
こんにちは。がん専門のアドバイザー、本村ユウジです。
乳がんの治療で乳房切除を受けた患者さんにとって、乳房再建は重要な選択肢です。
2026年現在、乳房再建手術は保険適用となっており、以前と比べて経済的な負担は軽減されています。しかし、手術方法によって費用や入院期間、体への負担は異なります。
本記事では、乳房再建手術の費用、術式別の特徴、2026年に予定されている高額療養費制度の改定について、患者さんが治療選択をする際に必要な情報を詳しく解説します。
乳房再建手術とは
乳房再建とは、乳がんの手術によって失われた乳房を、形成外科の技術によって再び作り直す手術です。乳房を再建することで乳がんの再発が増えることはなく、また再発の診断に影響することもありません。
乳房再建を行うことで、乳房の喪失感が軽減され、下着着用時の補正パッドが不要になるなど、日常生活の不便さが減少します。ただし、再建の時期や方法、放射線治療との関係、手術を行う施設の状況など、検討すべき点は多くあります。
再建を検討したい患者さんは、手術前に形成外科医と乳腺外科医の両方とよく相談することが大切です。
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がん専門アドバイザー 本村ユウジ
乳房再建の保険適用と費用負担の仕組み
保険適用の範囲
2006年の保険制度改定によって、乳房切除後の乳房再建は保険適用が認められました。現在、主要な再建方法はすべて保険診療の対象となっています。
保険適用の対象となる乳房再建手術は以下の通りです。
- シリコンインプラント(人工乳房)による再建
- 自家組織(自分の体の一部)を用いた再建
- 組織拡張器(エキスパンダー)の使用
- 乳頭・乳輪の再建
一次再建(乳がん手術と同時)と二次再建(乳がん手術後の別時期)のいずれも保険適用の対象です。
術式別の費用概算
乳房再建手術の費用は、手術の内容や施設によって異なります。保険適用で3割負担の場合の概算費用は以下の通りです。
| 再建方法 | 3割負担での費用 | 入院期間の目安 | 手術時間の目安 |
|---|---|---|---|
| インプラント(二期再建) | 15万~40万円 | 1回目:4~10日、2回目:2~4日 | 1~2時間程度 |
| 広背筋皮弁 | 30万~50万円 | 7~14日程度 | 4~5時間程度 |
| DIEP皮弁(腹部) | 40万~60万円 | 7~14日程度 | 5~7時間程度 |
| 腹直筋皮弁 | 35万~55万円 | 10~14日程度 | 5~7時間程度 |
これらの費用には、手術費、麻酔費、入院費、術前術後の検査費用などが含まれます。ただし、個室料金の差額ベッド代や、入院中の食事代の一部などは別途必要です。
高額療養費制度の活用
乳房再建手術では、高額療養費制度を利用することで実際の負担額を軽減できます。この制度は、同一月(1日から月末まで)にかかった医療費の自己負担額が一定額を超えた場合、超えた分が払い戻される仕組みです。
2026年現在、69歳以下で標準的な収入(年収約370万~770万円)の患者さんの場合、月額の自己負担限度額は以下の計算式で算出されます。
自己負担限度額 = 80,100円 + (医療費 - 267,000円) × 1%
例えば、3割負担で30万円の医療費がかかった場合、実際の窓口負担は約9万円となります(事前申請した場合)。事後申請でも、後日差額が還付されます。
2026年8月以降の高額療養費制度改定
2026年8月から、高額療養費制度の自己負担限度額が改定される予定です。年収約370万~770万円の所得層では、月額の上限が約8万6,000円程度に引き上げられます。
さらに2027年8月には、所得区分が現在の4区分から13区分に細分化され、より所得に応じた負担となる予定です。ただし、長期療養者の負担を軽減する「多数回該当」の仕組みは維持され、その上限額も据え置かれる予定です。
