
こんにちは。がん専門のアドバイザー、本村ユウジです。
前立腺がんの治療において、薬物療法は重要な選択肢の一つです。特に進行した前立腺がんや転移のある場合、ホルモン療法や抗がん剤治療が中心となります。
近年、前立腺がんの薬物療法は大きく進歩しました。2014年に登場した新規ホルモン療法薬に加えて、2025年には前立腺がん細胞を標的とした放射性医薬品も登場するなど、治療の選択肢は着実に広がっています。
一方で、これらの新しい治療薬は効果が期待できる反面、費用が高額になることが課題です。治療費用を正しく理解し、利用できる制度を知っておくことは、治療を継続していくうえで欠かせません。
この記事では、前立腺がんの薬物療法にかかる費用の実態と、高額療養費制度などの補助制度について、2026年の最新情報をもとに詳しく解説します。
前立腺がんの薬物療法の種類と位置づけ
前立腺がんの薬物療法は、主にホルモン療法(内分泌療法)と化学療法(抗がん剤治療)に分けられます。治療の選択は、がんの進行度、転移の有無、これまでの治療歴などによって決まります。
ホルモン療法は、前立腺がんが男性ホルモン(アンドロゲン)によって増殖する性質を利用した治療法です。
精巣からのアンドロゲン分泌を抑えるLH-RHアゴニスト製剤(リュープリン、ゾラデックスなど)や、アンドロゲンの作用をブロックする抗アンドロゲン薬(カソデックス、オダインなど)を使用します。
しかし、ホルモン療法を続けていると、多くの場合、効果が薄れてくることがあります。このような状態を「去勢抵抗性前立腺がん」と呼びます。去勢抵抗性前立腺がんに対しては、より強力な新規ホルモン療法薬や抗がん剤を使用することになります。
前立腺がんの主な薬物療法とその費用
初回ホルモン療法
初回のホルモン療法では、以下のような薬剤が使用されます。
| 薬剤名(一般名) | 商品名 | 投与方法 | 薬価(保険適用前) |
|---|---|---|---|
| リュープロレリン酢酸塩 | リュープリン | 月1回または3カ月に1回の注射 | 約24,000円〜44,000円/月 |
| ゴセレリン酢酸塩 | ゾラデックス | 月1回または3カ月に1回の注射 | 約23,000円/月 |
| ビカルタミド | カソデックス | 毎日1回内服 | 約27,000円/月 |
| フルタミド | オダイン | 毎日3回内服 | 約26,000円/月 |
初回ホルモン療法では、これらの薬剤を単独または組み合わせて使用します。多くの場合、注射剤と内服薬を併用するMAB療法が行われます。その場合、月あたりの薬剤費は保険適用前で5万円から7万円程度になります。
新規ホルモン療法薬
初回ホルモン療法が効かなくなった去勢抵抗性前立腺がんに対しては、より強力な新規ホルモン療法薬が使用されます。
| 薬剤名(一般名) | 商品名 | 投与方法 | 薬価(保険適用前・月額) |
|---|---|---|---|
| エンザルタミド | イクスタンジ | 毎日1回内服(160mg) | 約38万円 |
| アビラテロン酢酸エステル | ザイティガ | 毎日1回内服(1,000mg) | 約44万円 |
| アパルタミド | アーリーダ | 毎日1回内服(240mg) | 約39万円 |
| ダロルタミド | ニュベクオ | 毎日2回内服(600mg×2回) | 約40万円 |
これらの新規ホルモン療法薬は、1カ月の薬価が38万円から44万円と高額です。ザイティガを使用する場合は、副作用を抑えるためにプレドニゾロン(副腎皮質ステロイド)の併用が必要となります。
新規ホルモン療法薬の治療効果として、約70%の患者さんでPSA(前立腺特異抗原)の数値を半分以下に下げることができ、平均して28カ月程度の治療効果が期待できるとされています。
抗がん剤治療
新規ホルモン療法薬でも効果が得られなくなった場合や、がんの進行が速い場合には、抗がん剤治療が行われます。
| 薬剤名(一般名) | 商品名 | 投与方法 | 薬価(保険適用前) |
|---|---|---|---|
| ドセタキセル | タキソテール | 3週間に1回の点滴 | 約9万円/回 |
| カバジタキセル | ジェブタナ | 3週間に1回の点滴 | 約60万円/回 |
ドセタキセルは比較的副作用が軽く、外来通院での治療が可能です。一方、カバジタキセルはドセタキセルが効かなくなった場合に使用される薬剤で、費用は1回あたり約60万円と高額です。
骨転移治療薬
