
こんにちは。がん専門のアドバイザー、本村ユウジです。
膵臓がんの治療において、膵頭十二指腸切除術は根治を目指す重要な選択肢ですが、複雑で侵襲の大きな手術であるため、合併症や手術のリスクについて十分に理解しておくことが大切です。
この記事では、膵頭十二指腸切除術で起こりうる合併症の種類、発生率、対処法について、2026年時点の最新情報をもとに詳しくお伝えします。
膵頭十二指腸切除術とは
膵頭十二指腸切除術は、膵頭部にできた膵臓がんを切除するための手術です。この手術では膵頭部だけでなく、十二指腸、胆管、胆嚢、胃の一部を周囲のリンパ節とともに切除します。
なぜこれほど広範囲を切除するのかというと、膵頭部には胆管と膵管が埋め込まれており、十二指腸とつながっているという解剖学的な理由があります。また、がんが転移する可能性のあるリンパ節が十二指腸や胆管周囲に存在するため、これらの臓器をまとめて切除する必要があるのです。
切除後は、残った膵臓、胆管、胃(または十二指腸)と小腸をそれぞれつなぎ合わせる再建手術を行います。手術時間は約6時間から8時間かかり、お腹の手術の中では最も複雑で難易度の高い手術の一つとされています。
膵頭十二指腸切除術の合併症発生率
膵頭十二指腸切除術は複数の臓器を切除し、複雑な再建を行うため、からだには大きな負担がかかります。
国立がん研究センター東病院のデータによると、軽微なものまで含めた合併症の発生率は40〜50%です。ただし、医療技術や周術期管理の進歩により、この発生率は年々減少傾向にあります。
術死率と再手術率
手術に関連して致命的な結果となる割合(術死率)は、全国平均で2.9%です。一方、症例数の多い専門施設では0.5〜0.7%と低い数値を保っています。
また、合併症に関連して再手術が必要になる割合は、全国平均で5.8%、専門施設では2.1%となっています。
施設による治療成績の差
| 施設の年間症例数 | 術死率 | 合併症発生率 |
|---|---|---|
| 年間5例以下 | 13〜16% | 60%前後 |
| 年間20例以上 | 1%前後 | 40%前後 |
膵癌診療ガイドラインでは、年間20例以上の膵頭十二指腸切除術を施行している施設を「high volume center」として、このような専門施設で治療を受けることを推奨しています。
症例数の多い施設では合併症の発生率が低く、仮に合併症が発生した場合でも適切な対応をとりやすい体制が整っています。
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がん専門アドバイザー 本村ユウジ
主な合併症の種類と対処法
1. 膵液瘻(膵空腸吻合部の縫合不全)
膵液瘻は、膵頭十二指腸切除術で最も注意すべき合併症です。
切除後に膵臓と小腸をつなぎ合わせた部分(吻合部)から、膵液や腸液が漏れ出てしまう状態を指します。発生率は報告により10〜35%と幅がありますが、一般的には10〜20%程度とされています。
膵液にはタンパク質や脂肪を分解する強力な消化酵素が含まれています。そのため、吻合部から漏れた膵液が周囲の組織や血管を傷つけると、以下のような重篤な合併症につながる可能性があります。
- 腹腔内膿瘍(膿のたまり)の形成
- 血管壁の損傷による出血
- 仮性動脈瘤の形成と破裂
対処法
膵液瘻を予防するため、手術中にドレーンという細い管をお腹に留置します。このドレーンから漏れた膵液や腸液を体外に排出することで、重篤な合併症への進展を防ぎます。
ドレーンが有効に働いている場合、時間はかかりますが膵液瘻は徐々に治癒していきます。多くの場合、1〜2週間の入院期間延長で対応できます。
しかし、ドレーンが十分に機能せず、膵液や腸液が腹腔内にたまってしまう場合は、以下の処置が必要になります。
- 再手術による新たなドレーンの留置
- 超音波やCTガイド下での経皮的ドレナージ
