
こんにちは。がん専門のアドバイザー、本村ユウジです。
食道がんの手術は、首から胸、お腹にかけて大きく切開する大規模な手術です。そのため、患者さんの身体には相当な負担がかかります。手術後の回復過程では、痛みや苦痛との向き合い方、食事の再開、合併症への対応など、多くの課題に直面することになります。
この記事では、食道がん手術後の痛みはいつまで続くのか、どのような体調のケアが必要なのか、そして回復までにどれくらいの期間がかかるのかについて、最新の医療情報をもとに詳しく解説します。
食道がん手術の身体的負担と術後管理の重要性
食道がんの手術では、がん病巣を含めた食道の大部分を切除し、同時に周囲のリンパ節も郭清します。切除後は、胃を細長く形成した「胃管」を首まで引き上げて、残った食道とつなぎ合わせます。この一連の手術は8時間から10時間に及ぶ大手術となります。
近年では、胸腔鏡や腹腔鏡を用いた低侵襲手術が普及しており、従来の開胸・開腹手術と比較して、傷が小さく痛みが少ない、術後の回復が早いといったメリットがあります。
しかし、それでも食道がんの手術は身体への負担が大きいことに変わりはありません。
手術直後は、集中治療室(ICU)で全身状態を厳重に管理します。ICUでの管理期間は医療機関や患者さんの状態によって異なりますが、およそ1週間程度が目安となります。
この期間中、医療スタッフは24時間体制で呼吸状態、循環動態、水分バランスなどをモニタリングし、合併症の早期発見と対応に努めます。
手術後の痛みの管理と苦痛への対処
食道がん手術後の痛みは、患者さんが最も心配される問題の一つです。手術による痛みは、呼吸を妨げたり、早期離床や歩行訓練といったリハビリテーションの実施を困難にするため、適切な疼痛管理が回復の鍵となります。
現在の医療現場では、患者さんの痛みの程度に応じて、複数の鎮痛方法を組み合わせて使用します。硬膜外カテーテルを用いた持続的な鎮痛や、静脈内投与による鎮痛薬の使用などが一般的です。
痛みが強い場合は、遠慮せずに医療スタッフに伝えることが大切です。
痛みのピークは手術直後から数日間で、その後徐々に軽減していきます。多くの患者さんでは、術後1週間から2週間で痛みは相当程度改善します。ただし、個人差があり、胸腔鏡手術を受けた方は開胸手術を受けた方よりも痛みが少ない傾向にあります。
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がん専門アドバイザー 本村ユウジ
食事再開までの流れと注意点
食道がん手術後、口から食事ができるようになるまでには段階的なプロセスがあります。手術中に栄養チューブ(経腸栄養チューブ)を小腸に挿入し、術後1日目から2日目には、このチューブを通じて流動食による栄養投与を開始します。
| 術後日数 | 食事の段階 | 内容 |
|---|---|---|
| 1〜3日目 | 経腸栄養開始 | チューブから流動食を投与 |
| 7〜8日目 | 経口摂取訓練 | 水や流動食を少しずつ飲む練習 |
| 10〜14日目 | 段階的な食事移行 | 重湯、ゼリー、お粥へと段階的に進む |
| 2〜3週間後 | 通常食への移行 | 軟らかい通常食が食べられるようになれば退院可能 |
順調に経過すれば、術後9日から21日程度で退院できます。ただし、合併症が発生した場合は、入院期間が延長することがあります。
手術後に起こりやすい主な合併症
食道がん手術後には、いくつかの合併症のリスクがあります。これらの合併症を予防し、早期に発見・対処することが、順調な回復につながります。
縫合不全
食道と胃管をつなぎ合わせた部分がうまくつながらず、つなぎ目から食べ物や消化液が漏れ出す状態です。発熱や首の傷の腫れなどの症状が現れます。全国統計では5〜10%程度の発生率とされています。
肺炎
手術後は痛みのために呼吸が浅くなり、痰を十分に出せなくなることで肺炎を起こすリスクが高まります。特に喫煙歴のある方は痰が多く、肺炎のリスクが高いため、術前からの禁煙が極めて重要です。
反回神経麻痺
声帯を調節する反回神経に影響が出ると、声がかすれたり、食べ物がうまく飲み込めなくなることがあります。多くの場合、3カ月から6カ月で自然に回復します。
乳糜胸
胸の中を走行するリンパ管が傷つき、リンパ液が漏れ出る状態です。1日1リットル以上の漏れが続く場合は、追加の処置や手術が必要になることもあります。
回復を促進するリハビリテーション
食道がん手術後の早期回復には、術前からのリハビリテーションが重要な役割を果たします。
呼吸訓練
手術前から呼吸訓練器を用いた練習や腹式呼吸の訓練を行います。術後は、意識的に深呼吸をして痰を出すことが肺炎予防につながります。口をすぼめて息を深く吸い込み、勢いよく吐き出すハッフィングという方法が効果的です。
嚥下訓練
誤嚥を防ぐために、まず唾液を飲み込む練習から始めます。その後、とろみのあるものやゼリー状の食べ物を使って、実際に飲み込む練習を行います。顎を引いて飲み込む、食事中に何度も空嚥下(口の中が空の状態で唾を飲み込む)をするなどの訓練が有効です。
早期離床・歩行訓練
