こんにちは。がん専門のアドバイザー、本村ユウジです。
がんと診断されたとき、最初に頭をよぎるのは「子供にどう伝えよう」という不安ではないでしょうか。特に小さな子供や思春期の子供を持つ親御さんにとって、この問題は避けて通れない大きな悩みです。
実は、日本では年間約22万人の20歳から64歳の現役世代ががんと診断されており、その中には多くの子育て中の親が含まれています。がん患者さんの約4分の1が子育て中の親であるというデータもあり、この問題は決して特別なことではありません。
子供にがんのことを伝えるべきかどうか、どのように伝えればよいのか。この記事では、最新の研究データと専門家の知見に基づいて、親から子への説明方法について詳しく解説します。
なぜ子供に説明する必要があるのか
親ががんと診断されたとき、「子供には心配をかけたくない」「まだ理解できないだろう」と考えて、病気のことを隠そうとする方は少なくありません。しかし、子供は親が思っている以上に敏感です。家庭内の雰囲気の変化や親の表情の変化を察知し、何かが起きていることに気づいています。
がん患者さんの14歳以下の子供の31パーセントが心的外傷ストレスを経験しているというデータがあります。また、親の病名や病状の説明を受けていない幼児後期の子供が、親の状況に敏感に気づき、抑うつなどの情緒的反応や行動上の問題が生じていることが研究で明らかになっています。
子供に説明することで得られるメリットは次のとおりです。
まず、漠然とした不安が軽減されます。子供は説明を受けないと、想像を膨らませて事実よりも恐ろしいことを考えてしまうことがあります。真実を知ることで、不確かな恐怖から解放されます。
次に、親子間の信頼関係が強化されます。大切なことを隠さずに伝えることで、子供は「自分も家族の一員として認められている」と感じることができます。この信頼感は、これからの闘病生活を支える大きな力となります。
また、子供が状況を理解することで、年齢に応じた協力や支援を自然に行えるようになります。何ができるのかを具体的に知ることで、子供自身も前向きに状況に向き合えるようになります。
伝える前の準備と心構え
子供に病気のことを伝えるのは、親にとって負担の大きいことです。特に診断を受けた直後は、気持ちが落ち込んだり、考えがまとまらなくなったりするのは自然な反応です。焦る必要はありません。まずは親自身の気持ちが落ち着いてから伝えましょう。
伝えるタイミングは、できるだけ早い時期が望ましいとされています。一度にすべてのことを伝える必要はありませんが、早いタイミングで伝えることで、子供との信頼関係が生まれます。
伝える人については、多くの場合、親が医師から診断を聞くと同時に子供も自身の親の病気を知りますが、親から子供に伝えることを選ぶ場合は、何を話すのか、子供の質問にどう答えるのかを、医師や看護師と事前に話し合うことをおすすめします。
子供と話す際には、落ち着いて話をすることが重要です。子供は声の調子や表情から多くを読み取ります。可能であれば、事前に説明の練習をしておくとよいでしょう。
「自分の判断は正しいのか?」と不安な方へ
がん治療。
何を信じれば?
不安と恐怖で苦しい。
がん治療を左右するのは
治療法より“たった1つの条件”です。
まず、それを知ってください。
がん専門アドバイザー 本村ユウジ
子供に伝えるときの3つの「C」
がんについて子供に説明するときには、「3つのC」を念頭に置くことが推奨されています。これは専門家の間で広く知られている基本原則です。
1つ目のCは「Cancer(がん)」です。きちんと「がん」という言葉を使って伝えることが大切です。「病気」という曖昧な表現では、子供は「すぐに治る病気だ」と思い込んでしまい、これから続く入院や手術のたびに混乱してしまいます。年齢に応じた言葉で構いませんが、病名は正確に伝えましょう。
2つ目のCは「Contagious(感染)」です。がんは風邪のように人から人へうつる病気ではないことを明確に伝えます。
子供は「自分にうつるのではないか」「将来自分もがんになるかもしれない」と心配することがあります。がんは感染しないこと、誰かからうつされたり、ほかの誰かにうつしたりする病気ではないことを説明してください。
3つ目のCは「Caused(原因)」です。がんの原因は子供にあるのではないことを伝えます。
小さな子供は「自分が悪い子だから、お母さん(お父さん)が病気になった」と罪悪感を抱いてしまうことがあります。思春期の子供なら「反抗してストレスをかけたせいだ」と自分を責めてしまうかもしれません。病気は誰のせいでもないこと、何かをした、あるいはしなかったから、がんになったのではないことを伝えてください。