- 吻合部の洗浄
膵液瘻の発生は入院期間に大きく影響します。順調に経過すれば2〜3週間で退院できますが、膵液瘻が発生すると4〜6週間の入院が必要になることもあります。
2. 胃排泄遅延
膵頭十二指腸切除術の後、胃の動きの回復が遅れ、胃液や食べ物が長時間胃の中にとどまってしまうことがあります。これを胃排泄遅延といいます。
軽度のものを含めると約20%の患者さんに発生するとされています。
症状
- 常にお腹が張った感じがする
- 食事が十分にとれない
- 吐き気や嘔吐
対処法
胃排泄遅延は、時間とともに自然に治癒することがほとんどです。ただし、胃の動きが回復するまでの間は以下の対応が必要です。
- 一時的に食事を中止する
- 鼻から胃の中まで細いチューブを挿入し、胃液を抜く
- 点滴による栄養管理
- 胃の動きを促進する薬の投与
この状態が2週間以上続くこともありますが、多くの場合、最終的には自然に軽快します。
3. 胆管空腸吻合部の縫合不全(胆汁漏)
胆管と小腸をつないだ部分から胆汁が漏れ出てしまう状態です。
胆汁が腹腔内に漏れると、膿瘍を形成したり炎症を起こしたりします。手術時に留置したドレーンが漏出した胆汁をうまく排出できれば、自然治癒が期待できます。
しかし、ドレーンが効かない部分に胆汁がたまってしまった場合は、再手術や超音波・CTガイド下による新たなドレーンの留置が必要になります。
4. 腹腔内出血
膵頭十二指腸切除術では、リンパ節郭清のために上腹部の主要な血管が露出した状態になります。また、切除した血管の断端も露出しています。
膵液瘻や腹腔内膿瘍が発生すると、これらの血管や血管断端が膵液によって傷害され、腹腔内出血を起こすことがあります。
発生率は2〜8%ですが、腹腔内出血が起きた場合の致死率は報告により14〜60%と高く、生命にかかわる極めて重篤な合併症です。
対処法
腹腔内出血が起こった場合、緊急処置として以下の治療を行います。
- 経動脈的塞栓術:股の付け根の動脈からカテーテルを挿入し、出血部位まで進めて血管を塞栓物質で詰める
- 必要に応じて緊急手術
- 輸血による循環動態の管理
5. 腹腔内膿瘍
膵液瘻や胆汁漏などの縫合不全により、腹腔内の手術部位やその近くに膿がたまることがあります。これが腹腔内膿瘍です。
縫合不全がなくても、手術時の汚染などにより膿瘍ができることもあります。
症状
- 38度以上の発熱
- 腹痛
- 白血球数の増加
対処法
手術時に留置したドレーンで膿が体外に排出されない場合は、以下の処置が必要です。
- 再手術
- 超音波・CTガイド下による新たなドレーンの留置
- 抗生剤の投与
6. 術後胆管炎
膵頭十二指腸切除術では胆管と腸を直接つなぎ合わせるため、術後は腸液が胆管内に逆流しやすくなります。
腸内の細菌が胆管に入り込むことで、胆管炎が起きることがあります。便秘やお腹の中の炎症があると、腸液の逆流がしやすく胆管炎にかかりやすくなります。
症状
- 38度以上の発熱
- 右の脇腹の痛み
- 黄疸
栄養状態が悪かったり体調が悪い時は、胆管炎から敗血症になることもあるため注意が必要です。
対処法
- 抗生剤の投与
- 胆汁の流れを良くする薬
- 便秘薬の併用
胆管炎は術後早期だけでなく、退院後の長期経過例でも発症することがあります。化学療法の施行や継続に影響することもあります。
7. 創感染
手術した傷が化膿することです。手術後3日目から6日目に現れることが多く、手術創が赤く腫れたり、痛みや発熱を伴うことがあります。
対処法
- 創の中にたまった膿を出す処置
- 抗生剤の投与
数日から数週間かかることもありますが、ある程度治ってきたら退院して自宅で様子をみることもできます。
手術後の生活への影響と後遺症
入院期間
合併症がない順調な経過の場合、入院期間は以下のとおりです。
- 開腹手術:14〜21日程度
- ロボット手術:7日程度
- 一般的な目安:2〜6週間
