
こんにちは。がん治療専門アドバイザー、本村ユウジです。
大腸がん(結腸がんや直腸がんを含む)の手術を受けた後、多くの患者さんが心配されるのが合併症や後遺症のことです。手術そのものは成功しても、術後の経過において様々な症状が現れることがあります。
この記事では、大腸がん手術後に起こりうる合併症と後遺症について、それぞれの原因や症状、対策方法を詳しく解説します。
また、患者さんご自身やご家族ができるセルフケアの方法についても、実践的な情報をお伝えします。
事前に知識を持っておくことで、万が一症状が現れた際にも落ち着いて対処でき、早期発見・早期対応につながります。
大腸がん手術後に知っておくべきクリティカルパスとは
現在、多くの医療機関では「クリティカルパス」という手法が導入されています。これは、入院から手術、そして退院までの医療スタッフが行うべき処置や検査の手順を、あらかじめ時系列で計画したものです。
クリティカルパスには、手術後何日目にどのような検査を行うか、いつから食事を開始するか、ドレーン(排液管)をいつ抜去するかなど、標準的な治療スケジュールが細かく記載されています。
患者さんやご家族も、このクリティカルパスを見せてもらう権利があります。治療の見通しを理解し、現在の状態が計画通りに進んでいるかを確認できるため、不安の軽減にもつながります。ただし、個々の患者さんの状態によって変更されることもあります。
大腸がん手術後の主な合併症一覧
大腸がん手術後に起こりうる合併症には、いくつかの種類があります。以下の表で主な合併症をまとめました。
| 合併症の種類 | 主な症状 | 発生しやすい時期 | 発生頻度 |
|---|---|---|---|
| 創部感染 | 発熱、傷の腫れ、痛み、膿 | 術後3~10日 | 5~15%程度 |
| 縫合不全(吻合部不全) | 腹痛、発熱、悪寒、頻脈 | 術後5~10日 | 2~10%程度 |
| イレウス(腸閉塞) | 腹痛、腹部膨満、嘔吐、排便停止 | 術後数日~数週間 | 5~20%程度 |
| 排尿障害 | 尿が出にくい、残尿感 | 術後すぐ~数ヶ月 | 直腸がん手術で高頻度 |
| 出血 | ドレーンからの多量の出血 | 術後24~48時間 | 1~3%程度 |
これらの合併症は、早期に発見して適切に対処すれば、重症化を防ぐことができます。医療スタッフは術後の観察を慎重に行いますが、患者さんご自身も自分の体の変化に注意を払うことが大切です。
創部感染のケアと対策
手術後の傷(創部)には、どうしても感染のリスクが伴います。特に直腸がんで肛門を含めて切除した場合、骨盤底部の傷は治りにくく、感染が起こりやすい部位です。
直腸切除後の傷の特徴
直腸や肛門を切除した後の骨盤底部には大きな空間ができます。この空間を閉じるために、お尻の皮膚や筋肉を使って縫合しますが、この部分は便や分泌物による汚染リスクが高く、感染が起こりやすくなっています。
術後1週間前後に発熱が見られ、傷が化膿して縫った部分が開いてしまうケースがあります。これは、手術で作られた空間に滲出液(じんしゅつえき)がたまり、そこに細菌が繁殖することで起こります。
ドレーンの役割と管理
感染を防ぐため、手術時に骨盤底部の空間にドレーン(排液管)を留置します。このドレーンを通じて、傷から出る滲出液を体外に排出し、細菌が繁殖する環境を作らないようにします。
ドレーンが正常に機能していれば、多少の感染が起こっても膿がたまることは少なく、傷は順調に治癒します。ドレーンの管理で注意すべき点は以下の通りです。
- ドレーンが体の動きで折れ曲がらないようにする
- 血液の塊などでドレーンが詰まっていないか観察する
- 排液の色や量、臭いの変化に注意する
- ドレーンの挿入部位を清潔に保つ
女性患者さんの注意点
女性の場合、膣からの分泌物により手術創が汚染されるリスクが男性よりも高くなります。そのため、より頻繁な消毒や清潔ケアが必要です。入浴やシャワーの際の洗浄方法について、看護師から指導を受けることが重要です。
感染が起こった場合の治療
もし感染が起こってしまった場合、縫合部を一部開いて、たまった膿や滲出液を排出する処置が行われます。その後、消毒液で1日数回洗浄し、傷を清潔に保ちながら自然に治癒するのを待ちます。抜糸は通常、傷が安定する術後2~3週間後に行われます。
