
はじめに
こんにちは。がん専門のアドバイザー、本村ユウジです。
がん治療を受けている患者さんやご家族から、「食べ物が飲み込みにくい」「水を飲むとむせる」といった相談を受けることがあります。
このような嚥下障害(えんげしょうがい)は、がん患者さんにとって栄養摂取や生活の質に大きく影響する症状です。
2026年現在、がん治療の進歩とともに嚥下障害への対策も充実してきており、適切な対応により症状の改善や誤嚥性肺炎の予防が可能になっています。
この記事では、嚥下障害が起こる原因と、最新の対策方法について詳しく解説します。
がん患者さんにおける嚥下障害とは
嚥下障害とは、食べ物や飲み物を口から喉を通って胃へ送り込むことが困難になる状態を指します。
私たちが普段何気なく行っている「飲み込む」という動作は、実は口の中や喉の筋肉、神経などが複雑に働いて成り立っています。
がん患者さんでは、腫瘍そのものの影響や治療の副作用によって、この嚥下機能が低下することがあります。
嚥下障害があると、食事を楽しむことができなくなるだけでなく、栄養障害を引き起こす可能性があります。
さらに、むせが生じると誤嚥性肺炎を誘発する危険性もあり、適切な対応が必要となります。
2022年のデータによると、誤嚥性肺炎による死亡者数は全国で56,068名に達しており、これは新型コロナウイルス感染症による年間死亡者数を上回る数字となっています。
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がん専門アドバイザー 本村ユウジ
がん患者さんの嚥下障害の主な原因
腫瘍による物理的な通過障害
食道がんや咽頭がん、喉頭がんなどでは、腫瘍が肥大することで食べ物の通過を物理的に妨げることがあります。
がんが食道や咽頭部に発生すると、食物通過の際につかえ感や通過障害を引き起こします。
口腔がんや舌がんでは、口の中の痛みによって食べ物を口に入れること自体が難しくなるケースもあります。
腫瘍が周囲の気管や気管支に広がると、食道気管瘻(食道と気管が交通した状態)が形成され、唾液や飲食物が肺に流れ込んで肺炎を起こしやすくなります。
放射線治療による影響
放射線治療は頭頸部がんや食道がん、肺がんなどの治療で広く用いられていますが、治療中および治療後に嚥下障害を引き起こす可能性があります。
放射線治療による嚥下障害は、次のようなメカニズムで発生します。
照射中は20Gyくらいから咽頭粘膜や食道粘膜に炎症が起こり、つかえ感や嚥下時の痛みが出現する可能性が高くなります。
粘膜表面に浮腫、炎症、潰瘍が生じることで、食べ物を飲み込む際の痛みや不快感が生じます。
治療後半になるにつれて症状が強くなり、鎮痛薬を必要とする場合もあります。
また、唾液腺が照射範囲に入ると唾液の分泌が減少し、口腔内の乾燥が起こります。
唾液が減少すると、口腔での食物の噛み砕きが困難となり、食塊(食べ物の塊)の送り込みがうまくいかなくなります。
放射線治療後の晩期有害事象(後遺症)として、治療後3か月から数年経過してから食道狭窄が生じることがあります。
これは放射線による組織の線維化が進み、食道が狭くなることで起こります。
咽頭粘膜の萎縮、嚥下機能に関連する筋肉や皮膚の拘縮、舌根部の動きの低下なども、通過障害や誤嚥を引き起こす原因となります。
2026年現在、頭頸部がんの放射線治療では強度変調放射線治療(IMRT)や強度変調回転照射(VMAT)などの先進的な技術が広く使われるようになっており、これらは正常組織への放射線量を軽減し、副作用の軽減に役立つことが分かっています。
手術による影響
食道がんの手術では、食道と胃の機能が失われるため、嚥下障害が起こり誤嚥しやすくなります。
吻合部狭窄(食道と胃のつなぎ目が狭くなること)や声帯の神経麻痺なども誤嚥の原因になります。
頸部食道がんで食道とともに咽頭喉頭を切除した場合には、声帯がなくなるため声が出せなくなり、発声法の習得やリハビリテーションが必要となります。
手術後は胃が食道の替わりとなるため、食事が貯まる胃袋の機能が障害され、一度にたくさんの食事をとることが難しくなります。
また、胃酸や消化液の逆流が起こりやすくなり、夜間に逆流を起こすと誤嚥性肺炎を起こすことがあります。
化学療法による影響
化学療法(抗がん剤治療)によって粘膜が炎症を起こしたり、味覚障害が生じたりした結果、食べ物を受け付けなくなる患者さんもいます。
口内炎が発生すると、酸味の強いものを摂取した際に患部にしみて、痛みの反射でむせやすくなることがあります。
嚥下障害に対する具体的な対策とケア
食事内容の工夫と栄養管理
嚥下障害のある患者さんにとって、食事の工夫は最も重要な対策の一つです。