合併症が発生した場合は、その治療に応じて入院期間が延長されます。膵液瘻が発生した場合、1〜2週間の入院延長となることが多いです。
術後の経過
標準的な術後の経過は以下のとおりです。
- 手術翌日:体を動かす練習を開始
- 術後3日目:食事開始
- 術後3〜5日目:ドレーンを抜去
- 術後2週間前後:退院(合併症がない場合)
消化吸収機能の変化
膵臓を切除すると、消化液である膵液の分泌が減少します。そのため、消化吸収障害が起こり、以下のような症状が現れることがあります。
- 下痢しやすくなる
- 脂肪肝になることがある
- 体重が1割以上減少する
消化吸収障害が明らかな場合は、膵液の代わりになる消化剤(高力価膵消化酵素剤)を服用します。
食事の変化
膵頭十二指腸切除術では消化管を切除・再建しているため、術前と比較すると食べられる食事の量が減ります。一般的に体重が1割以上減ってしまいますが、徐々に回復していきます。
特別な食事制限はありませんが、消化の良い食事を少量ずつ、回数を分けて摂取することが推奨されます。
糖尿病の発症
膵臓は血糖を下げるホルモンであるインスリンを分泌しています。手術によって膵臓の一部が失われると、インスリン分泌量が減少し、糖尿病を発症する可能性があります。
ただし、最近の研究では、膵頭十二指腸切除術を受けた患者さんは、十二指腸切除に伴う腸内環境の変化により、膵体尾部切除術を受けた患者さんよりも術後糖尿病の発症率が低いことが明らかになっています。
もともと糖尿病のある方は、手術後に悪化することもあります。糖尿病専門医と連携して血糖コントロールを行います。
神経性の下痢
膵臓の周囲の神経をある程度切除するため、術後に下痢になることがあります。通常、下痢止めで対処できますが、術後後遺症として残ることがまれにあります。
創部の痛み
手術の傷の痛みは個人差がありますが、少なくとも数ヶ月間は痛みが残っていたり、ひきつれ感があったりします。
日常生活の範囲内で軽作業程度なら、術後1〜2ヶ月から問題ないという方が多いです。ただし、これは年齢や個人の経過によって異なります。
合併症を減らすための取り組み
近年、手術手技の工夫や周術期管理の進歩により、合併症の発生率は年々減少しています。
改良された吻合法
膵液瘻を減らすため、膵臓と腸の吻合方法が改良されています。例えば、Blumgart吻合を改良したCOMPAS吻合という方法では、重篤な膵液瘻の発生を2%程度に抑えることができています。
周術期管理の徹底
- 術前の栄養状態の改善
- 術後早期からの離床(ベッドから起きて動くこと)
- 感染予防のための抗生剤の適切な使用
- ドレーンによる適切な排液管理
多職種チームによるサポート
- 外科医による手術と術後管理
- 糖尿病専門医による血糖コントロール
- 薬剤師による服薬指導
- 栄養士による栄養管理
- 理学療法士によるリハビリ
患者さんが知っておくべきこと
専門施設での治療を検討する
膵頭十二指腸切除術は難易度の高い手術であり、症例数の多い専門施設で受けることが推奨されます。
年間20例以上の膵頭十二指腸切除術を施行している施設(high volume center)では、合併症の発生率が低く、仮に合併症が発生した場合でも対応をとりやすい環境が整っています。
合併症は想定される経過の一部
膵頭十二指腸切除術では、40〜50%の方に何らかの合併症が発生します。しかし、これらの多くは想定される経過の範囲内であり対処法が確立されています。
仮に膵液瘻が発生しても、適切な管理により1〜2週間の入院延長で対応できることが多く、最終的な術後の状態は膵液瘻が起こらなかった方と変わりません。
術後のフォローアップの重要性
退院後も定期的な外来受診が必要です。以下の点について継続的な管理を受けます。
- 血糖値のコントロール
- 栄養状態の評価
- 消化吸収機能の確認
- 再発の有無の確認