縫合不全(吻合部不全)の理解と対応
縫合不全は、大腸がん手術後の合併症の中でも特に注意が必要なものの一つです。腸管同士をつなぎ合わせた部分(吻合部)が十分にくっつかず、そこから腸の内容物が漏れ出してしまう状態を指します。
縫合不全が起こりやすい条件
以下のような条件がある患者さんでは、縫合不全のリスクが高くなることが知られています。
| リスク要因 | 詳細 |
|---|---|
| 糖尿病 | 血糖コントロールが不良だと傷の治りが遅くなる |
| 栄養状態不良 | アルブミン値が低いなど、タンパク質不足の状態 |
| ステロイド使用 | 副腎皮質ホルモンの長期使用で傷の治癒が遅れる |
| 術前化学療法 | 抗がん剤の影響で組織の回復力が低下している |
| 喫煙 | 血流が悪化し、酸素供給が不足する |
| 高齢 | 組織の修復能力が低下している |
縫合不全の症状と発見
縫合不全は通常、手術後5~10日目頃に症状が現れます。突然の腹痛、悪寒を伴う高熱(38度以上)、脈が速くなる(頻脈)などの症状が特徴的です。
ドレーンが適切な位置に留置されていれば、腸内容物がドレーンから排出されるため早期発見が可能です。ドレーンからの排液が、透明な滲出液から便のような内容物に変わった場合は、縫合不全の可能性があります。
縫合不全の治療方法
縫合不全が疑われる場合、まず絶食として口からの食事を完全に中止し、点滴による栄養管理(中心静脈栄養)に切り替えます。これにより、縫合部に便が流れないようにして、傷が治癒しやすい環境を作ります。
保存的治療で改善が見られない場合や、腹膜炎を起こしている場合には、一時的に人工肛門(ストーマ)を造設する手術が必要になることがあります。縫合部より口側(上流側)に人工肛門を作ることで、縫合部を完全に安静にし、治癒を待ちます。
治癒までには数週間から数ヶ月かかることもありますが、適切な栄養管理と感染コントロールを行えば、多くの場合は回復が期待できます。
イレウス(腸閉塞)の種類と対処法
イレウスとは、腸の内容物がスムーズに流れなくなり、腸が詰まってしまう状態です。大腸がん手術後には、様々な原因でイレウスが発生する可能性があります。
単純性イレウス(機械的イレウス)
術後の癒着や腸管の屈曲により、物理的に腸が狭くなって内容物が通過できなくなるタイプです。腹部膨満感、腹痛、嘔吐、排便や排ガスの停止などの症状が現れます。
治療としては、まず鼻から胃チューブやイレウス管を挿入し、腸内容物を吸引して減圧します。絶食として腸を休ませながら、点滴で水分と栄養を補給します。多くの場合、数日から1週間程度で自然に回復しますが、改善が見られない場合は手術が必要になることもあります。
絞扼性イレウス(こうやくせいイレウス)
腸がねじれたり、腸の一部が孔(ヘルニアなど)に入り込んだりして、腸への血流が遮断されるタイプです。激しい腹痛を伴い、放置すると腸が壊死してしまう危険な状態です。
絞扼性イレウスが疑われる場合は、緊急手術が必要です。壊死した腸管を切除し、血流を回復させる処置を行います。時間との勝負になるため、激しい腹痛や持続する嘔吐がある場合は、すぐに医療スタッフに伝えることが重要です。
術後イレウスの予防
術後のイレウスを完全に防ぐことは難しいですが、以下のような対策が有効です。
- 術後早期からの歩行(医師の許可のもとで)
- 腹部のマッサージ(看護師の指導のもとで)
- 食事の段階的な再開(流動食から徐々に固形食へ)
- 十分な水分摂取
- 便秘の予防(必要に応じて下剤を使用)
排尿障害の管理とリハビリテーション
直腸がんの手術では、骨盤内の神経を損傷する可能性が高く、術後に排尿障害が起こることがあります。これは手術の際に避けられない側面もあり、がんの根治性を優先した結果として生じる場合があります。
排尿障害が起こる理由
膀胱の機能をコントロールする自律神経(骨盤神経叢)は、直腸のすぐ近くを走行しています。直腸がんを確実に切除するため、特に進行がんに対して拡大郭清(広範囲のリンパ節を含めて切除)を行う場合、これらの神経も一緒に切除または損傷されることがあります。
