
こんにちは。がん専門のアドバイザー、本村ユウジです。
乳がんの診断や治療方針を決める上で、病理検査は欠かせない検査です。しかし、診断書には英語表記や専門用語が並び、「何が書いてあるのか」「それが何を意味するのか」理解するのは簡単ではありません。
乳がんが疑われたときの針生検、乳がん手術後の病理検査(病理診断)では、採取したがん細胞を調べて「がん細胞のタイプや特徴、悪性度」などを明らかにしていくわけですが、例を挙げると実際の診断書にはこのように書かれていることがあります。
【病理診断結果】
Invacive ductal carcinoma of left breast, partial mastectomy;It C, 9x7mm(浸潤径)、scirrhous carcinoma, f, NG1, ly-, v+, ER+, PgR+, HER2-, margin(-) → See comments, sn(0/2)+n(0/1)
看護士など医療用語が分かる人なら別ですが、一般の患者にとっては全く意味の分からない用語になります。
この記事では、2026年時点の最新情報に基づいて、乳がんの病理検査結果の読み方と、各項目が持つ意味(実際によく使われるカルテ上の英語の意味、アルファベットの意味、用語)の解説をしていきたいと思います。
日本乳癌学会が発行する「患者さんのための乳がん診療ガイドライン2023年版」の情報も反映しています。
病理検査とは何か
病理検査とは、採取したがん細胞や組織を顕微鏡で観察し、がんの種類や性質、広がりを調べる検査です。この検査は病理医が担当し、その結果が「病理診断」として報告されます。
病理検査が行われる場面は主に2つあります。1つは、乳房のしこりや分泌物の原因が悪性(がん)か良性かを判断する場合です。もう1つは、乳がんと診断された後に、がんの詳しい性質や進行度を調べる場合です。
手術前の針生検や手術後の病理検査では、採取したがん細胞について次のような項目を調べます。
- 浸潤の有無
- 腫瘍の大きさ
- がんの種類(組織型)
- がん細胞の悪性度
- リンパ節転移の有無と個数
- 脈管侵襲(血管やリンパ管への浸潤)
- ホルモン受容体の状態
- HER2タンパクの発現
- Ki-67の数値
- PD-L1の発現(2026年現在、トリプルネガティブ乳がんで検査)
これらの検査結果をもとに、手術の方法や薬物療法の種類が決められます。
乳がんのタイプ(組織型)について
乳がんは大きく「非浸潤乳がん」と「浸潤乳がん」の2つに分類されます。
非浸潤乳がん
非浸潤乳がんは、がん細胞が乳管や小葉の中にとどまっている状態で、ステージ0に相当する早期がんです。適切な治療を受ければ、転移や再発のリスクはほとんどありません。
診断書では次のように表記されます。
| 英語表記 | 日本語 |
|---|---|
| Ductal carcinoma in situ | 非浸潤性乳管がん |
| Intraductal carcinoma | 乳管内がん |
| Noninvasive ductal carcinoma | 非浸潤性乳管がん |
| Lobular carcinoma in situ | 非浸潤性小葉がん |
浸潤乳がん
浸潤乳がんは、がん細胞が乳管や小葉の外側(間質)に広がった状態です。このタイプは転移や再発のリスクがあります。
浸潤乳がんは「浸潤性乳管がん」と「特殊型がん」に分類されます。浸潤性乳管がん(Invasive ductal carcinoma)が通常型とされ、全体の約8割を占めます。
浸潤性乳管がんはさらに細かく分類されます。
| 英語表記 | 日本語 | 特徴 |
|---|---|---|
| Papillotubular carcinoma | 乳頭腺管がん | 悪性度が低い。全体の約20% |
| Solid tubular carcinoma | 充実腺管がん | 悪性度は中程度。全体の約20% |
| Scirrhous carcinoma | 硬がん | 悪性度が高い。全体の約40% |
特殊型がんは浸潤がんの1〜2割程度を占め、次のように分類されます。
| 英語表記 | 日本語 | 特徴 |
|---|---|---|
