ビジンプロは肺がんのなかでも「非小細胞肺がん」かつ「EGFR遺伝子変異陽性」のタイプ向けの分子標的薬です。2019年3月にファイザー社から販売開始され、日本国内で保険適応となりました。
この薬の位置づけ、効果、副作用、投与方法、価格についてまとめています。
ビジンプロはどんな薬か。位置づけについて
既存の「EGFR遺伝子変異陽性向け」の分子標的薬は、イレッサ、タルセバ、ジオトリフ、タグリッソの4つがあります。
少し前まで(2017年頃まで)は「まず最初にイレッサ、タルセバ、ジオトリフ」を使い、これらの効果が薄れてきたらタグリッソを使えるかどうか検査して、使えれば使う、という流れでした。
しかし現在は(2019年3月時点では)、最初にタグリッソを使ってよい(理由としてはイレッサを最初に使うよりタグリッソを最初に使うほうが効果があるという臨床結果があったため)という形になりました。
そのためタグリッソが第一選択肢となっています。
(なお、タグリッソを先に使って、その後にイレッサ、タルセバ、ジオトリフを使うことについては効果がよく分かっていません)
このように分子標的薬の使い方はめまぐるしく変化しているわけですが、そこでもうひとつ「ビジンプロ」が登場した、ということになります。
ビジンプロの作用
分類としては、「EGFR、HER2及びHER4のチロシンキナーゼ活性を不可逆的に阻害するチロシンキナーゼ阻害剤」になります。
非小細胞肺がんで、EGFRという受容体に変異が起きている人(EGFR遺伝子変異陽性の人)には、細胞増殖の伝達物質であるチロシンキナーゼが活性化され、これががん細胞の増殖要因になります。
チロシンキナーゼ阻害剤はこの増殖要因を阻害することで、がんの増殖を止める作用があります。
EGFR遺伝子変異陽性向けのチロシンキナーゼ阻害剤のことを「EGFR-TKI」といいますが、イレッサ、タルセバ、ジオトリフ、タグリッソも同じタイプの薬です。
とはいえ薬の作り方によって作用や効果が異なります。長らくイレッサが第一選択肢として扱われていましたが、同じタイプのさらに効果の高い薬としてタグリッソ、ビジンプロが出てきた、ということになります。
ビジンプロの効果
効果は臨床試験において「イレッサ」と比較され、イレッサ以上の効果があるとされたため、承認に至りました。
【臨床試験の概要】
対象:EGFR遺伝子変異陽性で、局所進行性または転移性の非小細胞肺がんの患者さん(未治療)
試験方法:既存の一次治療薬であるイレッサとビジンプロを比較。日本人の症例数は、ビジンプロ群で40例、ゲフィチニブ群で41例。
結果:ビジンプロはイレッサに比べて疾患進行または死亡リスクを41%低下させた。また、無増悪生存期間(PFS)の中央値で、ビジンプロ群が14.7か月、イレッサ群の9.2か月となった。生存期間(OS)の中央値は、ビジンプロ群では34.1カ月、イレッサ群では26.8カ月でした。
ビジンプロの副作用
上記の臨床試験において、副作用の内容と発生確率のデータがあります。
多く認められた副作用は、下痢(85.0%)、爪囲炎(61.7%)、口内炎(59.5%)、ざ瘡様皮膚炎(48.9%)、発疹・斑状丘疹状皮疹・紅斑性皮疹等(36.1%)です。
グレード3の重い副作用は発疹(14%)および下痢(8%)でした。つまりビジンプロは皮膚障害と消化器への障害が出やすい薬だといえます。
なお、その他の重大な副作用として間質性肺疾患(2.2%)、重度の皮膚障害(31.7%)、肝機能障害(28.6%)のリスクがあります。
また、副作用による投与中止は、ビジンプロ群で10%(イレッサ群で7%)ありました。
ビジンプロの投与方法と費用
ビジンプロは錠剤タイプの分子標的薬です。1日1回45mgを経口投与するのが基本です。
費用(薬価)は15mg1錠3850円、45mg1錠10748円です。この価格は保険適応前で単純な薬の値段です。実際の患者負担は保険負担等によって決められます。
ビジンプロをいつ、どのようにして使うか
ビジンプロは承認されたとはいえ、現在の一次治療薬であるタグリッソとの比較は不明です。ガイドラインではタグリッソが一次治療薬として先に承認されているため、どのタイミングでビジンプロを使うかは不明瞭です。
タグリッソよりも有効なのか?タグリッソの後に使っても効くのか?などが今後明らかになってくれば、薬の序列、使うタイミングなども見えてくると思われます。