神経が損傷されると、膀胱に尿がたまっても尿意を感じにくくなったり、膀胱を収縮させて尿を押し出す力が弱くなったりします。結果として、尿が出にくい、残尿が多いといった症状が現れます。
カテーテル管理と膀胱訓練
手術中から膀胱にカテーテル(導尿管)を留置し、術後しばらくの間はこれを使用して排尿を管理します。術後4~5日目頃から、膀胱訓練を開始します。
膀胱訓練の方法は以下の通りです。
- カテーテルの先端をクランプ(はさんで止める)する
- 3~4時間待って膀胱に尿をためる
- 膀胱充満感があるか確認する
- 時間が来たらクランプを開放し、自力で排尿を試みる
- 排尿後、残尿量を測定する
この訓練を繰り返すことで、膀胱の感覚と収縮力の回復を促します。ただし、進行がんに対して拡大郭清を行った場合、神経の損傷が大きいため、排尿機能の回復には1ヶ月以上かかることも珍しくありません。
膀胱洗浄と感染予防
カテーテルを長期間留置していると、カテーテル内に沈着物がたまったり、細菌感染のリスクが高まります。そのため、週に2~3回、膀胱洗浄を行います。
また、残尿が多い状態が続くと、膀胱内で細菌が繁殖しやすくなり、膀胱炎や腎盂腎炎を起こすことがあります。発熱がある場合は尿路感染の可能性があるため、尿検査や抗生物質による治療が必要です。
過伸展膀胱に注意
排尿機能が十分に回復していない段階でカテーテルを抜去すると、残尿が増えて膀胱が過度に膨らんでしまう(過伸展)ことがあります。膀胱内に600ミリリットル以上の尿がたまると、膀胱の筋肉が損傷し、収縮する力がなくなってしまう危険性があります。
一度過伸展を起こすと、膀胱機能の回復が困難になるため、残尿量の測定を定期的に行い、慎重にカテーテルの抜去時期を決定します。
術後の食事管理と注意点
大腸がん手術後の食事再開は、段階的に慎重に進める必要があります。一般的には術後4~5日目頃から経口摂取を開始しますが、患者さんの状態によって時期は異なります。
食事再開の段階
| 段階 | 食事内容 | 注意点 |
|---|---|---|
| 第1段階 | 水・お茶・重湯 | 少量ずつ、腹痛や嘔気がないか確認しながら |
| 第2段階 | 流動食(おかゆ・スープ) | 消化の良いもの、刺激物は避ける |
| 第3段階 | 三分粥・五分粥 | よく噛んで食べる、繊維質は控えめに |
| 第4段階 | 全粥・軟飯 | 徐々に普通食に近づける |
| 第5段階 | 常食 | 退院後も消化に良い食事を心がける |
食事再開時の合併症
右側の結腸を切除する手術や、直腸の拡大手術では、十二指腸周辺に手術操作が及ぶことがあります。この場合、小腸や結腸の動きは回復していても、十二指腸の蠕動運動の回復が遅れることがあります。
このような状態で食事を急ぐと、十二指腸で食べ物が停滞し、胃が拡張してしまうことがあります。症状としては、食後の腹部膨満感、吐き気、嘔吐などが現れます。このような症状がある場合は、すぐに医療スタッフに伝え、食事を一時中止して胃の減圧を行う必要があります。
人工肛門(ストーマ)のケアと日常生活
直腸がんの手術では、がんの位置や進行度によって永久的または一時的な人工肛門(ストーマ)が造設されることがあります。人工肛門を持つ生活に不安を感じる方も多いですが、適切なケアと管理を行えば、仕事や趣味、旅行なども可能です。
ストーマケアの基本
ストーマ周囲の皮膚を清潔に保つことが最も重要です。便や尿による刺激で皮膚がかぶれやすいため、以下の点に注意します。
- ストーマ袋は適切な頻度で交換する(通常2~3日に1回)
- 皮膚保護剤を正しく使用する
- ストーマ周囲の皮膚を微温湯で優しく洗浄する
- 皮膚のかぶれや出血があれば、早めに皮膚・排泄ケア認定看護師に相談する
食事と排便コントロール
人工肛門の場合、自然な肛門とは異なり、排便のタイミングをコントロールすることが難しいため、食事内容や食事時間に工夫が必要です。
- 規則正しい食事時間を心がける
- 便の状態を固めすぎず、柔らかすぎない程度に調整する
- ガスが出やすい食品(芋類、豆類、炭酸飲料など)は控えめにする
- 消化の良い食品を選ぶ
退院後のセルフケアと生活上の工夫
