
スーテント(スニチニブ)
こんにちは。がん専門のアドバイザー、本村ユウジです。
腎臓がんが進行し、転移を伴うようになると、手術や放射線治療といった局所療法だけでは対応が難しくなります。
このような進行した腎臓がん(腎細胞がん)に対して、薬物療法が治療の中心になりますが、その選択肢の1つとして長年使われてきたのが「スーテント(一般名:スニチニブ)」という分子標的薬です。
スーテントは2008年に日本で承認されて以来、腎臓がん治療に大きな役割を果たしてきました。最近では免疫チェックポイント阻害薬との併用療法が主流になってきていますが、患者さんの状態や病状によっては今でもスーテント単剤での治療が選択されることがあります。
この記事では、スーテントがどのような薬なのか、どんな効果が期待できるのか、副作用はどうか、費用はどのくらいかかるのか、といった点について詳しく説明します。
スーテント(スニチニブ)とはどんな薬か
スーテントは「分子標的薬」と呼ばれるタイプの薬です。
従来の抗がん剤のように「毒をもって毒を制す」という考え方でがん細胞を攻撃するのではなく、がん細胞の増殖に関わる特定の分子を標的にして、がんの成長を抑えるという仕組みを持っています。
作用の仕組み
がん細胞は増殖するために栄養を必要とします。栄養は血液から運ばれてくるため、がん細胞は自ら血管を増やそうとする性質があります。これを「血管新生」と呼びます。
がん細胞はVEGF(血管内皮増殖因子)という物質を放出し、それを受け取った血管の受容体(VEGFR)が反応して新しい血管を作り出します。
スーテントは、この血管内皮にあるVEGFRや、腫瘍の増殖に関わるPDGFR(血小板由来増殖因子受容体)などの複数の受容体に結合することで、新生血管ができるのを防ぎます。
新生血管ができなければ、がん細胞は栄養不足に陥り、活動を停止したり壊死したりします。このような作用を持つ薬を「血管新生阻害薬」といいます。
スーテントは経口薬(飲み薬)なので、点滴治療が必要な薬と比べると通院の負担が比較的少ないという特徴があります。
スーテントの対象となるがん
スーテントは以下の3つのがんに対して保険適用があります。
| 対象疾患 | 詳細 |
| 根治切除不能または転移性の腎細胞がん | 手術で完全に取り除くことができない、または他の臓器に転移した腎臓がん |
| イマチニブ抵抗性の消化管間質腫瘍(GIST) | イマチニブという薬が効かなくなったGIST |
| 膵神経内分泌腫瘍 | 膵臓にできる神経内分泌腫瘍 |
本記事では主に腎細胞がんに対する使用について説明します。
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がん専門アドバイザー 本村ユウジ
腎臓がん治療におけるスーテントの位置づけ
スーテントが登場する前、進行した腎臓がんに対する薬物療法の中心はインターフェロンという免疫療法の薬でした。
2007年に発表された臨床試験では、未治療の転移性腎細胞がん患者さんにおいて、スーテントを使用した場合の無増悪生存期間(がんが悪化せずに過ごせる期間)は11か月で、インターフェロンアルファの5か月と比べて有意に延長することが示されました。この結果により、スーテントは長らく腎臓がん治療の主軸として使われてきました。
現在の治療における変化
しかし、2016年以降、免疫チェックポイント阻害薬(オプジーボ、ヤーボイ、キイトルーダ、アベルマブなど)が腎細胞がんに対して承認され、治療の考え方が大きく変わりました。
現在では、進行腎細胞がんの一次治療(最初に行う治療)として、免疫チェックポイント阻害薬と分子標的薬の併用療法が主流になっています。
| 治療のタイミング | 主な治療選択肢 |
| 一次治療 | ニボルマブ+イピリムマブ併用療法(中・高リスク患者さん) ペムブロリズマブ+アキシチニブ併用療法 アベルマブ+アキシチニブ併用療法 ペムブロリズマブ+レンバチニブ併用療法 スーテント単剤またはヴォトリエント単剤(低リスク患者さん、または免疫チェックポイント阻害薬が使えない場合) |
| 二次治療以降 | ニボルマブ単剤 カボザンチニブ アキシチニブ(インライタ) スーテント エベロリムス(アフィニトール) ベルズチファン(HIF-2α阻害薬、2024年承認申請) |
現在、スーテント単剤が選択されるのは、リスク分類(IMDCリスク分類など)で低リスクと判定された患者さん、全身状態が良くない患者さん、自己免疫疾患などで免疫チェックポイント阻害薬が使えない患者さんなどです。
