こんにちは。がん治療専門アドバイザー、本村ユウジです。
前立腺がんと診断されたとき、多くの患者さんが「どの治療法を選ぶべきか」「どこの病院で治療を受けるべきか」という選択に直面します。
転移のない限局性の前立腺がんには、手術療法、放射線療法、そして経過観察という選択肢があり、それぞれに長所と短所があります。
今回は、前立腺がん治療の中でも注目されている「ロボット支援手術(ダヴィンチ手術)」「陽子線治療」「HIFU(高密度焦点式超音波療法)」の3つの治療法について、それぞれの特徴と、これらの治療を提供している医療機関について説明します。
ロボット支援手術(ダヴィンチ手術)とは
ロボット支援手術は、手術支援ロボット「ダヴィンチ(da Vinci)」を用いた前立腺全摘除術です。1990年代にアメリカで開発されたこの技術は、2012年4月に日本で保険適用となり、現在では前立腺がん手術の主流となっています。
ダヴィンチ手術の仕組み
ダヴィンチは、サージョンコンソール(医師の操作席)、ペイシェントカート(患者側のロボットアーム)、ビジョンカート(画像システム)の3つから構成されます。医師はコンソールに座り、3D高精細画像を見ながら手元のコントローラーを操作します。この動きがリアルタイムでロボットアームに伝わり、腹部に開けた小さな穴から挿入された鉗子やカメラが精密な手術を行います。
ロボット手術の利点
従来の開腹手術と比べて、ロボット手術には次のような利点があります。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 創部の大きさ | 8~12mm程度の小さな切開が5~6か所のみで済む |
| 出血量 | 精密な操作により出血量が少なく、輸血が必要となる確率は5%未満 |
| 入院期間 | 通常7~10日程度で、早期の社会復帰が可能 |
| 痛み | 傷が小さいため術後の痛みが軽減され、手術翌日から歩行可能 |
| 機能温存 | 3D拡大視野と多関節アームにより、排尿機能や性機能を司る神経・組織の温存率が向上 |
ロボット手術の費用と保険適用
ロボット支援前立腺全摘除術は保険診療の対象となっています。3割負担の場合、手術費用と入院費用を合わせて約45~55万円程度が目安となります。ただし、高額療養費制度を利用することで、実質的な自己負担額は所得区分にもよりますが、多くの場合10万円程度に抑えることができます。
70歳以上の方の場合、一般所得者で約8万円程度となります。具体的な金額は年齢や収入、健康保険制度によって異なるため、事前に加入している保険組合や医療機関に確認することをおすすめします。
ロボット手術の適応条件
ロボット支援手術は、転移のない限局性前立腺がんの患者さんが対象となります。一般的には75歳以下を適応としている施設が多いですが、全身状態が良好であれば年齢にかかわらず手術を受けられる場合もあります。
ただし、手術は頭を25度下げた体位で行うため、未破裂の脳動脈瘤がある患者さんや一部の緑内障患者さんは適応にならないことがあります。また、過去に腹部手術を受けた経験がある方も、癒着の程度によっては手術が難しい場合があります。
主なロボット手術実施施設
2025年現在、全国で600台以上のダヴィンチが稼働しており、多くの医療機関で前立腺がんのロボット支援手術が行われています。ここでは、特に実績のある代表的な施設を地域別に紹介します。
| 地域 | 医療機関名 | 所在地 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| 関東 | 順天堂大学医学部附属順天堂医院 | 東京都文京区 | ダヴィンチXi 3台を保有し、年間約160例を実施。累計1700例以上の豊富な実績 |
| 関東 | 板橋中央総合病院 | 東京都板橋区 | 日本初のダヴィンチ手術を手掛けた吉岡邦彦医師が執刀。執刀・指導合わせて2000例以上 |
| 関東 | 国立がん研究センター東病院 | 千葉県柏市 | がん専門病院として、高リスク症例にも対応。認定医5名が在籍 |
| 関東 | NTT東日本関東病院 | 東京都品川区 | VRナビゲーションシステムを用いた高精度手術を実施 |
| 関東 | 千葉西総合病院 | 千葉県松戸市 | ダヴィンチを2台保有し、累計1900件以上の症例数。第5世代ロボット「ダビンチ5」を導入 |
| 中部 | 刈谷豊田総合病院 | 愛知県刈谷市 | 2012年から実施し、累計778件の実績(2024年3月時点) |
| 中部 | 名古屋大学医学部附属病院 | 愛知県名古屋市 | 大学病院として高度な治療を提供 |
| 近畿 | 京都市立病院 | 京都府京都市 | ダヴィンチSPとダヴィンチXiを保有。累計1100例以上(泌尿器科のみ) |
| 九州 | 済生会熊本病院 | 熊本県熊本市 | ダヴィンチを3台保有し、2025年8月時点で累計4023件以上を実施 |
| 九州 | 福岡徳洲会病院 | 福岡県春日市 | 前立腺がんを中心にロボット支援手術を実施 |
