
肝臓がんのマイクロ波凝固療法とは
マイクロ波凝固療法は、肝臓がんに対する局所療法の一つです。電磁波の一種であるマイクロ波を利用して、がん組織を加熱し、壊死させる治療法として位置づけられています。
この治療法は、体の外から、または腹腔鏡や開腹手術によって、電極針を肝臓がんの腫瘍に刺し込み、マイクロ波を照射することで実施されます。マイクロ波のエネルギーによって組織内の水分子が振動し、その摩擦熱で腫瘍が60度以上の高温になり、がん細胞が死滅します。
肝臓がんの治療において、手術で切除できない場合や、患者さんの体力的な理由で大きな手術が難しい場合に選択されることが多い治療法です。また、複数の小さな腫瘍がある場合にも適用されます。
治療には、経皮的マイクロ波凝固療法、腹腔鏡下マイクロ波凝固療法、開腹下マイクロ波凝固療法の3つのアプローチがあり、腫瘍の位置や大きさ、個数などに応じて最適な方法が選択されます。
マイクロ波凝固療法の適応条件
マイクロ波凝固療法が適応となる条件は、腫瘍の大きさ、個数、位置、そして患者さんの全身状態によって判断されます。一般的には、以下のような条件に該当する場合に検討されます。
腫瘍の大きさについては、直径3センチ以下の腫瘍が最も良い適応とされています。3センチを超える腫瘍でも治療は可能ですが、完全に壊死させるためには複数回の照射が必要になることがあります。5センチを超える大きな腫瘍の場合は、他の治療法との併用や、別の治療法が優先されることもあります。
腫瘍の個数は、一般的には3個以内が目安とされていますが、それぞれの腫瘍が小さく、位置的に治療しやすい場合には、4個以上でも実施されることがあります。
肝機能については、ある程度保たれている必要があります。Child-Pugh分類でAまたはBの患者さんが主な対象となり、肝硬変が進行している場合には慎重な判断が求められます。
血液の凝固機能が著しく低下している場合や、腹水が大量にある場合は、治療が困難になることがあります。また、腫瘍が主要な血管や胆管に接している場合には、これらの組織を損傷するリスクがあるため、治療の可否を慎重に検討する必要があります。
マイクロ波凝固療法が適している患者さん
| 項目 | 条件 |
|---|---|
| 腫瘍の大きさ | 直径3センチ以下が最適、5センチ以下であれば検討可能 |
| 腫瘍の個数 | 3個以内が目安、位置によっては4個以上でも可能 |
| 肝機能 | Child-Pugh分類AまたはB |
| 全身状態 | 手術に耐えられる程度の体力がある |
| 血液凝固能 | 正常範囲、または補正可能 |
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マイクロ波凝固療法とラジオ波焼灼療法の違い
肝臓がんの局所療法として、マイクロ波凝固療法と並んでラジオ波焼灼療法(RFA)があります。両者は似た治療法ですが、使用するエネルギーの種類や特性に違いがあります。
ラジオ波焼灼療法は、高周波の電流を利用して組織を加熱する方法です。一方、マイクロ波凝固療法は電磁波を利用します。この違いにより、治療の効果や特性に以下のような差が生じます。
到達温度については、マイクロ波凝固療法のほうが高温になりやすく、100度を超えることもあります。ラジオ波焼灼療法は通常60〜100度程度です。このため、マイクロ波凝固療法は組織の炭化が起こりやすいという特徴があります。
治療範囲の広がり方も異なります。マイクロ波は電極針の周囲に均等に熱が広がりやすいのに対し、ラジオ波は電流の流れやすさによって熱の広がりに偏りが生じることがあります。
血流の影響については、ラジオ波焼灼療法は血流が豊富な部位では熱が逃げやすく、効果が低下する可能性があります。マイクロ波凝固療法は血流の影響を受けにくいとされています。
マイクロ波とラジオ波の比較
| 特徴 | マイクロ波凝固療法 | ラジオ波焼灼療法 |
|---|---|---|
| エネルギー源 | マイクロ波(電磁波) | 高周波電流 |
| 到達温度 | 100度以上も可能 | 60〜100度程度 |
| 熱の広がり | 均等に広がりやすい | 電流の流れに依存 |