スーテントの効果と奏効率
腎細胞がんに対するスーテントの効果は、臨床試験で確認されています。
前述の臨床試験では、スーテント投与群の無増悪生存期間は11か月で、インターフェロンアルファの5か月と比較して有意に延長しました。奏効率(がんが縮小した患者さんの割合)も、スーテント群で高い結果が得られています。
ただし、分子標的薬の特徴として、がん細胞を完全に消滅させるというよりは、がんの進行を抑えて良い状態をできるだけ長く維持することが主な目的になります。
治療効果には個人差があり、効果が続く期間も患者さんによって異なります。治療中は定期的に画像検査などで効果を確認しながら、継続するかどうかを判断していきます。
スーテントの投与方法と投与スケジュール
投与方法
スーテントは経口薬(カプセル)で、1日1回服用します。
標準的な投与量とスケジュール
腎細胞がんおよび消化管間質腫瘍(GIST)に対する標準的な投与方法は以下の通りです。
・1日1回50mg(12.5mgカプセル4つ)を服用
・4週間連日投与した後、2週間休薬
・これを1コース(6週間)として繰り返す
ただし、副作用の程度によっては、開始時から37.5mg(カプセル3つ)や25mg(カプセル2つ)に減量して開始することもあります。
副作用が強く出た場合は、12.5mgずつ段階的に減量していきます。また、副作用が強い場合には、投与スケジュールを変更して「2週間投与、1週間休薬」という間隔にすることもあります。
膵神経内分泌腫瘍の場合
膵神経内分泌腫瘍に対しては、1日1回37.5mgを休薬期間なく連日投与します。患者さんの状態に応じて、50mgまで増量することもできます。
スーテントの副作用と対策
スーテントには特徴的な副作用がいくつかあります。副作用の種類や程度には個人差がありますが、適切に対処することで治療を継続できる場合が多くあります。
主な副作用
| 副作用 | 症状と対策 |
| 手足症候群 | 手のひらや足の裏の皮膚に赤み、痛み、水ぶくれなどが出ます。症状が出る前から保湿を心がけ、圧迫を避けることが大切です。症状が出た場合はステロイド外用薬などで対処します。 |
| 倦怠感 | 日常生活に支障が出るほどのだるさを感じることがあります。甲状腺機能低下が原因の場合は甲状腺ホルモン薬を使用します。 |
| 味覚異常 | 甘味だけが残ったり、何を食べても苦みを感じたりすることがあります。有効な対策が少ないため、症状が強い場合は休薬が必要になることもあります。 |
| 高血圧 | 血圧が上昇することがあるため、定期的な血圧測定が必要です。必要に応じて降圧剤を使用します。 |
| 下痢 | 下痢が起こることがあります。水分補給を心がけ、症状に応じて止痢剤を使用します。 |
| 骨髄抑制 | 白血球、血小板、赤血球が減少することがあります。定期的な血液検査でモニタリングし、減少が著しい場合は投与量の調整や休薬を検討します。 |
| 肝機能障害 | AST、ALTなどの肝機能の数値が上昇することがあるため、定期的な検査が必要です。 |
| 甲状腺機能低下 | 甲状腺ホルモンの分泌が低下することがあります。定期的に甲状腺機能を検査し、必要に応じてホルモン補充療法を行います。 |
重大な副作用
まれですが、間質性肺炎、心機能障害、出血、血栓塞栓症などの重大な副作用が起こることがあります。息切れ、胸の痛み、激しい頭痛、突然の視力低下などの症状が出た場合は、すぐに医療機関に連絡する必要があります。
副作用への対処の重要性
副作用を我慢せず、早めに医師や看護師、薬剤師に相談することが大切です。適切な対処をすることで、治療を継続しながら生活の質を保つことができます。
スーテントの費用と保険適用
薬価
スーテントカプセル12.5mgの薬価は、1カプセルあたり3,841.3円です(2025年4月時点の薬価)。
標準的な投与量である50mg(4カプセル)を1日服用すると、1日あたりの薬剤費は15,365円になります。
4週間(28日間)投与すると、薬剤費だけで約43万円になります。これに診察料、検査料、処方料などが加わります。
高額療養費制度の利用
このように高額な治療費になりますが、日本には「高額療養費制度」があり、医療費の自己負担額が一定額を超えた場合、超えた分が払い戻される仕組みになっています。
70歳未満の方で所得区分が「一般」(年収約370万円〜約770万円)の場合、自己負担限度額は以下のように計算されます。
80,100円+(総医療費-267,000円)×1%