| Mucinous carcinoma | 粘液がん | 悪性度が低い。全体の約2% |
| Medullary carcinoma | 髄様がん | 悪性度が低い。全体の約1% |
| Invasive lobular carcinoma | 浸潤性小葉がん | 悪性度は中程度。全体の約10% |
| Adenoid cystic carcinoma | 腺様嚢胞がん | 悪性度が低い。全体の約2% |
| Invasive micropapillary carcinoma | 浸潤性微小乳頭がん | 悪性度が高い。全体の約1% |
| Squamous cell carcinoma | 扁平上皮がん | 悪性度が高い。全体の約0.1% |
| Apocrine carcinoma | アポクリンがん | 悪性度は中程度。全体の約1% |
なお、診断書に「with calcification」と記載されている場合、石灰化があることを示します。
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がん専門アドバイザー 本村ユウジ
波及度(f, g, s, pなど)について
波及度とは、がん細胞がどこまで広がっているかを示す指標です。アルファベット1文字で表記されます。
| 表記 | 意味 |
|---|---|
| g | がんが乳腺組織内にとどまる |
| f | 乳腺外の脂肪組織に及ぶ |
| s | 乳房の皮膚に及ぶ |
| p | 大胸筋に及ぶ |
| n | 胸郭に及ぶ |
アルファベットは小文字でも大文字でも意味は同じです。gが最も進行が浅く、nが最も進行している状態を示します。
リンパ管侵襲と血管侵襲(ly、v)について
脈管侵襲とは、がん細胞が血管やリンパ管の中に入り込んでいる状態を指します。がん細胞はこれらの脈管を通って他の臓器に転移するため、脈管侵襲の有無は再発・転移のリスクを判断する重要な指標です。
| 項目 | 意味 |
|---|---|
| リンパ管侵襲(ly) | (+)は侵襲あり、(-)は侵襲なし |
| 皮膚リンパ管侵襲(sly) | (+)は侵襲あり、(-)は侵襲なし |
| 血管侵襲(v) | (+)は侵襲あり、(-)は侵襲なし |
リンパ管や血管に侵襲がある場合、再発や転移のリスクが高くなるため、治療方針を決める際の重要な判断材料となります。
切除断端(margin)について
乳房の切除手術を行った場合、切除した組織の断端(切り取った部位の最も外側)にがん細胞が残っていないかを確認します。
手術では「がんの取り残しがないこと」が最も重要です。断端から5mm以内にがん細胞が存在しなければ「陰性」と評価され、がん細胞が存在すれば「陽性」と評価されます。
英語では「margin」または「cut end」と記載され、(+)なら陽性(がん細胞あり)、(-)なら陰性(がん細胞なし)を意味します。
病理学的悪性度(グレード分類)について
浸潤性乳がんの場合、顕微鏡で見たがん細胞の形(顔つき)から悪性度を評価します。この評価を「グレード分類」と呼びます。
現在は「核グレード分類」が主に使われており、「核異形スコア(NA)」と「核分裂像スコア(MC)」の2つの要素で判定します。
核異形スコア(NA)
細胞核の崩れ具合を3段階で評価します。
| スコア | 状態 |
|---|---|
| 1点 | 核の大きさ、形態が一様 |
| 2点 | 1点と3点の中間 |
| 3点 | 核の大きさが不揃い、形態が不整 |
核分裂像スコア(MC)
細胞の分裂数から細胞の活発度を3段階で評価します。
| スコア | 状態 |
|---|---|
| 1点 | 10視野で5個未満 |
| 2点 | 10視野で5〜10個 |
| 3点 | 10視野で11個以上 |
核グレード(NG)
核異形スコアと核分裂像スコアの合計で最終的な核グレードを判定します。
| グレード | 合計点 | 意味 |
|---|---|---|
| グレード1 | 2〜3点 | 悪性度が低い |
| グレード2 | 4点 | 悪性度は中程度 |
| グレード3 | 5〜6点 | 悪性度が高い |
診断結果には「NG1」「NG2」「NG3」のように核グレードだけが表記されることもあります。