退院後も、合併症や後遺症と上手につきあいながら生活していく必要があります。以下のようなセルフケアが重要です。
創部の観察とケア
退院時には傷は治癒していますが、しばらくの間は以下の点に注意します。
- 傷の赤み、腫れ、痛みの増強がないか観察する
- 傷から膿や異常な分泌物が出ていないか確認する
- 入浴後は傷を清潔に保ち、よく乾燥させる
- 重いものを持つなど、腹圧がかかる動作は医師の許可が出るまで控える
排便習慣の確立
手術後は腸の動きが変化するため、排便パターンが術前と異なることがあります。
- 規則正しい食事と排便の時間を設定する
- 適度な運動(散歩など)で腸の蠕動を促す
- 水分を十分に摂取する(1日1.5~2リットルが目安)
- 食物繊維を適度に摂取する(摂りすぎは腸閉塞のリスクあり)
- 下痢や便秘が続く場合は医師に相談する
定期的な受診と検査
術後の経過観察として、定期的な外来受診が必要です。
- 決められた受診スケジュールを守る
- 血液検査(腫瘍マーカーなど)を定期的に受ける
- CT検査や大腸内視鏡検査で再発がないか確認する
- 気になる症状があれば、次の受診を待たずに相談する
合併症を予防するための対策
術後の合併症を完全に防ぐことは難しいですが、リスクを減らすための対策があります。
術前からできる準備
| 対策 | 具体的な方法 |
|---|---|
| 栄養状態の改善 | タンパク質やビタミンを十分に摂取し、低栄養状態を改善する |
| 禁煙 | 手術の2週間前からは必ず禁煙する(血流改善、傷の治癒促進) |
| 糖尿病のコントロール | 血糖値を適切に管理し、HbA1cを7%以下にする |
| 口腔ケア | 歯科受診で虫歯や歯周病を治療し、術後肺炎を予防する |
| 体力づくり | 適度な運動で体力を維持し、術後の回復力を高める |
術後の早期離床
手術後はできるだけ早く体を動かすことが、合併症予防に効果的です。
- 医師の許可が出たら、ベッド上で足の運動を行う
- 術後1~2日目には、ベッドサイドでの立位や歩行を開始する
- 痛みがある場合は鎮痛剤を使用し、無理のない範囲で体を動かす
- 深呼吸や咳の練習で肺炎を予防する
まとめに代えて
大腸がん手術後の合併症や後遺症は、様々な種類があり、それぞれに適した対処法があります。重要なのは、起こりうる合併症について事前に知識を持ち、症状が現れた際に早期に対応することです。
医療スタッフは術後の観察と管理を行いますが、患者さんご自身やご家族も、体の変化に注意を払い、気になる症状があればすぐに伝えることが大切です。また、退院後も定期的な受診を続け、セルフケアを実践することで、合併症のリスクを減らし、より良い回復につながります。
参考文献・出典情報
- 国立がん研究センター がん情報サービス「大腸がん」
https://ganjoho.jp/public/cancer/colon/index.html - 日本消化器外科学会「大腸癌治療ガイドライン」
https://www.jsgs.or.jp/modules/citizen/index.php?content_id=11 - 日本大腸肛門病学会「患者さんとご家族のための大腸がん治療ガイドライン」
https://www.coloproctology.gr.jp/ - 日本ストーマ・排泄リハビリテーション学会
https://www.jsscr.jp/ - がん研究会有明病院「大腸がんの手術」
https://www.jfcr.or.jp/hospital/ - 国立がん研究センター東病院「消化管外科」
https://www.ncc.go.jp/jp/ncce/ - 日本臨床外科学会「術後合併症」
https://www.jacs.gr.jp/ - 日本癌治療学会「がん診療ガイドライン」
https://www.jsco.or.jp/ - 厚生労働省「がん対策情報」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/gan/index.html - 日本癌学会「がん患者さんとご家族のためのサポート情報」
https://www.jca.gr.jp/

