
こんにちは。がん専門のアドバイザー、本村ユウジです。
肺がんで使用されている免疫チェックポイント阻害薬「イミフィンジ(一般名:デュルバルマブ)」は、2018年に国内で承認されて以来、適応範囲が広がり続けています。
2026年2月現在、非小細胞肺がんだけでなく、小細胞肺がん、さらには膀胱がんなど複数のがん種で使用できるようになっています。
この記事では、イミフィンジがどのような薬なのか、どんな患者さんが対象となるのか、効果や副作用、投与方法、そして実際にかかる費用について、2026年時点の最新情報をもとに詳しく解説します。
イミフィンジはどのような薬か
イミフィンジは「免疫チェックポイント阻害薬」と呼ばれる薬の一種で、がん細胞を直接攻撃するのではなく、人の体が本来持っている免疫の力を活用してがん細胞と戦う薬です。
がん細胞は、その表面に「PD-L1」という物質を作り出すことで、免疫システムによる攻撃から逃れようとします。イミフィンジは、このPD-L1に結合することで、がん細胞が免疫から隠れる仕組みを壊し、免疫システムががん細胞を攻撃できるようにします。
具体的には、イミフィンジはPD-L1とPD-1、CD80という物質との結合を阻害することで、T細胞(免疫細胞)の働きを活性化させ、抗腫瘍免疫反応を引き起こします。
このような作用機序により、従来の抗がん剤とは異なるアプローチでがん治療を行うことができます。
イミフィンジが使用できる対象となるがん
イミフィンジは、肺がんを中心に複数のがん種で承認されています。2026年2月時点での適応は以下のとおりです。
非小細胞肺がん
非小細胞肺がんにおいては、複数の治療段階で使用できます。
まず、「切除不能な局所進行(ステージ3)の非小細胞肺がん」で、化学放射線療法(抗がん剤と放射線治療を組み合わせた治療)を行った後に、がんの進行を防ぐための維持療法として使用されます。これは2018年に最初に承認された使い方です。
化学放射線療法が終了してから42日以内にイミフィンジの投与を開始することが原則となっています。この使い方では、PD-L1の発現の有無や度合いに関わらず使用できます。
さらに2025年9月には、「非小細胞肺がんにおける術前・術後補助療法」として承認されました。これは手術可能な非小細胞肺がん患者さんに対して、手術の前に他の抗がん剤と併用して投与し、手術後にも継続投与することで、再発を防ぐことを目的とした使い方です。
また、「切除不能な進行・再発の非小細胞肺がん」に対しても、トレメリムマブ(イジュド)という別の免疫チェックポイント阻害薬や抗がん剤と併用して使用されます。
小細胞肺がん
小細胞肺がんでは、2つの異なる病期で使用できます。
「進展型小細胞肺がん」では、白金系抗がん剤(シスプラチンやカルボプラチン)とエトポシドという抗がん剤と併用して使用します。
2025年3月には、「限局型小細胞肺がんにおける根治的化学放射線療法後の維持療法」として承認されました。これは限局型小細胞肺がんで化学放射線療法を受けた後に、がんの進行を防ぐために使用する治療法で、国内初の免疫療法薬としての承認となりました。
その他のがん
肺がん以外にも、「切除不能な肝細胞がん」「治癒切除不能な胆道がん」「進行・再発の子宮体がん」などで承認されています。
さらに2025年9月には、「膀胱がんにおける術前・術後補助療法」としても承認されました。
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がん専門アドバイザー 本村ユウジ
イミフィンジの効果
イミフィンジの効果は、複数の臨床試験で確認されています。ここでは代表的な試験結果を紹介します。
非小細胞肺がんにおける効果(PACIFIC試験)
切除不能なステージ3の非小細胞肺がん患者さんを対象とした臨床試験では、以下のような結果が得られています。
| 項目 | プラセボ群(偽薬) | イミフィンジ群 |
|---|---|---|
| 無増悪生存期間の中央値 | 5.6ヶ月 | 16.8ヶ月 |
| 全生存期間の中央値 | 29.1ヶ月 | 47.5ヶ月 |
無増悪生存期間とは、がんが進行しないで生きている期間のことです。イミフィンジを使用することで、プラセボ群と比較して約3倍の期間、がんの進行を抑えられたことになります。
全生存期間についても、イミフィンジ群では約4年という長期生存が確認されており、このステージの肺がん治療において画期的な成績と評価されています。
限局型小細胞肺がんにおける効果(ADRIATIC試験)
限局型小細胞肺がんで化学放射線療法を受けた後の維持療法としてイミフィンジを使用した試験では、以下の結果が報告されています。
| 項目 | プラセボ群 | イミフィンジ群 |
|---|---|---|
| 全生存期間の中央値 | 33.4ヶ月 | 55.9ヶ月 |
| 3年生存率 | 48% | 57% |
| 無増悪生存期間の中央値 | 9.2ヶ月 | 16.6ヶ月 |