陽子線治療とは
陽子線治療は、水素原子核である陽子を光速の約60%まで加速し、がん病巣に照射する放射線治療です。従来のX線治療と異なり、陽子線は体内の一定の深さで止まる性質(ブラッグピーク)を持つため、がん病巣に高い線量を集中させながら、周囲の正常組織への影響を最小限に抑えることができます。
陽子線治療の特徴
前立腺がんに対する陽子線治療は、外来通院で実施でき、臓器を温存しながら治療できることが大きな特徴です。治療は通常1日1回、週3~5回行われ、合計4~40回程度繰り返されます。1回の治療時間は約15~30分です。
前立腺がんでは、治療効果を高めるために1回の線量を増やして治療期間を短縮する「寡分割照射」が行われることがあります。例えば、神戸陽子線センターでは1日3Gyで治療期間5週間(合計21回)の中程度寡分割照射を実施しています。
リスク分類による治療方針
| リスク分類 | 治療方針 |
|---|---|
| 低リスク | 陽子線治療単独で実施。治療期間約5週間 |
| 中リスク | 約半年間のホルモン療法併用後に陽子線治療を実施。ホルモン療法は陽子線治療終了時まで継続 |
| 高リスク | 約半年間のホルモン療法併用後に陽子線治療を実施。ホルモン療法は陽子線治療終了後も継続し、全3年間継続 |
陽子線治療の費用と保険適用
2018年4月より、限局性および局所進行性前立腺がん(転移を有するものを除く)に対する陽子線治療は保険適用となりました。2022年4月現在、保険診療での陽子線治療費は160万円です。
3割負担の場合、約48万円となりますが、高額療養費制度を利用することで実際の自己負担額は大幅に抑えることができます。多くの場合、所得区分により約8~12万円程度となります。治療の開始日までに「限度額適用認定証」を取得しておくことで、窓口での支払いが限度額までとなります。
陽子線治療の副作用
陽子線治療では、周囲の正常組織への線量を低減できるため、長期的な副作用が少ないとされています。ただし、治療中や治療後に頻尿、血尿、直腸出血などの副作用が現れることがあります。これらの多くは一時的なもので、時間とともに改善します。
主な陽子線治療施設
| 施設名 | 所在地 | 特徴 |
|---|---|---|
| 国立がん研究センター東病院 | 千葉県柏市 | 2015年より陽子線ラインスキャニング照射法を導入。前立腺内に金マーカーを挿入し高精度治療を実施 |
| 南東北がん陽子線治療センター | 福島県郡山市 | 日本における陽子線治療の先駆的施設 |
| 筑波大学陽子線医学利用研究センター | 茨城県つくば市 | 大学病院として臨床研究も実施 |
| 神戸陽子線センター | 兵庫県神戸市 | 強度変調陽子線治療(IMPT)を実施。前立腺と直腸の間にスペーサーを挿入し直腸への線量を低減 |
| 名古屋陽子線治療センター | 愛知県名古屋市 | 名古屋市立西部医療センター内に設置。スペーサー注入術を実施 |
| 静岡県立静岡がんセンター | 静岡県駿東郡長泉町 | がん専門病院として集学的治療を提供 |
| 福井県立病院陽子線がん治療センター | 福井県福井市 | 北陸地域の陽子線治療拠点 |
| 兵庫県立粒子線医療センター | 兵庫県たつの市 | 陽子線と重粒子線の両方を提供 |
| 中部国際医療センター陽子線がん治療センター | 岐阜県美濃加茂市 | 34の診療科を持ち、多職種連携で包括的治療を提供 |
| 大阪陽子線クリニック | 大阪府大阪市 | 前立腺がんの超寡分割照射を実施 |
HIFU(高密度焦点式超音波療法)とは
HIFU(High Intensity Focused Ultrasound:高密度焦点式超音波療法)は、強力な超音波を前立腺内のがん病巣に集中的に照射し、80~98℃の高温で焼灼する治療法です。1992年に前立腺肥大症の治療として開発され、1999年から世界で初めて前立腺がんの治療に応用されました。
HIFUの仕組みと治療方法
HIFUでは、超音波を凹レンズのように集束させることで、通常の1万5000倍となる1260~1680W/cm2の強さで焦点領域を加熱します。この焦点領域は縦3mm×横3mm×深さ12mm(体積0.108mL)と非常に小さく、この小さな領域を少しずつ移動させながら格子状に重ね合わせることで、目的とする範囲のがんを焼灼します。
焦点から5mmずれただけで温度は50℃前後まで低下するため、周囲の正常組織を傷めることがありません。治療は経直腸的にプローベを挿入し、全身麻酔または脊椎麻酔下で行われます。
HIFUの利点と特徴
HIFUの最大の利点は、体への負担が少なく、必要があれば何度でも治療を繰り返すことができる点です。放射線治療や手術後に再発した場合でも、HIFUによる治療が可能です。また、入院期間が短く(通常1~2日程度)、早期の社会復帰が可能です。
