
こんにちは。がん専門のアドバイザー、本村ユウジです。
小細胞肺がんと診断された患者さんやご家族にとって、まず理解しておきたいのが「ステージ分類」です。小細胞肺がんのステージ分類は、非小細胞肺がんとは異なる独自の方法が用いられています。
この記事では、小細胞肺がんのステージ分類方法、限局型と進展型の違い、それぞれの治療方針について詳しく解説します。
小細胞肺がんの特徴とステージ分類の必要性
小細胞肺がんは、肺がん全体の約10~15%を占める悪性度の高いがんです。非小細胞肺がんと比較すると、次のような特徴があります。
まず、進行速度が速いという点です。細胞の分裂速度が速く、診断時にはすでに進行していることが多いです。
次に、転移しやすいという特徴があります。リンパ節や他の臓器への転移が早期から起こりやすく、診断時には約70%の患者さんが転移を伴っています。
また、化学療法や放射線療法に対する感受性が高いという特徴もあります。これは治療において重要なポイントです。
このような特徴から、小細胞肺がんでは、非小細胞肺がんで用いられる詳細なTNM分類よりも、治療方針を決定しやすいシンプルな分類方法が採用されています。
小細胞肺がんのステージ分類方法の基本
小細胞肺がんの臨床病期は、主に「限局型(Limited Disease: LD)」と「進展型(Extensive Disease: ED)」の2つに分類されます。
この分類方法は、Veterans Administration Lung Study Group(VALSG)によって提唱されたもので、現在も広く使用されています。
分類の基準は、「1つの放射線照射野で治療可能かどうか」という実際的な観点に基づいています。これは、治療戦略を立てる上で非常に重要な分類基準です。
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がん専門アドバイザー 本村ユウジ
限局型(LD)の定義と特徴
限局型の定義
限局型とは、がんが片側の肺とその近くのリンパ節に限局している状態を指します。
具体的には、以下の範囲に病変が収まっている場合を限局型と分類します。
原発巣が片側の肺に存在すること、同側の肺門リンパ節に転移があること、同側および対側の縦隔リンパ節に転移があること、同側の鎖骨上リンパ節に転移があることです。
これらの病変が1つの放射線照射野に収まる場合、限局型と判断されます。
限局型の進行度
限局型は、TNM分類で表現すると、おおむねステージI期からIII期に相当します。ただし、小細胞肺がんでは、限局型・進展型の分類が治療方針決定において優先されます。
限局型の患者さんは、小細胞肺がん全体の約30~40%を占めます。比較的早期に発見された場合や、転移が限定的な範囲にとどまっている場合が該当します。
限局型での重要な判断ポイント
限局型かどうかを判断する際、いくつかの重要なポイントがあります。
胸水の存在については、がん細胞が含まれる悪性胸水がある場合、一般的に進展型と判断されます。ただし、少量で臨床的に問題にならない場合は、限局型として扱われることもあります。
対側の鎖骨上リンパ節転移については、施設によって限局型に含める場合と進展型とする場合があり、判断が分かれることがあります。
進展型(ED)の定義と特徴
進展型の定義
進展型とは、がんが限局型の範囲を超えて拡がっている状態を指します。
具体的には、以下のいずれかに該当する場合を進展型と分類します。
対側の肺への転移がある場合、悪性胸水または悪性心嚢水が存在する場合、遠隔転移(脳、肝臓、骨、副腎など)がある場合です。
これらの病変は1つの放射線照射野に収めることができないため、進展型と判断されます。
進展型の進行度
進展型は、TNM分類ではおおむねステージIV期に相当します。小細胞肺がんの患者さんの約60~70%が、診断時に進展型と判断されます。
これは、小細胞肺がんの進行が速く、早期に転移しやすいという特徴を反映しています。
進展型での転移の特徴
進展型では、さまざまな臓器への転移が見られます。
脳転移は進展型の患者さんの約20~30%に認められます。肝転移も約20~30%に見られ、骨転移は約30~40%、副腎転移は約10~20%の患者さんに認められます。
これらの転移は、診断時にすでに存在していることが多く、治療方針を決定する上で重要な情報となります。
限局型と進展型の比較
限局型と進展型の違いを、わかりやすく表にまとめました。
| 項目 | 限局型(LD) | 進展型(ED) |
