
乳がんの内視鏡手術
こんにちは。がん専門のアドバイザー、本村ユウジです。
乳がんの手術を検討するとき、多くの患者さんが気になるのは「傷跡をどれだけ小さくできるか」という点です。乳房は女性にとって体の一部であると同時に、外見やアイデンティティにも深く関わる部位だからです。
そのような中で注目されているのが、内視鏡を使った乳がん手術です。従来の温存手術と比べて傷が小さく目立ちにくいという特徴があります。しかし、どのような患者さんに適しているのか、メリットだけでなくデメリットも理解しておくことが大切です。
乳がんの内視鏡手術とは
内視鏡手術は、乳房温存手術の一つです。通常の温存手術(直視下手術)では、がんのある位置を大きく切開して部分切除を行いますが、内視鏡手術では、小さな切開を複数組み合わせて手術を行います。
具体的な切開部位は施設によって若干異なりますが、一般的には以下のような方法がとられています。
・乳輪の約半周を切開
・腋窩を2~5cm切開
・外側乳房線を切開
腋窩の切開創から内視鏡と手術器具を挿入し、乳腺と大胸筋の間に炭酸ガスを注入して手術スペースを確保します。内視鏡で観察しながらがんを切除し、乳輪側からも必要に応じて切除を行います。
この手術法の最大の特徴は、がんが乳房のどの部位にあっても、目立たない場所に小さな切開を置くことができる点です。脇の傷は手を下ろせば見えませんし、乳輪の縁は色の変わり目なのでほとんど目立ちません。
内視鏡手術が適用できるケース
基本的には「温存手術ができる患者さん=内視鏡手術も可能」と考えられています。ただし、すべての温存手術適応例で内視鏡手術が最適とは限りません。
内視鏡手術に向いているケース
・皮膚への浸潤がない乳がん
・乳頭から離れた部位にがんがある場合
・がんのサイズが比較的小さい場合
・リンパ節転移が画像検査で認められない、または少数の場合
内視鏡手術が難しいケース
皮膚浸潤がある場合は、皮膚をある程度の範囲で切除する必要があるため、小さな切開で行う内視鏡手術のメリットがありません。
また、乳頭に近い位置にがんがある場合、内視鏡手術でも温存手術でも、乳房の中央部分が凹んでしまい整容性を保つことが難しくなります。このような場合は、手術方法の選択を慎重に行う必要があります。
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がん専門アドバイザー 本村ユウジ
乳がん内視鏡手術のメリット
傷が小さく目立ちにくい
内視鏡手術の最大のメリットは、手術の傷が小さいことです。傷が大きいと、傷に向かってのひきつれが起こりやすく、時間が経つにつれて乳房の変形が生じやすくなります。
複十字病院の武田泰隆医師によれば、温存手術が可能な患者さんの約8割が内視鏡手術を選択しているとのことです。
出血量が少なく回復が早い
内視鏡手術では血流を遮断しながら手術を行うため、手術中の出血量が少なくなります。また、傷が小さい分、術後の回復も比較的早い傾向があります。
再建がしやすい
内視鏡手術では、乳房内で大胸筋と乳腺を広く剥離します。通常の手術よりも広く剥離するため、乳房外から脂肪組織を移動させやすく、きれいな形で再建しやすいという利点があります。
保険適用される
内視鏡手術は保険診療の対象となっており、通常の温存手術と手術費用は変わりません。患者さんにとって経済的な負担が増えることはありません。
乳がん内視鏡手術のデメリット
データ蓄積が不足している
内視鏡手術は比較的新しい手術方法であり、他の手術方法と比べると症例数や長期的な経過に関するデータが少ないという課題があります。
統一された手術手技が確立していない
内視鏡手術の術式は施設によって異なり、統一された手技がまだ確立されていません。そのため、手術の精度や成績が医療機関や術者の技量に大きく依存します。
高度な技術が必要
内視鏡手術は手技が煩雑で、熟練した技術を要します。そのため、どこの病院でも受けられるわけではなく、実施している施設は限られています。
必ずしも整容性が保証されるわけではない
内視鏡手術をすれば元通りの乳房のままで手術ができると考えている方もいますが、実際には内視鏡手術だけでは、ある程度の変形は起こります。
整容性を保つためには、「切除範囲を小さくすること」「傷を小さく目立たなくすること」「欠損部分を再建すること」の3つの条件が必要です。内視鏡手術で解決できるのは2番目の「傷を小さくすること」のみです。
内視鏡手術と乳房の再建
内視鏡手術では、がんを切除した後の欠損部分を再建することが重要です。再建では、残った乳腺と脂肪組織を欠損部分に移動させて形を整えます。
乳房内の組織だけでは質量が不足する場合、鎖骨下から乳房上部にかけての皮下脂肪を移動させるのが基本的な方法です。
乳房の上側や鎖骨下の凹みは立位では比較的目立ちにくいのに対し、乳房下部はボリュームがなくなると乳頭が下を向き、変形が目立ちやすくなります。そのため、土台となる乳房下部にしっかりとボリュームをもたせられるよう工夫して再建が行われます。
どのように再建するかは、がんの位置や脂肪の量、血管の走行などを総合的に判断して決定されます。
がんを取り残すリスクについて
内視鏡手術であっても、通常の温存手術と同様に、がんを取り残さないよう必要かつ十分な範囲を切除します。
がんの根治性という点では温存手術と同等であり、実際にがんを取り残すリスクや予後も変わりません。従来の手術と比べて局所再発率が高くなるということはなく、長期的な治療成績も同等です。
ただし、手術を行う医療機関や術者の技量によって結果が左右される可能性があるため、十分な実績のある施設を選ぶことが重要です。
実績のある主な医療機関
内視鏡手術を実施している主な医療機関としては、以下のような施設があります。
