
こんにちは。がん専門のアドバイザー、本村ユウジです。
前立腺がんの手術を受けた患者さんの中には、術後に足や外陰部のむくみに悩まされる方がいます。これは「リンパ浮腫」と呼ばれる症状で、手術によってリンパ節を切除したことが主な原因です。
リンパ浮腫は手術直後に現れることもあれば、数年から10年以上経過してから発症することもあります。
そのため、手術を受けたすべての患者さんが、リンパ浮腫について正しい知識を持ち、日常生活で予防や早期発見に努めることが大切です。
この記事では、前立腺がん手術後のリンパ浮腫がなぜ起こるのか、どのような対処法があるのか、そして保険適用される弾性着衣の利用方法まで、詳しく解説します。
リンパ系とリンパ節の役割を理解する
まず、リンパ浮腫を理解するために、体内のリンパ系の働きを知っておく必要があります。
人間の体には、動脈と静脈のほかに、リンパ管が網の目のようにはりめぐらされています。このリンパ管にはリンパ液という体液が循環しており、リンパ液は最終的には心臓に戻ります。
リンパ管のところどころには、リンパ節という球状の組織があります。このリンパ節は、免疫をつかさどる細胞を貯蔵する一方で、細菌や有害物質を血液の流れに乗せないように、フィルターの役割も果たしています。
しかし、破壊できなかったがん細胞がリンパ節に定着し、増殖することがときどき起こります。これをリンパ節転移といい、リンパ液を通してがんが全身に広がる可能性も考えられます。
前立腺がん手術におけるリンパ節郭清とは
リンパ節転移のリスクを減らすため、また転移の有無を正確に診断するため、前立腺がんの手術では「リンパ節郭清」が行われることがあります。
リンパ節郭清は、もともとがんのあった病巣に所属したリンパ節を切除する処置です。前立腺全摘除術の際、内腸骨リンパ節、外腸骨リンパ節、閉鎖リンパ節などの骨盤内リンパ節が切除範囲となります。
リンパ節郭清には、再発予防のほかに、摘出したリンパ節を顕微鏡で観察し、リンパ節転移の有無や転移の個数を調べ、術後の治療方針を決定するという重要な役割があります。
ただし、リンパ節郭清はすべての患者さんに実施されるわけではありません。
2023年版の前立腺がん診療ガイドラインでは、低リスクの患者さんではリンパ節郭清は行わないことが多く、中間リスクから超高リスクの患者さんでは、拡大リンパ節郭清が選択肢に入るとされています。
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がん専門アドバイザー 本村ユウジ
リンパ浮腫が起こるメカニズムと発症時期
リンパ節を切除すると、そこを通っていたリンパ液の流れが妨げられます。残されたリンパ管が代わりにリンパ液を運ぼうとしますが、その能力には限界があります。
足から心臓に戻るリンパの流れが悪くなると、リンパ液が下半身にたまり、むくみ(浮腫)が起こりやすくなります。これがリンパ浮腫のメカニズムです。
リンパ浮腫の発症時期には個人差があります。手術直後に現れる患者さんもいれば、手術後1年から3年、あるいは10年以上経過してから発症する患者さんもいます。
あるリンパ浮腫患者さんを対象とした調査では、手術後1から6か月程度で発症した方が最も多く37.1パーセント、次いで手術後1から3年程度が22.9パーセント、手術直後が17.1パーセントという結果が報告されています。
このように、手術を受けてからかなり時間が経過してから発症することもあるため、「手術から何年も経ったから大丈夫」と油断せず、長期的に注意を払う必要があります。
前立腺がん手術後のリンパ浮腫の特徴
前立腺がんのリンパ節郭清や放射線療法によるリンパ浮腫が起こりやすいのは、下肢(足)や外陰部(陰嚢と陰茎)です。
初期症状としては、以下のようなものがあります。
- 太もものつけ根が重く感じられる
- 足がだるい、重いような感じがする
- 歩きにくくなる
- 外陰部がはれて排尿が困難になる
- 指で圧迫したときに痕が残る
