
前立腺がんの病期分類について
こんにちは。がん専門のアドバイザー、本村ユウジです。
前立腺がんと診断された後、治療方針を決める際に最も重要となるのが病期分類(ステージ分類)です。病期分類とは、がんがどの程度進行しているのか、前立腺の外まで広がっているのか、転移があるのかといった情報を体系的に整理する方法です。
前立腺がんの病期を正確に把握することで、患者さん一人ひとりに最適な治療法を選択できます。現在の医療現場では主に「TNM分類」が使われていますが、「ABCD分類(ジュエット分類)」という分類法も併用されることがあります。
この記事では、これらの病期分類の仕組みと、それぞれの分類が治療選択にどう影響するのかを詳しく説明します。
TNM分類とは何か
TNM分類は、国際対がん連合(UICC)が定めた、世界標準の病期分類システムです。TNMはそれぞれ、Tumor(腫瘍、原発巣)、Nodes(リンパ節)、Metastasis(転移)の頭文字を取っています。
この分類法では、がんを3つの側面から評価します。
T分類:前立腺内のがんの広がり
T分類は、前立腺の中でがんがどこまで広がっているか、前立腺の外まで進んでいるかを示します。直腸診やMRI、CT検査などの画像診断によって判定されます。
T1は直腸診でも画像検査でも確認できない段階です。PSA検査の値が高いために行った針生検で偶然発見されたり、前立腺肥大症の手術の際に組織を調べて見つかったりします。
T2は、がんが前立腺内にとどまっている状態です。がんが前立腺の片方の半分以下にとどまっている場合はT2a、片方の半分を超えるがT2b、両方に広がっている場合はT2cと細かく分類されます。
T3では、がんが前立腺を包む被膜を破って外側に広がっています。被膜の外に出ている場合がT3a、精嚢(精液の一部を作る器官)にまで広がっている場合がT3bです。
T4になると、がんは精嚢以外の隣接する臓器、たとえば膀胱頸部、外尿道括約筋、直腸、挙筋、骨盤壁などに広がっている状態を指します。
N分類:リンパ節転移の有無
N分類は、前立腺周囲にある所属リンパ節へのがんの転移があるかどうかを示します。所属リンパ節とは、前立腺からのリンパ液が流れる骨盤内のリンパ節のことです。
N0は所属リンパ節への転移がない状態、N1は所属リンパ節への転移がある状態です。リンパ節転移の有無は、CT検査やMRI検査で確認します。
M分類:遠隔転移の有無
M分類は、前立腺から離れた臓器やリンパ節への転移の有無を示します。前立腺がんは特に骨に転移しやすい性質があります。
M0は遠隔転移がない状態です。M1は遠隔転移がある状態で、さらにM1a(所属リンパ節以外のリンパ節転移)、M1b(骨転移)、M1c(リンパ節・骨以外の臓器への転移)と細分化されます。
骨転移の有無は骨シンチグラフィー検査で、その他の臓器への転移はCTやMRI検査で確認します。
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がん専門アドバイザー 本村ユウジ
TNM分類の具体的な記載方法
TNM分類では、T、N、Mそれぞれの状態を組み合わせて表記します。
たとえば「T2aN0M0」と表記された場合、「がんは前立腺の片方の半分以下にとどまっており、リンパ節転移も遠隔転移もない」という意味になります。
「T3bN1M0」であれば、「がんは精嚢まで広がっており、所属リンパ節への転移はあるが、骨などへの遠隔転移はない」状態を表します。
この表記法により、医療従事者の間で患者さんのがんの状態を正確に共有でき、適切な治療計画を立てることができます。
TNM分類の詳細表
TNM分類をより詳しく理解していただくために、各分類の詳細を表にまとめました。
| 分類 | 状態 |
|---|---|
| T1a | 直腸診や画像検査では見つからないが、切除した組織の5%以下に偶然発見されたがん |
| T1b | 直腸診や画像検査では見つからないが、切除した組織の5%を超えて偶然発見されたがん |
| T1c | PSA値の上昇により針生検を行い発見されたがん |
| T2a | 前立腺の片方(片葉)の半分以下にとどまるがん |
| T2b | 前立腺の片方の半分を超えるが、両方には及ばないがん |
| T2c | 前立腺の両方に広がっているが、前立腺内にとどまるがん |
| T3a | 前立腺の被膜の外へ広がっているがん |
| T3b | 精嚢まで広がっているがん |