また、2026年からは年間の自己負担上限額も新たに設定される予定で、年収約370万~770万円の層では年間約53万円が上限となる見込みです。
乳房再建の時期とタイミング
一次再建と二次再建
乳房再建は、実施する時期によって一次再建と二次再建に分けられます。
一次再建は、乳がんの手術と同時に乳房再建を開始する方法です。1回の手術で乳がん切除と再建が同時に行えるため、入院回数が少なく、乳房喪失の期間がないという利点があります。
二次再建は、乳がんの手術後、ある程度時間をおいてから乳房再建を行う方法です。乳がんの治療に集中できる、体力や気持ちが落ち着いてから再建を検討できるという利点があります。
どちらの時期を選択するかは、乳がんの進行度、再発リスク、術後の補助療法(放射線治療や薬物療法)の予定、患者さんの希望などを総合的に考慮して決定します。患者さん、形成外科医、乳腺外科医の3者でよく話し合うことが重要です。
一期再建と二期再建
乳房再建は、手術回数によっても分類されます。
一期再建は、1回の手術で乳房の形を完成させる方法です。主に自家組織を用いた再建で行われます。
二期再建は、2回の手術で乳房を再建する方法です。まず組織拡張器(エキスパンダー)を挿入して皮膚を伸ばし、数か月後に本物のインプラントや自家組織と入れ替えます。現在、インプラントによる再建の多くはこの方法で行われています。
乳房再建の術式と特徴
インプラント(シリコン人工乳房)による再建
インプラントによる再建は、シリコン製の人工乳房を大胸筋の下に挿入して乳房の形を作る方法です。2013年7月から保険適用となり、多くの患者さんが選択しています。
手術は通常、二期再建で行われます。まず、組織拡張器(エキスパンダー)を胸の筋肉の下に挿入します。その後、2~3週間に1回程度の外来通院で生理食塩水を注入し、約6か月かけて皮膚を徐々に伸ばします。皮膚が十分に伸びて安定したら、2回目の手術でエキスパンダーを取り出し、シリコンインプラントに入れ替えます。
メリット
- 体の他の部位に傷をつけずに済む
- 手術時間が短い(1~2時間程度)
- 入院期間が短い
- 比較的体への負担が少ない
デメリット
- 人工物特有の硬さや冷たさを感じることがある
- 加齢による健側乳房の下垂に対応できず、左右差が生じやすい
- 被膜拘縮(周囲が硬くなる)のリスクがある
- インプラントの破損や劣化により、将来的に入れ替えが必要になる可能性がある
- 定期的な検査(1~2年に1回)が必要
- 稀に乳房インプラント関連未分化大細胞型リンパ腫(BIA-ALCL)が発生する可能性がある
自家組織による再建
自家組織による再建は、患者さん自身の体の一部(皮膚、脂肪、筋肉など)を乳房に移植して再建する方法です。
広背筋皮弁法
背中の広背筋と、その上の皮膚・脂肪を血管がつながった状態で胸部に移動させて乳房を作る方法です。
手術時間は4~5時間程度、入院期間は7~14日程度です。背中の脂肪量は腹部より少ないため、比較的小さい乳房の患者さんに適しています。
深下腹壁動脈穿通枝皮弁(DIEP皮弁)法
下腹部の皮膚と脂肪を、血管をつけた状態で採取し、顕微鏡下で胸部の血管とつなぎ合わせる方法です。腹直筋はほとんど採取しないため、腹部への負担が少ないのが特徴です。
手術時間は5~7時間程度、入院期間は7~14日程度です。腹部の脂肪が豊富なため、大きな乳房の患者さんにも対応できます。
腹直筋皮弁法
下腹部の皮膚、脂肪、腹直筋の一部を移植する方法です。DIEP皮弁と比べて、腹直筋を一部採取するため、術後の腹部への影響が大きくなります。
自家組織再建のメリット
- 自分の組織なので、温かく柔らかい自然な仕上がりになる
- 加齢による変化が健側乳房と同じように起こる
- 一度完成すれば、将来的な入れ替えの必要がない
- インプラント関連のリンパ腫のリスクがない
- 感染への抵抗性が高い
自家組織再建のデメリット
- 手術時間が長い
- 入院期間が長い
- 組織を採取した部位(背中や腹部)に傷跡が残る
- 採取部位の機能低下(背部の筋力低下、腹部の違和感など)が起こる可能性がある