初期はむくんだ表面を指で押すとへこみますが、進行するとへこまなくなるほど皮膚が硬くなります。リンパ浮腫は自然によくなることはなく、適切なケアをしないと悪化する一方であることが特徴です。
むくみを感じたら、早めに医療機関を受診することが大切です。大きな病院にはリンパ浮腫外来を設置しているところもありますので、主治医に相談してみましょう。
リンパ浮腫の主な治療法とケア方法
リンパ浮腫の治療とケアには、いくつかの方法があります。これらを組み合わせて行うことで、症状の改善と進行の予防が期待できます。
圧迫療法
リンパ浮腫のケアの基本となるのが圧迫療法です。前立腺がんの手術によるリンパ浮腫の場合、脚のつけ根の内側や外陰部からむくみ始め、脚全体に及ぶことが多く見られます。
脚のつけ根は、医療用の弾性ストッキングで圧迫します。外陰部を圧迫するためのアイテムとしては、医療用の専用サポーターか弾性包帯、スポーツ用のサポーターなどが活用できるので、自分に合うものを選びましょう。
ただし、弾性着衣は正しく装着しないと効果が得られません。また、装着圧が適切でない場合、かえって症状を悪化させることもあるため、必ず医師や専門家の指導を受けて使用することが重要です。
用手的リンパドレナージ(マッサージ)
特に外陰部は圧迫しにくい位置にあるので、マッサージ(リンパドレナージ)も行って、リンパの流れをスムーズにすることが推奨されます。
ただし、リンパドレナージは通常のマッサージや美容目的のリンパマッサージとは異なります。皮膚を優しくさすることで、腕や脚に溜まったリンパ液を正常なリンパ節へと誘導し、浮腫を軽減する医療的マッサージです。
リンパドレナージの方法は必ず受診して医師や専門家の指導を受け、自己流で行うことは避けましょう。誤った方法で行うと、かえって症状を悪化させる可能性があります。
実際にリンパ浮腫のケアを続けている患者さんの中には、専門家の講習でマッサージの仕方を教わり、1日2回、30分から40分ほど続けている方もいます。
スキンケアと感染予防
リンパ浮腫のある部分は、バリア機能が低下しているため、感染を起こしやすくなっています。そのため、スキンケアと感染予防が重要です。
毛穴や汗腺、傷口から細菌が入ると、足全体のリンパ管に炎症(蜂窩織炎)を起こしやすくなります。汗をかいたらふき、お風呂でしっかり汚れを洗い落とし、清潔を保つように心がけましょう。
また、皮膚の乾燥を防ぐことも大切です。保湿クリームなどを使用して、皮膚を柔らかく保ちましょう。
足を傷つけた場合はすぐに水で洗い、消毒します。蜂窩織炎の症状(発疹が出て急速に足全体が赤くなり、高熱を発する)が起きたら、すぐに受診することが大切です。蜂窩織炎は通常のリンパ浮腫とは異なり、感染による炎症ですので、抗生物質による治療が必要です。
運動療法
適度な運動は、リンパの流れを促進します。ただし、過度な運動は避け、医師や理学療法士の指導のもとで行いましょう。
外科的治療
保存的治療で効果が得られない場合、外科的治療が検討されることもあります。国立がん研究センター東病院などでは、リンパ管と静脈をつなぐバイパス手術や、リンパ節移植などの手術が行われています。
これらの手術は、貯まったリンパ液を静脈に流すための新たな経路を作るもので、局所麻酔で4時間程度かけて行われます。ただし、術後も圧迫療法やマッサージなどの継続が必要です。
リンパ浮腫を予防するための日常生活の工夫
リンパ浮腫は、手術後の生活で無理をすると起こりやすくなります。以下の点に注意して、予防に努めましょう。
| 予防のポイント | 具体的な対策 |
|---|---|
| 重いものを持たない | 買い物ではキャリーバッグやショッピングカートを利用する。重い荷物は宅配で送る |
| 過度な運動を避ける | 息が切れるほど体を動かさない。適度な運動にとどめる |
| 同じ姿勢を続けない | 立ち仕事や座り仕事では、こまめに休憩を取る |
| 体を締め付けない | 衣類、靴下、下着、アクセサリーはゆったりとしたものを選ぶ |
