
こんにちは。がん治療専門アドバイザー、本村ユウジです。
大腸がんの手術を受けた患者さんにとって、術後の食事は回復を左右する重要な要素です。しかし、どのような食事をいつから始めればよいのか、何を食べてはいけないのかなど、不安に感じることも多いでしょう。
この記事では、大腸がん手術後の食事について、手術の内容による違い、損なわれる機能、適切な食事の選び方、そして回復までの期間について、2026年の最新情報に基づいて詳しく解説します。
大腸がん手術の種類と手術で損なわれる機能
大腸がんの手術には、がんができた場所や進行度によってさまざまな術式があります。主な手術方法としては、開腹手術、腹腔鏡下手術、ロボット支援下手術があります。
開腹手術は腹部を大きく切開して行う方法で、医師が患部を直接確認しながら治療を進められるメリットがあります。一方、腹腔鏡下手術は腹部に数か所の小さな穴を開け、カメラと手術器具を使って行う方法です。傷が小さく、術後の回復が早いという利点があります。ロボット支援下手術は2018年に直腸がん、2022年に結腸がんで保険適用となり、より精密な操作が可能になっています。
大腸がんの手術では、がんのある部分の腸を切除し、転移の可能性があるリンパ節も同時に取り除きます。この際、どうしても腸の長さが短くなってしまいます。
手術後に起こる主な機能の変化
手術によって大腸の一部を切除すると、次のような機能の変化が起こります。
まず、手術後は腸の蠕動運動が鈍くなります。これは手術による侵襲や薬剤の影響で一時的に腸の動きが抑制されるためです。また、腸管同士や腸管と腹壁が癒着することで、部分的に狭くなっている箇所が生じます。
切除した部位によっても影響が異なります。右側の結腸(上行結腸、横行結腸)を切除した場合、水分を吸収する部分が少なくなるため、一時的に下痢になることが多いです。左側の結腸(下行結腸、S状結腸)を切除した場合は、便を一時貯留する部分が少なくなり、便秘になったり、逆に頻便になることもあります。
直腸の一部でも切除すると、頻便や便秘などの排便障害が起こることがあります。特に直腸がんの手術では、排便後も残便感がある、すっきりしない感覚が生じるなど、排便障害の症状が強くなる傾向があります。
大腸がん手術後の腸閉塞のリスク
手術後に最も注意が必要なのは腸閉塞です。腸閉塞とは、腸管の内容物(食べ物、消化液、ガスなど)の通過が物理的または機能的に妨げられる状態を指します。
手術後は腸の動きが弱く、特に術後1か月から3か月間は腸閉塞が起こりやすい時期とされています。手術操作によって腹腔内に炎症が起こり、その治癒の過程で本来離れているはずの腸管同士や、腸管と腹壁などがくっついてしまう癒着が原因となることが多いです。
この癒着部分が折れ曲がったり、他の腸管を締め付けたりすることで、内容物の通過が妨げられます。開腹手術や広範囲にわたる操作が必要な手術では、癒着が起こりやすく、腸閉塞のリスクが高まる傾向があります。腹腔鏡手術は開腹手術に比べて癒着のリスクは低いとされていますが、ゼロではありません。
腸閉塞の症状と対応
便やガスが1日以上全く出なくて苦しい、お腹の張りや痛みに加えて吐き気や嘔吐などの症状があるときは、腸閉塞の疑いがあります。このような症状が現れた場合は、できるだけ早く医療機関を受診する必要があります。
| 症状 | 内容 |
|---|---|
| 腹痛 | お腹の張りや痛みが持続する |
| 吐き気・嘔吐 | 食事や水分が通らず、嘔吐する |
| 排便・排ガスの停止 | 便やガスが1日以上出ない |
| お腹の張り | 腸管内にガスや内容物が溜まり、膨満感がある |
手術後の時期別・食事の基本方針
手術直後から退院まで(術後2日~10日程度)
手術後2日から5日目ごろから、食事をとることができるようになります。ただし、食事を開始する時期は手術の内容や患者さんの状態によって異なるため、主治医の指示に従うことが大切です。
腸が動き始めたことを確認できたら水を飲むことができ、排ガスや排便ができるようになったら食事を始めます。病院では通常、手術後3日目に流動食から始め、三分粥、全粥へと段階的に移行していきます。
退院後から術後1か月まで