水分を多く含み、かつ刺激の少ない食品を選択することが基本となります。
食品はよく噛んでから嚥下するよう心がけます。
口腔乾燥がある場合は、常時口腔内を湿らせておき、食事摂取時にも水分を多く含む食物(お粥など)を摂取できるよう工夫します。
粘膜の痛みがある場合は、嚥下機能を維持するためにゼリーやプリンなど喉ごしのよいものを数回に分けて摂取します。
2025年に発刊された「がん患者さんのための栄養治療ガイドライン2025年版」では、患者さんやご家族からの質問に答える形式で46問のQ&Aが掲載されており、実践的な栄養管理の情報が提供されています。
避けるべき食品と推奨される食品
嚥下障害がある場合、以下のような食品は避けることが推奨されます。
| 避けるべき食品 | 理由 |
|---|---|
| せんべいなど硬いもの | 噛み砕きにくく、喉に詰まりやすい |
| タケノコやゴボウなど繊維質のもの | 噛み切りにくく、飲み込みにくい |
| サラッとした飲み物 | 喉に落ちるスピードが速く、むせやすい |
| 口の中でバラバラになりやすい食べ物 | 誤嚥のリスクが高い |
| 酸味の強いもの | 口内炎にしみて、痛みでむせやすくなる |
| 熱いもの、アルコール | 粘膜への刺激が強い |
推奨される食品や調理法は以下の通りです。
| 推奨される工夫 | 具体例 |
|---|---|
| とろみをつけた食品 | 市販のとろみ剤を使用、あんかけ料理、山芋や里芋など粘りのある食材 |
| やわらかく煮込んだもの | 舌でつぶせる程度までやわらかく煮た野菜 |
| 水分の多いおかゆやスープ | 通常のおかゆより水分多めに調理 |
| ヨーグルト、ゼリー、豆腐 | 喉ごしがよく飲み込みやすい |
| やや濃い目の味付け | 嚥下反射を促す(ただし塩分には注意) |
食材を小さく刻みすぎる「きざみ食」は、一見食べやすそうに見えますが、小さな食材が口の中でばらけやすく、むせる原因になりかねないため注意が必要です。
適度な大きさを保ちながら、やわらかく調理することが重要です。
食前の工夫
食物の通りをよくするために、食前にアルギン酸ナトリウム(アルロイドG)を使用することもあります。
食事摂取時に食物が通過する際の刺激による痛みを緩和するため、事前に鎮痛薬を使用することもあります。
薬の服用方法
カプセルや錠剤は咽頭や食道の通過に支障がある場合もあるため、服薬ゼリーなどを用いて服用できる形態(散剤など)に変えることが推奨されます。
嚥下リハビリテーション
2026年現在、がん治療における嚥下リハビリテーションの重要性が広く認識されるようになっています。
特に頭頸部がんに対する化学放射線療法を受ける患者さんには、治療開始前からの予防的リハビリテーションが推奨されています。
基本的な嚥下訓練には以下のようなものがあります。
| 訓練方法 | 内容 |
|---|---|
| 顎を引いて飲み込む | 誤嚥を防ぐ基本的な姿勢 |
| 空嚥下 | 食事中に何度も口の中が空の状態で唾を飲み込み、食道内に残っている食物を胃に送り込む |
| 一口の量を少なくする | ゆっくりよく噛んで食べる |
| 食後は体を起こしておく | 逆流防止のため、食後1時間半程度は横にならない |
| 口腔・頸部の体操 | 口や舌、頬、首周りの筋肉を鍛える |
| 発声訓練 | 「ぱ」「た」「か」を大きく口を開けて発声 |
専用の器具や測定器を用いて舌の筋肉を鍛える方法や、喉の機能を内視鏡で確認しながら飲み込みの練習を繰り返す方法もあり、専門の医師または歯科医師の指導のもとで行います。
嚥下リハビリテーションは時間を要することが多く、毎日継続する意欲が必要です。
無理をせず、あせらずにトレーニングを継続することが大切です。
放射線治療後の晩期有害事象への対応
放射線療法の晩期有害事象(後遺症)として食道狭窄が生じた場合、狭窄部の拡張を目的として食道ブジーなどが実施されることもあります。
治療後数年経過しても粘膜は傷つきやすいものと認識し、引き続き硬い食物やアルコール、熱いものなどの刺激を避け、注意しながら食事を摂ることが重要です。
痛みの緩和
嚥下時の痛みに対しては、アセトアミノフェン、NSAIDs、オピオイドなどが使われることが多くあります。
食事摂取時、食物が通過する際の刺激による痛みを緩和するため、事前に鎮痛薬を使用することもあります。
痛みが強い場合は口腔内保護剤の使用も検討されます。
誤嚥防止の具体的な方法
食事形態の調整
水分を含んだ食物にとろみをつけるなど工夫します。
嚥下反射のスピードやタイミングに合わせて粘度を調整することが大切です。
