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こんにちは。がん専門のアドバイザー、本村ユウジです。
膀胱がんと診断され、「膀胱を全摘出する手術が必要」と告げられたとき、多くの方が大きな不安を抱えます。中でも「人工膀胱(ストーマ)になったら、これまでの生活はどうなるのか」という点は、もっとも気になることの一つではないでしょうか。
この記事では、膀胱がんで膀胱全摘出手術を受ける場合に知っておくべきこととして、手術で切除する範囲と体への影響、尿路変更術(ストーマを含む)の種類と特徴、日常生活に与える具体的な変化、そして利用できる福祉制度までを整理してお伝えします。
これから手術を検討する方や、すでに提案を受けている方にとって、ご自身の判断の軸を持つための参考になれば幸いです。
膀胱がんで膀胱全摘出手術が必要になる場合とは
膀胱がんでは、まず経尿道的膀胱腫瘍切除(TURBT)という、尿道からカメラを入れてがんを削り取る手術が行われます。しかし、以下のような場合には膀胱そのものを取り除く「膀胱全摘除術」が推奨されています。
| 全摘出が推奨されるケース | 内容 |
|---|---|
| 筋層浸潤性膀胱がん | がんが膀胱の筋肉の層まで深く広がっている場合 |
| 再発を繰り返す場合 | TURBTを受けても何度も再発し、悪性度や深達度が進行する場合 |
| BCG注入療法が効かない場合 | 上皮内がんなどに対するBCG膀胱内注入治療に反応しない場合 |
一方で、膀胱を摘出しない「膀胱温存療法」という選択肢もあります。TURBT、抗がん剤、放射線治療を組み合わせた集学的治療がその代表です。しかし、ガイドライン上では推奨度が低く、実施できる病院も限られています。高齢や合併症などで全摘手術が難しい方や、強く温存を希望する方が対象となることが多いのが現状です。
そのため、多くの患者さんは温存療法の可能性を十分に知らされないまま全摘出手術を提案され、結果として膀胱全摘除術を受けることになります。私がサポートしている患者さんには膀胱温存の可能性がある病院をお伝えすることもありますが、温存にはさまざまな条件があり、すべての方に適用できるわけではありません。
膀胱全摘出手術で切除する範囲と体への影響
膀胱は体のほぼ中央の骨盤内にある臓器です。膀胱自体は生命を直接左右する器官ではありませんが、周囲に多くの神経や臓器が存在するため、全摘出手術は泌尿器科の手術の中でもとりわけ侵襲が大きい手術です。手術時間は6〜10時間に及ぶことがあり、術中の出血も多くなる傾向があります。
切除する範囲は膀胱だけにとどまりません。男女それぞれで異なる臓器も同時に摘出されます。
| 性別 | 膀胱と同時に摘出される臓器 |
|---|---|
| 男性 | 前立腺、精嚢(せいのう)、精管の一部、場合によっては尿道 |
| 女性 | 子宮、腟の一部(前壁)、卵巣(標準的な術式の場合)、場合によっては尿道 |
| 男女共通 | 骨盤内リンパ節(転移の有無にかかわらず郭清が行われる) |
このように、がんの状況や体の状態によって切除範囲は変わります。手術を受ける前には、どこまで切除するのか、切除によってどのような影響があるのかを担当医にしっかり確認しておくことが大切です。
性機能への影響
男性の場合、前立腺の側面を走行する勃起神経を切除することが多く、その場合は勃起機能が失われます。射精もできなくなります。がんの状態によっては勃起神経を温存できることもありますが、温存しても十分な勃起が得られないこともあります。
女性の場合、子宮と腟の一部が切除されるため、腟が短くなります。ただし、性交渉自体は可能です。
将来子どもをもつことを希望している場合は、手術前に担当医に妊孕性(にんようせい=子どもをつくる力)の温存について相談しておくことをお勧めします。
「自分の判断は正しいのか?」と不安な方へ
がん治療。
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まず、それを知ってください。
がん専門アドバイザー 本村ユウジ
膀胱全摘出に伴う尿路変更術(ストーマ)の種類と特徴
膀胱を全摘すると、尿を溜めて体外へ排出する臓器がなくなります。そのため、膀胱の摘出手術と同時に、尿の通り道を新たに作る手術(尿路変向術・尿路変更術)が必要になります。
この尿路変更術には大きく分けて以下の3つの方式があります。現在、一般的に行われているのは「回腸導管造設術(ストーマ式)」と「自排尿型新膀胱造設術」の2つです。
