
イクスタンジ(エンザルタミド)はどのような薬か
こんにちは。がん専門のアドバイザー、本村ユウジです。
前立腺がんは男性ホルモン(アンドロゲン)と深い関係があるがんです。アンドロゲンが増えることで前立腺がんも増殖することが分かっています。
そのため、前立腺がんの薬物療法では、ホルモンを抑制する治療(ホルモン療法)が中心となっています。
イクスタンジ(一般名:エンザルタミド)は、2014年に承認された新しいタイプのホルモン剤です。従来のホルモン剤とは異なる強力な作用を持ち、がん細胞の増殖を効果的に抑えることができます。
2020年5月には「遠隔転移を有する前立腺癌」の適応が追加され、より幅広い患者さんに使用できるようになりました。現在では、去勢抵抗性前立腺がんと遠隔転移を有する前立腺がんの治療に用いられています。
前立腺がんのホルモン療法について
前立腺がんの治療では、抗がん剤が効きにくいことが知られており、化学療法ではホルモン療法が中心となります。ホルモン療法で主に使われる薬は次のとおりです。
| 薬剤の種類 | 代表的な薬剤名 | 作用 |
|---|---|---|
| LH-RHアゴニスト製剤 | ゾラデックス(ゴセレリン) リュープリン(リュープロレリン) |
テストステロンの分泌を抑える |
| LH-RHアンタゴニスト製剤 | ゴナックス(デガレリクス) | テストステロンの分泌を抑える |
| 抗アンドロゲン製剤 | カソデックス(ビカルタミド) オダイン(フルタミド) |
アンドロゲンの作用を阻害 |
これらの薬剤を組み合わせたり、単体で使用することで、がんの進行を抑制することを目指します。
ホルモン療法の耐性について
どんな薬でも使い続けると耐性ができて、徐々に効かなくなります。前立腺がんの腫瘍マーカーであるPSAが下がらなくなったり、腫瘍が小さくならなくなるなど、治療効果が薄れてきます。
耐性には個人差があり、5年から10年もホルモン療法が効果を示すこともあります。しかし、骨転移を起こすなど、すでに進行している状況の場合は、2年から3年ですべてのホルモン剤が効かなくなることもあります。
ホルモン剤は「副作用がさほど大きくなく、長く使える薬」として重宝されていますが、効かなくなってしまうと「抗がん剤」に頼ることになります。
従来の抗がん剤の課題
前立腺がんで従来から使われている抗がん剤は「タキソテール(ドセタキセル)」です。しかし副作用として浮腫(むくみ)、下痢、吐き気、嘔吐、脱毛、発疹など、日常生活に影響を及ぼす症状が少なくありません。
高齢者の多い前立腺がんの患者さんにとって、このような辛い症状は負担が大きく、また効果もさほど高くないため、敬遠されがちな選択でした。
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がん専門アドバイザー 本村ユウジ
イクスタンジの特徴と作用機序
ホルモン治療が終わると辛い抗がん剤治療しかない、という状況が長く続いていましたが、新たな選択肢として登場したのがイクスタンジです。
従来のホルモン剤との違い
従来のホルモン剤(抗アンドロゲン薬)は、分泌されたアンドロゲンが男性ホルモン受容体に結合するのを阻害する作用があります。
イクスタンジはその作用だけでなく、次の3つの段階でアンドロゲンの働きを阻害します。
- アンドロゲンが受容体に結合するのを阻害
- 受容体に結合したアンドロゲンががん細胞の核内に移行するのを阻害
- アンドロゲンとがん細胞のDNAが結合するのを阻止
つまり、従来のホルモン剤よりも「がん細胞を抑制する作用が強く、がん細胞を死滅させる力が強い」薬といえます。
イクスタンジの効果と臨床試験の結果
イクスタンジは主に海外で臨床試験が行われてきました。
去勢抵抗性前立腺がんでの効果
「従来のホルモン療法を受けて耐性ができた」かつ「タキソテールの治療をしたががんが進行している」という状況の患者さん1000例以上を対象に効果を検証する試験(AFFIRM試験)が行われました。
| 評価項目 | イクスタンジ群 | プラセボ群 |
|---|---|---|
| 全生存期間の中央値 | 18.4カ月 | 13.6カ月 |
| 死亡リスクの低下 | 37%低下 | |
| PSA上昇までの期間 | 8.3カ月 | 3.0カ月 |
| 画像診断上の無増悪生存期間 | 8.3カ月 | 2.9カ月 |