|---|---|---|
| 定義 | 片側の肺と近くのリンパ節に限局 | 限局型の範囲を超えて拡がっている |
| 病変の範囲 | 1つの照射野に収まる | 1つの照射野に収まらない |
| TNM分類での相当 | おおむねI~III期 | おおむねIV期 |
| 診断時の割合 | 約30~40% | 約60~70% |
| 遠隔転移 | なし | あり |
| 悪性胸水 | 原則としてなし | ありの場合を含む |
TNM分類との関係
小細胞肺がんでも、国際的な癌病期分類システムであるTNM分類を用いることができます。
TNM分類は、T(原発腫瘍の大きさと広がり)、N(リンパ節転移の有無と範囲)、M(遠隔転移の有無)の3つの要素から構成されます。
小細胞肺がんでは、第8版のTNM分類が適用可能です。しかし、臨床現場では、限局型・進展型の分類が治療方針決定において優先的に使用されています。
その理由は、限局型・進展型の分類が治療法の選択に直接結びつくためです。一方、TNM分類は予後の推定や、より詳細な病期評価が必要な場合に補助的に用いられます。
ステージ分類のための検査方法
小細胞肺がんのステージを正確に判定するには、複数の検査が必要です。
画像検査
胸部CT検査は、原発巣の大きさ、位置、周囲組織への浸潤、縦隔リンパ節転移の有無を評価します。造影剤を使用することで、より詳細な情報が得られます。
頭部MRI検査は、脳転移の有無を確認するために行います。小細胞肺がんは脳転移が多いため、症状がなくても検査が推奨されます。
腹部CT検査は、肝臓、副腎などへの転移を確認します。
PET-CT検査は、全身の転移を一度に評価できる検査です。FDG(フルオロデオキシグルコース)という糖の類似物質を使用し、がん細胞の活動を画像化します。
骨シンチグラフィは、骨転移の有無を調べる検査です。全身の骨を一度に評価できます。
その他の検査
気管支鏡検査は、肺の内部を直接観察し、組織を採取します。がんの確定診断や、気管支内への浸潤の程度を評価します。
胸水穿刺は、胸水が貯留している場合に行います。胸水中にがん細胞が含まれているかを確認します。
これらの検査結果を総合的に評価し、限局型か進展型かを判断します。
限局型の治療方針
限局型の小細胞肺がんに対する標準治療は、化学療法と放射線療法の併用です。
化学療法
シスプラチンまたはカルボプラチンとエトポシドの併用療法が標準的です。通常、3~4週間ごとに4~6サイクル実施します。
胸部放射線療法
化学療法と同時に、または化学療法の後に胸部への放射線療法を行います。同時併用療法の方が、治療成績が良好であることが示されています。
照射範囲は、原発巣と転移のあるリンパ節を含む領域です。標準的な線量は、1回1.8~2グレイで、総線量45~60グレイ程度です。
予防的全脳照射(PCI)
化学療法と放射線療法に良好な反応を示した患者さんに対して、予防的全脳照射が検討されます。
これは、将来的な脳転移の発生を減らすための治療です。総線量は通常25グレイ程度です。
手術療法
限局型の中でも、非常に早期(臨床病期I期相当)で、リンパ節転移がないか非常に限られている場合には、手術が検討されることがあります。
ただし、小細胞肺がんでは手術の適応となる患者さんは少なく、手術後も化学療法を行うことが推奨されます。
進展型の治療方針
進展型の小細胞肺がんに対する標準治療は、化学療法が中心です。
一次化学療法
シスプラチンまたはカルボプラチンとエトポシドの併用療法が標準です。通常、3~4週間ごとに4~6サイクル実施します。
近年では、この化学療法に免疫チェックポイント阻害薬であるアテゾリズマブまたはデュルバルマブを併用する治療が標準治療となっています。
免疫チェックポイント阻害薬を併用することで、生存期間の延長が期待できることが臨床試験で示されています。
二次化学療法
一次化学療法後に病勢が進行した場合、二次化学療法が検討されます。
使用される薬剤には、アムルビシン、トポテカン、ノギテカンなどがあります。患者さんの全身状態や臓器機能に応じて選択されます。
放射線療法
進展型でも、症状を緩和する目的で放射線療法が行われることがあります。
脳転移に対する放射線療法、骨転移による痛みを軽減するための放射線療法、上大静脈症候群などの症状を緩和するための放射線療法などです。
予防的全脳照射
進展型でも、化学療法に良好な反応を示した患者さんに対して、予防的全脳照射が検討される場合があります。ただし、適応については慎重な判断が必要です。
治療方針の比較