| 種類 | 方式 | ストーマの有無 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| 回腸導管造設術 | 尿失禁型(非禁制型) | あり | 国内で最も多く行われている。適応範囲が広い |
| 尿管皮膚瘻造設術 | 尿失禁型(非禁制型) | あり | 手術の負担が少ない。高齢者や合併症のある方向け |
| 自排尿型新膀胱造設術 | 禁制型 | なし | 尿道から排尿できるが管理の手間がある |
どの方式を選んでも、がんの再発率には差がないとされています。がんの状態、全身の健康状態、生活環境、過去の手術歴などを総合的に考慮し、担当医と相談して決めることになります。手術後は選んだ尿路を生涯使用することになるため、それぞれの長所と短所をよく理解した上で判断することが重要です。


回腸導管造設術(ストーマ式)の仕組み
回腸導管造設術は、小腸(回腸)の一部(15〜20cm程度)を切り離し、そこに左右の尿管をつなぎます。回腸の端をお腹の外に出して、尿の出口(ストーマ)を作る方法です。
ストーマからは断続的に尿が出てくるため、尿をためるための専用装具(パウチ・採尿袋)を常にお腹に装着しておく必要があります。パウチに尿がたまったら、適宜トイレで流します。
この方式のメリットは、適応範囲が広く、合併症が比較的少ないことです。手術時間も自排尿型に比べて短くて済みます。症例数が豊富な病院では、回腸導管を第一選択として推奨することが多いです。
デメリットは、常にお腹にパウチを装着する必要があること、ストーマ周囲の皮膚のケア(ストーマケア)を継続して行う必要があることです。
尿管皮膚瘻造設術の仕組み
尿管皮膚瘻造設術は、切断した尿管を直接お腹の皮膚に縫い付けて、尿の出口(ストーマ)とする方法です。腸を使わないため手術時間が短く、体への負担が少ないのが特徴です。
ただし、尿管の出口が狭くなりやすい(狭窄)という問題があり、尿の排出をスムーズにするためにステント(人工の管)を定期的に交換する必要が生じることがあります。腎盂腎炎などの感染症リスクも高めです。
こうした理由から、一般的には高齢の方や合併症があって大きな手術に耐えるのが難しい方、腸管の疾患があって腸を使えない方に選択されることが多い方式です。
自排尿型新膀胱造設術の仕組み
自排尿型新膀胱造設術は、小腸の一部を使って袋状の新膀胱(代用膀胱)を作り、これを尿道につなぐ方法です。手術前と同じように尿道から尿を出すことができ、外見上はストーマがないため、見た目の変化がないのが最大のメリットです。
しかし、管理面ではいくつかの注意点があります。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 尿意 | 新膀胱には自ら収縮して尿を排出する機能がなく、尿意も感じない |
| 排尿方法 | 4〜5時間ごとに腹圧をかけて(お腹を押すなどして)排尿する必要がある |
| 夜間の排尿 | 夜間も4〜5時間おきに起きて排尿する生活が続く |
| 術後の尿漏れ | 術後数か月は新膀胱の容量や排尿の仕方に慣れず、尿漏れが起こる。紙おむつやパッドを使用する |
| 腸粘液の影響 | 腸粘膜から分泌される粘液が尿の流れを妨げ、約1割の方に尿閉(尿が出なくなること)が起きる |
| 導尿の可能性 | 尿が残ってしまう場合、自分でカテーテルを使って導尿する必要がある |
| 腎臓への影響 | まれに、尿管と新膀胱のつなぎ目から尿が腎臓に逆流し、腎機能低下や腎盂炎を起こすことがある |
| 手術の制約 | 尿道を切除した方、腸閉塞や腸の手術歴がある方は選択できない |
このように、自排尿型はストーマがない分、見た目のメリットはありますが、管理上の手間やリスクもあります。新膀胱に慣れるまでには数か月を要し、その間は尿漏れ対策が欠かせません。メリットとデメリットを比較し、自分の生活スタイルや体の状態に合った方式を選ぶことが大切です。
ロボット支援手術という選択肢について
膀胱全摘除術は、従来は下腹部を大きく切開する開腹手術で行われてきました。しかし、2018年4月からロボット支援腹腔鏡下膀胱全摘除術(ダ・ヴィンチを用いた手術)が保険適用となり、選択肢が広がっています。
ロボット支援手術には以下のような特徴があります。
| 比較項目 | 開腹手術 | ロボット支援手術 |
|---|---|---|
| 傷の大きさ | 約20cm | 小さな穴(ポート)6か所程度 |
| 出血量 | 多い(輸血が必要になることも多い) | 少ない |
| 術後の痛み | 比較的強い | 比較的軽い |
| 術後の回復 | 時間がかかる | 早期離床・早期回復が期待できる |
| 入院期間の目安 | 3〜4週間 | 約2〜3週間 |