| 肥満を予防する | 体に脂肪がたまりすぎると、リンパ液の流れを妨げるため、適正体重を維持する |
| 感染を予防する | 土いじりなどでは手袋をする。虫刺されに注意する。傷はすぐに洗って消毒する |
一般的に、体の一部がむくんだときは、足を少し高く上げるといいといわれます。しかし、外陰部がむくんだ場合は、下半身をめぐるリンパ液が、足を上げることで外陰部にたまってしまい、逆効果になるので控えましょう。
手術に限ったことではありませんが、前立腺がんの治療が終わったあとはなるべく休み、体をいたわりながら過ごすことが基本です。
リンパ浮腫治療の保険適用と費用
2008年4月から、リンパ浮腫治療に関して健康保険が適用されるようになりました。これにより、患者さんの経済的負担が軽減されています。
リンパ浮腫指導管理料
乳がん、子宮がん、卵巣がん、前立腺がんの手術または治療後に、リンパ浮腫に対する適切な指導を個別に行った場合、リンパ浮腫指導管理料が算定されます。
これは、わきの下や骨盤内のリンパ節を広く切除したり、放射線療法を受けた患者さんに対し、リンパ浮腫の悪化を防ぐための方法などを、医師や看護師、理学療法士が説明するものです。
主な説明の内容は以下の通りです。
- リンパ浮腫とはどのようなものか
- 治療法
- 適切なケアの大切さと具体的なケアの方法
- 感染症や肥満を予防するための生活上の注意点
- 感染症の治療
弾性着衣等の療養費支給
腕や脚のリンパ浮腫治療のための弾性スリーブ、ストッキング、グローブ、弾性包帯にかかる費用が、療養費として支給されます。
以下の表に、支給額の上限をまとめます。
| 弾性着衣の種類 | 支給額の上限 |
|---|---|
| 弾性ストッキング(両足用) | 28,000円 |
| 弾性ストッキング(片足用) | 25,000円 |
| 弾性スリーブ | 16,000円 |
| 弾性グローブ | 15,000円 |
| 弾性包帯(上肢) | 7,000円 |
| 弾性包帯(下肢) | 14,000円 |
申請に必要な条件と書類
療養費の支給を受けるには、以下の条件を満たす必要があります。
- リンパ節郭清術を伴う悪性腫瘍の術後に発生する四肢のリンパ浮腫、または原発性リンパ浮腫であること
- 製品の着圧が30mmHg以上であること(ただし、医師の判断により特別の指示がある場合は20mmHg以上でも可)
- 購入枚数は、装着部位ごとに2着が限度
- 次回の申請をするためには、前回領収書が発行された日より6か月以上の期間が必要
申請に必要な書類は以下の通りです。
- 主治医の指示書(弾性着衣等装着指示書):つける部位、手術日などが記されたもの
- 購入した際の領収書(原本)
- 療養費支給申請書(保険者から取り寄せ)
- 健康保険証
- 印鑑
- 振込口座番号がわかるもの
申請は、いったん代金を全額自分で支払い、その後、保険者(健康保険組合や協会けんぽなど)に申請します。審査後、自己負担額を差し引いた金額が指定の口座に振り込まれます。
なお、弾性包帯については、医師の判断により弾性着衣を使用できないとの指示がある場合に限り、療養費の支給対象となります。
リンパ浮腫と上手に付き合うために
リンパ浮腫は完治が難しい慢性疾患ですが、適切なケアを継続することで、症状の進行を抑え、日常生活を送ることは十分可能です。
リンパ浮腫のケアは毎日コツコツと続けなくてはなりません。ある患者さんは、趣味の釣りに出かけるために、マッサージを一生懸命しているといいます。このように、自分なりの目標や楽しみを持つことが、ケアの励みになります。
思いつめず、気長に取り組んでいくことが大切です。症状について気になることがあれば、遠慮せずに医療スタッフに相談しましょう。
参考文献・出典情報
国立がん研究センター 東病院「リンパ浮腫の外科的治療について」
国立がん研究センター 中央病院「リンパ浮腫についての基礎知識」
健康と病いの語り ディペックス・ジャパン「前立腺がんの語り リンパ浮腫」