- 稀に移植した組織が生着せず、壊死する可能性がある(2~3%程度)
術式別の比較表
| 項目 | インプラント | 自家組織(広背筋) | 自家組織(腹部) |
|---|---|---|---|
| 保険適用 | あり | あり | あり |
| 3割負担での費用 | 15万~40万円 | 30万~50万円 | 40万~60万円 |
| 手術時間 | 短い(1~2時間) | 中程度(4~5時間) | 長い(5~7時間) |
| 入院期間 | 短い(4~10日) | やや長い(7~14日) | やや長い(7~14日) |
| 新たな傷 | なし | 背中 | 腹部 |
| 感触 | やや硬い | 柔らかく自然 | 柔らかく自然 |
| 定期検査 | 必要(1~2年ごと) | 不要 | 不要 |
| 将来の入れ替え | 必要な場合あり | 不要 | 不要 |
| 加齢による変化 | 変化しない | 健側と同様に変化 | 健側と同様に変化 |
放射線治療と乳房再建の関係
放射線治療は皮膚にダメージを与え、皮膚が硬くなったり伸びにくくなったりするため、乳房再建に影響を与えます。
放射線治療後にインプラントによる二次再建を行う場合、感染や被膜拘縮などの合併症のリスクが高くなるため、慎重な判断が必要です。自家組織による二次再建は可能な場合もありますが、傷の治りや仕上がりに影響が出ることがあります。
リンパ節への転移が4個以上の場合には、乳房手術後に胸壁への放射線照射が推奨されることがあります。このような患者さんには、一次再建が適している場合もあれば、放射線治療終了後1年以上経過してからの二次再建が適している場合もあります。
放射線治療の予定がある場合は、手術前に担当医と十分に相談することが重要です。
乳頭・乳輪の再建
乳頭や乳輪を切除した場合は、乳房のふくらみを作った後、形や位置が安定してから乳頭・乳輪の再建を行います。通常、乳房再建から6か月~1年後に実施されます。
乳頭の再建は、局所の皮膚を立ち上げる方法や、健側の乳頭の一部を移植する方法があります。乳輪の再建は、足の付け根などの皮膚を移植する方法や、医療用刺青(タトゥー)で色を再現する方法があります。
乳頭・乳輪の再建も保険適用の対象です(医療用刺青は保険適用外)。
再建手術を受ける施設の選び方
乳房再建は、形成外科医の技術や経験、施設の体制によって結果が大きく異なります。できれば、年間10例以上の乳房再建を行っている施設で手術を受けることが望ましいとされています。
特に、自家組織による再建は高度な技術を要するため、経験豊富な形成外科医のいる施設を選ぶことが重要です。また、乳腺外科と形成外科の連携がしっかりしている施設であれば、一次再建もスムーズに行えます。
乳房再建を選択する際の考慮点
乳房再建を行うかどうか、どの方法を選ぶかは、以下のような点を考慮して決定します。
- 患者さんの年齢と体力
- 乳がんの進行度と再発リスク
- 術後の補助療法(放射線治療、薬物療法など)の予定
- 健側乳房の大きさと形
- 患者さんの体型(やせ型、標準、肥満など)
- 生活スタイルや職業
- 経済的な負担
- 患者さん自身の希望
また、乳房再建は必須ではありません。再建しない選択肢もあり、その場合は補正下着やパッドを使用して日常生活を送ることができます。将来、気持ちが変わった時に二次再建を選択することも可能です。
まとめ
乳房再建手術は保険適用であり、高額療養費制度を利用することで実質的な負担を軽減できます。インプラントによる再建と自家組織による再建にはそれぞれメリットとデメリットがあり、患者さんの状況に応じて最適な方法を選択することが大切です。
2026年8月からは高額療養費制度の改定が予定されていますが、多数回該当の仕組みは維持され、年間上限額も新設される予定です。長期的な治療が必要な患者さんへの配慮も継続されます。
乳房再建を検討する際は、形成外科医と乳腺外科医の両方とよく相談し、納得のいく選択をすることが重要です。