手術翌日から、できるだけ早くベッドから離れて歩く練習を始めます。早期離床は血栓予防や肺炎予防に効果があることがわかっています。胸腔鏡手術の場合は、翌日にはICUを出て歩行できることも多くなっています。
退院後の生活への影響と後遺症
食道がん手術後は、食事の通り道が変わることで、さまざまな症状が現れます。これらは「後遺症」として長期間続くこともありますが、適切な対処により生活の質を維持することが可能です。
体重減少
手術後、胃管は食べ物を貯めておく機能が失われるため、一度に食べられる量が減少します。多くの患者さんで体重が10〜15%程度減少します。食事の回数を1日5〜6回に増やし、少量ずつゆっくりよく噛んで食べることが対策となります。
ダンピング症候群
未消化の食べ物が急に小腸に流れ込むことで起こります。食後すぐに起こる早期ダンピング症候群では、動悸、発汗、めまい、脱力感などの症状が現れます。食後2〜3時間後に起こる後期ダンピング症候群では、血糖値の急激な低下により、めまいや発汗、震えなどが生じます。
| 症状 | 対処法 |
|---|---|
| 早期ダンピング症候群 | 1回の食事量を減らし、ゆっくりよく噛んで食べる。1日5〜6回に分けて食事をとる |
| 後期ダンピング症候群 | 糖分の多い食事や甘いジュースを控える。症状が起きそうなときはすぐに飴をなめる |
| 逆流性食道炎 | 食後2〜4時間は横にならない。就寝時は上半身を少し高くする |
| 誤嚥 | 顎を引いて飲み込む。一口の量を少なくする。食後は体を起こしておく |
逆流性食道炎
手術により胃酸の逆流を防ぐ機構が失われるため、胸やけや食道の炎症が起こりやすくなります。食後すぐに横にならないこと、脂肪の多い食事を控えることが予防につながります。
回復までの期間と経過観察
食道がん手術後の回復は個人差がありますが、一般的な経過の目安を理解しておくことは重要です。
順調に経過した場合、入院期間は2週間前後となります。退院後は、最初の2週間は自宅で療養し、その後外来で経過を観察します。経腸栄養チューブは退院後も入ったままのことが多く、栄養補給に使用します。
体力の回復には3カ月程度かかり、この間に徐々に食事量を増やし、体重を戻していきます。職場復帰や通常の生活に戻れるのは、術後3カ月から6カ月が一つの目安となります。
再発の早期発見のため、定期的な検査が必要です。食道がんの再発は80%以上が術後2年以内に起こることがわかっているため、最初の1〜2年は3カ月から6カ月ごとにCT検査や内視鏡検査を行います。その後は徐々に検査間隔を延ばしていきます。
飲酒と食道がんの再発リスク
食道がん手術後の生活において、特に注意が必要なのが飲酒の問題です。日本人の食道がんの約90%を占める扁平上皮がんは、飲酒が主な原因の一つとされています。
京都大学の研究では、食道がんの内視鏡治療後に禁酒を継続した患者さんは、禁酒できなかった患者さんと比較して、食道がんや頭頸部がんの発生割合を80%抑制できたことが明らかになりました。禁酒によって食道粘膜の前がん病変が改善し、多発性の発がんを抑制することが世界で初めて臨床的に証明されたのです。
また、飲酒で顔が赤くなる体質の方は、アルコールの代謝産物であるアセトアルデヒドを分解する力が弱く、食道がんのリスクが高くなることが知られています。治療後も飲酒を続けることは、新たながんの発生や再発のリスクを高めるため、禁酒の継続が強く推奨されます。
術後の栄養管理と血糖値コントロール
手術後は、すぐには十分な食事ができないため、栄養状態の維持が回復の鍵となります。経腸栄養チューブを通じて必要なカロリーとタンパク質を補給します。
血糖値の管理も重要な管理項目です。手術後の高血糖は創傷治癒を遅らせ、感染症のリスクを高めることがわかっています。そのため、定期的な血糖測定と必要に応じたインスリン投与が行われます。
口から食事ができるようになってからも、一口20〜30回程度しっかり噛むこと、消化の良い食べ物を選ぶこと、脂肪分の多い食事や刺激の強い香辛料を控えることが大切です。
長期的な体調のケアと生活の工夫
食道がん手術後の生活では、新しい消化器の構造に慣れ、適応していく必要があります。焦らず、自分に合った食べ方を工夫して見つけていくことが大切です。
規則正しい生活を送ることで、体調の維持や回復を図ることができます。バランスの良い食事、適度な運動、十分な睡眠を心がけましょう。ウォーキングなどの軽い運動から始めて、徐々に体を慣らしていくことが推奨されます。
食事がつかえる感じがする場合や、体重減少が続く場合は、遠慮せずに担当医や栄養士に相談してください。必要に応じて、狭くなった部分をバルーンで広げる処置を行うこともあります。
食道がんの手術は大きな試練ですが、適切な術後管理とリハビリテーション、そして患者さん自身の回復しようという意欲が、より良い予後につながります。医療チームと協力しながら、一歩一歩回復を目指していきましょう。
参考文献・出典情報
MSD oncology - 食道がん 治療中、治療後の生活
京都大学 - アルコール摂取と多発性の前がん病変が食道および頭頸部の扁平上皮がん発生を増加させる