この結果、イクスタンジは生存期間を約6カ月延長し、死亡リスクを37%低下させ、PSAの上昇を明らかに抑えることが示されました。
遠隔転移を有する前立腺がんでの効果
タキソテールの使用歴がない患者さんを対象にした臨床試験(PREVAIL試験)では、プラセボ群と比較して統計学的に有意な生存期間の延長が認められました。また、画像診断による増悪リスクを81%低下させました。
さらに、イクスタンジの投与を受けた患者さんでは、プラセボの投与を受けた患者さんと比較して、抗がん剤による治療開始までの期間を17カ月遅らせることができたという結果も出ています。
イクスタンジの対象となる患者さん
イクスタンジは次の患者さんが対象となります。
- 去勢抵抗性前立腺がんの患者さん
- 遠隔転移を有する前立腺がんの患者さん
主な投与対象は、ホルモン療法をひととおり実施し、タキソテールを使用しても効果が出なかった人です。しかし、タキソテールを実施していない人にも使われることがあります。
外科的または内科的去勢術と併用して使用されます。
イクスタンジの投与方法と服用スケジュール
服用方法
イクスタンジは経口薬(口から飲むタイプ)です。1日1回、160mgを服用します。
現在は錠剤として、40mg錠と80mg錠の2つの規格があります。1回の服用量160mgは、80mg錠を2錠、または40mg錠を4錠服用します。
もともとはカプセル製剤でしたが、2018年に錠剤に変更されました。カプセル製剤は大きくて服用しにくいという課題がありましたが、錠剤は小型化され、服用しやすくなっています。
服用時の注意点
食事の影響は少ないとされていますが、決まった時間に毎日服用することが重要です。飲み忘れた場合は、その日のうちに気づいたらすぐに1回分だけ服用します。翌日に気づいた場合は、前回分を服用せず、1日分だけ服用します。1日に2日分を服用してはいけません。
イクスタンジの費用と保険適用
薬価と費用
2026年現在のイクスタンジの薬価は次のとおりです。
| 規格 | 薬価(1錠) | 1日の費用(160mg) | 1カ月の費用(30日) |
|---|---|---|---|
| 40mg錠 | 2,116円 | 8,464円 | 約254,000円 |
| 80mg錠 | 4,101.8円 | 8,203.6円 | 約246,000円 |
イクスタンジは保険適用の薬剤です。3割負担の場合、1カ月あたりの自己負担額は約74,000円となります。
従来のホルモン剤との費用比較
従来のホルモン剤と比較すると、イクスタンジは高額です。
- ゾラデックス:1カ月1回の注射で約39,000円(3割負担で約12,000円)
- カソデックス:1日1回1錠で約957円(3割負担で1カ月約8,000円)
そのため、イクスタンジを初期治療に使うのではなく、まずは従来の薬を使ってから、という考え方が一般的です。
高額療養費制度の活用
イクスタンジの治療費は高額ですが、高額療養費制度を活用することで、実際の自己負担額を抑えることができます。
高額療養費制度とは、1カ月に支払った医療費が一定額(自己負担限度額)を超えた場合、超えた金額が払い戻される制度です。自己負担限度額は、年齢や所得によって異なります。
例えば、70歳未満で年収約370万円から770万円の方の場合、1カ月の自己負担限度額は約8万円から9万円程度となります。
事前に「限度額適用認定証」を健康保険の窓口で取得しておけば、医療機関での支払いが自己負担限度額までとなり、高額な医療費を一時的に立て替える必要がなくなります。
イクスタンジの副作用
イクスタンジは「ホルモン剤」であり、いわゆる「抗がん剤」ではありません。そのため、抗がん剤でよくあるような嘔吐、脱毛、手足のしびれなどは起こりにくいとされています。
主な副作用
臨床試験でよく起きた副作用は次のとおりです。
| 副作用 | 頻度 |
|---|---|
| 疲労 | 比較的多い |
| 背中の痛み | 比較的多い |
| 便秘 | 比較的多い |
| 関節痛 | 比較的多い |
| 高血圧 | 少数 |
| 食欲減退 | 少数 |
| ほてり | 少数 |
注意が必要な副作用
少数ですが、重要な副作用として次のものがあります。
痙攣(けいれん)発作
