょう。心の中にはさまざまな感情があって当然なのです。
自然に湧き上がる自分自身の感情を受け止め、整理する時間をつくりましょう。
家族も支えられていい
支える立場にいると、「自分がしっかりしなきゃ」と思いがちです。でも、あなたも人間です。つらいときは誰かに頼っていいのです。
「ありがとう」「助かったよ」と言ってもらえると、心が少し軽くなりますよね。その感覚を、あなたも受け取っていいのです。
家族間での役割分担の大切さ
がん患者さんを支えるために一人で問題を抱え込まないようにするには、家族一人ひとりが「自分にどういう援助ができるか」を考えることも大切です。
役割分担で家族それぞれの負担を少なくし、総合力で患者さんを支えていきましょう。また、患者さんとの摩擦や衝突によって生じるストレスを軽減するには、思い込みや憶測を避けることが基本です。
患者さんが「どんな気持ちなのか」「何を」「どうしたい」のか、あるいは「どうなったらいいと思っている」のか、いろいろと尋ねてみましょう。患者さんのニーズを知ってこそ、より良い支援ができます。
そして、より良い支援ができたという充実感が、家族の心のエネルギーにもなるのです。
専門的なケアが必要なサイン
セルフケアがうまくできない、自分で心身をコントロールするのが難しいと感じたときには、専門機関でケアを受けることを検討しましょう。
特に次のような状態が続く場合は、早急に受診することをお勧めします。
・眠れない状態が2週間以上続く
・食欲がない
・何をしても気分が晴れず、1日中悲しい気分や絶望感が続く
・今まで楽しめていたことが楽しめない
・涙が止まらない
これらは単なる疲れではなく、適応障害やうつ病などの可能性があります。
がんと診断されたことや、新しい環境に慣れることができず、頭痛、動悸、体のだるさ、不眠などの体の症状や、落ち込み、不安、集中力の低下、意欲の低下などの心の症状のために、日常生活に支障をきたした状態を適応障害と言います。
うつ病と似た症状ですが、原因がはっきりしていたり、原因から離れると普通に過ごすことができる点が異なります。特に原因が分からないのに、体の症状や心の症状が2週間以上続く場合には、うつ病の可能性が考えられます。
国立がん研究センター中央病院では「家族ケア外来」を開設しており、1回当たり40分でカウンセリングを行っています。約半数は1回の受診で気持ちの整理がつくといいます。
そのままのあなたで、十分です
がんと向き合う家族を支えることは、簡単なことではありません。けれど、あなたがそばにいること、それだけでかけがえのない力になっています。
迷ってもいい、疲れてもいい。そして、自分を責めないでください。
最も大切なことは、家族も自分の生活を大切にするということです。自分のすべてを投げ打って患者さんを支援する生活は長続きしません。
自分自身を大切にして、心身のエネルギーを充電しながら良き支援者でいましょう。
参考文献・出典情報
国立がん研究センターがん情報サービス「家族ががんになったとき」
MSD oncology「がん治療中の患者と家族の心のケア」
小野薬品「家族も大切な対象者、がん治療に向き合うために知っておきたい心のケア」
ファイザー「がん治療~家族のサポート 家族は『第二の患者』」
NPO法人キャンサーネットジャパン「がん体験者による、がん患者・家族のためのピアサポート」