| 医療機関名 | 特徴 |
|---|---|
| 亀田総合病院(千葉県鴨川市) | 日本で最初に乳腺内視鏡手術を開始した施設。29年以上の実績があり、長期成績で局所制御の徹底と低い乳房内再発率を実証。2022年4月には日本初の乳房ロボット手術も実施。 |
| 国立がん研究センター中央病院(東京都中央区) | 2023年8月より内視鏡補助下の乳頭乳輪温存乳房全切除術を開始。2025年10月から内視鏡下乳頭乳輪温存乳房全切除術、2025年12月からダビンチSPを用いたロボット支援下手術を開始予定。 |
| がん研有明病院(東京都江東区) | 2025年10月より内視鏡下乳頭乳輪温存乳房全切除術を開始。最新機種のダビンチSPを用いたロボット支援下手術も実施。 |
| 複十字病院(東京都清瀬市) | 温存手術が可能な患者さんの約8割が内視鏡手術を選択。脇、乳輪の縁、乳房外側の3カ所を切開する術式を採用。 |
| 大阪国際がんセンター(大阪府大阪市) | 年間600件以上の乳がん手術を実施。内視鏡を用いた手術で整容性に配慮した治療を提供。 |
| 山王病院(東京都港区) | 乳管内非浸潤癌に対する内視鏡を用いた乳腺全摘と乳房再建術を実施。 |
これらの施設では、内視鏡手術の経験が豊富な医師が在籍しており、手術の安全性と整容性の両立に取り組んでいます。ただし、施設によって術式や適応基準が異なる場合があるため、受診時に詳しく確認することをおすすめします。
入院期間について
内視鏡手術を含む乳がん手術の入院期間は、施設や手術の種類、術後の経過によって異なります。
一般的な入院期間の目安
| 手術の種類 | 入院期間 |
|---|---|
| 乳房温存手術(内視鏡手術を含む) | 3~7日程度 |
| 乳房全切除術 | 7~10日程度 |
| 乳房再建を伴う場合 | 7~14日程度 |
多くの施設では、手術の1~2日前に入院し、術後の経過が良好であれば上記の期間内に退院となります。
なお、海外では乳がん手術の80~90%が日帰り手術で行われており、日本でも一部の施設では日帰りまたは1泊入院での手術を実施しています。ただし、これは遠方の方や高齢の方、一人暮らしの方などには適応が難しい場合があります。
手術費用について
乳がんの内視鏡手術は保険診療の対象であり、通常の温存手術と費用は変わりません。
手術費用の目安
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 乳房部分切除術(手術費のみ) | 30万~40万円程度 |
| 乳房全切除術(手術費のみ) | 20万~50万円程度 |
| 検査・入院費用を含めた総額(3割負担) | 20万~40万円程度 |
実際の費用は、施設や手術の種類、入院期間、個室使用の有無などによって変わります。
高額療養費制度の活用
医療費が高額になった場合、高額療養費制度を利用することができます。この制度では、1カ月間(1日から末日まで)の医療費が一定の上限額を超えた場合、超過分の金額が払い戻されます。
自己負担上限額は、患者さんの年齢や所得によって異なります。詳細については、加入している健康保険組合や各自治体に確認することをおすすめします。
手術を受ける際の準備
内視鏡手術を検討する際は、以下の点について主治医と十分に話し合うことが大切です。
・自分のがんの状態で内視鏡手術が適応可能か
・施設の内視鏡手術の実績はどの程度か
・再建の方法や選択肢について
・術後の放射線治療や薬物療法のスケジュール
・仕事や家事への復帰時期
また、複数の医療機関の意見を聞くセカンドオピニオンも有効な選択肢です。全国のがん診療連携拠点病院にある「がん相談支援センター」では、治療方法や医療費の負担、療養生活についてなど、さまざまな相談に対応しています。
術後の生活について
手術後の生活や仕事への復帰時期は、手術の種類や術後の治療内容によって異なります。
退院後すぐに事務的な仕事であれば可能ですが、通勤ラッシュや長時間の通勤は負担になる可能性があります。また、放射線治療や薬物療法のための通院が必要になることも多いため、入院期間も含めて1カ月程度の休暇を確保しておくと安心です。
家事については、退院後すぐから可能ですが、最初は家族に分担してもらいながら、徐々に元に戻していくことが推奨されます。
まとめ
乳がんの内視鏡手術は、傷が小さく目立ちにくいという大きなメリットがある一方で、すべての患者さんに適応できるわけではなく、実施している施設も限られています。
がんの根治性という点では通常の温存手術と同等であり、保険診療の対象となっているため、経済的な負担が増えることはありません。ただし、整容性を保つためには、内視鏡手術だけでなく、適切な再建術を組み合わせることが重要です。
自分にとって最適な治療法を選択するためには、主治医との十分な話し合いや、必要に応じてセカンドオピニオンを活用することが大切です。がんの治療は、根治性と生活の質(QOL)の両立を目指すものです。納得のいく選択をするために、疑問点は遠慮なく医療者に相談しましょう。
参考文献・出典情報
1. 国立がん研究センター がん情報サービス「乳がん 治療」
2. 国立がん研究センター「乳がんの新たな治療法と新薬開発の加速化」
3. がん研有明病院「乳がん」
4. 亀田総合病院「乳腺科」
5. Doctorbook「乳がんの内視鏡手術の条件。メリットとデメリットは?」
6. NPO法人ピンクリボンうつのみや「乳がんの内視鏡手術のメリット・デメリット」
7. 乳がん.jp「乳がんの手術ではどれくらい費用がかかりますか?」
8. 乳がん.jp「乳がん手術の入院期間はどのくらいですか?」
10. 山王病院「乳腺内視鏡手術」