| 血流の影響 | 受けにくい | 受けやすい |
| 治療時間 | 1〜5分程度 | 10〜15分程度 |
現在の日本では、ラジオ波焼灼療法のほうが広く普及していますが、腫瘍の位置や大きさ、血流の状態などによって、マイクロ波凝固療法が選択されることもあります。
経皮的マイクロ波凝固療法の手順
経皮的マイクロ波凝固療法は、体の外から針を刺して治療を行う方法です。局所麻酔で実施できるため、患者さんへの負担が比較的少ない治療法として位置づけられています。
治療の前に、太い電極針を確実に腫瘍に到達させられるかどうかを確認するため、試験的に細い針を刺すことがあります。ただし、この試験穿刺を行わない医療機関もあります。
医師は超音波装置を使って腫瘍の位置を確認し、患者さんに息を止めるよう指示してから針を刺します。針は腫瘍の手前で止めて抜きます。これは腫瘍を不用意に刺すことで、がん細胞が周囲の組織に散らばることを防ぐためです。
画像診断だけでは悪性かどうかが確定できなかった腫瘍に対しては、この段階で生検を行い、採取した組織を検査して診断を確定させることがあります。
治療開始時には、針を刺す部分の皮膚を小さく切開します。患者さんに息を止めてもらい、試験針と同じ手順で電極針を腹部から刺して、腫瘍の目的の位置まで到達させます。針が目的の位置に到達したら、患者さんには浅い呼吸をするよう指示します。
皮膚のやけどを防ぐため、電極針を刺した部分の周囲を湿らせたガーゼなどで冷やします。医師は超音波の画像を見ながらマイクロ波の照射を開始します。
照射時間は使用する装置によって異なりますが、1回の照射は通常1〜2分間です。最新の装置では、5分またはそれ以上の照射を行うこともあります。照射中、医師は組織と電極針がくっつかないように、針を手元で回転させ続けます。
照射が終了したら、組織と針を容易に離すために解離電流(直流電流)を流します。その後、電極針の位置をずらして再度照射を行います。
腫瘍の大きさや形によっては、針を皮膚の外まで完全に引き抜く必要があります。針を引き抜く際にも患者さんは息を止めます。医師は針を刺した経路から出血しないように、その経路にも短時間マイクロ波を照射して組織を凝固させながら針を引き抜きます。
超音波画像を確認しながら、同じ操作を繰り返します。腫瘍とその周辺を含めて組織が凝固したと判断できれば、治療を終了します。
腹腔鏡下マイクロ波凝固療法の手順
腹腔鏡下マイクロ波凝固療法は、腹部に小さな穴を開けてカメラと器具を挿入し、腹腔内から直接腫瘍を治療する方法です。全身麻酔下で実施されます。
麻酔が効いたら、腹部の内部空間を広げる処置を行います。気腹法では、臍の少し上をメスで小さく切開し、そこから気腹針を差し込んで二酸化炭素を注入します。
腹腔内に針が差し込めたことを確認したら、二酸化炭素を注入して腹部を膨らませます。十分に膨らんだら、腹腔鏡を入れる位置を決定します。
つり下げ法という別の方法では、腹部の下の皮膚に針金を通すか、腹腔内にバルーンのようなものを入れて腹壁を支え、内部に空間を作ります。
腹腔内の空間が確保できたら、腹腔鏡を挿入する場所を2〜3カ所、それぞれ1センチほど切開し、トラカールと呼ばれるプラスチックまたは金属の短い筒を挿入します。腹腔鏡はこれらのトラカール内を通して操作されます。
治療前に、超音波プローブや腹腔鏡スコープで腫瘍の位置、周辺の血管や胆管の配置を再確認します。この段階で新たに腫瘤が見つかった場合には生検を行い、がんと判明したら治療を実施します。
がんかどうか明確でなくても、疑わしい腫瘤については治療を行うことがあります。これは、体外からの超音波検査などを再度行っても腫瘤が見つからない可能性があるためです。
治療では、トラカールを通して電極針を腹腔内に入れ、肝臓の表面から腫瘍まで刺し込みます。経皮的手法で使う針より細い電極針を使用する場合があり、その場合は1回の照射による凝固範囲も狭くなります。
皮膚に熱傷を負わせないように、トラカール周辺の皮膚を冷却します。また、腫瘍の近くに胆管がある場合には、胆管も冷却することがあります。