リンパ節転移の有無(sn、n)について
手術でリンパ節を切除した場合、その中にがん細胞があるかどうかを必ず確認します。
センチネルリンパ節(sn)
センチネルリンパ節とは、乳房から最も近いリンパ節のことです。センチネルリンパ節生検では、このリンパ節を切除してがん細胞の有無を調べます。
(+)なら陽性(がん細胞あり)、(-)なら陰性(がん細胞なし)を意味します。
(0/2)のように数値で表記される場合、「転移数/摘出数」を示します。つまり、2個のリンパ節を摘出して0個に転移があったという意味です。
所属リンパ節(n)
| 表記 | 意味 |
|---|---|
| N0 | リンパ節転移なし |
| N1 | 腋窩リンパ節転移(レベル1)あり |
| N2 | 腋窩リンパ節転移(レベル2)あり |
| N3a | 鎖骨下リンパ節転移あり |
| N3b | 内胸リンパ節転移と腋窩リンパ節転移あり |
| N3c | 鎖骨上リンパ節転移あり |
(0/2)のように数値が記載される場合は、センチネルリンパ節と同様に「転移数/摘出数」を意味します。
ホルモン受容体(ER、PgR)について
乳がんの中には、女性ホルモンの影響でがん細胞が増殖するタイプがあります。ホルモン受容体の検査は、このタイプの乳がんかどうかを調べる検査です。
ホルモン受容体には2種類あります。
| 受容体 | 英語表記 | 意味 |
|---|---|---|
| エストロゲン受容体 | ER | (+)なら陽性、(-)なら陰性 |
| プロゲステロン受容体 | PgR | (+)なら陽性、(-)なら陰性 |
どちらか一方でも陽性であれば「ホルモン受容体陽性乳がん」となり、ホルモン療法が有効です。乳がん全体の70〜80%がホルモン受容体陽性です。
陽性の度合いは%(パーセント)やスコアで表記されることがあります。
- 1%以上〜10%未満:弱陽性(スコア1〜2)
- 10%以上:中〜強陽性(スコア3)
ホルモン療法は副作用が比較的少ない治療法であり、陽性の場合は治療の選択肢が広がります。
HER2(ハーツー)について
HER2とは、Human Epidermal Growth Factor Receptor type 2(ヒト表皮成長因子受容体2型)の略で、細胞の増殖に関係するタンパク質です。
乳がんの15〜25%では、がん細胞の表面にHER2タンパクが過剰に発現しています。このような乳がんを「HER2陽性乳がん」といいます。
HER2陽性乳がんは増殖が速く、悪性度が高い傾向があります。しかし、HER2を標的とする分子標的薬(トラスツズマブ〔ハーセプチン〕、ペルツズマブ〔パージェタ〕など)が開発され、予後は大きく改善されました。
HER2の検査は、乳がん組織を用いた免疫組織化学法で行われます。必要に応じて、遺伝子検査(FISH法、DISH法など)が追加されます。
(+)なら陽性(HER2タンパクの過剰発現あり)、(-)なら陰性(過剰発現なし)を意味します。
Ki-67(ケーアイ67)について
Ki-67は、がん細胞の増殖スピードを示す指標です。Ki-67の数値が高いほど、がん細胞の増殖が速く、悪性度が高いことを示します。
Ki-67は1〜100%の割合で表記されます。がん細胞を顕微鏡で観察し、何%の細胞がKi-67陽性であるかを測定します。
2026年現在、Ki-67については世界的に統一された基準はまだ確立されていませんが、一般的には次のように考えられています。
- 10%以下:低値(悪性度が低い)
- 20〜30%:中間値
- 30%以上:高値(悪性度が高い)
特にホルモン受容体陽性・HER2陰性の乳がんにおいて、Ki-67の値はホルモン療法に化学療法を追加するかどうかの判断材料として重要視されています。
ただし、測定方法が施設によって異なることがあるため、数値の解釈には注意が必要です。
PD-L1について【2026年時点の最新情報】
PD-L1とは、programmed cell death 1 ligand 1(プログラム細胞死リガンド1)の略です。PD-L1は、がん細胞が免疫細胞から逃れるために使う仕組みに関係しています。
