
神奈川県における乳がん遺伝子検査の現状
乳がんの遺伝子検査には、大きく分けて2つの種類があります。1つは遺伝性乳がん・卵巣がん症候群(HBOC)を調べるBRCA1・2遺伝子検査、もう1つは術後の再発リスクを評価するオンコタイプDXやマンマプリント、キュアベストといった検査です。
神奈川県内では、横浜市、川崎市、相模原市、鎌倉市、伊勢原市などの主要都市に、これらの検査を実施できる医療機関が複数存在します。多くは大学病院や公立病院、専門病院で、遺伝カウンセリング体制が整っている施設が中心となっています。
BRCA1・2遺伝子検査とは
BRCA1・2遺伝子に変異があると、乳がんや卵巣がんを発症するリスクが高まることが知られています。一般女性の乳がん生涯発症リスクが約9%であるのに対し、BRCA1変異保持者では約70%、BRCA2変異保持者では約60%と報告されています。
この検査は、家族歴(血縁者に乳がんや卵巣がんの患者さんがいる)がある方、若年発症(40歳以下)の方、両側乳がんの方などが対象となります。検査結果によっては、予防的な手術やサーベイランス(定期的な検査による監視)などの選択肢を検討することができます。
再発リスク遺伝子検査の種類
オンコタイプDXは、乳がん組織から21種類の遺伝子を解析し、再発リスクをスコア化する検査です。ホルモン受容体陽性・HER2陰性・リンパ節転移陰性から3個以内の早期乳がんが対象となり、化学療法の必要性を判断する材料として用いられます。
マンマプリントは70種類の遺伝子を解析する検査で、キュアベストは日本人向けに開発された検査システムです。これらの検査結果は、術後の治療方針を決定する上で重要な情報となります。
神奈川県で遺伝子検査を実施できる主な病院
聖マリアンナ医科大学病院
川崎市宮前区菅生に所在する聖マリアンナ医科大学病院では、乳がん遺伝相談外来を設置しています。この専門外来では、遺伝の可能性についての相談から遺伝子検査の実施まで、一貫したサポートを受けることができます。
実施可能な検査は、再発リスク評価のオンコタイプDXと、BRCA1・2遺伝性乳がん検査です。遺伝性乳がんと診断された場合、予防的な対側乳房切除術や、発症前の卵管・卵巣の予防切除術にも対応しています。
遺伝カウンセリングでは、検査の意義や結果の解釈、家族への影響、予防策などについて、専門家から詳しい説明を受けられます。検査を受けるかどうかは、カウンセリングを通じて十分に理解した上で判断することが大切です。
神奈川県立がんセンター
横浜市旭区中尾に位置する神奈川県立がんセンターは、がん専門病院として多くの実績を持つ施設です。遺伝診療科に「遺伝カウンセリング外来」を設置し、遺伝性のがんについて詳しい説明を希望する患者さんに対応しています。
オンコタイプDXによる再発リスク検査とBRCA1・2遺伝子検査の両方が実施可能です。遺伝性乳がんと診断された場合は、予防的な対側乳房切除術や卵管・卵巣の予防切除術も選択できます。
がん専門病院ならではの知見と経験を活かし、遺伝子検査の結果を踏まえた総合的な治療方針の提案を受けられる点が特徴です。
湘南記念病院
鎌倉市笛田に所在する湘南記念病院には、乳がんセンター内に「乳がん遺伝子外来」が設けられています。この外来では、遺伝カウンセリングと各種検査を受けることができます。
実施可能な検査はオンコタイプDXとBRCA1・2遺伝子検査です。BRCA関連では、HBOCスクリーニング、クイックHBOC、BRCAMLPA、HBOCシングルサイトなど、複数の検査オプションが用意されています。
遺伝性乳がんと診断された場合、乳がん発症前の予防的切除術を実施できる体制が整っています。
北里大学病院
相模原市南区北里にある北里大学病院では、遺伝診療部でカウンセリングを実施しています。通常1回から数回のセッションで1クールとなり、患者さんの状況や希望に応じて丁寧な対応を行っています。
オンコタイプDXとBRCA1・2遺伝子検査の両方に対応しており、大学病院としての研究実績と臨床経験を活かした診療を受けられます。
カウンセリングでは、検査の意義だけでなく、結果が出た後の選択肢や家族への影響なども含めて、時間をかけて説明を受けることができます。
東海大学医学部付属病院
