こんにちは。がん専門のアドバイザー、本村ユウジです。
筋層に浸潤した膀胱がん(ステージⅡ以降)では、膀胱全摘出術が標準治療として行われています。しかし膀胱を全摘すると自力での排尿が難しくなり、ストーマ(人工的な尿の出口)の管理や新しく作った膀胱からの定期的な導尿が必要になるなど、治療後の生活に影響が出ます。
そのため最近では、膀胱を温存しながらがんの根治を目指す「膀胱温存療法」が注目されています。この記事では、膀胱温存療法の最新情報と、膀胱全摘出術を選択した場合の対処法について詳しく説明します。
膀胱全摘出術の問題点
がんが膀胱の筋層に浸潤したステージⅡ~Ⅲ期の膀胱がんでは、一般的に膀胱全摘出術が行われます。膀胱全摘出術は、男性では膀胱、前立腺、精のう、尿管の一部と骨盤内のリンパ節を摘出します。女性では膀胱、子宮、腟の一部、尿管の一部、尿道を摘出し、骨盤内のリンパ節を摘出します。
手術そのものがリスクの高い手術であり、体への負担が大きいといえます。手術時間は平均6~8時間かかり、周術期の尿路感染や腸閉塞といった合併症の発生率も比較的高い手術です。
尿路変向術が必要になる
膀胱を摘出した後は、尿を体外に出すための新しい通り道を作る「尿路変向術(尿路変更術)」を行う必要があります。国内で最も多く行われているのは回腸導管造設術で、主に以下の3つの方法があります。
| 方法 | 特徴 | メリット | デメリット |
|---|---|---|---|
| 尿管皮膚瘻造設術 | 尿管を直接皮膚に縫いつけてストーマを作る | 手術方法が単純で負担が少ない | ストーマ管理が必要、合併症が多い |
| 回腸導管造設術 | 小腸(回腸)を利用してストーマを作る | 適用範囲が広く一般的、比較的安全 | 腹部にパウチ(集尿袋)の装着が必要 |
| 自排尿型新膀胱造設術 | 回腸で新しい膀胱を作り尿道につなぐ | 尿道から排尿可能、外見は手術前と同じ | 手術が複雑で時間がかかる、4~5時間おきに導尿が必要 |
術後の生活への影響
回腸導管造設術を選択した場合、腹部にストーマを造設し、そこから尿を排出します。パウチと呼ばれる集尿袋を常に装着する必要があり、定期的に交換します。ストーマ造設後でも尿が漏れることがあり、日常生活でのストレスは小さくありません。
自排尿型新膀胱造設術を選択した場合は、尿道から尿を出すことができます。しかし尿意は感じないため、4~5時間おきに腹圧をかけて排尿するか、カテーテルで導尿する必要があります。特に夜間は導尿が必要になることが多く、生活リズムへの影響があります。
このような術後の生活の変化から、治療をあきらめてしまう患者さんも少なくありません。高齢であったり、心不全や呼吸器疾患などの合併症を持っていて手術が難しい場合、認知症のため術後のストーマ管理ができない場合もあります。
膀胱温存療法とは
膀胱温存療法とは、膀胱を全摘しないでがんの根治を目指す治療法です。経尿道的膀胱腫瘍切除術(TURBT)で可能な限りがんを取り除いた上で、化学療法と放射線治療を組み合わせる集学的治療が標準的な方法となっています。
膀胱温存療法の具体的な方法
膀胱温存療法には、いくつかの治療パターンがあります。
1. TURBT + 化学療法 + 放射線治療の組み合わせ
最も一般的な方法で、まず内視鏡でできるだけがんを切除し、その後シスプラチンを中心とした化学療法と放射線療法を併用します。低用量の化学療法と放射線を同時に行うことで、相乗効果が期待できます。
2. 動注化学放射線療法
足の付け根の血管からカテーテルを入れ、膀胱に流れる動脈に抗がん剤を直接注入し、同時に放射線を照射する方法です。局所に高濃度の薬を送り込めるため効果が高く、膀胱を温存できる可能性があります。
3. 膀胱部分切除 + 化学放射線療法
がんの部位が限定されている場合、膀胱の一部のみを切除し、化学療法と放射線治療を加える方法もあります。
膀胱温存療法の適応基準
膀胱温存療法は、すべての患者さんに実施できるわけではありません。日本泌尿器科学会の診療ガイドラインでは、以下の条件を満たす場合に膀胱温存療法を選択できるとしています。