| がんの治療効果 | 確立されている | 開腹手術と同等とされている |
ただし、ロボット支援手術を実施できる施設は限られています。膀胱全摘除術を年間10件以上実施するという施設基準があるため、現時点で基準を満たす施設は全国で数十施設程度にとどまります。地域によってはアクセスが難しい場合もありますので、担当医に相談の上、選択肢として検討してみてください。
ストーマにした場合の日常生活への影響
ストーマを造設した場合、日常生活にはさまざまな変化がありますが、工夫次第で手術前とほぼ変わらない生活を送ることができます。以下、具体的な場面ごとに整理します。
装具の管理について
ストーマの装具(パウチと面板)は常に装着しておきます。装具の交換は週に2回程度で、1回あたり30〜40分ほどかかります。入院中にストーマの洗い方や装具の付け方の指導を受け、自分で管理できるように練習します。退院後も定期的にストーマ外来を受診し、看護師に相談しながらケアの方法を身につけていきます。
ストーマ周囲の皮膚はかぶれやすいため、清潔を保ちこまめに手入れすることが重要です。装具の密着が悪いと尿漏れや皮膚トラブルの原因になります。
入浴について
装具をつけたままでも、外しても、入浴することができます。ストーマから尿が出ることがあるため、食前や食後しばらく経った排泄の少ない時間帯を選ぶと安心です。入浴用の装具や保護シートも市販されています。温泉や公衆浴場にも入ることは可能です。
運動・スポーツについて
体力が回復すれば、ほとんどの運動は手術前と同じように行うことができます。マラソン、水泳、スキーなど、さまざまなスポーツに取り組むオストメイト(ストーマ保有者)の方がいます。ただし、ストーマを強く圧迫するような動作や、傍ストーマヘルニア(ストーマ周囲の腹壁が膨らむ状態)を引き起こす恐れのある激しい腹圧のかかる運動は注意が必要です。
仕事への復帰について
仕事の内容にもよりますが、退院後1〜2週間程度自宅で経過をみた後、問題がなければ仕事に復帰できるケースが多いです。装具をつけていても、デスクワークをはじめ多くの職種で問題なく働くことができます。
外出・旅行について
ストーマがあっても、外出や旅行を楽しんでいる方は多くいます。公共交通機関や高速道路のサービスエリア、デパートやショッピングセンターなどでは、オストメイト対応トイレの設置が進んでいます。オストメイト対応トイレには、汚物流しや温水シャワー、手荷物用フックなどの設備が整っており、外出先でもストーマの管理がしやすくなっています。
海外旅行に出かけるオストメイトの方もいます。事前に替えの装具や必要な用品を十分に準備し、長時間のフライトでも対応できるように備えておけば安心です。
服装について
ストーマ装具は薄型のものが開発されており、衣服の上からは目立ちにくくなっています。きつくストーマ部分を締め付けるベルトやズボンは避ける必要がありますが、それ以外は特に制限はありません。
食事について
尿路ストーマの場合、消化管ストーマ(人工肛門)と異なり、食事の制限は基本的にありません。ただし、水分をしっかり摂ることが大切です。脱水になると尿が濃縮されてストーマのトラブルにつながることがあるためです。
ストーマ造設後に利用できる福祉制度
永久的なストーマを造設した方は、「膀胱または直腸の機能障害」として身体障害者手帳を取得できます。手帳を取得すると、さまざまな支援を受けることが可能です。
身体障害者手帳の等級
| 等級 | 該当する状態 |
|---|---|
| 4級 | 消化器または尿路のストーマどちらか1つを保有している場合(多くのオストメイトが該当) |
| 3級 | 消化器と尿路の両方のストーマ(ダブルストーマ)を保有している場合など |
| 1級 | 他の障害も合わせ持つ場合など |
ストーマ造設後すぐに申請でき、造設から6か月経過後の状態によっては等級の変更申請ができることもあります。申請はお住まいの市区町村の福祉担当窓口で行います。
身体障害者手帳で受けられる主な支援
| 支援内容 | 概要 |
|---|---|
| ストーマ装具の給付 | 日常生活用具として装具購入費の給付を受けられる(蓄尿袋の場合、月額基準額は11,639円程度の自治体が多い) |
| 交通運賃の割引 | JR(片道100km超で普通乗車券5割引)、国内航空運賃割引、バス・タクシー割引など |
| 税金の控除・免除 | 所得税・住民税の障害者控除(27万円、特別障害者40万円など) |
| 医療費控除 | ストーマ装具の購入費を医療費控除の対象にできる(ストーマ装具使用証明書が必要) |
| 有料道路の割引 | 自動車登録番号の記載を受けた車両で通行した場合、通行料金5割引 |