伊勢原市下糟屋に所在する東海大学医学部付属病院では、遺伝子診療科が遺伝性乳がんの相談に対応しています。面接時には医師とコメディカル(助産師・保健師・臨床心理士を含む)が複数で対応し、所要時間は1回1時間程度です。
オンコタイプDXとBRCA1・2遺伝子検査を実施できます。複数の専門職が関わることで、医学的な説明だけでなく、心理的なサポートや生活面での相談にも対応できる体制が特徴です。
遺伝子検査は医学的な情報だけでなく、心理的・社会的な影響も大きいため、多職種でのサポート体制は患者さんにとって心強い存在となります。
横浜市立みなと赤十字病院
横浜市中区新山下にある横浜市立みなと赤十字病院では、希望者に対してカウンセリングの上、BRCA1・2遺伝子検査を実施しています。オンコタイプDXによる再発リスク検査にも対応しています。
カウンセリングと検査は自費診療となりますが、検査の必要性や結果の解釈について、専門家から詳しい説明を受けられます。
公立病院として地域医療に貢献している施設であり、アクセスの良さも特徴の一つです。
川崎市立井田病院
川崎市中原区井田に位置する川崎市立井田病院は、再発リスク検査としてキュアベストを採用している点が特徴です。オンコタイプDXやマンマプリントとは異なる日本発の検査システムで、日本人のデータに基づいた評価が行われます。
BRCA1・2遺伝子検査も実施可能で、乳腺外科にて遺伝性乳がん(家族性腫瘍)に関するリスク評価を行っています。親族の詳細な家族歴をヒアリングし家系図を作成するなど、きめ細かい対応が受けられます。
家族歴の評価は遺伝性がんのリスク判定において重要な要素であり、丁寧な聞き取りと記録は適切な判断につながります。
横浜市立大学附属病院
横浜市金沢区福浦の横浜市立大学附属病院では、遺伝子診療科で遺伝性乳がん・卵巣がん症候群に関する遺伝カウンセリングを実施しています。
オンコタイプDXとBRCA1・2遺伝子検査の両方に対応し、希望者にはBRCA1/2の遺伝子検査を提供しています。遺伝性と診断された場合は、発症前の卵管・卵巣の予防切除術が選択できます。
大学病院として最新の知見を取り入れた診療を提供しており、研究と臨床の両面から患者さんをサポートしています。
昭和大学藤が丘病院
横浜市青葉区藤が丘にある昭和大学藤が丘病院のブレストセンターでは、遺伝性乳がんが疑われる患者さんに対して「遺伝カウンセリング」の受診を案内しています。
カウンセリングの結果、必要に応じてBRCA1・2遺伝子検査(自費診療)を受けることができます。オンコタイプDXによる再発リスク検査にも対応しています。
ブレストセンターとして乳がん診療に特化した体制を整えており、診断から治療、検査まで一貫したケアを受けられます。
遺伝子検査を受ける際の検討ポイント
検査の種類と目的の理解
BRCA1・2遺伝子検査と再発リスク検査では、目的が異なります。前者は遺伝性のリスクを評価し、予防や早期発見につなげることが目的です。後者は既に診断された乳がんの術後治療方針を決定するための情報を得ることが目的です。
自分がどのような情報を必要としているのか、検査結果をどのように活用したいのかを明確にすることが、適切な検査選択につながります。
カウンセリング体制の確認
遺伝子検査は、結果を正しく理解し、適切な対応を選択するために、カウンセリングが不可欠です。検査前のカウンセリングでは、検査の意義やリスク、結果の解釈について説明を受けます。検査後のカウンセリングでは、結果に基づいた選択肢や今後の方針について相談できます。
カウンセリングを担当するスタッフの専門性や、相談時間の確保、複数回の面談が可能かどうかなども、病院選びの重要なポイントです。
費用負担の確認
BRCA1・2遺伝子検査は、一部の条件下で保険適用となる場合がありますが、多くは自費診療となります。オンコタイプDXなどの再発リスク検査も、保険適用の条件が定められています。
検査費用、カウンセリング費用、その後のフォローアップにかかる費用など、総合的なコスト感を事前に把握しておくことが大切です。
予防的治療の選択肢
BRCA1・2遺伝子に変異が見つかった場合、予防的な乳房切除術や卵巣・卵管切除術を選択できる施設があります。これらの予防的治療を実施できるかどうかは、病院によって異なります。
検査だけでなく、その後の予防的対応まで含めて対応できる施設かどうかを確認することも、病院選びの一つの視点となります。