例えば、1か月の総医療費が100万円だった場合、自己負担額は約87,000円になります。
さらに、同一世帯で直近12か月間に3回以上高額療養費の支給を受けている場合、4回目からは「多数回該当」となり、自己負担限度額が44,400円に下がります。
所得区分による違い
高額療養費制度の自己負担限度額は、所得区分によって異なります。
| 所得区分(70歳未満) | 自己負担限度額(月額) | 多数回該当 |
| 年収約1,160万円以上(標準報酬月額83万円以上) | 252,600円+(総医療費-842,000円)×1% | 140,100円 |
| 年収約770万円〜約1,160万円(標準報酬月額53万円〜79万円) | 167,400円+(総医療費-558,000円)×1% | 93,000円 |
| 年収約370万円〜約770万円(標準報酬月額28万円〜50万円) | 80,100円+(総医療費-267,000円)×1% | 44,400円 |
| 年収約370万円以下(標準報酬月額26万円以下) | 57,600円 | 44,400円 |
| 住民税非課税 | 35,400円 | 24,600円 |
なお、2027年8月からは高額療養費制度の見直しにより、自己負担限度額が一部引き上げられる予定です。
経済的負担への対応
それでも月々数万円の負担は決して軽くありません。長期間治療が続く場合、経済的な理由で治療を継続できなくなる患者さんもいらっしゃいます。
経済的な不安がある場合は、医療ソーシャルワーカーに相談することで、利用できる制度や支援について情報を得ることができます。
日常生活への影響
スーテントによる治療中は、副作用の程度によって日常生活への影響が出ることがあります。
仕事や活動
倦怠感が強い場合は、仕事や日常の活動に支障が出ることがあります。無理をせず、体調に合わせて休息を取ることが大切です。
手足症候群が出ている場合は、手足への圧迫を避ける工夫が必要になります。クッション性の高い靴を履く、長時間の立ち仕事や歩行を避けるなどの配慮が役立ちます。
食事
味覚異常が出ている場合は、食事が楽しめなくなることがあります。温度や食感を変える、香りの強い食材を避けるなどの工夫で、少しでも食べやすくなることがあります。
下痢がある場合は、刺激の少ない食事を心がけ、水分補給を十分に行います。
感染予防
白血球が減少している時期は、感染症にかかりやすくなります。手洗い、うがいを徹底し、人混みを避けるなどの予防策が大切です。
スーテントが効かなくなった場合
スーテントを使用していても、時間が経つとがん細胞が薬に対して耐性を獲得し、効果が低下することがあります。また、副作用が強くて継続できない場合もあります。
そのような場合は、他の治療薬への変更を検討します。
二次治療以降の選択肢
スーテント後の治療選択肢としては、以下のような薬があります。
・ニボルマブ(オプジーボ):免疫チェックポイント阻害薬
・カボザンチニブ:チロシンキナーゼ阻害薬
・アキシチニブ(インライタ):チロシンキナーゼ阻害薬
・エベロリムス(アフィニトール):mTOR阻害薬
・ベルズチファン:HIF-2α阻害薬(2024年承認申請中)
患者さんの全身状態、前治療の内容、がんの状態などを総合的に判断して、次の治療法を選択していきます。
多くの患者さんが複数のラインの治療を受けることができており、1次治療から2次治療に進める患者さんは約7割、3次治療まで進める患者さんは約半数と報告されています。
まとめにかえて
スーテント(スニチニブ)は、腎細胞がんに対する分子標的薬として長年使われてきた実績のある薬です。
現在は免疫チェックポイント阻害薬との併用療法が主流になっていますが、患者さんの状態によっては今でもスーテント単剤が選択肢になります。
副作用への適切な対処と経済的な支援制度の活用により、多くの患者さんが治療を継続できています。
治療の選択、副作用への対応、経済的な不安など、わからないことや心配なことがあれば、遠慮なく担当医や医療スタッフに相談しましょう。
参考文献・出典情報
国立がん研究センター がん情報サービス「腎臓がん(腎細胞がん)治療」
慶應義塾大学医学部 泌尿器科学教室「腎細胞癌に対する分子標的治療法」
順天堂大学医学部附属順天堂医院 泌尿器科「腎がんの薬物療法」
がんサポート「スーテント(一般名:スニチニブ)転移性腎がんの1次治療で最も使われている薬剤」
HOKUTO「Sunitinib スニチニブ(スーテント)レジメン」