| T4 | 精嚢以外の隣接臓器(膀胱頸部、外尿道括約筋、直腸など)に広がっているがん |
| N0 | 所属リンパ節への転移なし |
| N1 | 所属リンパ節への転移あり |
| M0 | 遠隔転移なし |
| M1a | 所属リンパ節以外のリンパ節への転移あり |
| M1b | 骨への転移あり |
| M1c | リンパ節・骨以外の臓器への転移あり |
ABCD分類(ジュエット分類)について
ABCD分類は、ジュエット分類とも呼ばれる病期分類法で、日本泌尿器科学会と日本病理学会の前立腺がん取り扱い規約で採用されています。
この分類法は、がんの進行度をA、B、C、Dの4つの大きなグループに分けて表現します。TNM分類に比べると、分類が大まかで理解しやすいという特徴があります。
AからDに進むにつれて、がんが進行していることを示します。現在の治療現場ではTNM分類が主流ですが、ABCD分類も患者さんへの説明などで使われることがあります。
ABCD分類の詳細表
| 分類 | 状態 |
|---|---|
| A1 | 前立腺内にとどまる高分化がん(悪性度が低いがん) |
| A2 | 前立腺内に広がったがん、または低分化がん(悪性度が高いがん) |
| B0 | 触診では触れないがPSA高値により発見されたがん |
| B1 | 前立腺の片方に病変がとどまる単発のがん |
| B2 | 前立腺の片方全体、または両方にまたがるがん |
| C1 | 前立腺の被膜や被膜外に広がっているがん |
| C2 | 膀胱頸部または尿管の閉塞が見られるがん |
| D1 | 骨盤内のリンパ節にがんの転移が見られる状態 |
| D2 | D1より広い範囲のリンパ節や、骨、肺、肝臓などの遠隔部位にがんの転移が見られる状態 |
病期分類とステージの関係
TNM分類に基づいて、前立腺がんはステージI(A)からステージIV(D)の4段階に分類されることもあります。
ステージIはT1N0M0に相当し、がんが前立腺内の一部にとどまっている早期の状態です。ステージIIはT2N0M0で、がんが前立腺内にとどまっているものの、やや広がっている状態です。
ステージIIIはT3N0M0で、がんが前立腺の被膜を超えて広がっているが、転移はまだない状態です。ステージIVはT4またはN1またはM1のいずれかを満たす状態で、がんが隣接臓器に広がっているか、リンパ節転移や遠隔転移がある進行した状態です。
グリーソンスコアと悪性度の評価
病期分類と並んで重要なのが、がん細胞の悪性度を示すグリーソンスコアです。これは前立腺がん特有の評価方法で、がん細胞の組織構造を顕微鏡で観察して判定します。
前立腺がんでは、同じ前立腺内に悪性度の異なるがんが混在することが多いという特徴があります。そのため、生検で採取したがん組織の中で、最も面積の大きい組織型と2番目に大きい組織型のグレードをそれぞれ1から5点で評価し、その合計をグリーソンスコアとします。
たとえば、グレード3の組織とグレード4の組織があれば、「3+4=7」というグリーソンスコアになります。現在の診断では、最も悪性度の低いスコアが6(3+3)、最も悪性度の高いスコアが10(5+5)となり、スコアが高いほど悪性度が高く、増殖や転移のリスクが高いことを示します。
グリーソンスコア6は悪性度が低いがん、7は中程度の悪性度、8から10は悪性度が高いがんとされています。
リスク分類の重要性
現在の前立腺がん治療では、TNM分類やABCD分類に加えて、「リスク分類」という概念が非常に重要になっています。
リスク分類とは、治療後の再発のしやすさを予測するための分類法です。転移のない前立腺がんでは、T分類(がんの広がり)、グリーソンスコア(悪性度)、PSA値(前立腺特異抗原の血中濃度)の3つの要素を組み合わせて、再発リスクを評価します。
NCCNリスク分類
最も広く用いられているのが、米国のNCCN(National Comprehensive Cancer Network)が提唱するリスク分類です。この分類では、前立腺がんを超低リスク、低リスク、中間リスク(予後良好と予後不良に細分化)、高リスク、超高リスクの6段階に分けます。
超低リスクと低リスクの患者さんでは、すぐに手術や放射線治療を行わず、定期的に検査を行いながら経過を観察するPSA監視療法が選択肢となることもあります。
中間リスクの患者さんでは、手術や放射線治療が推奨されます。放射線治療の場合、ホルモン療法を併用することもあります。