神奈川県内の主な検査実施施設の比較
| 病院名 | 所在地 | 再発リスク検査 | BRCA1・2検査 | 予防的治療 |
|---|---|---|---|---|
| 聖マリアンナ医科大学病院 | 川崎市宮前区 | オンコタイプDX | 可能 | 対側乳房切除、卵管・卵巣切除可能 |
| 神奈川県立がんセンター | 横浜市旭区 | オンコタイプDX | 可能 | 対側乳房切除、卵管・卵巣切除可能 |
| 湘南記念病院 | 鎌倉市 | オンコタイプDX | 可能 | 予防的切除可能 |
| 北里大学病院 | 相模原市南区 | オンコタイプDX | 可能 | 要確認 |
| 東海大学医学部付属病院 | 伊勢原市 | オンコタイプDX | 可能 | 要確認 |
| 横浜市立みなと赤十字病院 | 横浜市中区 | オンコタイプDX | 可能 | 要確認 |
| 川崎市立井田病院 | 川崎市中原区 | キュアベスト | 可能 | 要確認 |
| 横浜市立大学附属病院 | 横浜市金沢区 | オンコタイプDX | 可能 | 卵管・卵巣切除可能 |
| 昭和大学藤が丘病院 | 横浜市青葉区 | オンコタイプDX | 可能 | 要確認 |
遺伝子検査を受けるまでの流れ
主治医への相談
遺伝子検査を検討する場合、まず現在の主治医に相談することから始まります。乳がんの診断内容、家族歴、年齢などの情報をもとに、検査の必要性や適応について説明を受けます。
主治医が遺伝子検査の必要性を判断し、適切な施設への紹介状を作成してくれることが一般的です。
遺伝カウンセリングの予約
紹介を受けた施設の遺伝カウンセリング外来を予約します。初診時には紹介状や検査データの持参が必要となることが多いため、事前に確認しておきます。
予約から実際のカウンセリングまで、数週間から1か月程度の待ち時間が発生する場合があります。
カウンセリングの実施
初回のカウンセリングでは、家族歴の聞き取り、検査の説明、結果の解釈方法、心理的影響などについて、1時間程度かけて説明を受けます。
この段階で疑問点や不安な点を十分に相談し、検査を受けるかどうかを判断します。検査を受けないという選択も尊重されます。
検査の実施
検査を受けることを決めた場合、採血などによって検体を採取します。BRCA1・2遺伝子検査の場合、結果が出るまでに数週間から1か月程度かかることが一般的です。
オンコタイプDXなどの再発リスク検査は、既に採取されている腫瘍組織を用いるため、追加の採取は不要です。
結果説明とフォローアップ
検査結果は、再度のカウンセリングで説明されます。結果の意味、今後の対応の選択肢、定期検診の必要性などについて、詳しい説明を受けます。
陽性の場合も陰性の場合も、その後のフォローアップ体制について確認し、必要に応じて継続的な相談ができる関係を築くことが大切です。
遺伝子検査に関する注意点
心理的影響への備え
遺伝子検査の結果は、自身の健康だけでなく、家族にも影響を及ぼす可能性があります。結果を知ることで不安が増大する場合もあれば、予防策を講じられることで安心感を得られる場合もあります。
検査前に心理的な準備をし、必要に応じて心理カウンセラーのサポートを受けられる体制を確認しておくことが望ましいです。
家族への影響
BRCA1・2遺伝子変異が見つかった場合、血縁者も同じ変異を持っている可能性があります。検査結果を家族とどのように共有するか、事前に考えておくことが重要です。
家族への伝え方や、家族が検査を受けるかどうかの判断についても、カウンセリングで相談することができます。
就労や保険への影響
遺伝子検査の結果が、就労や生命保険の加入に影響を与える可能性について、カウンセリングで説明を受けることができます。日本では遺伝情報による差別を禁止する法律が整備されつつありますが、現状では課題も残されています。
検査を受ける前に、こうした社会的な影響についても理解しておくことが大切です。
最新情報の確認
遺伝子検査の実施状況、保険適用の条件、検査の種類などは変更される可能性があります。受診を検討する際は、各病院に直接問い合わせて最新の情報を確認することをお勧めします。
また、新しい検査方法や治療選択肢が登場する可能性もあるため、定期的に情報を更新することが重要です。