現在、PD-L1の検査は主にトリプルネガティブ乳がん(ホルモン受容体陰性かつHER2陰性)の転移・再発例に対して行われます。
PD-L1が陽性の場合、免疫チェックポイント阻害薬による治療が効果的です。検査には免疫組織化学法が用いられ、使用する薬剤によって抗体(SP-142や22C3)が使い分けられます。
サブタイプ分類について
病理検査の結果をもとに、乳がんは「サブタイプ」に分類されます。サブタイプとは、がんの性質による分類で、治療方針を決める際の重要な指標となります。
サブタイプは、ホルモン受容体、HER2、Ki-67の結果に基づいて次のように分類されます。
| サブタイプ | 特徴 | 主な治療法 |
|---|---|---|
| ルミナルA | ホルモン受容体陽性、HER2陰性、Ki-67低値 | ホルモン療法単独 |
| ルミナルB(HER2陰性) | ホルモン受容体陽性、HER2陰性、Ki-67高値 | ホルモン療法+化学療法 |
| ルミナルB(HER2陽性) | ホルモン受容体陽性、HER2陽性 | ホルモン療法+抗HER2療法+化学療法 |
| HER2タイプ | ホルモン受容体陰性、HER2陽性 | 抗HER2療法+化学療法 |
| トリプルネガティブ | ホルモン受容体陰性、HER2陰性 | 化学療法(場合により免疫チェックポイント阻害薬) |
ただし、サブタイプ分類の基準は厳密には定まっていないため、サブタイプだけを気にしすぎるのは望ましくありません。実際の治療方針は、サブタイプに加えて腫瘍の大きさ、リンパ節転移の有無、年齢、患者さんの希望など、様々な情報を総合的に判断して決定されます。
多遺伝子アッセイ(Oncotype DX)について
2026年現在、乳がんの性質をより詳しく知るための遺伝子検査が実用化されています。
代表的なものがOncotype DX(オンコタイプ ディーエックス)です。この検査は、21個の遺伝子を解析して再発リスクを予測します。2021年に日本でも薬事承認され、現在は保険適用に向けて整備が進められています。
Oncotype DXは、ホルモン受容体陽性・HER2陰性の早期乳がんにおいて、化学療法を追加すべきかどうかの判断に役立ちます。
再発スコアは次のように分類されます。
- 低リスク(0〜17点):ホルモン療法のみで良好な予後が期待できる
- 中間リスク(18〜30点):化学療法の追加を検討
- 高リスク(31〜100点):化学療法の追加が推奨される
2026年時点の最新データ
2025年3月に発表されたBreast Cancer誌の報告によると、2022年に日本国内で登録された乳がん症例は10万2,453例でした。
主な統計データは次の通りです。
- 女性患者が99.4%、診断時の年齢中央値は62歳
- ステージ0が15.2%、ステージIが42.2%
- エストロゲン受容体陽性率78.7%
- プロゲステロン受容体陽性率69.4%
- HER2陽性率12.8%
- 乳房温存手術実施率41.7%
- センチネルリンパ節生検実施率68.9%
これらのデータは、日本の乳がん医療の現状を示す重要な情報です。
病理検査結果の活用方法
病理検査の結果は、その後の治療方針を決める上で極めて重要な情報です。診断書を受け取ったら、以下の点を確認しましょう。
- がんのタイプ(非浸潤か浸潤か)
- 腫瘍の大きさ
- リンパ節転移の有無
- ホルモン受容体の状態
- HER2の状態
- Ki-67の数値
- 悪性度(グレード)
これらの情報をもとに、担当医から治療方針の説明を受けることになります。不明な点や疑問があれば、遠慮なく質問することが大切です。
乳がんは、病理検査の結果によって治療法がほぼ決まる、ガイドライン化(ルール化)が進んでいるタイプのがんです。「病理の結果がこうなら治療法はこうなる」という流れが比較的明確です。
診断書の内容を理解することで、自分の病状を正しく把握し、治療について主体的に考えることができるようになります。
参考文献・出典情報
患者さんのための乳がん診療ガイドライン2023年版 Q27 病理検査でどのようなことがわかりますか(日本乳癌学会)
日本の乳がん統計、患者特性・病理・治療の最新データ(ケアネット)
浸潤性乳癌におけるKi67評価(乳癌診療ガイドライン2022年版)