前立腺がんは骨に転移しやすいという特徴があります。骨転移による骨折や痛みを予防するため、骨修飾薬が使用されます。
| 薬剤名(一般名) | 商品名 | 投与方法 | 薬価(保険適用前・月額) |
|---|---|---|---|
| ゾレドロン酸 | ゾメタ | 月1回の点滴 | 約33,000円 |
| デノスマブ | ランマーク | 月1回の皮下注射 | 約46,000円 |
| 塩化ラジウム(223Ra) | ゾーフィゴ | 4週間に1回の静脈注射(最大6回) | 約100万円/回 |
ゾーフィゴは、骨転移部位に選択的に集まり、放射線を放出することで骨転移による痛みを軽減し、生存期間の延長も期待できる薬剤です。
最新の放射性医薬品治療
2025年9月に承認され、11月に薬価収載された「プルヴィクト」は、前立腺がん治療の新たな選択肢として注目されています。
プルヴィクトは、前立腺がん細胞の表面に多く発現するPSMA(前立腺特異的膜抗原)を標的とした放射性リガンド療法です。PSMA陽性の遠隔転移を有する去勢抵抗性前立腺がんの患者さんで、新規ホルモン療法薬と抗がん剤による治療を受けた後に使用できます。
投与方法は6週間間隔で最大6回の静脈注射で、1回の治療につき1〜2日程度の入院が必要となります。プルヴィクトの薬価は現時点で公表されていませんが、同様の放射性医薬品であるルタテラ(神経内分泌腫瘍用)が1回あたり約280万円であることから、同程度の費用が予想されます。
ただし、保険適用となるため、高額療養費制度を利用することで自己負担額を抑えることができます。
「自分の判断は正しいのか?」と不安な方へ
がん治療。
何を信じれば?
不安と恐怖で苦しい。
がん治療を左右するのは
治療法より“たった1つの条件”です。
まず、それを知ってください。
がん専門アドバイザー 本村ユウジ
高額療養費制度と自己負担額
前立腺がんの薬物療法は保険適用となるため、実際の自己負担額は医療費の1割から3割となります。さらに、高額療養費制度を利用することで、月々の自己負担額に上限が設けられます。
現在の高額療養費制度(2026年7月まで)
70歳未満の方の自己負担限度額は、所得に応じて以下のように設定されています。
| 所得区分 | 自己負担限度額(月額) | 多数回該当(4回目以降) |
|---|---|---|
| 年収約1,160万円以上 | 252,600円+(医療費-842,000円)×1% | 140,100円 |
| 年収約770万円〜約1,160万円 | 167,400円+(医療費-558,000円)×1% | 93,000円 |
| 年収約370万円〜約770万円 | 80,100円+(医療費-267,000円)×1% | 44,400円 |
| 年収約370万円以下 | 57,600円 | 44,400円 |
| 住民税非課税世帯 | 35,400円 | 24,600円 |
例えば、年収500万円の方が新規ホルモン療法薬(薬価40万円)を使用した場合、3割負担で12万円の窓口支払いとなりますが、高額療養費制度を利用すると、実際の自己負担額は約8万7,000円となります。
計算式:80,100円+(400,000円-267,000円)×1%=81,430円
これに初回ホルモン療法の注射剤などを併用すると、月額約8万7,000円程度となります。
2026年8月以降の高額療養費制度改正
2026年8月から、高額療養費制度の見直しが段階的に実施されます。主な変更点は以下の通りです。
2026年8月の変更点:
- 年収約370万円〜約770万円の区分:月額限度額が80,100円+1%から85,800円+1%に引き上げ
- 年間上限額の新設:53万円(多数回該当に該当しない長期療養者への配慮)
2027年8月の変更点:
- 所得区分の細分化:現在の4区分から12区分へ
- 年収約370万円〜約510万円:据え置き(80,100円+1%)
- 年収約510万円〜約650万円:98,100円+1%
- 年収約650万円〜約770万円:110,400円+1%
この改正により、所得に応じたきめ細かい負担設定となりますが、年収が高い層では月々の自己負担額が増加します。一方で、年間上限額の新設により、長期間治療を続ける患者さんの負担が一定額以上にならないよう配慮されています。
実際の自己負担額の例
新規ホルモン療法薬を12カ月継続した場合の自己負担額を、2026年8月以降の制度で計算してみます。
年収500万円の方の場合(2026年8月〜2027年7月):
- 1〜3カ月目:各月約8万8,000円