年齢別の具体的な説明方法
子供の理解力や感受性は年齢や発達段階によって異なります。それぞれの段階に応じた説明が必要です。以下の表に、年齢別の特徴と説明のポイントをまとめました。
| 年齢区分 | 子供の特徴 | 説明のポイント | 具体的な伝え方の例 |
|---|---|---|---|
| 幼児期(3~6歳) | 抽象的な概念の理解が難しい 想像力が豊かで不安を感じやすい |
簡単な言葉と具体的な例を使う 必要以上に怖がらせない 日常生活が大きく変わらないことを伝える |
「お母さんの体の中に悪いものができてしまったから、お医者さんに治してもらうの。お母さんは元気になるために頑張るよ」 |
| 小学生(7~12歳) | 病気の原因や治療について理解できる 具体的な情報を求める |
がんという言葉を使う 治療の流れを簡単に説明 質問を受け付け、一緒に調べる |
「お父さんはがんという病気になったんだ。でも、今からお医者さんが治すために薬や特別な治療をしてくれるよ。時々入院することもあるけど、先生たちが一生懸命治療してくれるんだ」 |
| 思春期(13歳以上) | 詳しい情報を求める 友人関係や自分の生活への影響を気にする 感情のコントロールが難しい |
病気や治療の詳細を率直に話す 感情を表現できるようサポート 家庭内での役割について話し合う |
「お母さんはがんという病気だと診断されたの。これから○○という治療を始めます。治療中は体調が優れないこともあるけど、家族みんなで協力して乗り越えていきたい。あなたにも少し協力してほしいことがあるかもしれない」 |
幼児期への説明の詳細
幼児期の子供には、専門用語を避け、親しみやすい言葉を使うことが大切です。「しこり(腫瘍)のせいで病気になった」「血液の働きが悪くなった」といった、年齢なりに理解できる説明を心がけましょう。
また、この年齢の子供は、親の入院や不在に対する不安が特に強くなります。「誰が面倒を見てくれるのか」を具体的に伝えることが安心感につながります。
小学生への説明の詳細
小学生の子供は、病気について素直に質問してくることが多いです。事前に回答を準備しておくと安心です。がんがどこにあるのか、可能であれば体の図などを使って示すとよいでしょう。
また、治療によって親の見た目が変わる可能性(脱毛、体重の変化など)についても、あらかじめ伝えておくことで、子供が受け止める準備ができます。
思春期の子供への説明の詳細
思春期の子供は、友人関係や学校生活、自分の将来への影響を強く気にします。親の病気によって友人から孤立してしまうことへの恐怖や怒りを感じることもあります。子供が友人とのつながりを維持できる方法を一緒に探しましょう。
また、治療の意思決定については、年齢に応じて子供と一緒に考える姿勢を示すことも大切です。家族の一員として尊重されていると感じることで、より前向きに状況に向き合えるようになります。
子供の反応と適切な対応
親のがんについて説明を受けた子供は、さまざまな反応を示します。年齢や性格、親子関係によって反応は異なりますが、よくある反応とその対応方法を理解しておくことが重要です。
| 子供の反応 | 背景にある気持ち | 適切な対応方法 |
|---|---|---|
| 質問攻めになる | 不安を言葉にすることで整理しようとしている | 可能な限り正直に答える。わからないことは「わからない」と正直に伝え、一緒に調べることを提案する |
| 何も言わず引きこもる | ショックを受けて言葉にできない どう反応していいかわからない |
無理に話させようとせず、そばにいることを伝える。「話したくなったらいつでも聞くよ」と声をかける |
| 怒りっぽくなる | 不安や悲しみを怒りで表現している | 感情を否定せず受け止める。「怒ってもいいんだよ」と伝え、安全な方法で感情を発散できるようサポートする |
| いつもより甘えてくる | 親を失う不安 愛情の確認 |
できる限り甘えを受け入れる。体調が悪いときは正直に伝え、代わりに抱きしめたり話を聞いたりする時間を作る |
| 明るく振る舞う | 親を心配させないようにしている 本当の気持ちを隠している |
「つらいときは我慢しなくていいんだよ」と伝える。定期的に気持ちを聞く機会を作る |
どのような感情でも、たとえ不快な感情であっても表現していいことを伝えましょう。また、「今は話す気がしない」と言ってもいいことも伝えてください。
注意したいのは、子供が「死んじゃうの?」と聞いてくることです。これは普通のことで、驚く必要はありません。「死なない」という約束はせず、そのかわりに、そうならないことを強く望んでいること、長く生きるために医師の治療を受けてがんを克服しようとしていることを子供に伝えましょう。