| 携帯電話料金の割引 | 各携帯電話会社の障害者割引サービスが利用可能 |
装具の給付額や支援の詳細は自治体によって異なります。詳しくはお住まいの市区町村の福祉担当窓口に確認してください。
高額療養費制度の活用
膀胱全摘除術と尿路変更術は高額な手術ですが、高額療養費制度を利用すれば、1か月の自己負担額を一定の金額に抑えることができます。所得区分にもよりますが、多くの場合、実質の負担額は10万円前後になります。手術前に「限度額適用認定証」を取得しておくと、窓口での支払いを自己負担限度額にとどめることができます。
尿路変更の方式を選ぶ際に考えておきたいこと
回腸導管(ストーマ式)と自排尿型新膀胱のどちらを選ぶかは、患者さんにとって大きな判断です。どちらが優れているということではなく、それぞれにメリットとデメリットがあります。
| 比較項目 | 回腸導管(ストーマ式) | 自排尿型新膀胱 |
|---|---|---|
| 外見上の変化 | お腹にストーマと装具がつく | 外見上の変化なし |
| 排尿方法 | ストーマから自動的に尿が出る。パウチで管理 | 4〜5時間ごとに腹圧をかけて排尿 |
| 夜間の管理 | 就寝中も装具で対応可能。ナイトバッグを使用 | 夜間も4〜5時間おきに起きて排尿が必要 |
| 尿漏れ | 装具が適切なら起きにくい | 術後数か月は尿漏れが起こりやすい |
| 導尿の必要性 | 基本的になし | 尿が残る場合、自己導尿が必要になることがある |
| 手術の負担 | 比較的短時間 | 手術時間が長く体への負担が大きい |
| 合併症 | 皮膚トラブルが主。比較的少ない | 尿閉、腎機能への影響、腸粘液の問題などがある |
実際に尿路変更術を受けた患者さんの話を聞くのも参考になります。担当医や看護師だけでなく、患者会(日本オストミー協会など)を通じて経験者の声を聞いてみることをお勧めします。
ストーマとともに生活するということ
ストーマを造設したことで「以前と同じ生活はできないのではないか」と不安に感じる方は少なくありません。しかし、装具の技術は年々進歩しており、薄型で目立ちにくいもの、皮膚にやさしいものなど、さまざまな製品が開発されています。
ストーマは日常生活を極端に制限するものではありません。仕事を続けたり、スポーツや旅行を楽しんだりしている方は多くいます。最初は戸惑いや不安があっても、ストーマケアに慣れ、生活の工夫を重ねていくことで、自分らしい生活を取り戻していくことは十分に可能です。
退院後もストーマ外来を定期的に受診し、皮膚・排泄ケア認定看護師などの専門家に相談しながら、ご自身に合った装具やケア方法を見つけていくことが大切です。
参考文献・出典情報
1. 国立がん研究センター がん情報サービス「膀胱がん 治療」
https://ganjoho.jp/public/cancer/bladder/treatment.html
2. 国立がん研究センター がん情報サービス「膀胱がん 療養」
https://ganjoho.jp/public/cancer/bladder/follow_up.html
3. MSD oncology「治療後の生活(予後、ストーマなど)膀胱がん」
https://www.msdoncology.jp/bladder/life/
4. NPO法人キャンサーネットジャパン「膀胱がんの膀胱摘出後の排尿方法について」
https://www.cancernet.jp/boukougan/bladder-surgery2
5. がんプラス「再発・転移性膀胱がんの治療に新薬登場!尿路変向の選択」
https://cancer.qlife.jp/bladder/bladder_feature/article4632.html
6. 国立がん研究センター東病院「ロボット支援手術(ダ・ヴィンチ)について」
https://www.ncc.go.jp/jp/ncce/clinic/urology/070/020/010/20210518151509.html
7. 日本オストミー協会「日常生活のポイント」
https://joa-net.org/howto/hint/
8. 日本オストミー協会「主な福祉制度」
https://joa-net.org/howto/welfare/
9. ディアケア ストーマ・ライフ「身体障害者手帳」
https://www.almediaweb.jp/stomacare/life/contents/stoma/001.html
10. 静岡県立静岡がんセンター「ストマ装具等の代金と治療費について」
https://www.scchr.jp/cancerqa/jyogen_4400526.html