- 4カ月目以降(多数回該当):各月44,400円
- 年間合計:約66万4,000円
ただし、年間上限額53万円が適用されるため、実際の年間自己負担額は53万円となります。
年収650万円の方の場合(2027年8月以降):
- 1〜3カ月目:各月約11万2,000円
- 4カ月目以降(多数回該当):各月93,000円
- 年間合計:約117万円
この場合、年間上限額は設定されていないため、年間で約117万円の自己負担となります。
治療費負担を軽減するための補助制度
限度額適用認定証の活用
高額療養費制度を利用する際、通常は一度窓口で全額を支払い、後日払い戻しを受ける形となります。しかし、「限度額適用認定証」を事前に取得して医療機関に提示すれば、窓口での支払いを最初から自己負担限度額までに抑えることができます。
限度額適用認定証は、加入している健康保険の窓口(協会けんぽ、健康保険組合、国民健康保険など)に申請することで発行されます。入院や高額な外来治療を受ける前に申請しておくことをお勧めします。
医療費控除
1年間に支払った医療費が一定額を超えた場合、確定申告をすることで所得税や住民税の還付を受けることができます。医療費控除の対象となるのは、自己負担した医療費が10万円(または所得の5%のいずれか少ない方)を超えた部分です。
前立腺がんの治療では、薬剤費だけでなく、通院のための交通費や入院費用なども医療費控除の対象となります。領収書は必ず保管しておきましょう。
民間の医療保険・がん保険
がん保険や医療保険に加入している場合、診断給付金や入院給付金、通院給付金などが受け取れる可能性があります。保険契約の内容を確認し、該当する給付金がある場合は保険会社に請求しましょう。
ただし、保険金を受け取るためには診断書が必要となる場合が多く、診断書の作成には数千円の費用がかかります。給付金額と診断書作成費用のバランスを考えて請求するかどうか判断することも大切です。
治療選択と費用のバランス
前立腺がんの薬物療法において、新しい治療薬は確かに効果が期待できます。しかし、治療効果と医療費の両面から考えて、適切なタイミングで使用することが重要です。
例えば、新規ホルモン療法薬は、初回ホルモン療法が効かなくなった去勢抵抗性前立腺がんに対して承認されています。初回ホルモン療法で効果が得られている間は、従来の治療を続けることが一般的です。
また、がんの進行速度や転移の程度、患者さんの年齢や全身状態によっても、最適な治療法は異なります。主治医とよく相談し、治療効果と費用負担のバランスを考慮しながら治療計画を立てることが大切です。
治療費の支払いが困難な場合
高額療養費制度を利用しても、月々の自己負担額が家計を圧迫する場合があります。そのような場合には、以下のような対応を検討してください。
病院の医療ソーシャルワーカーへの相談
多くの病院には医療ソーシャルワーカー(MSW)が配置されています。MSWは、医療費の支払いに関する相談に応じ、利用できる制度の案内や支払い方法の調整などをサポートしてくれます。
分割払いの相談
医療機関によっては、医療費の分割払いに応じてくれる場合があります。一度に支払うことが困難な場合は、会計窓口や医療ソーシャルワーカーに相談してみましょう。
生活福祉資金貸付制度
低所得世帯や高齢者世帯などを対象に、医療費の支払いのために必要な資金を無利子または低利で貸し付ける制度があります。お住まいの地域の社会福祉協議会に問い合わせてください。
セカンドオピニオンの活用
前立腺がんの治療において、複数の治療選択肢がある場合、セカンドオピニオンを受けることも一つの方法です。他の医療機関の専門医の意見を聞くことで、治療法の理解が深まり、納得して治療に臨むことができます。
セカンドオピニオンを受ける際には、紹介状や検査結果などの資料が必要です。また、セカンドオピニオンの費用(通常3万円程度)は自己負担となります。
治療と向き合うために
前立腺がんの薬物療法は、適切に使用することで病気の進行を抑え、生活の質を維持することができます。一方で、治療が長期にわたる場合、費用負担は決して軽くありません。
高額療養費制度をはじめとする公的な補助制度を最大限に活用し、必要に応じて医療ソーシャルワーカーなどの専門家に相談することが大切です。また、治療効果と費用負担のバランスを考え、主治医とよく話し合いながら治療計画を立てていくことが重要です。
治療に専念できる環境を整えるためにも、経済的な不安を一人で抱え込まず、利用できる制度や相談窓口を積極的に活用していきましょう。