- 深達度T3a(筋層を越えて脂肪組織への顕微鏡でわかる浸潤がある)以下の限局がん
- 腫瘍径が3cm以下
- 上皮内がん(CIS)という平坦型のがんを伴わない
- 水腎症がない
これらの条件に加えて、標準治療外であることを了承した上で膀胱温存を希望する症例が対象となります。がんの場所や浸潤の範囲によっては実施できない場合もあります。
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がん専門アドバイザー 本村ユウジ
膀胱温存療法のメリットとデメリット
メリット
膀胱温存療法の最大のメリットは、自力での排尿が可能なことです。ストーマの管理や定期的な導尿が不要で、外見上も手術前と変わりません。手術そのものの侵襲も膀胱全摘除術に比べて小さく、体への負担が軽いといえます。
近年、様々な膀胱温存療法が開発され、治療成績も向上しています。いくつかの施設では、放射線を使った膀胱温存療法で5年生存率が膀胱全摘に匹敵する成績だったという報告もあります。
デメリット
膀胱温存療法の課題は、膀胱全摘除術と比べて「根治性(目に見えるがんを完全に取り去る)」では劣る可能性があることです。がんが残存したり再発するリスクは、膀胱全摘除術よりも高くなります。
また、化学療法と放射線治療による副作用もあります。頻尿や排尿困難、膀胱炎症状などが出ることがあり、放射線による晩期障害(治療後数ヶ月から数年経ってから出る副作用)のリスクもあります。
膀胱温存療法を選択した場合は、再発の有無を調べるため、定期的な膀胱鏡検査と尿細胞診が必要です。厳重な経過観察が求められます。
ロボット支援手術の進歩
膀胱全摘除術を選択する場合でも、近年の手術技術の進歩により、患者さんの負担は軽減されています。
ロボット支援下膀胱全摘除術
2018年4月からロボット支援下膀胱全摘除術が保険診療として認可されました。ダヴィンチという手術用ロボットを使用し、腹腔鏡手術を行います。
従来の開腹手術と比べて、以下のようなメリットがあります。
- 出血量が少ない(輸血の必要がほとんどない)
- 傷が小さく術後の痛みが少ない
- 術後の回復が早い
- 拡大3D画像により繊細な手術が可能
- 新膀胱造設時に神経温存術式を応用でき、術後の尿禁制や勃起機能の改善が期待できる
多くの病院でロボット支援手術が導入され、現在はほとんどの患者さんにロボット支援下手術が行われています。
ERASプロトコール
膀胱全摘術を受ける患者さんの術後早期回復を目指して、ERAS(Enhanced Recovery After Surgery)プロトコールを実施している病院があります。薬剤師、栄養士、理学療法士、麻酔科、歯科、看護師など多職種が連携し、術前、術中、術後を通して早期離床や食事再開、鎮痛管理などの適切なケアを行います。これにより入院期間の短縮や合併症の減少が報告されています。
術前化学療法の進歩
膀胱全摘除術の治療成績を向上させるため、術前あるいは術後の補助化学療法が行われています。
標準的な術前化学療法はGC療法(ゲムシタビン+シスプラチン)ですが、2023年11月からはGC療法より3年時の無増悪生存率を改善したとされるddMVAC療法(メトトレキセート+ビンブラスチン+ドキソルビシン+シスプラチン)も導入されています。
がん研有明病院の報告では、筋層浸潤がんの患者さんに対してddMVACを術前化学療法に用いて膀胱全摘を行った結果、78%の患者さんが術後の予後が良いとされる状態となり、56%で癌が完全に消失したという良好な結果が得られています。
進行がんに対する新しい治療
遠隔転移がある場合や膀胱全摘後にがんが再発した場合は、全身化学療法が中心となります。最近では免疫チェックポイント阻害薬を含む新しい治療法が登場しています。
エンフォツマブベドチン+ペムブロリズマブ併用療法
進行性膀胱がんに対する新しい標準治療として、エンフォツマブベドチン(抗体薬物複合体)とペムブロリズマブ(免疫チェックポイント阻害薬)の併用療法が注目されています。複数の臨床試験で高い奏効率や延命効果が示され、従来の標準治療を上回る可能性が報告されています。