限局型と進展型の治療方針の違いを表にまとめました。
| 治療内容 | 限局型(LD) | 進展型(ED) |
|---|---|---|
| 化学療法 | シスプラチン/カルボプラチン+エトポシド | シスプラチン/カルボプラチン+エトポシド+免疫チェックポイント阻害薬 |
| 胸部放射線療法 | 標準治療として実施 | 症状緩和目的で実施することがある |
| 予防的全脳照射 | 治療反応良好例に推奨 | 治療反応良好例に検討 |
| 手術療法 | 非常に早期の場合に検討 | 原則として適応なし |
| 治療目標 | 根治を目指す | 延命と症状緩和 |
予後について
小細胞肺がんの予後は、限局型と進展型で大きく異なります。
限局型の予後
限局型の患者さんの生存期間中央値は、標準治療を行った場合、約18~24か月です。5年生存率は約15~25%程度です。
化学療法と放射線療法の併用により、一定の割合の患者さんで長期生存が期待できます。
進展型の予後
進展型の患者さんの生存期間中央値は、免疫チェックポイント阻害薬を併用した化学療法を行った場合、約12~13か月です。従来の化学療法のみでは約10か月でした。
5年生存率は約2~5%程度と、限局型と比較して厳しい状況です。
予後に影響する因子
予後に影響する因子として、全身状態(パフォーマンスステータス)があります。日常生活がどの程度自立して行えるかが重要な指標です。
LDH(乳酸脱水素酵素)の値も重要です。高値の場合、予後が悪い傾向があります。
転移の部位や数も影響します。特に肝転移や複数臓器への転移がある場合、予後は厳しくなります。
化学療法への反応性も重要で、治療に良好な反応を示す患者さんは予後が良い傾向があります。
ステージ分類と患者さんの理解
小細胞肺がんのステージ分類は、限局型と進展型という2つの分類で、比較的シンプルです。しかし、それぞれの意味や治療方針の違いを理解することは、患者さんにとって重要です。
限局型と診断された場合、化学療法と放射線療法を組み合わせた積極的な治療により、根治を目指すことができます。治療は強度が高く、副作用も伴いますが、長期生存の可能性があることを理解しておくことが大切です。
進展型と診断された場合、根治は難しいものの、化学療法により症状の緩和と生存期間の延長が期待できます。近年では免疫チェックポイント阻害薬の併用により、治療成績が向上しています。
参考文献・出典情報
1. 国立がん研究センター がん情報サービス「小細胞肺がん」
https://ganjoho.jp/public/cancer/SCLC/index.html
2. 日本肺癌学会「肺癌診療ガイドライン 2023年版」
https://www.haigan.gr.jp/guideline/2023/
3. 日本臨床腫瘍学会「小細胞肺癌」
https://www.jsmo.or.jp/
4. American Cancer Society "Small Cell Lung Cancer Stages"
https://www.cancer.org/cancer/lung-cancer/detection-diagnosis-staging/staging-sclc.html
5. National Comprehensive Cancer Network (NCCN) "Small Cell Lung Cancer Guidelines"
https://www.nccn.org/guidelines/category_1
6. 日本呼吸器学会「呼吸器疾患診療ガイドライン」
https://www.jrs.or.jp/
7. 厚生労働省「がん対策情報」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/gan/index.html
8. Cancer Research UK "Stages of Small Cell Lung Cancer"
https://www.cancerresearchuk.org/about-cancer/lung-cancer/stages-types-grades/small-cell-lung-cancer
9. 国立がん研究センター中央病院「肺がんの診断と治療」
https://www.ncc.go.jp/jp/ncch/clinic/thoracic_surgery/110/index.html
10. 日本癌治療学会「がん診療ガイドライン」
https://www.jsco.or.jp/