退院後も腸の動きは不安定で、下痢や便秘を起こしやすい状態が続きます。この時期に最も重要なことは、食事の量をなるべく少なくすることです。
たくさん食べて早く回復しようとするのは誤りです。腸が十分に働かない状態ですので、食事は普通の半分の量、腹6分目から7分目程度にとどめるべきです。暴飲暴食を行うと腸閉塞を起こす危険が高くなり、再入院が必要となることがあります。
1回に食べる量が腸に負担となる場合は、2回から3回の間食を追加し、食事を1日に5回から6回に分けて食べる方法もあります。間食はビスケット、カステラ、ゼリーなどの甘いお菓子や、おにぎり、パン、ゆで卵、ヨーグルトなどがおすすめです。
術後1か月から3か月まで
術後1か月以降は腸の働きも徐々に戻ってきます。お腹の調子と体調をみながら、さまざまな食材や献立を試し、食べる量も少しずつ増やしていきます。
ただし、術後1か月から2か月経つと食欲が戻ってくる傾向がありますが、食べ過ぎるとお腹が張るため注意が必要です。食欲が戻ること=腸の機能が元通りではありません。
3か月経過すると、腸の吻合部のむくみもとれ、よく広がるようになり、また腸の位置が固まるので、普通に食べても問題なくなることが多いです。
術後3か月以降
3か月から半年を経過すると、残っている大腸が機能を代償し、便の状態や排便のリズムが安定してきます。結腸を半分以上切除した場合でも、手術後の一時的な便の変化は、1か月から2か月でほとんど日常生活は元に戻ります。
多発がんなどで結腸をほとんど切除しても、直腸やS状結腸が少し残っていれば、最初のころは下痢などがありますが、半年から1年で回復します。これは残っている腸が代償的に働いてくれるためです。
手術後に適した食事と避けるべき食品
基本的な食事の選び方
基本的には、温かく、消化がよく、柔らかく、栄養価の高い食事を少しずつ様子をみながらとることです。食事はゆっくりよく噛んで、30分以上時間をかけて食べることで、腸への負担を軽減できます。
退院後は原則として食事の内容に制限はありませんが、「ゆっくり、よく噛んで、腹7分目から8分目」のルールを守ることが大切です。
術後しばらく避けるべき食品
食物繊維の多い食品や消化しにくい食品は、手術後しばらくは避けることが推奨されます。以下の食品は、吻合して狭くなったところに引っかかって腸を閉塞する危険があるため、術後3か月間は控えるべきです。
| 食品カテゴリー | 具体的な食品 | 理由 |
|---|---|---|
| 硬い繊維の多い野菜 | ゴボウ、セロリ、タケノコ、レンコン | 消化されにくく腸閉塞のリスク |
| 海藻類 | わかめ、のり、昆布、ひじき | 食物繊維が豊富で消化に時間がかかる |
| 根菜類・乾物 | 切り干し大根、干ししいたけ | 繊維質が多く消化されにくい |
| 繊維の多い果物 | パイナップル、柑橘類の薄皮 | 消化に負担がかかる |
| こんにゃく製品 | しらたき、こんにゃく | 消化されにくい |
| 油分の多い食事 | 揚げ物、こってりした中華料理 | 消化に時間がかかり腸に負担 |
| 刺激の強い食品 | 香辛料、唐辛子 | 腸を刺激する |
| 刺激性飲料 | 炭酸飲料、アルコール、コーヒー | 胃腸を刺激する |
手術後に適した食品
消化がよく、栄養価の高い食品を選ぶことが大切です。以下の食品は術後の食事に適しています。
| 食品カテゴリー | 具体的な食品 |
|---|---|
| 主食 | おかゆ、うどん、食パン、白米(柔らかく炊いたもの) |
| タンパク質 | 白身魚、豆腐、茶碗蒸し、温泉卵、 |
| 野菜 | かぼちゃ、じゃがいも、人参、大根、キャベツ、ブロッコリー(柔らかく煮たもの) |
| 果物 | バナナ、りんご(すりおろし)、桃の缶詰 |
| 汁物・スープ | ポタージュスープ、みそ汁(具は柔らかいもの) |
| その他 | ゼリー、プリン、カステラ |
切除部位別の食事の注意点
右側結腸(上行結腸、横行結腸)を切除した場合
右側の結腸は主に水分を吸収する働きをしています。この部分を切除すると、水分を吸収するところが少なくなるため、一時的に水様便から軟便、下痢になることが多いです。