限局型小細胞肺がんは、これまで化学放射線療法後に承認された治療薬がなく、30年以上治療の進展がありませんでした。イミフィンジの承認により、初めて免疫療法が可能になったことは大きな進歩といえます。
イミフィンジの副作用
イミフィンジは免疫の働きを活性化する薬であるため、免疫が過剰に働くことで起こる副作用があります。副作用の現れ方には個人差がありますが、主な副作用について知っておくことが大切です。
よく見られる副作用
臨床試験で確認された主な副作用の発現頻度は以下のとおりです。
| 副作用 | 発現頻度 |
|---|---|
| 発疹 | 15.4% |
| 甲状腺機能低下症 | 10.5% |
| 下痢 | 9.7% |
| 間質性肺疾患・肺臓炎 | 9.5% |
注意が必要な副作用の症状
以下のような症状が現れた場合は、すぐに主治医に連絡することが重要です。
肺に関する症状
咳、胸の痛み、息切れ、呼吸が苦しい、発熱などの症状がある場合、間質性肺疾患や放射線肺臓炎の可能性があります。特に放射線治療を受けた患者さんでは注意が必要です。
消化器に関する症状
下痢、頻繁な便通、腹痛、便に血が混じるなどの症状がある場合、大腸炎などの可能性があります。
内分泌(ホルモン系)に関する症状
甲状腺機能障害として、冷えやすい、倦怠感、体重の変化、動悸、手指の震え、発汗の増加などが起こることがあります。また、副腎機能障害として、吐き気、嘔吐、食欲不振、めまいなどが現れることがあります。
肝臓に関する症状
吐き気、嘔吐、食欲低下、皮膚や白目が黄色くなる(黄疸)、体がだるい、眠気などがある場合、肝機能障害の可能性があります。
腎臓に関する症状
尿の色が赤くなる(血尿)、足のむくみなどがある場合、腎機能障害の可能性があります。
筋肉に関する症状
筋力の低下、体のだるさ、筋肉の痛みなどがある場合、筋炎などの可能性があります。
投与前の注意事項
自己免疫疾患の既往歴がある患者さんは、病状が悪化する可能性があるため慎重に投与されます。また、間質性肺疾患や放射線肺臓炎がある患者さんも、肺炎の悪化リスクがあるため注意が必要です。
妊娠中または妊娠の可能性がある方は、主治医に必ず伝えてください。また、投与中および投与終了後3ヶ月間は避妊が必要です。
イミフィンジの投与方法と投与スケジュール
イミフィンジは静脈への点滴で投与されます。投与方法はがんの種類や治療段階によって異なります。
非小細胞肺がん(維持療法)の場合
通常、1回1500mgを4週間間隔で、60分間以上かけて点滴投与します。投与期間は最大12ヶ月までです。ただし、体重30kg以下の場合は、1回の投与量が20mg/kg(体重)となります。
なお、2023年11月以前は2週間間隔で投与されていましたが、現在は4週間間隔に変更されています。これにより、患者さんの通院負担が軽減されています。
限局型小細胞肺がん(維持療法)の場合
1回1500mgを4週間間隔で60分間以上かけて点滴投与します。投与期間は最大24ヶ月までとなっており、非小細胞肺がんの場合より長期間の投与が可能です。
進展型小細胞肺がんの場合
白金系抗がん剤とエトポシドと併用する場合、最初の4回は3週間間隔で1回1500mgを投与し、その後は4週間間隔で投与を継続します。
非小細胞肺がん(術前・術後補助療法)の場合
術前補助療法では、他の抗がん剤と併用して1回1500mgを3週間間隔で最大4回まで投与します。その後、術後補助療法として、1回1500mgを4週間間隔で最大12回(約1年間)投与します。
イミフィンジの薬価と実際の費用
薬価(2026年2月現在)
イミフィンジの薬価は以下のとおりです。
| 製剤 | 薬価 |
|---|---|
| イミフィンジ点滴静注120mg(2.4mL 1瓶) | 67,871円 |
| イミフィンジ点滴静注500mg(10mL 1瓶) | 275,693円 |
1回の治療にかかる薬価
体重60kgの患者さんが1回1500mgを投与される場合、500mg製剤を3瓶使用することになります。
薬価:275,693円 × 3瓶 = 827,079円(1回あたり)
これは薬剤費のみの金額で、実際には診察料、検査料、点滴の手技料なども加わります。
年間の医療費概算
非小細胞肺がんの維持療法(4週間間隔、12ヶ月間)の場合、年間で約13回の投与となります。
薬剤費総額:827,079円 × 13回 = 約1,075万円
3割負担の場合、自己負担額は約322万円となりますが、後述する高額療養費制度を利用することで、実際の自己負担額は大幅に軽減されます。
保険適用と高額療養費制度の活用
保険適用について
イミフィンジは、承認された適応症に対して使用する場合、健康保険が適用されます。自己負担割合は、年齢や所得によって1割から3割となります。
高額療養費制度とは
高額療養費制度は、1ヶ月間の医療費が高額になった場合に、自己負担限度額を超えた分が払い戻される制度です。
自己負担限度額は、年齢や所得に応じて設定されており、多くの患者さんにとって大きな負担軽減となります。
2026年2月時点の自己負担限度額(69歳以下の場合)