腫瘍が大きい場合は、腫瘍の周縁部から凝固を開始します。凝固中には組織から気体が発生し、それが超音波画像に映ります。腫瘍の内側から治療を始めると、発生した気体が超音波画像を乱し、腫瘍の境界が分かりにくくなるためです。
近年では、複数の電極針をあらかじめ腫瘍に刺す手法も実施されています。これらの電極針を順次マイクロ波発生装置につなぎ、照射していきます。この方法により、がん細胞が治療されずに残るリスクを減らすことができます。
治療終了後は、電極針を肝臓の表面近くまで引き抜き、出血予防のためにマイクロ波を照射して傷口を凝固させます。その後、針を完全に引き抜きます。
開腹下マイクロ波凝固療法の手順
開腹下マイクロ波凝固療法は、腹部または胸部を切開して肝臓を直接観察しながら治療を行う方法です。全身麻酔下で実施されます。
麻酔が効いたら、胸部または腹部を切開します。最近では5〜10センチ程度の小さな切開で治療を行う例が増えています。
治療の前に、肝臓に直接超音波装置をあてて術中超音波検査を行い、腫瘍と周辺の血管や胆管の位置を確認します。これらが腫瘍の近くにある場合は、内部の血液や胆汁が凝固するのを防ぐため、胆管や血管を冷却することもあります。
その後、肝臓の表面から電極針を刺し、マイクロ波凝固を実施します。治療方法は腹腔鏡下治療と基本的に同じです。
腫瘍の大きさや位置によっては、肝臓を動かしたり切り開いたりしてからマイクロ波凝固を行います。また、大きな腫瘍は切除したうえで、他の小さな腫瘍をマイクロ波で治療する例もあります。
マイクロ波凝固療法の効果と治療成績
マイクロ波凝固療法の効果は、腫瘍の大きさや個数、位置、そして患者さんの肝機能の状態によって異なります。
直径3センチ以下の小さな腫瘍では、完全壊死率が90%以上と報告されています。これは、治療した腫瘍のほとんどが完全に壊死し、画像検査で腫瘍が消失することを意味します。
3センチを超える腫瘍では、完全壊死率は低下する傾向があります。大きな腫瘍では1回の照射で全体を凝固させることが難しく、複数回の照射や追加治療が必要になることがあります。
治療後の生存率については、適切な適応で実施された場合、3年生存率は60〜70%程度、5年生存率は40〜50%程度と報告されています。ただし、これらの数値は患者さんの背景因子によって変動します。
再発については、局所再発と新たな部位での再発があります。局所再発とは、治療した部分またはその周辺に再びがんが発生することです。新たな部位での再発は、肝臓の別の場所に新しい腫瘍ができることを指します。
局所再発率は治療技術の向上により低下傾向にありますが、5年間で20〜30%程度とされています。新たな部位での再発は、もともとの肝臓の状態(肝硬変の有無など)に影響されます。
マイクロ波凝固療法の副作用と合併症
マイクロ波凝固療法は比較的安全な治療法ですが、いくつかの副作用や合併症が起こる可能性があります。
治療中から治療直後に起こる可能性がある症状として、痛みがあります。治療部位やその周辺に痛みを感じることがありますが、通常は鎮痛剤で対応できます。
発熱も比較的よく見られる症状です。治療後に37〜38度程度の熱が出ることがありますが、多くは数日で自然に解熱します。これは組織が壊死する際の炎症反応によるものです。
出血のリスクもあります。針を刺した経路や治療部位から出血することがありますが、重篤な出血は稀です。治療中に出血が確認された場合は、適切な止血処置が行われます。
胆汁漏は、腫瘍が胆管の近くにある場合に起こる可能性があります。胆管が損傷すると、胆汁が腹腔内に漏れ出すことがあります。この合併症は比較的稀ですが、発生した場合は追加の治療が必要になることがあります。
肝機能の一時的な悪化も起こることがあります。治療によって正常な肝組織も一部影響を受けるため、治療後に肝機能の数値が上昇することがあります。通常は数週間で改善しますが、もともとの肝機能が悪い患者さんでは注意が必要です。
感染症のリスクもゼロではありません。針を刺すことで細菌が体内に入り、感染を起こす可能性があります。予防のため抗生物質が投与されることがあります。
主な副作用と合併症
| 副作用・合併症 | 発生頻度 | 対応 |
