乳房再建の方法は、自分の体のほかの場所から組織を移植してくる「自家組織による再建」と、人工物を埋め込む「人工乳房(インプラント)による再建」の2つの方法があります。
それぞれメリットとデメリットがあり、どちらの再建法を選ぶかは、がんの切除手術、乳房の形や大きさ、生活スタイル、そして自身の希望などをふまえて検討します。
自家組織による乳房再建
乳房再建に用いられる自家組織は、おなか、あるいは背中の組織が選ばれます。
おなかの組織を用いる再建
おなかの皮膚や脂肪、あるいは筋肉(腹直筋)の一部をつけて乳房をつくる方法です。これを「腹直筋皮弁法(ふくちょくきんひべんほう)」といいます。
下腹に30 ㎝くらいの傷あとが残りますが、下着で隠れる部分なので日常生活では外見上の問題は少ないです。とはいえ、腹直筋の一部を使う場合、体へのダメージは少なからずあります。
とくに腹筋が弱くなり、腹壁瘢痕(ふくへきはんこん)ヘルニア=(腹部の手術の傷あとから腹腔内の臓器が出てしまう症状)を起こすことがあります。
したがって、おなかの手術を受けた人や、将来妊娠・出産を希望している人には適しません。また、腹直筋をつけないで、おなかの脂肪に血液を供給している血管をつけたまま移植して乳房をつくる「穿通枝皮弁法(せんつうしひべんほう)」があります。
この方法では腹直筋を温存できますが、血管を縫い合わせるという高度な技術が執刀医に求められます。また、血管が詰まると移植した脂肪が壊死する可能性があります。
背中の組織を用いる再建
背中の筋肉(広背筋)、皮膚、脂肪に血管をつけて移植して乳房をつくる「広背筋皮弁法」があります。
広背筋を切り取っても、ほかの筋肉がその役割を補うので、日常生活で困ることはほとんどありません。
背中に15 ㎝ほどの傷あとが残りますが、下着である程度隠れるため、あまり目立ちません。おなかの手術を受けた人や、将来妊娠・出産を希望している人に向いている方法です。
なお、筋肉を移植した場合、筋肉は年数が経つと萎縮して、再建した乳房が小さくなってしまうことがあるのは留意点の1つです。
自家組織による乳房再建の特徴とメリット、デメリット
・手段:腹直筋皮弁法、穿通枝皮弁法、広背筋皮弁法
・入院期間:約2~3週間
・体への負担:腹直筋皮弁法は大きい。穿通枝皮弁法は小さい。組織を切除した傷跡が残る。
・通院:数週間に一度~年に一度
・乳房の状態:自然な感触(神経はない)、加齢とともにもう片方の乳房と同じく変化する。
・放射線治療:可能
人工乳房(インプラント)による乳房再建
人工乳房(インプラント)を埋め込む再建は、体にあまり負担をかけずに施術することができます。
通常、エキスパンダーという、皮膚を伸ばす袋を用いた「組織拡張法(エキスパンダー法)」を使います(2回法)。
胸の筋肉の下にエキスパンダーを入れ、その中に3、6か月かけて少しずつ生理食塩水を注入して皮膚を伸ばし、反対側の乳房より大きくなるまでふくらませます。
その後、エキスパンダーとインプラントを入れ替えて、再建が完了します。
その後は、インプラントの状態をチェックするために、定期的に検診を受ける必要があります。
よくみられる合併症としては、エキスパンダー挿入中の感染症があります。また、年数が経つと、インプラントの周りに被膜ができ、それが硬くなる「被膜拘縮(ひまくこうしゅく)」を起こすことがあり、ひきつれを伴うこともあります。
インプラントの素材によっては、破れて中身が出てしまうこともあります。しかし、近年よく用いられているコヒーシブシリコンは、破れにくく、被膜拘縮も起こしにくい素材です。
通常は加齢とともに乳房は垂れ下がってきますが、インプラントを入れた乳房の形は変化しないため、左右のバランスが悪くなることがあります。
なお、インプラントが入っていてもマンモグラフィ検査や超音波検査などを受けることはできます。しかし、エキスパンダーには磁石が入っているため、挿入中はMRI検査は受けられません。
人工乳房(インプラント)による乳房再建の特徴とメリット、デメリット
・手段:エキスパンダーとインプラント
・入院期間:日帰り可能
・体への負担:他の部位を切除する負担がない。
・通院:エキスパンダーからインプラントに入れ替えるまでは、生理食塩水注入のため2~4週間に一度通院
・乳房の状態:やや硬い。加齢により、もう片方の乳房との違いが生じる。
・放射線治療:症例による
乳房再建後に行う乳頭・乳輪の再建
いずれの乳房再建でも、乳頭と乳輪の再建は、手術後の乳房が安定してきてからになります。数か月年後が目安です。
手術をしていない側の乳頭・乳輪の一部を移植する方法と、大腿部の内側など、色が近い皮膚を移植する方法などがあります。