近年では、前立腺全体を治療する「全腺治療」ではなく、MRI画像や生検技術の進歩により局在診断されたがんの部位のみを治療する「局所療法(フォーカルセラピー)」として実施されることが主流となっています。これにより、排尿機能や性機能を可能な限り温存することができます。
HIFUの費用と保険適用
2023年2月より、HIFUを用いた前立腺がん局所療法は先進医療として認可されました。ただし、2026年1月現在、保険適用にはなっておらず、自由診療または先進医療として実施されています。
治療費は施設によって異なりますが、入院費などを含めて80~120万円程度が相場となっています。先進医療の場合、HIFU治療に関わる費用は全額自己負担となりますが、その他の検査や入院費用は保険適用となります。
HIFUの合併症
HIFUは体への負担が少ない治療法ですが、以下のような合併症が報告されています。
| 合併症 | 内容 |
|---|---|
| 尿道狭窄 | 焼灼した部分が尿道を狭くして尿が出にくくなる状態。定期的な尿流量検査でチェックし、必要に応じて尿道ブジーなどで対処 |
| 一時的尿失禁 | 術後1か月ほど紙おむつが必要となることがある。手術療法に比べて発生頻度は低い |
| 勃起障害(ED) | 術後6か月で42%、1年で32%、2年で26%に見られる。ED治療薬で改善可能な例も含まれ、手術療法や放射線療法より発生確率は低い |
| 精巣上体炎 | 治療後に炎症が生じることがある |
| 尿道直腸瘻 | 非常に稀だが、前立腺と直腸の間に瘻孔が形成されることがある |
HIFUの適応条件
HIFUによる局所療法の適応は、MRI-超音波融合画像ガイド下前立腺生検により局在診断が行われた、低リスクから中リスクの限局性前立腺がんです。前立腺全体ではなく、がんの部位が特定できることが条件となります。
主なHIFU実施施設
2026年1月現在、前立腺がんに対するHIFUを用いた局所療法(フォーカルセラピー)を実施している主な施設は以下の通りです。
| 施設名 | 所在地 | 特徴 |
|---|---|---|
| 東海大学医学部付属病院 | 神奈川県伊勢原市 | 世界で初めてHIFUによる前立腺がん治療を開始した施設。小路直教授が先進医療として実施。MRI-超音波融合画像による生検システムも導入 |
| 済生会川口総合病院 | 埼玉県川口市 | 先進医療として局所療法を実施 |
| 香川大学医学部附属病院 | 香川県木田郡三木町 | 西日本初の先進医療実施施設(全国で3施設目)として2024年11月より開始 |
| 医誠会国際総合病院 | 大阪府大阪市 | 2026年4月より治療開始予定。東海大学の小路直教授の協力のもと実施 |
なお、HIFUは前立腺がん以外にも、前立腺肥大症、本態性振戦、パーキンソン病に対しては保険診療として実施されています。
治療法の選択について
前立腺がんの治療法を選ぶ際には、がんのリスク分類(低・中・高リスク)、年齢、全身状態、患者さん自身の希望など、様々な要素を総合的に考慮する必要があります。
治療法の比較
| 治療法 | 入院 | 治療期間 | 保険適用 | 主な利点 | 主な課題 |
|---|---|---|---|---|---|
| ロボット手術 | あり(7~10日) | 1日 | あり | 根治性が高い、機能温存率が向上、早期回復 | 全身麻酔が必要、術後の尿失禁や勃起障害のリスク |
| 陽子線治療 | 原則不要 | 約5週間 | あり | 臓器温存、通院治療可能、周囲組織への影響が少ない | 通院回数が多い、放射線の晩期障害の可能性 |
| HIFU | あり(1~2日) | 1日 | なし(先進医療) | 低侵襲、繰り返し治療可能、機能温存率が高い | 全額自己負担、長期成績のデータが限られる |
病院選びのポイント
治療を受ける医療機関を選ぶ際には、以下のポイントを考慮することをおすすめします。
1. 症例数と実績:年間の手術件数や累計症例数は、医療チームの習熟度を示す重要な指標です。
2. 認定医・指導医の在籍:日本泌尿器内視鏡・ロボティクス学会のプロクター認定医や、日本医学放射線学会の放射線治療専門医など、専門的な資格を持つ医師が在籍しているか確認します。
3. 設備の充実度:最新機器の導入状況や、複数のダヴィンチを保有しているかなど、治療環境を確認します。
4. 多職種連携:医師、看護師、放射線技師、医学物理士など、専門スタッフがチームとして治療にあたる体制が整っているか確認します。
5. アクセス:陽子線治療のように通院治療が必要な場合、自宅からの距離や交通の便も重要な要素となります。
セカンドオピニオンの活用
前立腺がんの治療は、患者さんの状態や希望によって最適な選択が異なります。複数の医療機関でセカンドオピニオンを受けることで、より納得のいく治療選択ができることがあります。
多くの医療機関でセカンドオピニオン外来を設けているので、遠慮なく相談してみましょう。
参考文献・出典
順天堂大学医学部附属順天堂医院 泌尿器科 前立腺がんに対するロボット支援手術
板橋中央総合病院 前立腺がんの根治を目指す手術支援ロボット「ダビンチ」


