がん専門のアドバイザー、本村です。
当記事では膀胱がん手術によって人工膀胱(ストーマ)になったときの影響について解説しています。
膀胱がんでは、経尿道的膀胱腫瘍切除(TURBT)を受けたものの何度も再発したり、筋層浸潤性がんと診断されたりした場合は「膀胱を切除して取り除く=全摘出」手術が推奨されています。
再発したり筋層に浸潤したりしていても、膀胱を摘出しない「膀胱温存療法」を実施している病院はいくつかあります。私がサポートしている患者さんに膀胱温存と実施できる病病院名を伝えて推薦することもありますが、温存をするには様々な条件があり、実施できる病院も限られます。
そもそも温存療法はガイドラインでは推奨度が低いこともあり、ほとんどの人は温存療法の可能性さえ知らされることなく全摘出が提案されるため、多くの患者さんが膀胱全摘出の治療を受けることになります。
全摘出すれば膀胱が無くなるため、人工膀胱(ストーマ)にすることになります。この記事ではストーマの種類、ストーマにしたことで起きる生活への影響などについて解説します。
膀胱の位置と全摘出手術で切除する部位
膀胱の位置は男女それぞれ以下の部分にあります。
横からみるとほぼ体の中心部にあり、腹部の神経群も多く存在するため繊細な技術が求められる大きな手術になります。
膀胱自体は命を左右する器官ではないですが、簡単に膀胱だけ取り除いて終わり、というわけにはいきません。
男性の場合は精嚢(せいのう)、前立腺、精管の一部、場合によっては尿道も摘出します。女性の場合は子宮や腟の3分の1を摘出する場合もあります。なお、男女問わず周囲のリンパ節も摘出します。がんの状況や体調などにもよりますが泌尿器科の手術でも最も大きな手術だといえる体への侵襲が大きい手術です。
手術を受ける際には、必ず切除範囲や切除することで受ける影響を確認するようにしましょう。
膀胱を切除することに伴う尿路変更(尿の出し方の変更)とストーマ
膀胱を全摘すると、尿を溜め、体外へ排出する役割を果たす膀胱がなくなります。
そのため「膀胱を取り除く手術」と同時に尿の通り道を作る手術(尿路変更術)が必要になります。
この尿路変向の種類にもいくつか方法があり具体的には、
- 尿失禁型
- 自己導尿型
- 自排尿型
の大きく3つの方法があります。現在、一般的に行われているのはこのうと「1.尿失禁型」「3.自排尿型」の2つです。膀胱全摘手術を受ける場合、必ずどちらかを提案されることになります。
それぞれどのような形になるのか解説します。
尿失禁型
「尿を溜める機能を持たずに尿を体外へ出す」というやり方です。
お腹にストーマ(尿の出口)を作り、専用の装具(尿を貯めるビニール)を常に皮膚に装着しておく必要があります。
手術の方式としては小腸の一部である回腸(かいちょう)を用いる「回腸導管(かいちょうどうかん)」や尿管を直接体外に出す「尿管皮膚瘻(にょうかんひふろう)」といった方法があります。
図はイメージとして把握できますが、実際に回腸導管した場合は、回腸の一部をお腹から出すことになります。これに対して尿を貯めるビニールを取り付けます。実際の写真はこのような形になります。
肉体的にはもちろん、精神的にも負担があります。実際にこうなると知ってショックを受ける人はとても多いですが、2017年時点でも最もこの方式が多く採用されています。女性は次に述べる自排尿型を採用できないので(尿失禁のリスクが続くため)この方式になります。
何かの拍子に袋が外れてしまう、寝返りを安心して打てない、など、腹部に尿を貯める袋をつけることによる生活上の影響があります。肉体的に苦痛を感じることはないですが、精神的に安心できない、常に緊張感があるなどの負担を訴える方が多いです。
自排尿型
原則として男性限定の方法です。自身の回腸をつかって疑似的な膀胱を体内に作ります(新膀胱)。これが蓄尿機能を果たすことになります。新膀胱と尿道をつなげるため、今までと同じ場所から排尿できます(陰茎からおしっこが出ます)。これは尿失禁型のように体外に袋をつけておく必要がありません。外見的には今までと変わりがないということです。
代表的な術式として、ハウトマン法、ステューダ法があります。
第一印象では体の外に回腸を出して袋をつける=ストーマよりは、自排尿型のほうがずっとよいと思われますが、自排尿型は管理上の面倒さやデメリットもあります。
まず、回腸を用いて作った新膀胱には、自ら収縮して尿を排泄する機能がありません。尿意も感じることがありません。このため、一定の時間ごとに腹圧をかけて(外から新膀胱のある部分を押すなどして)排尿することになります。少なくとも4~5時間に1回、腹圧を利用して排尿する必要があります。
術後数か月は新膀胱の容量や排尿の仕方に慣れないため、尿漏れが起こりますので、紙おむつや尿漏れ用パッドなどを当てておきます。
慣れてくるとこれらを使わず、一定時間内に排尿できますが、夜間でも4~5時間おきに必ず起きるという生活を続ける事になります。
もしも尿が残ってしまった場合は、カテーテルで導尿しなければいけません。
また、腸粘膜から分泌される粘液の影響を受け、粘液が尿の流れを妨げることがあります。そのため1割ほどの人に尿閉(尿が出なくなること)が起ります。
あまり症例数は多くないですが尿管と代用膀胱である回腸をつないだ箇所から尿が腎臓に逆流することがあります。これによって、腎機能が低下したり、腎盂炎を起こしたりすることがあります。
これらの管理上の問題が多いため、首都圏の大病院など、膀胱がん手術の症例数が豊富な病院ではストーマを使う尿失禁型の尿路変更術が第一選択として推薦されることが多いです。