その他の治療選択肢
GC療法+ニボルマブの併用や、FGFR遺伝子変異・融合を持つ患者さんに対するFGFR阻害薬(エルダフィチニブ)など、患者さんの腎機能、全身状態、遺伝子変異の有無などを考慮して最適な治療法を選択できるようになっています。
治療にかかる費用
膀胱全摘除術の費用
膀胱全摘除術は保険診療です。手術費用、入院費用を含めた総医療費は100万円以上になることが一般的ですが、健康保険により3割負担となります。ただし入院期間は約1ヶ月程度必要で、その間の食事代や差額ベッド代(個室を希望する場合)は別途必要です。
高額療養費制度の活用
高額な医療費がかかる場合、高額療養費制度を利用することで、自己負担額を抑えることができます。1ヶ月(1日から月末まで)の医療費が、所得に応じた自己負担限度額を超えた場合、超えた分が還付されます。
| 所得区分 | 自己負担限度額(月額) | 4回目以降(多数該当) |
|---|---|---|
| 年収約1,160万円以上 | 252,600円+(総医療費-842,000円)×1% | 140,100円 |
| 年収約770~約1,160万円 | 167,400円+(総医療費-558,000円)×1% | 93,000円 |
| 年収約370~約770万円 | 80,100円+(総医療費-267,000円)×1% | 44,400円 |
| 年収約370万円以下 | 57,600円 | 44,400円 |
| 住民税非課税 | 35,400円 | 24,600円 |
限度額適用認定証の活用
入院や手術が予定されている場合は、事前に「限度額適用認定証」を申請しておくことをお勧めします。この認定証を病院の窓口に提示することで、支払い時から自己負担限度額までの支払いで済み、後日の還付手続きが不要になります。
限度額適用認定証は、加入している健康保険(協会けんぽ、健康保険組合、国民健康保険など)の窓口で申請できます。通常、申請から1~2週間程度で交付されます。
治療選択のポイント
膀胱温存療法と膀胱全摘除術、それぞれにメリットとデメリットがあります。どちらを選択するかは、以下のような要素を総合的に考慮して決定します。
医学的な条件
- がんの進行度(ステージ、深達度)
- がんの大きさと位置
- 上皮内がん(CIS)の有無
- 水腎症の有無
- 患者さんの年齢と全身状態
- 合併症の有無
生活の質(QOL)への影響
- 自力排尿を維持したいか
- ストーマ管理が可能か
- 定期的な導尿が必要な生活に対応できるか
- 仕事や日常生活への影響
治療後のフォローアップ
- 定期的な検査通院が可能か
- 再発時の対応について理解しているか
- 長期的な経過観察の必要性
膀胱温存療法を選択する場合は、再発のリスクが膀胱全摘除術より高いことを理解し、厳重な経過観察を受け入れる必要があります。一方、膀胱全摘除術を選択する場合は、術後の新しい排尿方法に適応する必要があります。
セカンドオピニオンの活用
膀胱がんの治療選択は、患者さんの人生に大きな影響を与えます。主治医の説明をよく聞いた上で、納得できない点や不安な点があれば、遠慮なく質問することが大切です。
また、複数の病院で意見を聞く「セカンドオピニオン」も有効です。膀胱温存療法の実績がある施設では、主治医から膀胱全摘を提示された患者さんでも、条件を満たせば膀胱温存ができる場合があります。治療方針に迷う場合は、膀胱温存療法の経験が豊富な施設でセカンドオピニオンを受けることも選択肢の一つです。
治療の選択は患者さん自身が決める
膀胱温存療法と膀胱全摘除術、どちらを選ぶかは最終的に患者さん自身が決めることです。医師は医学的な観点から最適と思われる治療を提案しますが、患者さんの価値観や生活スタイル、治療後の人生をどう過ごしたいかという希望も重要な判断材料です。
選択肢がある場合は、それぞれの治療法のメリットとデメリットを十分に理解し、家族とも相談しながら、自分にとって最善の選択を考えることが大切です。
参考文献・出典情報
キャンサーネットジャパン「膀胱がんの膀胱摘出後の排尿方法について」