|---|---|---|
| 痛み | 比較的多い | 鎮痛剤で対応 |
| 発熱 | 比較的多い | 数日で自然解熱、必要に応じて解熱剤 |
| 出血 | 稀 | 止血処置 |
| 胆汁漏 | 稀 | ドレナージなどの追加治療 |
| 肝機能悪化 | 一時的に起こることがある | 経過観察、必要に応じて治療 |
| 感染症 | 稀 | 抗生物質投与 |
マイクロ波凝固療法を実施できる病院の選び方
マイクロ波凝固療法は、適切な設備と経験のある医療スタッフがいる病院で受けることが重要です。
まず、肝臓がんの治療実績が豊富な病院を選ぶことが基本となります。日本肝臓学会が認定する肝臓専門医が在籍している病院や、がん診療連携拠点病院に指定されている医療機関であれば、一定の水準が保たれています。
マイクロ波凝固療法の実施件数も重要な指標です。年間の治療件数が多い病院ほど、医師やスタッフの経験が豊富であり、合併症への対応も適切に行われる傾向があります。
使用している機器が最新のものかどうかも確認ポイントです。マイクロ波凝固療法の機器は年々進化しており、新しい機器ではより効率的に広い範囲を凝固できるようになっています。
腹腔鏡下や開腹下の治療が必要になる可能性もあるため、外科的な治療体制が整っている病院を選ぶことも大切です。複数の治療選択肢を提示してくれる病院であれば、患者さんの状態に最も適した治療を受けられる可能性が高まります。
治療後のフォローアップ体制も確認しておくべき点です。定期的な画像検査や血液検査、再発時の迅速な対応ができる体制が整っているかどうかを確認しましょう。
患者さんやご家族が納得して治療を受けられるよう、十分な説明とコミュニケーションを取ってくれる医療チームであることも重要な要素です。
治療にかかる費用と入院期間
マイクロ波凝固療法の費用は、治療方法(経皮的、腹腔鏡下、開腹下)によって異なります。また、使用する機器や入院日数によっても変動します。
経皮的マイクロ波凝固療法の場合、手術料や入院費を含めた医療費の総額は、3割負担で20〜30万円程度が目安となります。腹腔鏡下や開腹下の場合は、より高額になることがあります。
高額療養費制度を利用することで、実際の自己負担額を抑えることができます。この制度により、月々の医療費の自己負担額には上限が設けられており、所得に応じて負担額が決定されます。
入院期間は治療方法によって異なります。経皮的マイクロ波凝固療法では3〜7日程度、腹腔鏡下では7〜10日程度、開腹下では10〜14日程度が一般的です。
ただし、患者さんの回復状況や合併症の有無によって入院期間は変動します。経過が順調であれば予定より早く退院できることもあります。
治療方法別の入院期間の目安
| 治療方法 | 入院期間 | 特徴 |
|---|---|---|
| 経皮的マイクロ波凝固療法 | 3〜7日程度 | 最も負担が少ない |
| 腹腔鏡下マイクロ波凝固療法 | 7〜10日程度 | 直視下で治療可能 |
| 開腹下マイクロ波凝固療法 | 10〜14日程度 | 大きな腫瘍や複雑な位置に対応 |
治療後の生活と注意点
マイクロ波凝固療法を受けた後は、定期的な経過観察が必要です。治療後1カ月程度で、CT検査やMRI検査を行い、腫瘍が完全に壊死したかどうかを確認します。
その後は3〜4カ月ごとに画像検査を実施し、局所再発や新たな腫瘍の出現がないかを監視します。血液検査でAFPやPIVKA-IIなどの腫瘍マーカーの値も定期的に測定します。
日常生活については、治療後数週間は激しい運動や重労働を避ける必要がありますが、徐々に通常の生活に戻ることができます。
飲酒は肝臓に負担をかけるため、できるだけ控えることが推奨されます。特に肝硬変がある患者さんでは、禁酒が望ましいとされています。
食事は、バランスの取れた栄養摂取を心がけることが大切です。肝機能が低下している場合は、医師や管理栄養士の指導に従って適切な食事管理を行います。
再発予防のため、肝炎ウイルスの治療を継続することも重要です。B型肝炎やC型肝炎が背景にある場合、これらのウイルスを抑制する治療を続けることで、新たな腫瘍の発生リスクを下げることができます。