高リスクや超高リスクの患者さんでは、手術や放射線治療に加えて、ホルモン療法の併用が推奨されます。また、手術の際には周囲のリンパ節を広く切除する拡大リンパ節郭清が行われることがあります。
リスク分類の詳細表
| リスク分類 | 条件 |
|---|---|
| 超低リスク | T1c、グリーソンスコア6以下、PSA値10ng/mL未満、陽性コア率50%未満、PSA密度0.15ng/mL/g未満 |
| 低リスク | T1-T2a、グリーソンスコア6以下、PSA値10ng/mL未満 |
| 中間リスク | T2b-T2c、またはグリーソンスコア7、またはPSA値10-20ng/mL |
| 高リスク | T3a、またはグリーソンスコア8-10、またはPSA値20ng/mL以上 |
| 超高リスク | T3b-T4、または複数の高リスク因子を持つ |
病期分類が治療選択に与える影響
病期分類とリスク分類の結果は、治療法の選択に直接影響します。
早期の前立腺がん(T1-T2、転移なし)で低リスクの場合、監視療法、手術(前立腺全摘除術)、放射線治療(外照射または小線源療法)のいずれかが選択肢となります。患者さんの年齢、期待余命、希望、生活の質への影響などを考慮して、最適な治療法を選びます。
中間リスクや高リスクの場合は、より積極的な治療が推奨されます。手術や放射線治療が基本となり、ホルモン療法の併用が検討されます。
局所進行がん(T3-T4、転移なし)では、放射線治療とホルモン療法の併用、または手術が選択されます。手術の場合は、周囲のリンパ節も切除する拡大リンパ節郭清が行われることが多くなります。
転移がある前立腺がん(N1またはM1)では、ホルモン療法が治療の中心となります。ホルモン療法でがんの勢いを抑えることが基本的な治療戦略です。がんがホルモン療法に反応しなくなった場合(去勢抵抗性前立腺がん)には、新規ホルモン薬や化学療法が検討されます。
病期分類における注意点
病期分類やリスク分類は、治療方針を決める上で重要な指標ですが、同じ分類の中でも患者さんごとに状態は異なります。
たとえば、同じ高リスクに分類されても、PSA値が8で直腸診で触れず、生検で12本中1本だけにがんが見つかった患者さんと、PSA値が20で直腸診でT3、生検12本中10本にグリーソンスコア9のがんが見つかった患者さんでは、実際の治療後の成績は異なる可能性があります。
そのため、病期分類やリスク分類は一つの目安として捉え、患者さん個人の状態、年齢、持病、希望などを総合的に考慮して、担当医とよく相談しながら治療方針を決めていくことが大切です。
病期診断のための検査
正確な病期分類を行うためには、さまざまな検査が必要です。
直腸診は、医師が指を直腸に入れて前立腺を触診する古典的な方法ですが、現在でも病期診断の基礎となる重要な検査です。
MRI検査は、前立腺の内部を詳しく観察できる検査で、がんが前立腺の被膜を超えているか、精嚢に浸潤しているかなどを確認できます。現在、前立腺がんの病期診断で最も有用な画像検査とされています。
CT検査は、リンパ節転移の有無や、周囲の臓器への広がりを確認するために行われます。
骨シンチグラフィー検査は、骨転移の有無を調べる検査です。少量の放射性物質を注射し、数時間後に全身の骨を撮影します。前立腺がんは骨に転移しやすいため、中間リスク以上の患者さんでは通常この検査が行われます。
針生検は、前立腺がんの確定診断だけでなく、グリーソンスコアの判定にも必要な検査です。通常、経直腸的または経会陰的に、10本から12本程度の組織を採取します。
まとめ
前立腺がんの病期分類は、TNM分類とABCD分類の2つの方法が用いられています。現在の医療現場では、より詳細な情報を提供できるTNM分類が主流となっています。
TNM分類では、T(がんの広がり)、N(リンパ節転移)、M(遠隔転移)の3つの要素でがんの進行度を評価します。ABCD分類は、A(前立腺内)からD(転移あり)の4段階で、より大まかにがんの進行度を示します。
これらの病期分類に、グリーソンスコア(悪性度)とPSA値を組み合わせたリスク分類も、治療方針の決定に重要な役割を果たしています。
患者さんは、自分のがんの病期分類とリスク分類を正確に理解することで、治療の選択肢について担当医とより建設的な話し合いができます。
参考文献・出典情報
前立腺がんの分類|前立腺がんについて|What's? 前立腺がん
前立腺がん 全ページ | 国立がん研究センター がん情報サービス
前立腺がん 治療 | 国立がん研究センター がん情報サービス