イクスタンジの成分には痙攣を誘発する物質が含まれています。てんかんや脳卒中などを起こしたことがある人、脳損傷の既往歴がある人は、慎重に経過を観察する必要があります。
痙攣発作が起きた場合は、顔を横に向けて安静にし、発作が治まるのを待ちます。発作が治まらない場合は、速やかに病院を受診することが必要です。
また、イクスタンジ投与中は、自動車の運転など危険を伴う機械の操作に注意が必要です。
間質性肺疾患
間質性肺疾患が発現することがあります。初期症状として、息切れ、呼吸困難、咳、発熱などが現れた場合は、すぐに医師に連絡する必要があります。
投与にあたっては、胸部X線検査などで患者さんの状態を十分に観察します。
イクスタンジの日常生活への影響
イクスタンジは経口薬のため、通院の頻度は比較的少なく、日常生活への影響は限定的です。ただし、次の点に注意が必要です。
定期的な通院と検査
効果や副作用を確認するため、定期的な通院と検査が必要です。PSA値の測定、画像検査、血液検査などが行われます。
他の薬との相互作用
イクスタンジは他の薬との相互作用があります。特に、ドラビリン、エンシトレルビル、レナカパビル、ニルマトレルビル・リトナビルなどの薬とは併用できません。
また、イクスタンジは多くの薬の効果に影響を与える可能性があります。他の医療機関を受診する際や、薬局で薬を購入する際は、必ずイクスタンジを服用していることを伝える必要があります。
生活上の注意点
疲労感が出ることがあるため、無理をせず、十分な休息をとることが大切です。また、便秘になりやすいため、水分摂取や食物繊維の摂取を心がけることが推奨されます。
イクスタンジと他の治療法の組み合わせ
イクスタンジは単独で使用されることもありますが、他の治療法と組み合わせて使用されることもあります。
去勢療法との併用
イクスタンジは、外科的または内科的去勢療法と併用して使用されます。去勢療法を行わない場合の有効性と安全性は確立していません。
新しい併用療法
2024年には、BRCA遺伝子変異陽性の転移性去勢抵抗性前立腺がんに対して、PARP阻害薬「ターゼナ(タラゾパリブ)」との併用療法が承認されました。この併用により、さらに治療効果の向上が期待されています。
イクスタンジ治療を受ける前に知っておくべきこと
医師とのコミュニケーション
イクスタンジ治療を始める前に、医師と十分に話し合うことが重要です。次のような点について確認しましょう。
- イクスタンジ治療の期待される効果
- 起こりうる副作用とその対処法
- 治療にかかる費用と高額療養費制度の利用方法
- 治療スケジュールと通院の頻度
- 日常生活で注意すべき点
セカンドオピニオンの活用
治療方針について不安がある場合は、セカンドオピニオンを求めることも選択肢の一つです。複数の医師の意見を聞くことで、より納得して治療に臨むことができます。
サポート体制の確認
治療中は、医師だけでなく、看護師、薬剤師、医療ソーシャルワーカーなど、多職種のサポートを受けることができます。費用面での相談や、日常生活での不安など、気になることがあれば、遠慮せずに相談しましょう。
まとめ
イクスタンジは、前立腺がん治療における重要な選択肢の一つです。従来のホルモン剤よりも強力な作用を持ち、生存期間の延長やQOLの維持に貢献することが期待されています。
一方で、費用が高額であることや、痙攣発作などの副作用に注意が必要です。高額療養費制度を活用することで、費用負担を軽減できます。
治療を受ける際は、医師と十分にコミュニケーションを取り、期待される効果と起こりうる副作用について理解した上で、納得して治療に臨むことが大切です。
参考文献・出典情報
- 医療用医薬品:イクスタンジ 添付文書情報 - KEGG MEDICUS
- イクスタンジ(エンザルタミド)- がん情報サイト「オンコロ」
- イクスタンジ(エンザルタミド)の作用機序と副作用 - 新薬情報オンライン
- イクスタンジ錠80mgの基本情報 - 日経メディカル処方薬事典
- 高額療養費制度とは - 前立腺がんWeb
- 高額療養費制度を利用される皆さまへ - 厚生労働省
- イクスタンジ(一般名:エンザルタミド)去勢抵抗性前立腺がんの新たな一手 - がんサポート
- イクスタンジ - アステラスメディカルネット
- イクスタンジ錠の治療を始める方へ(患者向け説明書)
- ENZ(Enzalutamide)エンザルタミド レジメン適正使用ガイド - HOKUTO