| 所得区分 | 自己負担限度額(月額) | 多数回該当(4回目以降) |
|---|---|---|
| 年収約1,160万円以上 | 252,600円+(医療費−842,000円)×1% | 140,100円 |
| 年収約770万円〜約1,160万円 | 167,400円+(医療費−558,000円)×1% | 93,000円 |
| 年収約370万円〜約770万円 | 80,100円+(医療費−267,000円)×1% | 44,400円 |
| 年収約370万円以下 | 57,600円 | 44,400円 |
| 住民税非課税 | 35,400円 | 24,600円 |
なお、2025年8月に予定されていた高額療養費制度の自己負担限度額引き上げは、患者団体などの反対を受けて凍結されました。2026年8月以降に段階的な見直しが行われる可能性がありますが、2026年2月現在は上記の限度額が適用されています。
実際の自己負担額の例
年収約500万円の患者さん(69歳以下)が、イミフィンジの治療を1年間(13回投与)受ける場合を想定します。
1回目〜3回目の月:80,100円+α(1ヶ月あたり約8〜9万円)
4回目以降の月:44,400円(多数回該当)
年間自己負担額の概算:約8万円×3ヶ月+約4.4万円×10ヶ月 = 約68万円
高額療養費制度を利用しない場合は約322万円の負担となりますが、制度を利用することで約68万円まで軽減されます。
限度額適用認定証の利用
高額療養費制度は、通常は一旦窓口で支払った後に払い戻しを受ける形ですが、「限度額適用認定証」を事前に取得しておくことで、窓口での支払いを最初から自己負担限度額までにすることができます。
また、マイナ保険証を利用できる医療機関では、限度額適用認定証がなくても自動的に限度額までの支払いで済むようになっています。
日常生活への影響
イミフィンジ治療中の日常生活については、副作用の種類や程度によって異なります。
投与当日
点滴は60分以上かけて行われます。診察や準備時間を含めると、通院には半日程度かかることが多いでしょう。点滴中や点滴後に異常を感じた場合は、すぐに医療スタッフに伝えてください。
投与間隔
多くの場合、4週間に1回の通院となるため、従来の抗がん剤治療と比較すると通院頻度は少なくなります。これにより、日常生活や仕事への影響を最小限に抑えることができます。
副作用のモニタリング
投与期間中は定期的に血液検査や画像検査を行い、副作用の兆候がないか確認します。自宅でも体調の変化に注意を払い、気になる症状がある場合は早めに医療機関に連絡することが大切です。
特に、息切れや咳、発熱、下痢、倦怠感などの症状が現れた場合は、速やかに主治医に相談してください。
生活上の注意点
免疫の働きを活性化する薬であるため、自己免疫反応による副作用に注意が必要です。感染症予防のため、手洗いやうがいを励行し、人混みを避けるなどの対策も重要です。
また、副作用として倦怠感が現れることがあるため、無理をせず、体調に合わせて休息を取ることも大切です。
治療を受けるにあたって
イミフィンジは、対象となるがん種や病期が限定されており、すべての肺がん患者さんに使用できるわけではありません。主治医が患者さんの状態、がんの進行度、PD-L1の発現状況などを総合的に判断して、治療方針を決定します。
また、免疫チェックポイント阻害薬は比較的新しいタイプの薬であり、長期的な効果や副作用についてはまだ研究が続けられています。治療を始める前には、期待される効果と起こりうる副作用について、主治医から十分な説明を受け、納得したうえで治療を開始することが重要です。
費用面についても、高額療養費制度などの公的支援制度を活用することで、負担を軽減することができます。医療ソーシャルワーカーなどに相談することで、利用できる制度について詳しい情報を得ることができます。
参考文献・出典情報
- 独立行政法人 医薬品医療機器総合機構「イミフィンジ点滴静注 添付文書」
- アストラゼネカ株式会社「イミフィンジ、限局型小細胞肺がんにおける根治的化学放射線療法後の維持療法で承認取得」2025年3月27日
- アストラゼネカ株式会社「イミフィンジ、非小細胞肺がんにおける術前・術後補助療法として承認取得」2025年9月19日
- 医薬品医療機器総合機構「イミフィンジ 医薬品インタビューフォーム」2025年9月改訂版
- Antonia SJ, et al. "Durvalumab after Chemoradiotherapy in Stage III Non–Small-Cell Lung Cancer." New England Journal of Medicine. 2017
- 厚生労働省「高額療養費制度の見直しについて」2025年1月
- 厚生労働省「高額療養費制度を利用される皆さまへ」
- 日経メディカル処方薬事典「イミフィンジ点滴静注の基本情報」2026年1月更新
- がん情報サイト「オンコロ」イミフィンジ(デュルバルマブ)
- 新薬情報オンライン「イミフィンジ(デュルバルマブ)の作用機序と副作用」2025年9月更新