大腸、とくに大腸下部のがんの手術後には、人工肛門、導尿(カテーテルの留置)、創部ドレーン(管)などの管理が重要なポイントになります。また、イレウス(腸閉塞)や縫合不全などの合併症があれば、早期に見つけて対応することが医療側に求められる動きです。
最近は多くの病院で「クリティカル・パス」が採用されています。これは入院から手術後退院までの医師、看護婦などが行うべき処置手順と日時をあらかじめ決めたもので、特別な変化が起こらなければ、この計画に従って退院まで進められます。患者さん、家族も見せてもらって知っておく権利があり、大切ことです。
大腸がん(結腸がん・直腸がん)手術における、おもな合併症として感染、縫合不全、イレウス(腸閉塞)などがあります。それぞれどのような原因で起きるのか、また対処はどのようにして行うかをまとめます。
直腸切除後の傷のケア
肛門を切除したあとの傷にはおしりの皮膚が使われ縫合されます。この際、しばしば感染が起こります。術後1週間後に熱が出て化膿し、閉じた手術傷が開いてしまうことがあります。また自然に開かなくても、治療のために開かざるをえないことが稀に起きます。
直腸や肛門を切除したあとの空間に管(ドレーン)を入れ、手術後に滲出液を吸引して排除するのが普通ですが、術後2~3日でドレーンが血の塊などで閉塞し、空間に滲出液がたまり、これに感染が起こることがあるからです。
ドレーンの働きが十分なら、多少の感染が起こってもうみがたまることはなく、傷も開くことなくきれいに早く治ります。このドレーンの働きを良くさせるには、ドレーンを途中で曲げたり閉塞しないような注意が大切です。
また、手術痕を清潔にし、とくに女性の場合は膣からの分泌物による汚染の危険が高いため、できるかぎり頻繁に消毒し、傷口への感染を少なくするよう努められます。
普通、手術痕はナイロン糸で縫い、傷がきれいに治癒するまで2~3週間待って抜糸します。感染が起これば、縫合部を開いて骨盤の空間に貯まってしまった滲出液や膿を排除し、リバノール液などで1日数回洗浄してきれいにします。
縫合不全(腸管吻合不全)について
手術で腸管を吻合(ふんごう。分離している血管や神経を接続すること)したところが十分につながらず、そこから便が腸管外にもれることがあります。これを縫合不全と呼びます。
縫合不全は糖尿病や栄養状態不良の人、あるいは副腎皮質ホルモンや抗がん剤の大量投与時にしばしば見られ、通常、手術後7~8日目に突知腹痛、悪寒、発熱、頻脈の症状を伴って現れます。
ドレーンが適切な位置にあれば、腸管からの流出内容物が排出するのを確認でき、早期発見によって汚染が腹腔内に広がって腹膜炎を起こさないように防止することができるようです。
まず疑いがあれば、流出物をドレーンを通じて外部に排出させ、同時にいっさいの経口摂取を止めて経静脈栄養(点滴)に切りかえます。これでも不十分なときは、縫合不全部よりも口側に一時的に人工肛門を作って、縫合部に便が行かないようにし、傷が早く治癒するよう、十分な栄養を補給することになります。治癒まで時間がかかることがあります。
イレウス(腸閉塞)について
イレウスには2つのタイプがあります。1つは癒着などで単純に腸の外から圧迫されて腸の内側が狭くなり、腸内容が通過しなくなったものです。口から胃チューブまたはイレウス管を入れて腸内容を吸引排除し、自然の回復を待つか、長引くときは手術することになります
もう1つはなにかの原因で腸が孔の中に入りこんだり、ねじれて腸内容が通過しなくなったものです。血流も悪くなり、強い腹痛を訴え、放置しておくと腸が腐って命にかかわることになりますので、緊急開腹手術が必要です。
感染の予防
特に直腸がんの手術では、膀胱の支配神経を損傷することが多いので、術後長く排尿が困難で、カテーテルの留置が必要になります。また残尿が多く、これが長く続くと膀胱は感染に対する抵抗力が弱まって発熱します。感染予防として膀胱洗浄や抗生物質の服用が必要になります。
排尿の管理
直腸がんの手術をすると、少なからずある程度の膀胱をコントロールする神経を損傷します。とくに直腸がんの進行がんに対して、術後局所再発を少なくするために拡大郭清が行われると90パーセント以上の神経は切断されます。1~2週間後にやっと自尿(自力で尿を出す)があっても、残尿が100~200ミリリットルもあるのが普通です。
このため、術中から膀胱にカテーテルを入れておきますが、術後4~5日目からカテーテルの先端をはさんで止め、3~4時間後に膀胱充満感があるかどうかを確かめつつ、充満感があってもなくても、昼間は3~4時間ごとに(夜は別)はさみ止めをゆるめて開放し、腹圧をかけて排尿を早めるよう努力します。これを膀胱訓練といいます。
術後1週間をすぎるとカテーテルはさまざまな沈着物で狭くなったり、出口で汚染が始まっているので、抜くことになります。3~4時間待って自尿が十分にあればそのままでいいのですが、ないとき、あるいはあっても少量のときは新しいカテーテルと入れかえます。
このあと週に2~3回、膀胱洗浄を繰りかえし、膀胱充満感の回復を目安にしながらカテーテルを抜きます。
自分で尿を排泄する機能回復が遅れる原因は、術中の神経損傷だけでなく、術後の感染、あるいは心因的な要素もかなりあります。がんの取り残しがないよう、将来、局所再発が起きないように拡大手術を行えば、術後1ヵ月あるいはそれ以上自尿がないのはやむを得ない症状だといえます。
むしろ術後1週間~10日で自尿があれば、それは郭清が十分行われなかった可能性があります。
一方、カテーテルを外すことを急ぎすぎて、排尿機能が十分に回復していないと、残尿がしだいに蓄積し、膀胱が過伸展する(600ミリリットル以上たまると危険)と、膀胱の平滑筋が損傷し、それを繰りかえすと収縮する力がなくなり、回復は不可能となります。
肛門ブジー
下部大腸手術のとき、肛門から腸管吻合部の口側に向かって肛門ブジーといわれる管を入れることがあります。腸管の蠕動(ぜんどう)運動が不十分なときは、腸内容が発酵してガスがたまり、異常な圧が生じて、一番弱い吻合部のところが破れて吻合不全を起こすことがあります。
このため、以前は腸管内の減圧の目的で、術後4~5日間は肛門ブジーを入れる処置がされていましたが、最近はその効果は疑問とされ、入れないのが普通です。
食事の注意点
術後4~5日から経口で食事を摂ることが開始されるのが普通ですが、右半結腸切除や直腸拡大手術で十二指腸付近に術中に刺激が加わっていると、小腸や結腸の蠕動の回復があっても十二指腸の動きは悪いので、経口摂取を急ぐと十二指腸の通過が阻害されて、胃拡張を起こすことがしばしばあります。そのため判断は慎重に行われます。
以上、大腸がんの手術についての解説でした。