ただし、とろみを付けすぎると咽頭残留を起こしやすくなり、食事後の誤嚥の原因となってしまうため、適度な粘度に調整することが重要です。
食事時の姿勢
誤嚥性肺炎のリスクを下げるために、食事はなるべく座位で行います。
寝たまま食事をすると誤嚥しやすいためです。
座位で食事をする際は、椅子に深く腰掛け、足が浮いていないか確認します。
軽い前傾姿勢で、背中がまっすぐ伸びてしまっていないか確認しましょう。
座位が難しい場合は、30度くらいの仰臥位になるように調整します。
食べた直後に横になると、胃食道逆流現象が起きて誤嚥性肺炎のリスクが高くなるため、可能な限り食後1時間半程度は横にならないようにします。
交互嚥下
食物と、ゼリーや水分を交互に摂取し、食道内に残っている食物を胃の中に送り込む方法です。
専門医から指導を受けて実践することが推奨されます。
口腔ケアの重要性
口腔ケアは誤嚥性肺炎の予防において極めて重要です。
歯磨きやうがいなどで口腔内を清潔に保つことで、誤嚥性肺炎を予防します。
就寝中の唾液の誤嚥が原因で誤嚥性肺炎を発症するケースが多いため、夜寝る前に歯磨きとうがいをしっかりして、口の中の細菌の発生を抑えておくことが大切です。
頭頸部がんの放射線治療前、治療中、さらには治療後も口腔ケアは非常に重要です。
う歯(虫歯)や歯周病が進行したり、放射線のあたった部分の歯を抜くことで、顎の骨の炎症である骨髄炎や骨壊死を生じる場合があります。
頻度はそれほど高くはありませんが、症状が改善しない場合には、壊死した骨の切除や骨移植による再建術が行われることもあります。
放射線治療後、歯科処置が必要となった場合は、必ず担当の歯科医師に放射線治療を受けたことがあることを伝えるようにしましょう。
経管栄養について
嚥下障害が長期間持続する場合や、食事による栄養摂取が困難な場合には、経管栄養について検討されます。
栄養障害の改善のために一時的に胃ろうや腸ろうをつくることもあります。
がんによって食道が狭くなって食物が通りにくい状態になり、完治を目指した治療が困難な場合には、食べられるようになることを目的として食道ステントの挿入や食道バイパス手術などを行うこともあります。
専門医との連携
嚥下障害の改善にはリハビリテーションが効果的ですが、まずは嚥下障害の専門外来がある医療施設や、嚥下障害専門のリハビリテーション科を受診し、嚥下機能の状態を確認するために観察や検査などを行う必要があります。
施設によっては、嚥下機能の評価やリハビリを行っているところもあります。
原因が頭頸部がんや食道がんであれば、その疾患に対する治療が最優先となります。
食事中にむせたり、咳き込んだりすることが気になったら、医師に相談してみましょう。
最新の治療技術
2026年現在、頭頸部がんの治療では、強度変調放射線治療(IMRT)や強度変調回転照射(VMAT)などの先進的な放射線治療技術が広く使われるようになっています。
これらの技術により、腫瘍には多くの線量を照射しつつ、正常臓器への放射線量を軽減することが可能になり、治療中の副作用の軽減や治療後の生活の質の向上に役立つことが分かっています。
また、2020年以降、免疫チェックポイント阻害剤(ニボルマブ、ペムブロリズマブ、イピリムマブ)が食道がんでも効果が明らかになり、従来の化学療法との併用や根治手術後の再発予防などにも使われるようになっており、治療成績は向上しています。
日常生活での注意点
嚥下障害がある患者さんの日常生活では、以下の点に注意が必要です。
食事に集中できるよう、テレビなどは消しておくことをおすすめします。
「ながら食べ」をせず、食事に集中することや、矢継ぎ早に口に詰め込まず、ゆっくりと噛んで食べることが推奨されます。
全身の筋力低下防止のため、日頃から散歩や体操などを行うことが大切です。
誤嚥防止には、デイサービスなどで行われる転倒防止体操なども効果的です。
発声訓練として音読や歌唱などを日常的に取り入れることも、リハビリの一つとなります。
予防接種
65歳になったら肺炎球菌ワクチンを接種することも、誤嚥性肺炎の予防では大切です。
まとめ
がん患者さんの嚥下障害は、腫瘍そのものや治療の影響によって引き起こされますが、適切な対策により症状の改善や誤嚥性肺炎の予防が可能です。
食事の工夫、嚥下リハビリテーション、口腔ケア、専門医との連携など、多角的なアプローチが重要となります。
2026年現在、治療技術の進歩とともに嚥下障害への対策も充実してきており、患者さんやご家族が正しい知識を持ち、日頃から適切なケアを行うことで、食事を楽しみながら栄養を摂取し、生活の質を維持することが可能になっています。
気になる症状がある場合は、早めに担当医や専門医に相談しましょう。