下痢をしているときは、水分を十分に補給することが大切です。脱水症状を防ぐため、水分補給を心がけましょう。3か月から半年を経過すると、残っている大腸が機能を代償し、便の状態が安定してきます。
左側結腸(下行結腸、S状結腸)を切除した場合
左側の結腸は便を一時貯留し、一気に押し出す働きをしています。この部分を切除すると、便秘になったり、逆に頻便になることもあります。
便秘のときは、水分の摂取と適度な運動を心がけることが大切です。ただし、腹筋を使う激しい運動は数か月間控えましょう。
直腸を切除した場合
直腸の一部でも切除すると、頻便や便秘などの排便障害が起こることが少なくありません。直腸がんの手術では、排便後も残便感がある、すっきりしない感覚が生じるなど、排便障害の症状が出やすい傾向があります。
トイレに行く回数が増えるといった頻便にもなりやすいため、外出する場合にはトイレの場所をあらかじめ確認しておくと、便意を感じたときにあわてずにすみます。下着の中に小さなパッドを敷いておいたり、替えの下着を用意しておくと安心です。
手術後の生活における工夫
水分補給の重要性
術後は腸の動きが不安定で下痢や便秘を起こしやすいため、水分補給を心がけることが大切です。水分は食事と食事の合間に、こまめに摂ることが推奨されます。
運動の再開
手術後は1か月から3か月程度で手術前の日常生活が送れるように、ウォーキングやストレッチなどの軽い運動から始めて、こまめに体を動かすようにします。術後すぐから軽い歩行を始めることで腸の回復が促進されます。
安静を保つより、早くにベッドから起きて動くことで、腸の動き始めも早まるので、血栓症や腸閉塞を予防することができます。ただし、腹筋を使う激しい運動は数か月間控える必要があります。
社会復帰の目安
デスクワーク中心の仕事であれば手術後1か月程度、身体を動かす仕事であれば手術後2か月から3か月程度が、復帰が可能になる目安と考えられます。無理のない範囲から始めて、徐々に身体を慣らしていくことが大切です。
長期的な食生活の方針
手術後3か月以降、体調が安定してきたら、普段の食事に戻していきます。あまり好ましくないと思われる食品を食べるときは、少量だけ試してみるというように、気をつけて進めることが大切です。
大腸を切除しても、栄養吸収への影響や体重の減少はほとんどないとされています。1日3食を基本とし、ごはんなどの主食、魚、卵、大豆などのタンパク質主体のおかず、野菜などをバランスよく摂ることが大切です。
食欲がないときやお腹の調子が悪いときは、神経質にならずに「食べたい」と思うものを食べることも大切です。ただし、食べたいものは、まずは少量から試してみることをおすすめします。
まとめ
大腸がん手術後の食事は、腸の回復状態に合わせて段階的に進めていくことが大切です。術後1か月から3か月は腸閉塞のリスクが高い時期であり、食物繊維の多い食品や消化しにくい食品は控え、少量ずつよく噛んで食べることが重要です。
3か月を経過すると、腸の吻合部が回復し、普通の食事に戻せることが多くなります。切除した部位によって便の状態や排便のリズムに変化が生じますが、残っている腸が代償的に働くことで、半年から1年で日常生活に支障がない程度まで回復します。
食事の基本は、「ゆっくり、よく噛んで、腹7分目から8分目」を心がけることです。そして、温かく、消化がよく、柔らかく、栄養価の高い食事を選ぶことで、術後の回復を支えることができます。
手術後の食事について不安がある場合は、病院の栄養士に相談することをおすすめします。患者さん一人ひとりの状態に合わせた具体的なアドバイスを受けることで、安心して食生活を送ることができます。
参考文献・出典情報
国立がん研究センター がん情報サービス「大腸がん(結腸がん・直腸がん) 療養」
国立がん研究センター がん情報サービス「大腸がん(結腸がん・直腸がん) 治療」
金沢消化器内科・内視鏡クリニック「術後の腸閉塞を予防する方法と症状が出たときの対応」
再発転移がん治療情報「【QOL(生活の質)】胃・大腸切除後に心がけたい食事の工夫」
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