日常生活での工夫と具体的な関わり方
がんのことを伝えた後は、年齢にかかわらず子供にお願いしたいことを言葉で伝えるようにしましょう。がんという事実を知った後、子供は「何かできることはないか」「どうやって声をかけたらいいのだろうか」と考えています。
具体的な手伝いを依頼することで、子供は自分の役割を理解し、親の役に立てることが気持ちの支えになります。例えば次のようなことです。
「今日は抗がん剤治療を受けた日だから、ママは横になっていたいの」と体調について正直に伝える。「洗濯物を取り込んでほしいな」「コップ1杯の水を持ってきてもらえる?」「重いものを運ぶのを手伝ってくれる?」など、年齢に適した仕事を手伝ってもらう。
治療によって体力が落ちてしまうこともありますが、子供の話に耳を傾ける努力をしてみましょう。そうすることで、親がどれだけ子供を愛しているかが伝わり、先々子供が安心して悩みを相談できるようになります。
また、日常生活のリズムを大きく崩さないよう心がけることも重要です。学校や習い事、友達との遊びなど、できる限り今までどおりの生活を維持することで、子供に安心感を与えることができます。
サポートシステムの活用
子供への説明が難しい場合や、子供の心のケアについて心配な場合は、専門家やサポート団体の力を借りることも有効です。
がん相談支援センターは、全国のがん診療連携拠点病院、小児がん拠点病院、地域がん診療病院に設置されています。がんに関するさまざまな相談に対応しており、子供への説明方法についても相談することができます。医療相談室、地域医療連携室などの名称が併記されていることもあります。
緩和ケア室では、診断を受けた直後から、体調面だけでなく精神面のサポートも受けられます。子供に病気を伝えるためのパンフレットを用意している医療機関もあります。
心理カウンセラーやチャイルド・ライフ・スペシャリストは、子供が感情を整理できるようサポートします。特に、簡単には解決できない感情や、時間が経つにつれて悪化していくような感情については、専門家に相談することをおすすめします。
役立つ外部リソース
がんになった親を持つ子供のサポートに特化した団体や、役立つ情報を提供しているウェブサイトがあります。
特定非営利活動法人ホープツリー(Hope Tree)は、がんになった親を持つ子供のサポートプログラムを提供しています。親ががんになったことを子供に伝える方法や、子供を支えていく方法について詳しい情報が得られます。CLIMBプログラムなど、子供向けのグループプログラムも実施しています。
書籍や絵本も有効なツールです。がんをテーマにした子供向けの絵本やガイドブックを活用することで、子供が病気について理解しやすくなります。医療機関や図書館で相談してみましょう。
また、地域によっては、子育て短期支援事業として、一時的に児童養護施設等で子供を預かるサービスもあります。ファミリー・サポート・センターに事前に会員登録をしておくことで、受診の際の預かりや保育施設等の送迎などのサポートを依頼できることもあります。
家族全体で向き合うために
がんの治療中は、親として子供にどのように接するべきか悩むことが多いでしょう。しかし、最も重要なのは、子供と一緒に困難に向き合う姿勢を持つことです。
状況は変わっても、子供に対する愛は変わっていないことを繰り返し伝えてください。がんの診断を受けたとき、すべての状況に対応できるように準備することはほとんど不可能です。時には、何を言っていいかわからないこともあるでしょう。それは正常なことであり、大丈夫です。
親は子供の専門家です。がんには圧倒されたり、混乱させられたりすることがありますが、親が子供のことを一番よく知っているという事実に変わりはありません。この困難な時期にどのように子供をサポートするのがベストなのか、自分の感覚を信じてください。
小さな喜びを共有することも忘れないでください。毎日の中でポジティブな瞬間を見つけ、子供と共有しましょう。サポートネットワークを活用し、家族や友人、専門家の助けを借りることを恐れないでください。そして、子供の成長を信じることです。子供は親のサポートを受けながら、困難を乗り越える力を持っています。
親ががんと向き合う中で、子供とのコミュニケーションは家族全体の絆を深める機会にもなります。子供に愛情と安心感を伝えながら、一緒にこの状況を乗り越えていくことが、何よりも大切なことです。
参考文献・出典
国立がん研究センターがん情報サービス「未成年の子どもがいるがんと診断された方へ」